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地域と企業が新しいかたちでかかわり合うパーソンセンタードリビングラボによる社会課題解決の共同実験を開始
超高齢社会の先進都市である福岡県大牟田市、(一社)大牟田未来共創センター、 NTT西日本、 NTTは、2019年8月30日より、地域と企業が新しいかたちでかかわり合う「パーソンセンタードリビングラボ」による社会課題解決の共同実験を開始しました。
大牟田市では周りの人とのつながりの中で「その人らしい暮らし」を統合的にとらえる「パーソンセンタード」という人間観に基づいて20年近くにわたり、福祉・医療現場で「本人がどうしたいのか」を常に模索し、向き合い続けてきました。地域の未来をこの人間観に基づいてとらえ直すパーソンセンタードリビングラボという仕組みによって、本共同実験では、誰もが潜在能力を活かし、生きがいを持ってつながり合う社会を見据え、健康や予防に関心のある住民が、「その人らしい暮らし(=ウェルビーイング)」のあり方の検討やその暮らしを支えるIoT(Internet of Things)テクノロジや地域資源等を活用したプロトタイピングを行いながら、それぞれの住民のウェルビーイングな暮らしを実現するプロジェクトを実施します。
背景・経緯
日本では、近年の人口減少・高齢化・過疎化等に伴い、自治体職員数が減少する中、多様化・複雑化する課題に対して、既存の行政サービスだけでは対応が困難になってきています。大牟田市をはじめ多くの自治体では、住民どうしの互助や、テクノロジの活用、縦割りを乗り越えた企業や関係団体との連携等により地域の社会課題を解決していくことが求められています。また、企業においても、生活者の本質的な課題や潜在ニーズを追い求める中で、経済的価値だけでなく社会的価値を生み出す事業の創出に注目が集まっています。
そのような背景から、近年日本でも、企業や自治体が住民との共創関係を築き、住民とともに課題の発見やプロトタイプの開発・検証を行う「リビングラボ」の手法が増えてきていますが、地域と企業が持続的にかかわり合い、地域の未来を志向した真の課題の探索と設定の難しさが課題となっています。そこで大牟田市とNTT西日本、NTTの3者は、上記の課題を解決する新たな共創の仕組みについて検証するため、2018年2月よりリビングラボ共同実験を開始しました。
パーソンセンタードリビングラボとは
従来のリビングラボにおける課題設定は、住民の顕在化している生活課題や、縦割り組織となっている自治体の各部署の持つ行政課題、企業が持ち込む仮説やテクノロジなど、いずれかの組織の課題に偏って設定されることが多く、生活者の統合的な暮らしや地域の持続可能性をめざした真の課題を設定できないため、結果として大きな成果を生みだしにくいという難しさを抱えていました。この問題の本質は、企業と地域が直接的にかかわり開発を共同で進めるリビングラボにおけるパートナーシップ形成の難しさにあります。
そこで、企業と地域の間に立って、双方のニーズを踏まえ日々の暮らしに根差した課題設定やサービス開発の全体をファシリテーションできるリビングラボ運営組織が必要との仮説に基づいて、2018年に最初の共同実験を実施しました。その共同実験の中で、大牟田市で20年近くにわたり取り組まれてきた、周りの人とのつながりの中で「その人らしい暮らし」を統合的に捉える「パーソンセンタード」という人間観が、前述の偏った課題設定に陥らないために重要であり、その人間観を持つ、「生活者の生活課題に日々向き合い続けるソーシャルワーカーなどの福祉・医療従事者」と、「地域において真に解くべき課題を探索・設定できる組織」が地域に常に存在し、互いに連携していることが大切だと分かりました(図)。例えば、これまでの取り組みとしては、パーソンセンタードな人間観に基づく理念を共有して共感した地域や企業のメンバと協働体制をつくりつつ、認知症ご本人の人生史(ナラティブ)を丁寧に集めて「その人らしい暮らし」をめざし、福祉施設の利用者に対して地場企業が働く場を提供する事例があります。
このような地域と企業が新しいかたちでかかわり合い、社会課題解決に取り組む仕組みである「パーソンセンタードリビングラボ」では、ソーシャルワーカーなどとの連携と課題探索・設定できる組織が地域に常に存在している体制づくりが不可欠であるため、地域側の主体として社会課題解決やサービス開発に深くかかわる組織として、大牟田未来共創センターが2019年4月に設立されました。
図 一般的なリビングラボとパーソンセンタードリビングラボの特徴
今後の展開
今後、大牟田市、大牟田未来共創センター、NTT西日本では、大牟田市内外のさまざまなパートナーとともにパーソンセンタードリビングラボを活用し、あらゆる社会課題の解決およびサービス開発の推進に取り組んでいきます。また、NTTは、本共同実験で活用される社会課題解決プロセスやパーソンセンタードリビングラボを含めた社会課題解決に関する展開可能な手法の確立をめざしていきます。
問い合わせ先
NTTサービスイノベーション総合研究所
企画部広報担当
E-mail radnd-ml@hco.ntt.co.jp
URL https://www.ntt.co.jp/news2019/1908/190830a.html
パートナー紹介
