特別企画
会場運営スタッフ × CUzo
- CUzo
- 透明ディスプレイ
- AR
NTTは、世界的なスポーツ大会の場において、機能分散通信技術CUzoと透過型ディスプレイ搭載のモバイルデバイスCUzo Cardの提供を行いました。本稿では、会場スタッフによる来場者への案内業務をICTによりサポートすることで会場内でのホスピタリティの向上をめざした本プロジェクトの取り組み、およびそこで活用した技術について紹介します。
草深 宇翔(くさぶか たかひろ)/槙 優一(まき ゆういち)
合田 卓矢(ごうだ たくや)/鈴木 晃(すずき あきら)
田丸 雅也(たまる まさや)/犬童 拓也(いんどう たくや)
NTT人間情報研究所
概要
本プロジェクトは、選手や観客などの来場者に対して案内を行う会場運営スタッフをICTによりサポートすることで、会場内でのホスピタリティの向上をめざしたプロジェクトです。昨今ではスマートフォンやタブレットを利用した応対が行われ始めていますが、ディスプレイを見続けながらの応対になる傾向がありました。結果として、お互いの表情や仕草などの非言語情報を基に相手の意図を汲み取りながら、相手に寄り添うコミュニケーションの実施が難しいという問題が生じていました。本プロジェクトでは、機能分散通信技術CUzoと、これに準拠し透過型ディスプレイを有するハンディタイプのデバイス「CUzo Card」(図1、表)から構成されるシステムを適用することで、来場者の表情を見ながら案内ができるコミュニケーションスタイルを実現しました。このシステムを2021年に実施された世界的なスポーツイベントに適用し、「対面翻訳」(図2)と「施設案内」(図3)のアプリケーションを提供しました。対面翻訳では、CUzo Card上に字幕のように会話内容を表示することで、相手の表情や仕草を同時に確認しながらの会話が可能となります。施設案内では、実際の風景に対して視覚的な注釈を加えながら案内することも可能となりました。イベント自体は新型コロナウイルス感染症の影響により無観客での開催となりましたが、大会関係者や選手などの競技関係者向けサポートとして、関東の3会場で、延べ28日間、約250名の会場運営スタッフに利用されました。
アプリケーション
■施設案内
会場運営スタッフが来場者に対して観戦席や会場内の施設を案内する際に、実際の風景にCUzo Cardをかざし、施設の場所やその場所へのルートなどの注釈を加えることで視覚的に分かりやすい案内を行うことができます。
従来は平面の地図で確認した情報を基に実際の風景と照らし合わせながら目的の施設を探し、そのルートを頭の中で構築し直すという複雑な手順を踏む必要がありました。また、会場によっては目印となる看板や施設がないことや、「あの白い看板」のような指示語を用いた説明を試みても、お互いが異なる目印を参照してしまい案内が円滑に行えなくなるなどの問題がありました。
この問題に対して、実際の風景に重ね合わせた注釈を用いることで、円滑な施設案内を行うことが可能となります。今回は、観戦席、施設(飲食店、グッズショップ、トイレ、多目的トイレ、祈祷室、休憩室、医務室、AEDなど)を対象とした案内を準備しました。
■対面翻訳
昨今では多様な言語への応対を行うためにスマートフォンの翻訳機能が用いられていますが、その特性上、お互いの顔を見ながら話すのではなく、スマートフォンに対して話しかけその結果を画面上で確認することになるため、常にスマートフォンの画面を見続けることとなります。そのため、相手が本当に言いたいことを察するために従来の接客で重要とされていた、相手の表情や仕草を見落としてしまう傾向がありました。この問題に対して、透過型ディスプレイごしにお互いの表情を見ながら情報を閲覧することが可能なインタラクションデザインを行いました。お互いの間にディスプレイをかざし、発話内容を音声認識、翻訳し字幕のように表示することで、相手の表情や仕草と発話内容の両方を確認することが可能となります。今回は、日本語、英語、スペイン語、フランス語、ポルトガル語、中国語(繁体、簡体)、韓国語の8言語に対応しました。
