トップインタビュー
着眼大局・着手小局の姿勢、高い志とパッションを携えて、真のグローバル企業へと成長
1967年、電電公社内にデータ通信本部が設立、1988年の会社創立を経て、およそ半世紀。NTTデータは、お客さまの業務を熟知し、テクノロジを活用して、新しい社会の仕組みを構想・実現することで多くのお客さまの信頼を獲得してきました。お客さまとの長きにわたるLong-term Relationshipsの信念はそのままに、新しい変革に挑戦する本間洋代表取締役社長に、NTTデータの経営環境とトップとしての想いについて伺いました。
NTTデータ
代表取締役社長
本間 洋
PROFILE
1980年日本電信電話公社に入社。2013年NTTデータ常務執行役員第三法人事業本部長、2014年取締役常務執行役員エンタープライズITサービスカンパニー長、2016年代表取締役副社長執行役員を経て、2018年6月より現職。
変わらぬ信念と変える勇気で質を伴った成長をめざす
まずはNTTデータを取り巻く経営環境等をお聞かせいただけますでしょうか。
私たちは2005年からグローバルへの事業拡大に取り組んできました。段階に応じて1st、2ndステージと呼んでいますが、現在はGlobal 3rd Stageとして2025年にIT業界のグローバルトップ5以内に入り、世界中のお客さまから信頼される企業をめざしています。
その前段階として、2019年度から2021年度までの前中期経営計画では、「変わらぬ信念」と「変える勇気」でグローバルで質を伴った成長に取り組んできました。
当社はこれまでも多くのお客さまとともにシステムをつくり社会に貢献してきました。お客さまとの長いお付き合い、「Long-term Relationships」に基づく信頼関係は、今後も守り育てていく「変わらぬ信念」として位置付けています。その一方で、しっかりと利益を出して、前向きな投資に回すことにも徹底的にこだわりました。海外は事業構造改革にも取り組むことで、グローバルオファリングによるビジネスの拡大や各リージョンにおけるさまざまなデジタルビジネスの獲得などの成果を創出しています。これが「変わる勇気」です。
その結果、4つの経営目標のうち、連結売上高2.5兆円、顧客基盤80社以上、連結営業利益率8%の3つを達成しました。海外EBITA率7%については、新型コロナウイルス感染症の影響もあり6.5%と未達でしたが、北米では7%を達成しています。
前中期経営計画は新型コロナウイルス感染症の大きな影響下にありました。私たちの事業の中心であるB2Bビジネスには、アゲインストとフォローの2つの風が吹いたといえます。まず、ウイズコロナ社会において、交通・旅行業、サービス業などのお客さまが厳しい環境におかれ、IT投資が抑制されました。これがアゲインストの風です。多くのお客さまがシステムの維持管理や保守・運用コストの低減を望まれました。私たちもさらなる業務の自動化、生産性のアップ、開発のスピードアップ等、仕事のやり方を変革し対応しています。一方、新たな社会の実現に向け、ITやデジタルを活用して新しいサービスや商品、ビジネスモデルを生み出す流れが加速しました。このフォローの風をうまくとらえて、成長の機会とすべく取り組んできました。
Global 3rd Stage:お客さま事業の成長を支え、お客さまとともにサステナブルな社会の実現をめざす
コロナ禍にあっても目標を達成するとは素晴らしいですね。新しい中期経営計画ではどのような戦略が展開されるのでしょうか。
前中期経営計画の目標指標はほぼ達成しましたが、Global 3rd Stageの達成にはさらなる高みをめざしていかなければなりません。この5月に発表した新しい中期経営計画(2022〜2025年度)では、前中期経営計画の理念をさらに進めたものとしました。
前述のフォローの風でもお話ししたとおり、IT投資の目的が企業の既存業務のIT化から、IT・デジタルを使った新しいサービスやビジネスモデルの創出に変わってきています。社会課題の解決・地球環境の保全に向けたDX(デジタルトランスフォーメーション)も加速しています。また、さまざまなプレーヤーが社会・テクノロジの変化に合わせてサービスラインアップを拡充しており、競争環境はより一層激化しています。
こうした背景から、私たちもさらなる競争力の強化に向けた取り組みが必要です。海外事業の質を伴った成長と、デジタル対応力のさらなる強化は継続した課題と考えています。加えて、世界的にIT人材・技術者が不足しています。私たちのビジネスは人材がすべてといっても過言ではなく、社員力・組織力を高めていくことが重要です。
新中期経営計画では、Trusted Global Innovatorとしてお客さまの事業成長を支え、お客さまとともにサステナブルな社会を実現していくために、これまで培ってきた2つの力を高めていきます。1つは、顧客理解と高度な技術力でシステムをつくる力。もう1つは、さまざまな企業システムや業界インフラを支え、人と企業・社会をつなぐ力です。
