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グループ企業探訪

第216回 株式会社NTTアグリテクノロジー

NTTグループの技術に加え世界の最先端のテクノロジーを駆使した次世代施設園芸のトータルソリューションを提案

NTTアグリテクノロジーは農業×ICTを掲げ、次世代施設園芸のトータルソリューション提供を目標にスタートした。昨今の農業事情に対し、NTTグループが持つ技術とノウハウ、オランダを中心とした次世代施設園芸先進国の技術を駆使し、地域のお客さまに提供することで、農業を起点とした社会課題解決をめざしている。設立直後である現在の事業環境や今後の事業展開について酒井大雅社長に話を伺った。

NTTアグリテクノロジー 酒井大雅社長

NTTグループでは初となるICTを活用し農産物の生産、販売までを行う農業生産法人

設立の背景と目的について教えてください。

NTTアグリテクノロジーは2019年7月にNTTグループ初の農業×ICT専業会社として設立されました。これまでもNTTグループでは農業に関連したプロジェクトを多数行ってきましたが、農産物の生産まで行うというのはNTTグループでは初の試みとなります。
近年、農業従事者の高齢化が進み、後継者問題やそれに付随する遊休農地の問題が深刻になってきています。農業が地域の基幹産業である自治体は多く、単なる農家の問題ではなく、地域の社会課題として自治体も種々の取り組みを始めています。こうした中、担い手のいなくなった農地や遊休農地を借り受けて営農を行う、農業法人が全国各地に出現してきました。農業法人は労働力不足への対応や効率的経営を進めていくうえで、ICTの活用に積極的な傾向があります。
地域の社会課題解決に積極的に取り組んでいくことは、NTT東日本の大きなミッションの1つです。特に地域経済の地盤でもある農業分野において、ICTの活用と自ら営農することで得られる知見やノウハウを集約・蓄積してご提供することで、地域経済の活性化や街づくりに寄与すべく設立しました。

事業概要についてお聞かせください。

当社の事業は大きく分けて3つになります。1番目は次世代施設園芸の圃場建設などを行うエンジニアリング事業です。2番目は施設の運営面の管理、および関連システムの開発や提供になります。農業運営にかかわる労務管理や作業者の安全管理等の労働環境構築、およびそのシステム開発、IoT(Internet of Things)等のICTを駆使し安定した農産物の生産に対応し、さらには流通、販売まで視野に入れたフードバリューチェーンシステムの提供を行う事業です。3番目は海外の次世代施設園芸分野のビジネスプレイヤーが保有するノウハウと、私たちの持つIoT、ICTのノウハウを連携させ、運営ノウハウも併せて蓄積するための実験の場としての自社ファームにかかわる事業です。
次世代施設園芸とは、農林水産省が使っている言葉であり、ベースには国を挙げて大規模な農業経営を行っているオランダ式農業があります。これは生産性が高く、ある面積から獲れる収量(単収)が日本の5~6倍といわれています。投資は必要ですが、それに見合う収入に直結する生産性が期待されるため、導入を検討する大規模農家が出てきました。オランダのほか、スペインなどヨーロッパを中心に同様な取り組みが行われています。しかし、これらの技術を日本にそのまま持ってきても、天候の違いや台風、高温多湿、病害虫の問題などヨーロッパとは環境が異なるため、期待した効果がそのまま得られるわけではありません。そこで、日本向けにチューニングを行ったうえで、次世代施設園芸にかかわるトータルソリューションの提供を行っていきます。
具体的には、生産から出荷、流通、販売までのプロセスや、労務管理、安全管理を含む農業経営管理までのノウハウを蓄積し、さらにNTTグループの得意とするIoT、ICTの活用に関するノウハウを組み合わせて、農業生産者にコンサルティングするだけではなく、施設の建設、システム提供等のトータルソリューションを通じ、地域の農業生産者に貢献していくことをめざしています。
そして、これらの実現に向けて当社が一連のプロセスに関与していくための実験の場、ノウハウ蓄積の場として、自ら次世代施設園芸の圃場を構築・運用していきます。この圃場を構築するにあたっては、日本の自然環境や農業環境に合うかたちにカスタマイズしていく必要があり、そのために先行して取り組んでいる海外企業との連携は欠かせません。2020年度に自社ファームが完成予定であり、そこでは、センシングとAIとワイヤレスネットワークを組み合わせた環境制御を活用した生産だけではなく、運営にあたっての労務管理、経営管理、健康・安全管理等の一連プロセスを含んだ実証実験を行い、その成果をコンサルティングやソリューションとして提供していきます。

