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挑戦する研究者たち

心底面白がらなければ、他者を魅了することはできない 意図的に新しい道を模索しながら成長する

NTTは2020年4月、IOWN(Innovative Optical and Wireless Network)構想の実現に向けて、具体的な技術ロードマップを策定しました。IOWNを構成する4 つの主要技術の1つ、フォトニックディスアグリゲーテッドコンピューティングは、従来のサーバボックス指向のコンピューティングインフラからフォトニクスベースのデータ伝送路に基づくサーバボックスレスなコンピューティングインフラへパラダイムシフトさせる新しいアーキテクチャとして、期待が高まります。その基本技術につながる基礎研究を行っている納富雅也NTT 物性科学基礎研究所 ナノフォトニクスセンタ 上席特別研究員に、現在の取り組みと研究者としての姿勢を伺いました。

NTT 物性科学基礎研究所ナノフォトニクスセンタ 上席特別研究員
納富雅也

世界中から注目を集める研究成果を 次々と発表

現在手掛けている研究を教えていただけますでしょうか。

現在、2つのテーマの研究を手掛けています。1つは、約10年前に実現した世界最小消費エネルギーで動作する一連のフォトニック結晶デバイスの研究をさらに進め、集積ナノフォトニクス*1 による光電融合プロセッサに向けた研究です。集積回路のチップの中に光ネットワークを構築することで、処理能力、遅延、消費電力等において従来の集積回路技術の限界突破に挑戦しています。
私たちはこれまでに培ってきたナノフォトニクス技術を駆使することで、電気消費エネルギーゼロで光・電気変換を行う可能性を持つ「ナノ光検出器」と、従来の記録の17分の1の消費エネルギーで電気・光変換を行う「ナノ光変調器」、そしてこれらの素子を組み合わせて「光トランジスタ」を実現してきました(1)(図1)。一般にプロセッサは多数の論理演算回路の組合せで構成されており、論理演算回路は論理ゲートの組合せ、そして論理ゲートはトランジスタの組合せで構成されています。「光トランジスタ」の実現に続き、私たちは「光の干渉」だけで動作する小型な光論理ゲート“ Ψ(プサイ)ゲート” の低損失かつ高速な動作に世界で初めて成功し、2020年3月に論文発表しました(2)(図2)。この技術によって、単一のΨゲートだけで、代表的な論理演算(AND/XNOR/NOR など)が、超低遅延かつ波長無依存に実施することができ、高速な光変調器との集積により、波長チャネルごとに独立した演算を割り当てること(波長分割演算)が可能になります。こうした演算回路をはじめとするさまざまな要素を協調させることで、初めて具体的な機能を持つ低遅延かつ低消費電力な光電融合プロセッサとなります。
そして、もう1つのテーマは、さらに基礎的な研究ですが、「新しい光物性」の研究で、一部で私自身が兼務している東京工業大学の研究室との共同研究も行っています。
近年、カーボンナノチューブをはじめとするナノスケールの新しい材料(ナノマテリアル)が発見されており、多彩な機能を持つことが判明しています。それに、ナノフォトニクス技術を適用し、光との相互作用を発生させることで、さまざまな新しい現象が発見されています。例えば、シリコンフォトニック結晶*2 の近くにInAs/InPナノワイヤを置くだけで、その場所に光共振器が発現します。波長以下のサイズのナノワイヤを用いることでレーザ発振にも成功しました。また、優れた非線形光特性を有するグラフェン*3 と、プラズモニクス*4 の原理を応用した極めて小さなナノ光導波路とを結合させることで、ピコ秒以下の超高速領域で動作する全光スイッチを低消費エネルギーで実現することに成功しました(3)(図3)。さらに、固体のトポロジー理論*5 を光学に適用した「トポロジカルフォトニクス」は光学の新分野であり、まだ何ができるのか分からないほど新奇な物性が期待されていますが、電流注入により光トポロジカル絶縁体ができることの理論的な発見も行いました。まさに、何が発見されるのか分からない「新しい光物性」という基礎研究です。
私たちのこれらの研究は、2020年4月に発表された「IOWN(Innovative Optical and Wireless Network)構想の実現に向けた技術開発ロードマップ」の4つの主要な研究開発のうち、「多地点、超高速、低遅延クラウドコンピューティングの実現」の将来像に貢献するもので、複数のデータセンタがシームレスにまたがったクラウドコンピューティングインフラを実現するため、オールフォトニクス・ネットワーク上の通信の高速性、低遅延性を活かした高速分散コンピューティング方式にかかわる基礎研究を担っております(4)。

*2 フォトニック結晶:物質中の光の波長と同程度の周期で、屈折率が人工的に変調された構造さまざまな新奇な性質が発現し、光を強く閉じ込めることができます。
*3 グラフェン:原子₁ 個の厚みで六角形の格子状に並んだ炭素。強度と硬度が高く、室温で他のいかなる物質よりも速く電子を流す特性があります。
*4 プラズモニクス:プラズマ振動の量子であり、金属中の自由電子が集団的に振動して擬似的な粒子として振る舞っている状態である表面プラズモンを制御して、ナノ回路への光の伝搬や、波長よりもはるかに小さな空間に光を閉じ込めることができます。
*5 トポロジー理論:トポロジーと対称性がもたらす物性。

