トップインタビュー
若かりし頃の熱い思いが滾る。新しい価値を生み出し、社会のあたりまえになるまで育んでいきたい
NTTドコモが発表した新ブランドスローガン「あなたと世界を変えていく。」には、あらゆる「あなた」と一緒に新たな世界を実現したいという想いが込められています。NTTコミュニケーションズとNTTコムウェアをグループに加え、新しいドコモグループとして新たな世界の実現に向けて挑戦する前田義晃NTTドコモ代表取締役副社長に、スマートライフカンパニーとトップとしてのあり方について伺いました。
NTTドコモ
代表取締役副社長
前田 義晃
PROFILE
2000年NTTドコモ入社。2008年コンシューマサービス部担当部長、2017年執行役員プラットフォームビジネス推進部長、2020年常務執行役員マーケティングプラットフォーム本部長を経て、2022年6月より現職。
新ドコモグループの成長戦略「スマートライフカンパニー」を率いる
副社長への就任おめでとうございます。まずは新ドコモグループの経営状況や戦略について教えていただけますでしょうか。
ありがとうございます。副社長になり、前職であるマーケティングプラットフォーム本部長として掌握していたこと等に加えて、担当する規模が大きく広がりました。社会課題解決に向けての思いが滾(たぎ)り、私自身が活性化しています。
さて、ご存じのとおり、2022年1月1日にNTTコミュニケーションズとNTTコムウェアを子会社化して新NTTドコモグループが誕生し、7月1日には営業開始30年を迎えました、この節目の年にNTTドコモはこれまでの法人事業やコンシューマ事業を機能別に統合して、携帯電話サービスを軸に据え、5G(第5世代移動通信システム)や5G SA(Stand Alone)などの新サービスも拡大しつつ、チャネル改革とネットワーク構造の改革に取り組む「コンシューマ通信事業」、金融・決済やコンテンツ等におけるビジネスの成長ペースを加速させて、前年度比1200億円以上の増収をめざす「スマートライフ事業」、法人ビジネスとしてのクラウドソリューションの拡充を含む新しいサービスへポートフォリオを入れ替え、モバイル・固定・クラウドを融合させたサービスをワンストップで提供していくことで前年比550億円の増収をめざす「法人事業」の3つのセグメントを柱に本格的に再スタートしました。この中で、私は「スマートライフ事業」をスマートライフカンパニーとして担当しています。
さて、2020年3月に5Gがサービス開始しましたが、NTTドコモではすでに6G(第6世代移動通信システム)の実現に向けた取り組みを始めています。6Gの実現はNTTグループがめざすIOWN(Innovative Optical and Wireless Network)構想においても重要なプロジェクトテーマの1つです。「5G Evolution & 6G powered by IOWN」と称して6GとIOWNの技術の融合をめざし、さらに、「ドコモ6Gホワイトペーパー」では、6G時代の新たな提供価値の1つであるネットワークで人間の感覚を拡張する「人間拡張」を実現するための基盤を開発したことを報告しました。人間拡張に関する基盤の開発は世界初です。
それから、NTT環境エネルギービジョンを踏まえ、NTTドコモは経営の中心にサステナブルを位置付けています。その中でも気候変動問題への対応を企業の重要な課題とし、2022年2月に国際的な気候変動イニシアチブSBT(Science Based Targets)1.5℃目標の設定を取得するなど、自社の事業で排出する温室効果ガスの削減に取り組んでいます。さらに、事業活動で消費する電力の実質再生可能エネルギー比率を100%にする「カボニュー」をはじめ、次世代ネットワーク、情報処理基盤などにおける温室効果ガス排出量の削減に寄与する技術の開発により、通信の高速化や省電力化を推進します。
前田副社長率いるスマートライフカンパニーではどのような取り組みをするのですか。
新ドコモグループ3つの柱のうちの1つであるスマートライフ事業においては、カンパニー制を導入して「スマートライフカンパニー」を立ち上げました。カンパニー制は企業内の部門を1つの独立した会社として扱う企業の経営手法です。スマートライフ事業の独立性を高めることによって、私たちは加速度的に変化していく社会の進化を推進するために、スピーディな意思決定、そして、機動的な投資判断、プロ人材の育成や採用を可能にします。
スマートライフカンパニーでは、さまざまなパートナーをつないでお客さまの新しい価値を生み出し、それを世の中に実装して、社会のあたりまえになるまで育んでいきたいと考えています。
