グループ企業探訪
移動通信関連の研究開発を通じて培った強みを活かしお客さまの期待にこたえる
ドコモ・テクノロジは、移動通信のネットワークから端末、アプリケーション・ソリューションまで、NTTドコモと一体となって研究開発を行っている。2021年8月に会社設立20周年を迎え、オープンでインテリジェントなRAN(O-RAN)の実現に向けた取り組み、そしてモバイル系と固定系が融合していく中でIOWN(Innovative Optical and Wireless Network)を視野に入れ、お客さまへ対応していくためのNTTグループ内の連携への思いを中村寛社長に伺った。
ドコモ・テクノロジ 中村寛社長
NTTドコモと一体となって、移動通信のネットワーク・オペレーションシステム・端末・アプリケーション・ソリューションを開発
◆設立の背景と目的、事業概要について教えてください。
ドコモ・テクノロジは、2001年8月1日にNTTアドバンステクノロジとドコモエンジニアリングの2社を母体として設立され、2021年に20周年を迎えました。当時は、NTTドコモが1999年にiモードをサービス開始し、2001年に3G(第3世代移動通信システム)をサービス開始するころでした。3Gでは新方式のネットワークやグローバル化に向けた新たな展開、iモードをきっかけとしたアプリケーション分野の強化等、研究開発における将来的な拡大・強化の必要性が増してきており、これに対応していくために、NTTドコモの開発力を強化することを目的としてドコモ・テクノロジが設立されました。
当社は社名にある通りテクノロジの会社です。NTTドコモと当社は、移動通信システムを一体として開発しています。具体例としては、一部の通信装置ではNTTドコモが要求条件や仕様の検討を行い当社が試験を実施するなど、開発工程を分担しています。また端末アプリケーションの一部やネットワークのオペレーションシステム、各種ツール類は開発工程の大部分を当社が担当しています。
◆実際にどのような分野の開発を行っているのでしょうか。
NTTドコモと一体で開発を行っているので、NTTドコモが扱う分野とほとんど同じです。具体的には、移動通信用基地局等の無線ネットワーク、移動するモバイル端末の位置情報管理や通信制御を行うコアネットワーク、通信情報を転送するIP転送ネットワーク、これらのネットワークを運用するためのオペレーションシステム、さらにはスマートフォンのアプリケーションやソリューションなど、移動通信に関するほとんどすべての分野に及んでいます。
移動通信分野では、2020年にサービスを開始した5G(第5世代移動通信システム)において、5G用基地局と4G(第4世代移動通信システム)用基地局を同時に利用するNSA(Non Stand Alone)と呼ばれる方式を開発し、ユーザが4G/5Gをシームレスに利用することを可能としました。さらに、多様なニーズに対応していくために5Gに特化したSA(Stand Alone)方式を開発し、NTTドコモは2021年にサービス開始しました。
一方アプリケーションやソリューション分野では、ターミナル駅や繁華街の人出の状況を把握する「モバイル空間統計」の開発を手掛け、コロナ禍においてテレビニュース等で広く利用されています。また、ドローンを用いた基地局点検ソリューションにおける操縦者向けアプリの開発、農業IoTソリューション「畑アシスト」の開発(図1)、そして、XR向けコンテンツ作成技術の実証実験等を行っています(図2)。
移動通信技術の強みを軸に、NTTグループ連携により幅広い価値を生み出す
◆開発の動向や注力している技術について教えてください。
移動通信は2000年からの20年間でiモードやスマートフォンに代表されるコンシューマ利用が進み、今や生活になくてはならない「生活基盤」となりました。今後は、コンシューマ利用に加えてさまざまな業界がDX(デジタルトランスフォーメーション)を進めるために通信は「社会基盤」に進化すると考えています。当社は、設立以来NTTドコモとともに蓄積してきた移動通信の技術力をさらに深化させつつ、NTTグループ各社と連携して移動固定融合など新たな価値を創造し、IOWN(Innovative Optical and Wireless Network)構想の実現に貢献していきます。また、サービスやソリューションにおいて、当社が備える技術領域を広げる方向にも進化していきます。
技術を深化させる方向として、ネットワーク設備投資の比率がもっとも大きな無線基地局のオープン化とインテリジェント化を進めるO-RAN(Open Radio Access Network)は注力している分野の1つです。無線基地局のオープン化は、世界のオペレータが設備投資の効率化や柔軟なネットワーク構築のために注目しています。
異なる装置ベンダの基地局装置を自由に組み合わせるには、装置間の相互接続性を実現しなければなりません。ベンダは自社製品の囲い込みを志向するため基地局のオープン化には消極的です。オペレータのオープン化への強い意志とそれを実現する技術力がなければ実現しません。NTTドコモと当社は一体となってこの困難に立ち向かい、世界に先駆けてNTTドコモの4Gでは異なる装置ベンダの基地局装置間の相互接続を実現し、5Gではサービス開始当初からオープンなRANを実現しています。NTTドコモはその実力を買われてO-RAN Allianceの発足にあたり設立メンバーの1社になりO-RANを推進しています。現在、当社はO-RAN仕様に基づく基地局装置の相互接続性試験などにおいて技術力を発揮しています。
また、技術領域を広げる方向としては、オープンクラウド、モバイル空間統計、XR等の拡大に取り組んでいきます。5Gのサービス開始とともにスマートライフ領域の重要性が高まっていますが、拡大した技術領域を強みとして、新たな生活価値・ライフスタイルの創出を実現するためのサービス開発、アプリケーション開発、さらには法人向けのソリューション開発に貢献していきます。
◆今後の展望についてお聞かせください。
