グループ企業探訪
ドローンによる点検サービスで インフラの未来を支えるベンチャー企業
ジャパン・インフラ・ウェイマークは、ドローンを活用した、インフラ設備の点検事業を行うベンチャー企業だ。ドローンが通信インフラ点検に活用された経緯、インフラ点検システムのコアとなるAIの今後の展望について、日本におけるAIの共同強化、設備の共同保全を提唱・推進する、柴田巧社長に話を伺った。
株式会社ジャパン・インフラ・ウェイマーク 柴田巧社長
ドローンを活用した、インフラ設備の 点検事業を行うベンチャー企業
設立の背景と目的、事業概要について教えてください。
ジャパン・インフラ・ウェイマークは、2019年の4月1日に、NTT西日本よりカーブアウトし生まれたドローンを活用した、インフラ設備の点検事業を行うベンチャー企業です。NTTグループは日本で一番多くの通信設備を保有し、150年にわたりその維持管理をしてきました。そこには多くのノウハウが蓄積されており、それを活用した老朽設備の点検サービスを一般市場向けに提供する目的で設立されました。
NTT西日本は従前から、センサを用いてインフラの劣化の予兆確認や、車を走らせてインフラの点検データを収集するなどの取り組みを行ってきましたが、併せてそれ以外の新しい技術の模索もしてきました。その中で、私は事業開発課長として売上数億円規模のドローンを用いた太陽光パネル点検ビジネスを展開していたのですが、「ドローンを通信インフラ点検に使えないか?」という相談があり、新しい通信インフラ点検技術について検討することになりました。
NTTグループには、局舎をはじめ、トンネル、マンホール、電柱、ケーブル、RTボックス(リモート光端局)といった通信インフラ設備などがありますが、それらと、目視点検、計測点検、触診点検といった点検方法の種類を対比検討した結果、「橋梁や鉄塔の点検にドローンを活用でき、業務効率的化と生産性向上が見込める」という結論にいたりました。そこでトライアルにより、コスト削減効果、オペレーション等の検証を行い、鉄塔で約60%、管路で約80%のコスト削減が可能であることが分かりました。同時に、橋梁に管路を添架している、電気、ガス、水道の事業者へのヒアリングを行う中で、NTTグループと同種の課題を抱えていることが分かり、一般市場向けにサービス展開を図ることで、社会全体に貢献していこうと考え、創業にいたりました。
当社の事業は、点検のコンサル・企画からドローンを活用した空撮、AI(人工知能)を活用した点検診断・レポート化等を行う「インフラメンテナンスサービス」、ドローン販売・レンタル、メンテナンス、教育研修、保険取次等を行う「サポートサービス」の2つのサービス提供です。
支える人を支えたいというミッションを抱き、現在関連分野で働く方々や企業と協業し、ドローンや、システム、ノウハウなどを駆使したサービスを提供することで現場の生産性を高めています。
ドローンの動向とそれを取り巻く事業環境はどのようになっているのでしょうか。
当社は商材開発の一環で、海外の電力設備点検では世界一とされるエアロダイン社との提携を2019年7月に、世界で唯一の衝突しないドローンを供給するSkydio社との提携を2020年1月に行ってきました。エアロダイン社の世界標準の機能とGUI(Graphical User Interface)を活用し、NTTの強みであるIT力により開発された「遠隔点検システム」、Skydio社による世界で唯一の衝突しない、GPSからの電波を受信できない橋梁裏面や内部、また屋内においても点検が可能となる「非GPSドローン」、そして、そこに当社が「オペレーショナルエクセレンス」と呼ぶ、インフラ事業者・オペレータとしての現場ノウハウが重ね合わされることで、ドローン点検サービス事業者としては唯一無二の競争力を有する会社となりました。その結果、2019年1年間だけで、1500設備以上の点検業務にかかわり、多くのお客さまからの支持をいただくことができました。
インフラ系事業者と連携して、日本における AIの共同強化、設備の共同保全をめざす
今後の事業戦略・事業展開や抱負についてお聞かせください。
現在、点検作業は、現場に技術者を派遣し、ドローンにより設備の不具合を撮影し、その画像や情報を持ち帰って詳細な分析を行うといったプロセスで行われていますが、これらに要する時間を最小化することに注力しています。各プロセスのカイゼンによる効率化で時間短縮を図ることができるのですが、中期的にはAIを活用し、これらの詳細な点検作業の自動化をめざしています。
AIの利用において、機械学習させるためのデータ量がAIの精度を左右することになります。インフラ点検においては、日本でトップクラスの設備量を保有しているNTTの設備点検データを活用しても、人間と同等の品質で結果が出てくるインフラ点検AIの開発には、過去の実績を踏まえて推測すると、NTTの技術力、データ量であっても2年から3年かかると試算しました。