具体的には、まず私たちNTTドコモのコアアセットを磨き込みます。例えば、私たちの持つ最大の顧客基盤であるdポイントクラブの会員数は約9040万です。国内のポイント会員の仕組みの中では圧倒的な数を誇ります。このことからも私たちの信頼性の高さや安定感は実感いただけると思います。加えて、dポイントや金融・決済で培ってきたパートナー企業は約59万社、そして、dポイント加盟店は750ブランドを数えます。さらに、私たちにはさまざまなサービスの基盤となるプロファイリングAI(人工知能)、モバイル空間統計、認証基盤などのデータとテクノロジを保有しています。
パートナー企業のマーケティング領域の成長を支える、NTTドコモのこれらのコアアセットを磨き込んで、パートナー企業との協創・アライアンスを推進する基盤を築き、さらには社会を豊かにして、パートナー企業も私たちも成長するサービス群を創発・提供していきたいと考えています。いわば、これは会員基盤から社会OS(Operating System)への進化であって、個人のLifeだけではなく、社会Societyを変革するプラットフォームを構築する営みであると考えています。この営みには強みである金融をはじめ、私たちが成長していきたい、拡張していきたいと考えている、医療・ヘルスケア、エネルギーやまちづくりも含みます。将来的には個人のIDで、一気通貫でNTTグループ全体から価値提供できるような社会OSを築きたいのです。
NTTドコモ人生20年以上。飽きたことがない
社会OSを築くという構想の大きさに、NTTドコモの気概を感じます。
スマートライフカンパニーにおいて、私たちがより社会を良くするために働こうと目標を据えたとき、改めて考えたのが私たちの存在意義(パーパス)、価値観(バリュー)です。これらを明確にし、共有することで企業の成長を促しプラスの方向へ進んでいけると考えました。
私はこれらを決定していくプロセスの中で、「私たちはいったい何者なのか」についてずいぶん考えました。私たちの歴史をさかのぼり、かつての三公社五現業の1つである電電公社にいきつき、その時代の日本を良くするという思いが起源であることにたどり着きました。そして、私たちはこれまで通信と人とをつなぐことをいかにあたりまえのことにしていくか、社会の進化をいかにあたりまえのことにしていくかに情熱を注いできたことも再認識しました。
iモードにも代表されるように、NTTドコモはこの20年余りはコンピューティングとネットワークを両輪にして、世界に先駆けてさまざまな価値を提供してきました。日本全国どこでも、私たちの提供するインフラを必要とされる方がいらっしゃり、それを提供する責務があると私たちは自負し、こたえてきました。こうした実績からも私たちは社会的な価値創造を体現し続けていると思うのです。今回、カンパニー発足に際してあえて明文化した存在意義(パーパス)に「つなぐ。育む。明日のあたりまえになるまで。」のとおり、私たちはパートナー企業も含めてこれまで培ってきたように、これからも、日本のみならず世界で新たな価値を創造し、育み続けていきたいと考えています。
そして、これを実現する共有すべき価値観(バリュー)も文字にして「より良い価値提供の追求に終わりはない。」「構想は大きく、仕掛けは速く。」「社会の成長は、自らの成長からはじまる。」と掲げました。競争の中で苦労の連続という日々もあるかもしれません。それでもチャレンジし続けていきたいのです。そして、自らを成長させる際にぶれることなくありたいですね。
存在意義や仕事に臨む価値観には明るい未来への期待が高まります。力強く、前向きな副社長の姿勢はどのように培われたのでしょうか。
やはり、仕事を初めてからの経験やそのインパクトの大きさが今の私をつくり上げていると感じています。20年ほど前に私がリクルートからNTTドコモへ転職するとなったとき、社風が違うこともあって、当時の同僚等から「お前大丈夫か?」と、心配されたこともありましたが、私自身はNTTドコモで働ける高揚感もありました。なぜなら、当時のNTTドコモはすでに何千万人というお客さまにサービスを提供し、そのお客さまから反応をいただけるというダイナミズムがありました。これに惹かれたと同時に、私の恩人であるiモードの生みの親である夏野剛さんは「この仕事を何のためにやっているんだ?私は社会を便利に楽しく豊かにするためにやっているんだ」と話しておられて、入社したばかりの私はその言葉にとても共感し、自分のしていることに誇りを持てました。そのころから、私自身も、自分の生活が変化している、面白くなっていることを体現してみたいと強く思っていました。
NTTドコモでの人生はすでに20年以上も経ちますが、仕事に飽きたことがありません。この20年の間に世の中にはさまざまな進化が起きて、そのたびにその進化にかかわりながら私たちも新しいものを築きながら進化してきたのです。私には常に社会から注目されながら自らもどんどん成長してこられたという大きな実感があります。これはNTTドコモが私に与えてくれたチャンスであり、感謝しています。だからこそ、「ドコモすげえな!」と思っていただけるような存在にしていきたいと思うのです。