お客さまは移動と固定を融合したさまざまなソリューションを期待されています。当社が持つ移動通信の強みと、NTTグループのさまざまな会社が持つそれぞれの得意分野を連携・融合させることにより、これまで以上に多くの分野、ソリューションにおいて、多様化・高度化するお客さまのご期待にこたえていくことができると考えています。
当社はドコモグループで研究開発を担っている会社ですが、すでにいくつかこうしたグループ連携も進めており、その中でも連携の重要性を共通認識として持つことができました。こうした経験をベースに、今後さらに「連携」「協業」を拡大していきたいと考えています。
担当者に聞く
O-RANによるオープン化にマルチベンダシステムの相互接続実績をベースに貢献
無線ネットワーク事業部
無線装置開発部 担当部長
太多 勇二さん
◆担当されている業務について教えてください。
無線装置開発部では、NTTドコモのRANを構成する基地局子局(RU)、分散ノード(DU)、集約ノード(CU)等の各装置の評価を行っています。
移動通信システムでは、3GPP(Third Generation Partnership Project)やO-RAN Allianceといった国際標準化団体により標準仕様が作成されており、その仕様に準拠した装置類でネットワークを構成することで、グローバルにエンド・ツー・エンドの通信が可能となります。NTTドコモのネットワークを構築するにあたり、導入される装置類の機能緒元、性能等が標準仕様およびNTTドコモの要求条件に準拠しているか、ネットワークを構成する装置として正常に動作するかという点の検証・評価を行っています。実際の評価においては、装置単体の検証のほか、装置どうしを接続してネットワークを構成することでシステム全体としての検証、さらにはお客さまにサービスを提供するネットワークであることから、大容量に対する性能や長期間安定といった検証も行っています。
NTTドコモのRANは世界に先駆けて4Gから異なるベンダ間の相互接続を実現していました。相互接続性を担保するために、異なるベンダ装置間の数多い組合せの検証を行っています。また、こうしたRANの周辺分野である、エリア設計、ネットワークから得られる大量のデータの解析ツールの開発等も行っています。
こうした検証は、NTTドコモがお客さまに安心・安全・安定したサービスを提供するために入念に行う必要があり、私たちはその最後の砦としての使命感をもって業務にあたっています。
◆ご苦労されている点を伺えますか。
大きく2点あります。1点目は3GPPやO-RAN Alliance等では、例えば4Gや5Gといったメジャーな仕様はある程度の期間をもって検討・リリースされるので、開発期間の中でフォローしていくことになるのですが、その間のマイナーな変更は逐次行われているので、それをフォローしていかなければなりません。内容を解釈することも難しいのですが、これについては、会合に参加しているメンバから情報を逐次入手・フォローし、必要なものをネットワークに反映しています。
もう1つは、相互接続に関するものです。標準仕様に準拠している同じベンダの装置どうしでも相互接続試験を行うと、メインストリームの接続手順のところはそれなりに正しく動作していることが確認できるのですが、メインストリームから少しでも外れると装置相互間でなかなか正しい動作をしません。仕様に明記されていない部分や仕様の解釈の相違による部分等、その原因は非常に多岐にわたります。同じベンダの装置どうしであってもなかなか正しくつながらないので、マルチベンダとなるとさらに難しくなることは容易に想像できると思います。相互接続でネットワークを構築してもトラブルの発生があってはならないので、試験を1つずつ慎重に進めながら結果を装置仕様にフィードバックしていくとともに、ノウハウを蓄積して試験の効率化、品質の向上に活かしています。
◆今後の展望について教えてください。
O-RANに準拠した装置間の相互接続については、世界各国の通信事業者・ベンダ等の当事者ばかりではなく、政府も注目しています。日本においても総務省を中心に、国家プロジェクトとして「基地局用機器間の相互運用性の確保・検証技術」の研究を通じて、将来のOTIC(Open Test and Integration Center)設立の可能性を視野に研究を進めており、当社もNTTドコモとともにそのプロジェクトに参画しています。
NTTドコモのRANでは、テストベッドにおけるマルチベンダ間の相互接続試験や、10年以上にわたる実フィールドにおけるマルチベンダシステムの利用実績があり、オープン化でめざすRANの相互接続に関する多くの知見が蓄積されています。これを活かしてOTIC設立後は相互接続試験の実施担当として、オープン化の推進に貢献していきたいと思います。
ア・ラ・カルト
■得体の知れないウイルスへ立ち向かう
1時間前のある地点の人口を10分単位で提示できるモバイル空間統計のリアルタイム版を2020年1月にリリースしました。商業施設の商圏分析等へ展開しようとした矢先にコロナ禍になり、新型コロナウイルス感染症拡大防止策の検討・検証のため、急遽ターミナル駅や繁華街の人出の状況の把握に活用いただくことになりました。ウイルスの特徴に関する情報が少ないという行政の課題に対して、私たちの統計がどのように役立てられるか試行錯誤し、改善を重ね、現在のレポートのかたちに収束しました(図3)。得体の知れないウイルスとその患者への対応に奔走している医療関係者はヒーロー的な存在であり、それと時々刻々と発生する要求条件の変更に対応している自身の姿を重ね合わせ、社会貢献している実感をモチベーションとして、たび重なる変更にもこたえることができました。
■技術者の使命
「モバイル空間統計」は新型コロナウイルス関連ばかりではなく、イベント等における来訪者数推計や、高速道路の渋滞予測等、さまざまな分野で利用されるようになってきました。このため、システム障害等によりサービス停止することによる社会への影響が大きくなってきました。障害復旧は、サービス運用の技術者の能力が大きく発揮される局面です。技術者にとっては活躍の場ではあるのですが、そもそも障害は発生してはならないものです。今後はより安定的にサービス提供できるよう、システム障害を未然に防ぐことに取り組んでいきたいと考えています。