図1 超低静電容量光電変換技術で実現した光トランジスタの構造図

図2 光の干渉を用いた光論理ゲート

図3 グラフェンを装荷したナノ導波路による全光スイッチ

面白い種を見つけ、面白がる。「本物であるか」にこだわる

研究をする際に大切にしていることを教えていただけますでしょうか。

私が研究をする際に一番大切にしていることは「面白いかどうか」です。例えば、ナノフォトニクスも研究を始めた当時は見えなかったことも、突き詰めていったからこそ応用先も見えてきました。また、チームで取り組んでいることもあり、面白い種が見つかれば、それをチームの誰かが実証してくれます。追究した中で成功したものを成果として発表していますから、研究活動のすべてがうまくいっているように見えるかもしれませんが、失敗ももちろんあります。場合によっては失敗することのほうが多いかもしれません。だからこそ、研究者自身が面白いと思っていないと研究活動は続かないのです。また、自らの研究を周囲に面白いと思っていただけないとその価値を社会的に認めてもらいにくいこともあります。学会等で欧米の研究者と話すことがありますが、自分の手掛けている研究のどこが面白いのかを伝えられなければ、共感を得られず興味を持っていただくことはできないと思いますし、それが熱意の源であると実感します。また、追究していくとフェーズもレベルも変化していきます。前回のインタビューから10年余りがたちましたが、前回は新しいことが見つかり始めたところで、最初はデバイスと組み合わせることを考えて、次に回路、そしてプロセッサへとフェーズ、レベルが変わっていきました。おおむね5 年余りでフォトニクスは使えることが分かり、何が使えるのかが分かったからこそ、また違う面白さに出会いました。螺旋のように物事は進んでいくともいわれますが、研究が一巡して最初から考え直し、組み立てるという過程を繰り返す。ここに面白さが散りばめられているのです。
若いときは研究テーマの幅が狭いですから、コツコツと頑張るフェーズですが、徐々にいくつかのテーマを並行して扱えるようになります。追究することで興味の対象が次々と出てきます。ただ、その興味に任せて研究そのものを発散させてはいけないとも思いますし、チームで取り組むからこそ扱えるものが増えてくると考えています。だから、自分の研究がいかに魅力的で面白いかを伝える力を備えておく必要があるのです。参加している人が多ければ、その分だけアイデアが増えますからね。

研究生活を充実させるためになさってきたことはありますか。

私は新しいテーマには意図的に取り組んできました。特に大きなテーマは意図的に取り組まなければ始まりません。これは研究者として大事な姿勢だと考えています。NTTの研究者の場合、特に基礎研究に携わる者は中長期的な視野に立って臨んでいることもあり、成果に対する短期的なプレッシャーもなく、自分の研究を自分のペースで、NTT に在籍している間はずっと同じテーマで続けられます。ただ、同じテーマの研究を長期にわたって続けていると行き詰まることもあるかと思います。こうしたときこそ、勇気を持ってテーマを変えるということも必要かと思います。そして、新しいテーマを探す、分野をまたぐ、移るという感覚を持っていないと、面白いという気持ちや感性が薄れてしまうと思います。
さて、現在手掛けている研究は集積ナノフォトニクスによる光電融合プロセッサの実現を目的にしていますが、他の分野の研究者の方々とコラボレーションすることで、新しい成果を生み出すことができました。以前は、自分の研究の中では、電気系、回路系の方々と協働で研究することはないだろうと考えていましたが、最近は自分の研究分野と元々は接点のない研究者の方々と仕事をしているのです。これが不思議というか、非常に面白いのです。例えば分野が違えば使っている言語が違います。だから、最初はお互いが必死に自分の分野の言語で話すので、全く理解できないのですが、何度も話していると分かり合えていくのです。相手の分野の言語を学び、それを使って自分の分野の話をする。次第に共通の単語ができてくるこのプロセスを非常に面白いと感じています。こうした刺激を受けながら研究を続けていくことが重要だと思います。そして、意識していかないと流されてしまい、新しい成果につなげることができませんからね。