これまでは、既存の業務や社会の仕組みをITシステムに置き換えることが目的であるケースが多く、高い信頼性のシステムをいかにつくるか、“How”が重要であったため、システムの生産技術革新などに力を入れてきました。これからは、ITやデジタルを使って、どのような新しいサービスや商品・ビジネスモデルをつくるかが重要となり、何をつくるか、“What”が大事になってきています。この時代やニーズにこたえるため、お客さま業界の先を見通すForesight起点でのコンサルティング力を強化して、新しいサービスやビジネスモデルをお客さまと一緒につくっていきたいと考えています。もちろん、その仕組みをどうつくるか、アーキテクチャも大事になります。私たちが培ってきた高い技術力を活かして、実現可能なものを提案できる点が強みになってくるでしょう。
また、近年の気候変動や新型コロナウイルス感染症の流行をはじめとする数々の事象は、多くの社会課題を浮き彫りにしました。これらの解決には、ITやデジタルの活用が鍵になります。私たちだけでなく、ビジネスパートナー企業やお客さまのデジタル対応力も高めて業界全体を底上げし、社会全体のデジタル化を通じて社会課題の解決に貢献していきたいと考えています。そのため、新中期経営計画では「Realizing a Sustainable Future」をスローガンに、改めて事業活動を通じて社会課題解決に貢献していくことをより明確に位置付けています。
新戦略はお客さまやパートナー、そして業界の向上、社会課題解決を見据えているのですね。
電電公社にNTTデータの前身であるデータ通信本部が設立された1967年から55年余り、私たちは「社会のために」という姿勢で事業に臨んできました。NTTデータの企業理念も「情報技術で、新しい仕組みや価値を創造し、より豊かで調和のとれた社会の実現に貢献する」です。脈々と受け継いできたこのスピリットと、私たちが大事にしている「Long-term Relationships」で、お客さまとともに未来の社会をつくっていきます。
現代はIoE(Internet of Everything)と評されるように、デジタル化の加速によってあらゆる人とモノがつながっています。Edgeから収集するデータもあれば、スマートフォンなどからの顧客接点のデータも拡がっています。「21世紀の石油」ともいわれるデータを、セキュアに収集、分析し、企業や業界の枠を超えて活用することで、複雑な社会課題が解決できるようになります。そのような世の中にしていかないといけないと思っています。
このような大量のデータを高信頼性で扱えるようにしていく必要がありますが、これを実現するのがNTTグループのIOWN(Innovative Optical and Wireless Network)構想に期待されていることです。私たちNTTデータも社会動向やお客さまのニーズをとらえ、IOWN技術シーズの検証、社会実装を進めるために、2021年1月にIOWN推進室を設立しました。特に私たちは「データ連携基盤」と「DTC(Digital Twin Computing)」に注力しており、多種多様な業界・業種横断で活用される社会DXのためのデジタルツイン基盤を構想し、実現に向けて取り組んでいます。
また、NTTグループとして一体となって「NTT環境エネルギービジョン」の実現に向けても取り組んでいます。グリーン化については、当社自身のCO2排出削減に向けた「Green Innovation of IT」の取り組みと、事業活動を通じ、お客さま・社会全体のCO2削減に向けた「Green Innovation by IT」という2つの軸で取り組んでいます。
「of IT」では、SBT目標である2030年までにCO2排出量を2016年度比で60%削減することを目標に取り組んでいます。私たちの電力消費量の約70%は、当社が提供するデータセンタでの電力消費です。これを革新的な冷却・空調技術や先進のIT技術を導入することで2030年までに全データセンタの使用電力をすべて再生可能エネルギーにすることをめざします。さらに、2040年にはScope1、2のカーボンニュートラル、2050年にはScope3を含めたネットゼロをめざしています。
「by IT」では、私たちが提供するシステムやサービスを通じて排出量削減に貢献していきます。例えば貿易情報連携プラットフォーム「Trade Waltz」では、これまでほとんどが紙ベースで行われていた契約から決済、通関業務などの貿易事務業務をデジタル化することで、作業効率の向上やコスト削減はもとより、森林保全とCO2削減にも寄与しています。日本の貿易実務にかかわる全プレーヤーが「Trade Waltz」を利用した場合、紙の削減により年間で最大3万800本の森林保全、431トンのCO2削減を実現できる試算です。
強みづくり、価値づくり、人づくりの「3づくり」
本間社長はこうした理念をどのようなご経験によって培われたのでしょうか。
私は1980年に電電公社に入社しました。そのころ、電電公社では当時の副総裁の北原安定氏が中心となって、通信ネットワークをすべてデジタル化して統合し、その統合ネットワークで電話、データ通信、画像通信等すべてのサービスを提供するという、INS(Information Network System)構想を立ち上げ、世界から注目されていました。私は、この構想がまとめられた本を読んで、「この仕事、面白そうだ」と啓発されて入社し、現在に至ります。