そこで、業界を超えて一緒にAIを育て、AI時代の到来を加速させようと、電力・ガス・建設・高速道路・鉄道、自治体の業務を行う建設コンサルタントに相談した結果、これらの業界各社はそれぞれ自社でAIの開発を行っていることが分かりました。さらに、例えば電力ならば10社、ガスならば約300社が国内のほとんどの関連設備を保有しており、1社当りではそれぞれ全体の10分の1、300分の1のデータ量しか集められないということが課題となっていました。
こうした状況の中、インフラの維持管理はもはや競争ポイントではないので、 NTTグループが集めたデータに各社のデータをかけ合わせることで、広範囲かつ迅速にインフラ点検を実施し、さらに点検ノウハウの蓄積やそこで獲得したデータを活用したAIの共同強化、設備の共同保全などの実現をめざして、2020年4月20日に、東京電力パワーグリッド様、北陸電力様、大阪ガス様、西部ガス様、東洋エンジニアリング様、ドローンファンド様、NTTデータの7社と業務提携をしました。
さて、戦後、日本は平和・戦力不保持を貫き、その分をインフラに投資してきました。約2000兆円ものインフラ設備が現存しているそうです。鉄塔でいえば、中国は60万鉄塔、日本は25分の1の国土に24万あり、単位面積当り10倍の鉄塔が建設されています。橋梁は、中国が80万橋梁、ほぼ同じ面積の米国が60万橋、25分の1の面積の日本にはほぼ同数の70万橋梁があり、単位面積当り25倍の橋梁が建設されています。しかもこれらに関するデータも管理されており、今回のAI共同強化の取り組みがなされることで、AIに強いとされる米国のGAFA(Google、Apple、Facebook、Amazon)や、中国のBATH(Baidu、Alibaba、Tencent、Huawei)をしのぐようなインフラ点検AIが構築されるのではないかと期待しています。
今後もインフラ事業者の理解を得ながら、ベンチャー企業のスピード感で、そして民間インフラ事業者の工夫により、維持管理コストの削減やFIELD WORK AT HOMEを実現する技術やシステムを開発し、それを日本全国に拡げること。これが当社の使命です。そして、民間の責任により現場における実証結果や、実績・ノウハウを蓄積し、さらに品質の高い技術やシステムを確立することで、高い品質と低コストが要求される「自治体のまちづくり、社会課題の解決」にもしっかりと貢献していきたいと考えています。
担当者に聞く
AIを活用したシステムとともに事業が成長 それを支える新たな発想のワークフロー
担当されている業務について教えてください。
インフラ点検における撮影データの分析による点検業務の効率化に向けた、AIの開発・導入を行っています。膨大なドローン空撮データの中から、インフラ設備に発生するサビやヒビなどの変状を抽出し、それをインフラの保有者にレポーティングする必要があります。この業務はインフラ設備に関する専門知識を持ったプロの点検者によって行われてきましたが、その知識をAIによって置き換えることをめざしています。そのため、有識者による点検結果をAIの学習データとして蓄積しAIを開発していくのですが、いきなりプロの点検者をAIによって完全に置き換えることは困難です。徐々にAIによって点検できる範囲を広げ、点検の精度を高めていく、AIを賢くしていく、そういったAIの開発方針や、日々のインフラ点検業務の中で自然と蓄積されていくAIの改善に必要なデータを活用して、より賢いAIに置き換えていく、MLopsと呼ばれるAI開発・運用のフレームワークの構築を行っています。
開発部 AIaaS担当
担当部長
松本存史さん
ご苦労されている点を伺えますか。
AIを用いたインフラ点検に対する期待度はとても高く、いろいろなお客さまと話をさせていただく機会がありますが、皆さんそろって「ここはAIで自動的にできるようにしたい」とおっしゃるのですが、その難易度や実現方法などはさまざまです。例えば非常にレアな事象をAIで検出できるようにするには、そのデータをどのように集めてくるか、また、見つけた変状をもっとも精度高く検出するにはどのような方法で撮影するのが良いか、など多くの検討課題があります。業務の立ち上げフェーズにおいては、そういったデータがいつどれぐらい収集でき、またそれらを用いてAIの学習を進めていく計算リソースがどの程度必要になるか、またAIエンジニアはいつ何名ぐらい確保できるのか、などさまざまな状況が不透明な中で、環境の構築やツールの選定などを進めていく必要があります。お客さまは待ってくれませんので、そういった環境構築や拡張を行いつつ、新たな点検対象に関するデータの収集方法を検討し、AIの開発方針を立てていく、すべて手探りで行っている状況です。
今後の展望について教えてください。
