テクニカルソリューション
雪の荷重による、電柱の折損対策に向けた「雪止め柱」の検討
豪雪地域の山間部の斜面沿いに設置された電柱では、積雪に伴う荷重の影響により折損等が発生する場合があります。NTT東日本技術協力センタでは、その対策として電柱の斜面上方に、電柱(雪止め柱)をもう1本設置し、雪により電柱に印加される荷重(雪圧)を低減する方法を提案しています。ここでは雪圧の影響による電柱の被害状況や雪止め柱の効果検証結果について紹介します。
電柱の雪圧荷重対策の必要性
NTTグループは、情報通信サービスを提供するために、全国津々浦々に電柱を設置しています。その中でも豪雪地域の山間部においては、山の斜面沿いに設置された電柱が冬季の積雪による雪圧荷重の影響で折損する場合があり、安心・安全を損なっています。
NTT東日本技術協力センタ 材料技術担当では、豪雪地域の雪圧荷重に関する現地調査を実施し、対策を検討しました。ここでは電柱の雪圧荷重による折損事例と対策方法、およびその効果検証の結果について紹介します。
電柱の折損事例
山の斜面において、積雪に伴う雪圧荷重の影響を受けた電柱では、荷重により電柱に傾斜が生じている様子がみられます(図1)。特にコンクリート柱では、地際付近を中心にコンクリートのひび割れが進展して破壊され、電柱内部の鉄筋が露出する状態となる場合もあります。このような事象が生じた現場の山肌には樹木が少なく、そのため斜面上の雪どうしが連結して巨大な雪の塊となったことで、雪圧荷重が高まったと考えられます。雪圧荷重の軽減策としては、山肌への植樹や、雪崩防止柵・雪崩予防杭の設置が考えられますが、斜面への大規模な土木工事が必要となります。そこで技術協力センタでは、経済的かつ簡便な雪圧荷重対策方法である「雪止め柱」を提案しました。
図1 雪害により傾斜した電柱の様子(新潟県長岡市)
雪圧荷重対策用「雪止め柱」
雪止め柱は、電柱に近い径(直径40~50cm程度)を有する高強度な円柱で、電柱より1m程度の斜面上方側に設置します(図2)。雪止め柱が、電柱の代わりに雪圧荷重を受け止めることで、雪止め柱下方側にある電柱への雪圧荷重が大幅に軽減されます。雪止め柱の柱長は、想定される積雪深と柱の根入れ深さを考慮し設計します(例:想定積雪深3.0m、根入れ2.5mであれば、柱長6m程度)。雪止め柱は電柱と同程度の規模であるため、大規模な土木工事が不要となり、電柱設置工事のノウハウも活用し施工できます。
そこで、雪止め柱の現場トライアルの実施に向けて、まずコンクリート柱と鋼管柱の双方で雪圧荷重を想定した強度比較実験を行い、最適な円柱の選定を検討しました。次に、豪雪地域での実測試験により、雪止め柱の効果を検証しました。
図2 現用電柱に対する、雪止め柱の適用トライアル(北海道旭川市)
「雪止め柱」の選定
積雪は自重により徐々に圧縮されて密度が高まっていきますが、その過程で積雪を支える構造物がある場合、沈降力と呼ばれる荷重が構造物にかかります。雪の自重は、積雪深の高い位置(積雪の表層付近)より、積雪深の低い位置(地面付近)のほうが強く作用することから、沈降力は積雪深の低い位置(地面付近)で強くなる傾向があります。文献(1)では地際より50cm程度の高さ、もしくは積雪深の3分の1程度の高さでもっとも強くなることが多いと報告されています。
雪止め柱への雪圧荷重を想定した耐力試験を実施するにあたり、地際から50cmの高さに雪圧荷重が集中した状態を仮定して、横置きした柱への載荷試験を実施しました(図3)。なお、試験に用いる柱には、NTT東日本の現用鋼管柱・コンクリート柱で高強度な自立柱から各々選定しました(鋼管柱:柱長9.5m、 設計荷重16 kN、 コンクリート柱:柱長16m、 設計荷重15 kN)。これは、支障移転(工事等による電柱の移設)等で撤去された電柱を雪止め柱として再利用することを想定し、NTT東日本の現用電柱の柱種から選定しています。
載荷試験後の様子を図4に示します。鋼管柱は地際付近に力が集中して部分的に変形しましたが、それ以外に外観上の大きな変化は見られませんでした(図4(a))。なお、載荷可能な最大荷重は418~459 kNでした。一方コンクリート柱では、載荷荷重を増やすごとにコンクリートが潰れていき、柱の縦方向のひび割れが生じました(図4(b))。また、さらに載荷荷重を増やすことで、縦ひび割れを起点としてコンクリート剥離が進展し、やがてコンクリート部分が破壊されました。この破壊形態は豪雪地で雪圧を受けて倒壊したコンクリート柱の地際部の状況とよく似ています。載荷可能な最大荷重は448~520 kNでした。
今回評価したNTT東日本の現用鋼管柱・コンクリート柱は、双方とも地際部の強度が400 kN以上程度でほぼ同じと分かりました。そこで、コンクリート柱に比べて軽量で取り扱いの容易な鋼管柱を実フィールドの試験で使用することにしました(鋼管柱重量:約0.5t、 コンクリート柱重量:約2.5t)。
図3 横置きした柱への雪圧荷重を想定した載荷試験
図4 載荷試験後の様子(最大荷重印加後)
「雪止め柱」の効果検証(雪圧に伴う応力の実測)
雪止め柱の効果を、豪雪地域の山間部(新潟県長岡市)の斜面で実際に評価しました。雪止め柱・電柱ともに同一仕様の鋼管柱(柱長9.5m、 設計荷重16 kN)を検証用に設置しました。それぞれの柱にかかる雪圧荷重は、それぞれの柱の地際部に歪みゲージを設置し、応力値として比較評価します。試験は降雪期間である1月から3月まで実施しています。
雪止め柱・電柱への雪圧で生じた応力の比較評価結果を示します(図5)。雪止め柱に比べて、電柱側の受ける応力が大幅に低下している様子がみられました。また、雪止め柱側で受ける応力は経時に伴い大きく変化していますが、電柱側で受ける応力はほぼ一定値でした。これは雪止め柱側では斜面上の積雪による荷重を直接的に受けるために、斜面上の積雪量の経時変化に伴い応力が変化しているためと考えられます。また、電柱側は、雪止め柱と電柱の間とその周囲の雪による雪圧を受けることから、斜面の雪ほど大きく変動がなく、応力値がおおむね一定値となったと考えられます。
図5 電柱および雪止め柱で測定した応力値の経時変化(新潟県長岡市)
今後の展開
ここでは電柱の雪圧荷重による折損事例と「雪止め柱」を用いた対策方法、およびその効果の検証結果について紹介しました。その結果、雪止め柱により電柱への雪圧荷重を大きく低減する見込みが得られたことから、現在は雪質の異なる地域(北海道旭川市)でも効果検証するべく、雪止め柱設置のトライアルを進めています。すでにトライアルを開始した地域(新潟県長岡市)では、雪止め柱で守られた電柱に新たなひび割れや折損が生じていないことを確認しています。技術協力センタでは、このほかにもさまざまな雪による障害への対策について検討を進めており、通信設備のさらなる信頼性向上に取り組んでいます。
■参考文献
(1) 小林:“農業雪害について、”農業気象(J. Agr. Met.)、Vol.36, No.3, pp.207-216, 1980。
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