新型コロナウイルス感染症の影響により、対面で会話することに抵抗感を覚える状況であったことから、図4(b)のように画面を反転させず横並びで会話が行えるような画面デザインも準備し、これら2つの画面デザインをボタン1つで切り替え、臨機応変な対応が行えるようにしました。
機能分散通信技術CUzoとCUzo Card
機能分散通信技術CUzoは、デバイスに必要な機能をネットワーク上に分散配備し、通信によりこれらを連携させることでシンプルなデバイスを通して高機能なサービスの利用を可能とする技術です。デバイスをシンプルにできることで、端末の処理負荷増加によってユーザの待ち時間が増加するといったユーザ体験が損なわれる問題への対処や、デバイスのバッテリー消費や初期導入コストを抑えることが可能となります。CUzo CardはCUzoに準拠することで、透過型ディスプレイという最先端のテクノロジを搭載しながら、小型軽量なデバイスを実現しました。CUzo Cardは透過型ディスプレイを搭載しているため、実際の風景を透かし見ながらディスプレイ上の情報を閲覧することや、ディスプレイの両面から情報を閲覧することが可能です。
システム
本プロジェクトで提供したシステムを図5へ示します。会場運営スタッフはネックストラップに取り付けたCUzo Cardを首から下げて携帯しており、来場者とのコミュニケーションにおいて施設案内や対面翻訳のアプリケーションを利用した案内を行います。アプリケーションサーバはクラウド上で動作しており、CUzo CardはBluetooth®で接続されたスマートフォンを介してこのサーバへ接続されます。
実施結果
2021年に開催された世界最大のスポーツイベントは、結果として無観客開催となり対面翻訳のみが利用されましたが、外国人選手やスタッフ向けの案内として、CUzo Cardは非常に多く利用されました。具体的には、3会場28日間で約250名の会場運営スタッフにより約3500回の翻訳が行われました。利用した方々からの評価は、「相手を見ながら会話できた」「見た目のウケ(評判)が良くかっこいい」といった声があり、透過型ディスプレイの魅力と利便性を踏まえたデザインにより、相手の表情を見ながらより自然なかたちでの会話を実現するツールとして役に立ったと考えられます。
さらには、「操作が単純だった」「使いやすかった」という声もあり、実際の業務の中で負担なくご利用いただくことを踏まえたUX(User eXperience)設計が有用であったことが確認できました。しかし屋外の直射日光下で利用した会場運営スタッフからは「画面が見えづらいことがあった」という声があり、ディスプレイの特性上、屋外での利用には考慮が必要だと思われます。
翻訳機能そのものに関しては、「日英以外の翻訳もすぐに使えてよかった」「フランス語やスペイン語ができるスタッフは少ないので役に立った」といった声が寄せられた一方で、「発話した内容と認識結果に差異があった」「翻訳結果が出るまでに時間がかかることがあった」といった声もあり、音声認識・翻訳エンジンの精度や現地での回線速度も含めた性能面での改善点が確認されました。
まとめ
世界的なスポーツ大会の会場運営において、機能分散通信技術CUzoと透過型ディスプレイデバイスCUzo Cardを会場スタッフへ適用することで、来場者への案内業務を円滑化するシステムを提供しました。本システムは、多様な接客のシーンにおいて応用が期待されます。例えば、駅や空港などの交通機関や公共施設、観光施設などが考えられます。今回は会場運営スタッフにシステムを利用してもらいましたが、シンプルな動作で簡単に利用できるという評価が得られたことから、来場者や観光客自身がCUzo Cardを携帯し、旅行中や、美術館・博物館などの施設で利用する形態も考えられます。
今後もICTを活用した研究開発を通じて、人と情報の接点における新たな体験を模索していきたいと考えています。
(上段左から)草深 宇翔/槙 優一/合田 卓矢
(下段左から)鈴木 晃/田丸 雅也/犬童 拓也
問い合わせ先
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TEL 046-240-3557
E-mail svkoho-ml@hco.ntt.co.jp