地域の社会課題解決に取り組むパーソンセンタードリビングラボ
梅本 政隆
大牟田市 保健福祉部 健康福祉推進室 福祉課 総務企画担当
大牟田市は、かつて国内最大の出炭量を誇る産炭地として、日本のエネルギー産業を支えてきました。1960年には20万人を超えた人口は、2019年4月には11万4496人にまで減少しています。高齢化率も36.3%と高く、全国平均の20年先を迎えている状況です。つまり、本市が抱える課題は、これから日本全体が直面する課題でもあるということです。
行政運営の面からみると、財源および人材ともに限られている中、地域や住民が抱える課題は複雑化・多様化しています。例えば、社会保障の分野では、周りからみたら支援が必要な状況でも本人が支援を拒否するケースや、長年「ひきこもり」の状態にあり社会から孤立しているケースなど、これまでのやり方では対応が難しくなっています。これらの課題は、行政だけでは解決が難しく、地域住民や事業者等のさまざまな主体と協働する必要があるのです。
本市では、認知症の人や家族を地域で支えるための取り組みを、官民協働により20年近く続けてきました。この取り組みをコミュニティケアや産業開発に展開するために、新たな中間支援組織として「大牟田未来共創センター」が設立され、本市の取り組みが次のステージに向かおうとしています。
今回の共同実験で取り組む「パーソンセンタードリビングラボ」は、これまで本市が取り組んできた官民協働の取り組みを加速し、直面する社会課題の解決につながるものと期待しています。これまで20年近くにわたり、「パーソンセンタード」という考え方に向き合い続けてきた大牟田市だからこそ、新たな社会のあり方について発信することができると信じています。
パートナー紹介
地域経営にリビングラボを位置付け、地域や住民と企業に信頼関係を構築する
原口 悠
一般社団法人 大牟田未来共創センター
理事
私たち大牟田未来共創センターは、2019年4月に官民が協働し、立ち上がりました。大牟田が認知症ケアにおいて培ってきた「パーソンセンタード」という人間観を法人の理念として位置付け、共創を軸に展開する次の時代の地域経営の一翼を担うことをめざしています。
私たちの特徴は、まず、「パーソンセンタード」という人間観です。誰もが持つ潜在能力(capability)に価値をおき、その発揮にはナラティブやつながりが欠かせないと考えます。これは、行政や企業が住民や消費者を客体とし、価値を「提供する」という考え方を180度転換します。
次に、包括的で統合的な課題設定にこだわります。行政資源が限られていくことはもちろんですが、それ以上に、政策や制度が縦割りであったために見落とされていたこと、アプローチが断片的であったことを乗り越えます。この「新たな課題設定」は、行政はもちろん企業においても、新たなサービスコンセプトや市場を見出す契機となり、イノベーションを誘発すると考えます。
最後に、リビングラボを地域経営に位置付けます。これまで、リビングラボが企業の商品・サービス開発の手法として展開されてきたため、地域や住民が「手段化」され、持続的な関係や真のニーズの探索に欠かせない信頼関係を構築できないことが多く見られてきました。そこで、私たちは、地域の側に立つことで課題と日常的に接し、地域が課題の主体者として企業と向き合い、真の協働を実現することをめざします。
研究者紹介
ユーザに使われ続けるサービスの創出をめざしたリビングラボ研究
木村 篤信
NTTサービスエボリューション研究所
主任研究員
新しいサービスやビジネスを企画する人にとって、ユーザに使われ続ける状況を生み出すことは非常に難しいことです。これまで私たちが支援したNTTグループの自社サービス企画や、パートナー企業との事業開発プロジェクトでも、さまざまな難しさの要因がありましたが、もっとも大きな要因は、本当の意味でユーザを生活者としてとらえて動くことができていなかったことだと考えています。
ユーザに使われ続けるサービスの創出をめざして、本当の意味でユーザに価値のあることを探索する1つのアプローチとして、ユーザのことを第一義に考える住民組織や自治体などの組織との連携の中で、対等な関係でバランスを取りながらサービスの設計や開発をする考え方があります。この考え方が、研究所が近年研究テーマとして取り組んでいる、地域住民とサービス企画を共創するリビングラボというものです。
NTT研究所では、リビングラボの先進地域といわれる北欧のデンマーク工科大学や、東北大学、横浜市と連携してリビングラボの研究を行ってきました。その中でも、今回紹介する福岡県大牟田市との取り組みは、SDGs(Sustainable Development Goals)も含めた地域・企業の持続可能性を意識したリビングラボをめざしています。そして、2019年4月に大牟田未来共創センターが立ち上がったことにより、案件ごとに組成されるのではなく、常時リビングラボが実践可能な状態になっています。
企業が生み出すサービスやテクノロジは、未来の社会の一部になるため、子供や孫たちの暮らし方に大きな影響を与えます。企業の研究・事業活動に携わる人は、そのような未来の社会に対する責任を持つ必要があります。そのことを意識して、NTTグループやアライアンスパートナーの皆さんがより良いサービス・テクノロジを生み出せるよう、リビングラボやデザイン研究の知見をこれからも提供できればと思います。