技術を活かしてつなぐ農業×ICTから広がる街づくり構想

まさに新規ビジネスの世界に船出した貴社の独自性と事業環境はいかがでしょうか。

農業を地域経済の基盤と考え、後継者問題や遊休農地問題といった課題に積極的に取り組む自治体が増えてきています。特に、光合成に必要な温度、湿度、二酸化炭素、日射量といったことをICTでコントロールし、データを活用しながら、安定的に農作物を育てていく次世代施設園芸システムに対して、こうした自治体からの関心、期待が高くなってきています。また、施設ができることで地域の雇用が生まれること、施設内の加温のため地熱や清掃工場の余熱等の地域エネルギーを活用できること、こうした施設が集積することで、物流、加工、倉庫業のような関連産業を誘致できるといった、農業を軸にして経済の循環が生まれる街づくりの観点でビジョン(農業エコシティ)を描いている自治体もあります。当社の取り組みは、まさにこのような自治体へのソリューションになるものと考えます。さらに、NTTグループは日本全国に拠点を持っております。農業は地域との合意形成が重要であり、こうした観点も農業を軸に自治体とお付き合いさせていただくうえでは大切なことだと考えています。
また、農業法人の方からは、「経営の規模の拡大を検討していくうえで、海外の次世代施設園芸に興味がある」「IoTやロボティクスを活用したいが、導入にはハード(施設)だけではなく、労務・生産管理などの仕組みも含めトータルの検討が必要」という話が出ています。こうしたお客さまのご要望に対して一元的に対応できる会社はまだ国内で少なく、すべてのパーツを提供しトータルソリューションを実現する当社は、ベストパートナーとしてお客さまの期待にこたえていくことができると考えています。

今後の展開について教えてください。

農業エコシティは、自治体と民間企業が協力し、関連産業(物流、加工、倉庫、エネルギー等)を集積させ、それぞれの農業法人が事業に必要な機能を用意するのではなく、複数の農業法人の連携と物流等の共用化でエコシステムを構築するものです。将来的には農業エコシティにローカル5G(第5世代移動通信システム)が敷設されると、さまざまな可能性が広がります。自動運搬車で集荷場まで農作物を共同運搬するとか、食品の共同加工工場での制御に活用されるとか、農業に限らない周辺エリアのインフラ保全や社会福祉への活用など、街づくりの基盤に発展していきます。当社は自治体の良きパートナーとして、このような構想の具体化に向けて歩み出したところです。そして、これを実現していくベースとして自社ファームの意義は大きく、現在はその構築に力を入れています。
当社は設立間もないこともあり、現段階では会社そのものの立ち上げにも相当力を注ぐ必要があります。3年を目標に人員を含む会社の基盤を確たるものとし、お客さまへの貢献を拡大していくつもりです。そのためにも人材育成は重要です。自社ファームという実験場もあり、関連スキルの向上にも環境が整っています。これまでの通信という事業分野とは異なる観点で地域に貢献できる人材を育成することを意識しています。その意味では、ビジネス面だけではなく、人材育成の面からもNTTグループに寄与できると考えています。
将来的には、日本の少子高齢化の環境、南北に長く高温多湿な気候で磨いた生産性の高い農業技術を世界に輸出することを夢見ています。世界的に見ると人口が爆発的に増加し、食料の安定的な供給が課題です。日本の技術を「世界」と「つなぐ」という域まで到達したいと思います。

担当者に聞く

海外と日本、農業とICTをつなぐ自社ファームからのスタート

取締役 デジタルファーミング推進部
遠藤 大己さん

担当されている業務について教えてください。

私は現在、目前に迫った実証ファーム構築のための準備と、構築後の運営やシステム提供に注力しています。実証ファームでは、日本で初導入となる先駆的な栽培システムを取り入れた圃場をつくり、その栽培システムを使った高収益モデルなど農業の新しいカタチを確立することをめざしています。グリーンハウスの構築にあたっては、農業法人 株式会社サラダボウル様と連携して、特に次世代施設園芸先進国であるヨーロッパ諸国を参考に、実際に現地に赴き交渉を進めています。ベルギーの栽培システム、スペインの建設資材など、それぞれの分野ごとに特徴のある資材や技術を保有する企業と連携することでノウハウを学び、そこにNTTグループが培ってきたICTのノウハウを結び付けていきます。
NTTアグリテクノロジーがチャレンジャーとしてこの分野に参入するにあたり、一連の農産物の生産プロセスの中で栽培時における作業員の生産性に着目しました。農産物に対してはICTを活用して適切な環境のコントロールや収穫時期、個数、回転率の可視化は行われているのですが、多くの温室では作業員の労務管理や安全管理といった部分にICT活用は及んでいません。NTTアグリテクノロジーは、これまでICTが及んでいなかった本分野に対しても積極的に踏み込み、IoTやICTのノウハウを活かして生産性を測定し、可視化することで、生産性向上につなげていきます。
実証ファーム完成後は、サラダボウル社から生産に関するアドバイスを受けながら、新たに導入する栽培システムの特性に合った、リーフレタスを生産します。実証ファームの設計・構築から各種システムの導入、栽培、生産性向上に向けた取り組み等、次世代施設園芸にかかわるすべてのプロセスをNTTアグリテクノロジーが自ら行うことで得られるノウハウをベースに、次世代施設園芸を展開していきたいと思います。