当社はインフラ点検において、ドローンとAIという2つのキーとなる技術を用いて、この業務を効率化しようとしています。しかしながら、現在提供しているサービスはこれまでの点検業務のワークフローとは大きく変わらず、撮影部分をドローンにより効率化し、点検作業をAIによって効率化しようとしているだけ、つまり点検のワークフローの一部のステップを改善しているに過ぎません。ドローンとAIという2つの技術、またはその組み合わせによって、これまでの全く新しいインフラ点検の進め方ができるのではないかと考えています。例えば、現地に人が出向く必要もなく、また点検結果をリアルタイムに適切な相手に通知するような、そういった新しいワークフローが可能になるのではないかと考えています。すべてを一気に変えることはもちろんできませんが、そういった将来の姿を夢に見ながら、一歩ずつできるところから着実に進めていきたいと考えています。
ドローンによるインフラ点検の社会実装に向けて スキルレス化、オートメーション化が必須
担当されている業務について教えてください。
インフラ点検における一連のワークフロー(ドローンによる空撮や、撮影した画像データによる遠隔点検、業務に携わるメンバ間の情報共有等)を効率良く、品質良く実施していくための業務システムや、ドローンによる空撮時に3D写真測量を同時に行い、画像データを用いたバックオフィスでの点検業務を効率良く行うための遠隔目視点検システム等のソフトウェア系の開発・検証・導入、そして、さまざまなインフラ点検ニーズにこたえるためのドローン機体や自律航行を行うための制御システム、さらに、自動充電を実現する周辺装置などハードウェア系の開発・検証・導入を手掛けています。ソフトウェア系についてはインフラ事業者としてのオペレーショナルエクセレンスを、NTTとしてのコアの強みであるIT力で実装し、インフラ点検をDX(デジタルトランスフォーメーション)していくことをミッションとして取り組んでいます。ハードウェア系については、インフラ点検の要件を満たす特色あるドローン機体をワールドワイドで調査・選定、難易度の高いユースケースに対応するための独自機体の開発を行い、市場競争力のある機体をインテグレーションすることで点検のケイパビリティを高めることをミッションとしています。
開発部 SaaS・HW担当
担当部長
大久保英徹さん
ご苦労されている点を伺えますか。
インフラ点検と一口に言っても、お客さまや業界、点検対象設備等によって、やるべきこと、求められることはさまざまです。それらを業務システムで吸収しようとすると、往々にして複雑怪奇な実装や使い勝手になってしまいがちです。当社はさまざまなインフラ事業者の抱える点検課題を解決する“公器”をめざしているわけですから、決して自社専用の業務システムではなく、いわゆるSaaS(Software as a Service)として広く継続的に使っていただけるようなシンプルで分かりやすいものにしていく必要があります。また、ハードウェア開発についてはこれまでNTTとしては経験が乏しかった領域であり、当初は机上でのスペック検討や市販品検証のレベルの取り組みにとどまっていましたが、ハードウェアエンジニアの経験者採用を通じて、市販品では対応しきれない難易度の高い点検にも対応できる完全オリジナル機体の開発をするところまでようやく漕ぎ着けました。ドローン機体はハードウェアと、自律制御などITがクロスオーバーする領域であり、今後もNTT内外から多様な人材を採用していくことで、機体開発のケイパビリティを高めていきたいと考えています。
今後の展望について教えてください。
ドローンを用いたインフラ点検を社会実装していくためには、スキルレス化、オートメーション化が必須になると考えています。特に目視外でのドローンの自律航行の実現はそのキーポイントであり、国内の法整備の動向やグローバルの動向も押さえつつ、一歩一歩着実に技術開発を進め、NTT西日本や提携各社様とともに安心・安全な仕組みの導入・評価をしていきたいと考えています。
写真1、写真2
ジャパン・インフラ・ウェイマーク ア・ラ・カルト
■東京・銀座にあるNTT西日本の会社
お客さまとなる、電力・ガス・鉄道等のインフラ事業者様の事務所ロケーションが集中しており、出張者が利用する新幹線停車駅である東京駅や品川駅から足を運びやすい銀座をオフィスにしたとのことです(写真1、2)。
銀座という立地上、周辺の食環境は充実しており、帰宅時の一杯が楽しめるお店が多いのも特徴的です。ジャパン・インフラ・ウェイマークという名前には、近い将来に日本のインフラ業界の「道しるべ」となるという意味が込められているのですが、近所に「道しるべ」という居酒屋さんがあり、そこには社員がいつも足しげく通い、まるで社員食堂のようだそうです。
■オフサイトミーティング
日ごろの仕事から一度離れて、PCや電子機器のない中で会社の今後の成長について議論をする「オフサイトミーティング」が隔月で開催されているとのことです。ワークプロセス見直しのような議論も多くある中で、2020年1月のミーティングには、ドローン芸人で最近徐々に人気の高まってきた谷+1(谷プラスワン)さんがゲスト出演してくれたそうです。まさにドローン事業をやっている会社らしいイベントだったのですが、谷さんの芸もさることながら、ドローンの知識の広さや撮影技術の高さに参加メンバも興味津々で、互いに刺激し合えるとても良いイベントとなったそうです。