研究者とはどんな存在でしょうか。また、これから研究者にはどのようなことが求められるでしょうか。

研究者というのは他の職業と随分違うことがあると思います。一般的に、仕事した結果に賃金が支払われることが多いと思いますが、研究者は研究をしていること自体に対しても対価が支払われていると考えています。仮に成果が出なくても、例えば10年間功績をあげることができなくても、その研究(仕事)に意味がないとは評価しづらいところがあります。また、成果に対してのみ報酬が支払われると考えると、特に研究スパンの長い基礎研究のような場合、モチベーションの維持が難しく、面白い研究どころの話ではなくなると思います。こう考えると、研究者自身は研究活動をしていることに報酬が与えられている、と自覚を持って日々研究に臨むことが大切です。結果が世の中に貢献できるかどうか分からなくても、貢献するという気概と信念を持ってチャレンジしていくことが大切で、だからこそ「面白さ」が必要だと思います。
それから、前述のとおり、自分の研究を知っていただくこともさらに求められるでしょう。社会に役立つ研究であると知っていただくことは大事ですし、それがマスメディアで報じられるのであれば、なお良しです。さらに、その研究の面白さや、日々の研究生活に散りばめられている感動を共感してもらうところまで至ることができれば最高なのですが、さすがにそこまでは難しいですね。

キーワードは他分野、そして世界。新しい世界に飛び込もう

若い研究者の皆さんに一言お願いします。

昨今は研究対象、分野はかなり増えましたから、フォローするのも大変ですが、他の分野を意識的に理解することはとても大事だと思います。オンラインでもアクセスしやすいですし、デジタルネイティブとはいわなくても、感覚的に若い人のほうがネットの扱いにも慣れているので、良い環境にはあると思います。しかし、残念ながら、ここ5年余り感じていることですが、日本の若い研究者が新しい研究分野に参入していないように思います。世界中で新しい分野や研究テーマが次々に誕生しているし、その情報も入っているはずなのに、そこに飛び込んでいないのではないでしょうか。優秀な研究者も数多くいると思うのですが、これではオリジナルな成果を上げることができずに、二番煎じとなってしまいます。新しい流れをよく見て、情報に敏感になって、一生懸命に取り組んでほしいですね。
さて、新しい研究テーマや分野に飛び込むにはどうしたら良いか。 1つは、海外の研究機関の門を叩くことです。私は30歳代半ば、研究を始めて10年近くが経ったころ、「何をやってもいいから自分でテーマを見つけなさい」と上司に言われたことをきっかけに、スウェーデンに1 年間留学し、これが非常に良い経験となりました。若いときに自らチャンスをつくって海外に行くと良いと思います。かつては、国内の学界に出席すれば世の中の研究動向などが分かりましたが、昨今では研究発表の場もオンラインも含めて状況が変化しています。だからこそ、海外で開催されている国際会議や研究機関に自らが出向いて、多くの研究者と直接コミュニケーションを図ることはとても大切だと考えます。
それから、論文を書いて成果を発表することも大切です。言うまでもありませんが、発表までの過程における査読は視点を新たにしてくれますし、論文の読者は研究者です。自分の所属する研究所内で発表や報告をするときには曖昧でも良いことが論文を書くときには論旨を考えますから、自らの考えを明確にしてくれる作用もあります。また、論旨を通じてさまざまなことを考えると新しい発見にもつながります。自分の書いた論文の引用数も気になりますが、どのように引用してもらったかということも興味深いところです。論文は出した段階では、その瞬間は「自分が考えた」成果なのですが、引用する人の解釈によってさらに発展し、変化して広がりを持ってくることもあります。私が2000年に出した、「光の屈折率が−(マイナス)になる場合」に関する論文が、多くの論文の中で引用されたことにより、反物質が物理現象に影響することが明らかとなり、その後もさらに解釈が広がりました。
論文を年間に何本書くかは研究対象や環境により異なりますから、あえて基準などはなくても良いかもしれません。大学のように論文の数が意味を持つ世界もあれば、企業内研究所のように論文よりも事業導入に視点が向けられるといった、環境や研究スタイルも影響するでしょう。ただ、必ずしも、今いる場所で研究生活を終えるわけではないでしょうから、どこにいても通用する研究者となるためにも、自らの研究や目的をしっかりと見据えるためにも論文は書いたほうが良いでしょう。

今後はどのように研究活動を進めていきますか。

世界を見回してみても、NTTの研究所は、基礎から応用までを1つの研究所内に有するユニークな存在で、かつては米国のベル研究所など、世界に冠たる研究所が多くありましたが、ご存じのとおり現在ではそのほとんどが存在すらしていません。基礎から応用までが1つの研究所内に有するからこそ大きな研究にも挑戦できます。基礎研究にしっかりと取り組んでいる研究所が少なくなる中で、責任ある存在でありたいですね。ただ、いわゆる一般の大学ができる研究をしているようではいけないと考えます。そして、東京工業大学で研究室を持たせていただいていることもありますから、後進を育てていくことにも注力していきたいです。蓄積した知識を伝えて、研究者を育てていければ私の手掛けている分野も充実していくと考えます。自分ですべてを成し遂げることはできませんから、新しい方々に担っていただきたいと思っています。

■参考文献
(1) https://www.ntt.co.jp/news2019/1904/190416a.html
(2) https://www.ntt.co.jp/news2020/2003/200306a.html
(3) https://www.ntt.co.jp/news2019/1911/191126a.html
(4) https://www.ntt.co.jp/news2020/2004/200416a.html