中途半端なやり方はしない
ドコモ愛と仕事への情熱が伝わってきます。そんな副社長が仕事をするうえで大切にしていることを教えていただけますでしょうか。
世の中を変えるのはヨソ者、若者、バカ者ともいわれていますが、当時はいわゆるヨソから転入した方が多い部署に配属されました。もちろん、そこでは最初からNTTドコモで働いている同僚とも一緒に働いていました。彼らもコミュニケーションを上手く図ってくれましたし「やってられない」と思ったことはほとんどなく、仕事をしながら築いた信頼関係の盤石さを感じています。こうした経験を踏まえて、私にはトップとして大切にしたいことが2つあります。まず、一緒に働いている皆さんにポジティブな可能性を感じてもらえるような事業をしていきたいと考えています。私たちが社会においてどのような存在であり続けられるのか、NTTドコモの理想像を描ける事業や経営をしていきたい、しなければならないのです。もう1つは、これを実現するためには、皆さんにも責任を持ってやり抜くこと、そのような気概を持っていただきたいのです。私自身は皆さんにそう考えていただけるように常にコミュニケーションを図るよう努めていきます。
繰り返しになりますが、そのために今回、存在意義(パーパス)と共有すべき価値観(バリュー)を文字にしました。例えば、常にお客さまを深く理解する、お客さま1人ひとりやパートナーにとっての価値にこだわり抜く、すべての人の期待に真摯に誠実にこたえていくこと等、大切にしたいことを連ねてあります。これらのメッセージは「中途半端なやり方はしない」という姿勢の重要性を訴えています。
仕事をしていると「大体これくらいでいいかな」と思うことはたくさんあるでしょう。しかし、その瞬間に成長は止まってしまいます。より突き進んだ人が社会をけん引しますし、最終的には勝者となると私は思います。
私自身もまだ成長過程ですし、ずっとモチベーションを保つことも難しいです。それでも、机上に置いたこの文字に鼓舞されています。こんな思いが滾るのは若いとき以来です。
この情熱を社員の皆さんも強く感じていらっしゃると思います。この思いを具現化する研究開発へも大きな期待を寄せられているのでしょうね。
研究開発への期待感はものすごくあります。お伝えしたとおり、私たちのコアアセットをどうやって社会OS化していくかは研究開発の皆さんの英知の結集ともいえます。しかも、最終形はNTTグループ全体での社会OSの構築です。ネットワークを支える通信技術、ネットワークにつながる端末や端末上で動作するアプリケーションにかかわる技術等、私たちの武器を携えて、社会の動向を読みつつ、パートナーの方々のニーズに柔軟に、スピーディにこたえていくというチャレンジに大いに期待しています。
そして、面白く楽しい体験や世界観を提供できる技術を築いていきたいと思います。これは主にエンタテインメント分野ではありますが、このような技術を活用してパートナー企業とともに新しいサービスをつくり上げていきたいと思っています。ちなみに愛知県に、2025年の夏にオープンを予定している日本初のスマートアリーナは最先端の技術を投入し、今までにない体験を興行としてつくり上げていくという挑戦です。ここでお客さまに喜んでいただけることに加えて、そのサービスを新しいビジネスにつなげていきたいですね。インパクトのあるセンセーショナルな、劇的な体験価値を生み出していけるように頑張りましょう。
(インタビュー:外川智恵/撮影:大野真也)
※インタビューは距離を取りながら、アクリル板越しに行いました。
前田副社長がNTTドコモに転職されたiモード時代。マイケル・シェンカーやゲイリー・ムーア等のミュージシャンを中心として音楽好きで若かった前田副社長は、NTTドコモのケータイの着信音の美しさに感動したと言います。「YMOが大好きだったんですよ!ライディーンという名曲、知ってます?あれがドコモケータイの着信音にプリセットされていたんです。それを聞いたときに、マジか?!こんなのいっぱいこれから出てくるんだって…もう衝撃でしたよ」と、文字にすると伝わりづらいのですが、ジェスチャー付きで揚々と話されるお姿にケータイ電話の発展とともに青年時代を過ごされた様子が浮かんできます。お話には終始ドコモ愛や仕事愛が溢れ、未来を見つめるように時折、視線を遠くへとやりながら意気込みを語る前田副社長。なんと、愛犬であるポメラニアンの「ポンちゃん」にも学ぶことがあるそうです。「目がとても純粋なんです。私も純粋さを失ってはいけないなと思わされます」と、目を細めて微笑まれました。日常のさまざまなことに意味や価値を見出そうとする姿勢がとても印象的で、何度かお使いになられた「滾る(たぎる)」という言葉の裏に何事も「意気に感じる」ことの大切さを学ばせていただいたひと時でした。