40年にわたるNTT人生は、時には苦労しつつも、日々楽しく過ごしています。私たちが行っているシステム開発は、プロジェクトベースで仕事をしますから、苦労も喜びもチーム全体で分かち合います。最後にその仕事が仕上がったときは皆抱き合って、肩を叩き合う。その喜びは他の何物にもかえがたいものがあります。よく言われるAll for One,One for All、このスピリットはとても大事だと思います。
ともに苦労や喜びを分かち合うのはお客さまも同様です。印象深いのは、旅行業システムのプロジェクト。当時私たちも不慣れな業界で、いわゆる問題プロジェクト化していた案件です。最初は何とか順調に運ぼうと頑張っていましたが、時間の経過とともに社員は疲弊していきます。優秀な人が問題解決に投入されますが、それは一方で新たなビジネス機会の損失にもつながってしまいます。
そこで、私たちはお客さまに当社の状況を包み隠さずご説明して、プロジェクト成功のためにお客さまにも協力していただきたいとお願いに伺いました。実はここがものすごく大事なのです。発注者と受注者という関係性では物事はうまく運びません。私たちもお客さまも同じ船に乗っていることを認識し、互いに協力し合うことが、プロジェクトの成功につながり、仕上がったときの大きな喜びにつながっていくのです。
このように、私はワンチームとして全く同じ立場で協力し合い、一緒に良いモノをつくっていく、組織力をとても大切にしてきました。良い組織は個人の実力のみでは成立しません。NTTデータは優秀な人が集まり、実力はあります。そこに、組織にみなぎる活力、仕事の魅力や上司や仲間の魅力、お客さまと私たち双方が互いに感じる魅力を高めていくと良い結果が出るのです。組織力はいわば実力×活力×魅力なのです。
別の言葉で表現すると、良い成果を生み出すために必要なのはSkillとWillです。Skillはとても重要ですが、やはりそれだけではダメで、「よっしゃ!成し遂げよう」というWillが大切。そこにチーム力を掛け合わせることで大きな成果を生み出します。お話しした旅行業のプロジェクトも、PM(Project Manager)が本社ビルの隣にあるホームセンタから模造紙やリボンを買ってきて、進捗を可視化してディスカッションしやすくしてくれました。おかげでいいムードが生まれて組織全体の力が高まりました。
お話を伺っていると本間社長は常に物事を包括的にとらえていらっしゃると感じます。トップとして大切にしていることを教えてください。
私はお客さまとの「Long-term Relationships」を大切にして仕事をしてきました。長年のお客さまとの関係には良いときもそうでないときもありますが、そうでないときにこそお客さまのためにBestを尽くすことはものすごく大事ですね。「ここまでやってくれるのか、そこまで考えてくれるのか」とお客さまは、私たちの仕事をよく見ていてくださいます。それが信頼関係につながるのです。
こうした姿勢を貫くために、私は「凡事徹底」を大切にしています。とても平凡なことでも、決めたことを徹底してやり続ける姿勢は、これからも大切にしていきたいと考えています。
また、私は強みづくり、価値づくり、そして、人づくりの「3づくり」も大切にしています。特に価値づくりにおいてはNTTの研究所をはじめとして、皆さん得意な領域をお持ちですから、私たちの価値と掛け合わせて、より良いサービスとしてお客さまに提供していきたいと考えています。
最後に、トップは着眼大局・着手小局の姿勢、高い志とパッションで仕事に臨まなければならないと考えています。しかし、強い意志を持ってここをめざすのだといっても、上り坂もあれば、下り坂もあります。そして「まさか」という坂もありますよ。下り坂や「まさか」でも、踏みとどまって前に進む力はトップには大事だと思います。特に、今の時代は、ビジネスの世界でも明確な海図がありませんよね。それでも、トップは羅針盤を持たなければならない。たとえ環境が変わったとしても指針を示すことが重要です。
(インタビュー:外川智恵/撮影:大野真也)
※インタビューは距離を取りながら、アクリル板越しに行いました。
柔らかな笑みを湛え、お約束の時間ぴったりにインタビュー会場に到着された本間社長。お話は常に簡潔でありながら丁寧で、時折、ジョークを挟んで和ませてくださいました。そのお姿に何事もスタイリッシュに対応されているのではないか、本間流の仕事の技があるのではないかとお話を伺うと、「いつも良い結果が出るわけではないのですが、やり続け、踏みとどまってしっかりと挑めば良い結果は得られると信じているのです。ただ、メンタルを常に保ち続けるのは難しいこともありますから、フィジカルなルーチンを大事にしています」とおっしゃいます。ゴルフでは必ず歩くこと、ウォーキング、そして、読書は一度に読むボリュームを決めていらっしゃるというのです。絶妙なメンタルとインプルーブメントのバランスは圧巻です。「やらないと気持ち悪くなるまでになれたら最高ですよ」と、大切なことを獲得する喜びと重要性をご教授くださいました。写真撮影の最中も「それが、知らず知らずのうちにやれるようになれるのがいいですね」と、スマートにインタビュー内容をフォローしてくださる優しさに、たゆまぬ努力の大切さを教えていただいたひと時でした。