ご苦労されている点を伺えますか。

現在は会社設立後間もないので、初めてのことばかりに直面していますが、その中でもグリーンハウスの建設は特にその要素が強く、チャレンジそのものだと感じています。温室は海外から建設資材を輸入して日本で組み立てるのですが、文化的な背景や地理的な違いを日々実感しています。具体的に直面した事例でいえば、現地からの出荷時における梱包方法が日本で一般的な方法と異なっていて、荷解きで苦慮したこともあります。また荷解きが終わり組み立てる段階においても地震や台風といった日本の自然環境や設置環境等にかかわる調整も必要となり、現地から派遣してもらうスーパーバイザの指導を仰ぎながら1件1件対応を進めています。さらに一連の工程を通して、コミュニケーションの重要性を感じています。外国からスタッフが派遣されてくるので、英語等の言語の素養に加えて、現地の環境や文化的背景を理解してコミュニケーションをとる必要があります。そのほか、通関手続きをはじめとする、輸入に際しての諸手続きも、将来の事業展開を見越してNTTアグリテクノロジーの社員が自ら進めており、1から知見を習熟している状態です。
こうした中で出てきた課題を1つひとつ解決していくことで、それがノウハウとなって蓄積され、今後のビジネス展開に大きく役立つものと確信しています。

取り組みの中でICTが活用されますが、ICTに対して期待することについて教えてください。

次世代施設園芸の温室は一般のものと比較して大型のものが採用されており、安定した通信を実現するため、多くの無線アクセスポイント(Wi-Fi)が現状必要になります。また温室内で栽培される作物は多くの水分を含んでおり、電波の障害となっていることに加えて、生育に伴って温室内の電波環境が日々変化します。こうした状況の中でも、農産物の生育状態の影響が少なく、かつ無線アクセスポイントの数を少なくできるような技術に期待します。

今後の展望について教えてください。

まずは実証ファームを構築し、実際に農産物を生産し、運営していく中で多くのノウハウを蓄積していくことに注力していきます。一連の活動を通じて、海外製の設備を用いた温室をどのように日本の環境に合わせてチューンが必要か、知見を積み重ねたいと考えています。
生産者が大規模な施設園芸ビジネスを始めるにあたり、安定した収穫や収量増加を期待して生育を制御するシステムを導入するなど、イニシャルコストに注目した運営を行っている例を多く耳にします。しかし、実際の生産にあたっては数多くの人手が不可欠であり、また相手が植物であることも手伝って当初の予想どおりにはいかず、試行錯誤が繰り返されることで人手が必要となることもあります。労務費は大規模な温室を用いる施設園芸ビジネスにとって、決して軽視できない存在であり、こうした課題解決もしていきたいと思います。
蓄積されたノウハウを礎に、施設園芸の温室構築、システム導入から農業経営管理まで一貫した、トータルソリューションをより多くのお客さまに提供し、日本の農業活性化を実現することで後継者問題や遊休農地問題、さらにはフードロスといった社会課題の解決を支援していきたいと考えています。

NTTアグリテクノロジー ア・ラ・カルト

テレワークを最大限に活用し、コミュニケーションを醸成

会社が設立されたばかりで、スタッフは全員で5名とのこと。現在はビジネス立ち上げ段階ということもあり、その活動はお客さま対応で日本各地はもちろんのこと、次世代施設園芸の盛んなヨーロッパをはじめとした海外にも広がっています(写真)。屋内だけではなく、自社ファーム建設予定地のような屋外もあります。それぞれのスタッフが連携して活動していくために、電話やメール等を活用したテレワークをフルに活用しているそうです。会社は農業に関するノウハウを蓄積するのですが、テレワークに関してもさまざまなノウハウが蓄積されているようです。

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