NTT技術ジャーナル記事

   

「NTT技術ジャーナル」編集部が注目した
最新トピックや特集インタビュー記事などをご覧いただけます。

PDFダウンロード

トップインタビュー

事業の基本は「人財」。「共感」が新しい価値を生む原動力となる

2022年、組織の再編成を実施した新ドコモグループ。グループの機能統合と事業責任の明確化を行い、お客さまへの提供価値の向上とさらなる成長をめざしています。組織の再編成を通じて、社会・産業の構造変革と新たなライフスタイル創出により、「あなたと世界を変えていく。」の実現をめざす新ドコモグループの法人セグメントを担う梶村啓吾NTTコミュニケーションズ代表取締役副社長に再編成後、注力している取り組みとトップとしての信条を伺いました。

NTTコミュニケーションズ
代表取締役副社長
梶村 啓吾

PROFILE

1989年日本電信電話入社。2012年NTTコミュニケーションズシステム部長、2017年 同取締役ソリューションサービス部長、2020年NTTコムエンジニアリング代表取締役社長を経て、2022年6月より現職。

足し算ではなく掛け算で社会や産業のDXに貢献

DCC(NTTドコモ、NTTコミュニケーションズ、NTTコムウェア)の組織再編成から2年目を迎えますが、振り返ってみていかがでしょうか。

2021年に発表した「新ドコモグループ中期戦略」に基づいて、2022年1月にDCCで経営統合、2022年7月にグループ会社間の事業移管などを含む組織の再編成を実施しましたが、私はこの再編成のタイミングで副社長に就任しました。NTTコミュニケーションズ(NTT Com)が提供する全サービスの統括責任者としてのプラットフォームサービス本部長に加え、コーポレート、技術・イノベーション、社内システム、情報セキュリティを所掌している立場から、DX(デジタルトランスフォーメーション)、CX(カスタマーエクスペリエンス)、GX(グリーントランスフォーメーション)、EX(エンプロイーエクスペリエンス)すべての領域で変革を推進しています。
この再編成によって、NTT Comはこれまでのコアビジネスである、固定ネットワーク、クラウド、データセンタなどに加え、NTTドコモの5G(第5世代移動通信システム)、IoT(Internet of Things)、NTTコムウェアのソフトウェア開発力を合わせ、全国のすべてのお客さまにトータルソリューションをワンストップでご提供できるようになりました。
再編成時、NTT Comは約100のサービスを提供しており、そこへNTTドコモの約200のサービスが加わり、サービスの数は約300となりました。私はこれを足し算ではなく掛け算でとらえており、さらに営業力の強化を掛け合わせると可能性は無限に広がると非常にワクワクしました。
また、この1年は、新たに加わったサービスを従来からのNTT Comのお客さまへ重点的にご提案するスタートダッシュ施策に加え、5Gやドローン、ロボット、XR(クロスリアリティ)等のIoTといった技術を組み合わせて新しい価値を創造し、お客さまのニーズに合わせてご提供することに努めてきました。
おかげさまで、ファーストステージにおける成果は各所に表れており、お客さまには「NTT Comからの提案の幅がさらに広がる」と期待を持っていただいていると実感しています。変革のネクストステージとなる2023年はさらなる飛躍をめざし、この期待にこたえるべく、早期にお客さまに向けた具体的な価値を提供していきたいです。

お客さまの期待にこたえる姿勢に心強さを感じます。具体的な取り組み例をお聞かせいただけますでしょうか。

大企業向けには遠隔管理や最適化を実現するIoTソリューションの拡大(エネルギー、自動車等)、低遅延でセキュリティの高い5Gとdocomo MEC (Multi-access Edge Computing)活用ソリューション等の成果が出始めています。例えば、クマヒラ様の「AI顔認証モバイルゲート」に5Gと「docomo MEC」を組み合わせて、大規模イベントなどにおける入場管理業務の効率化を図る共同検証を実施し、1分間にゲートを通過できる人数が、従来環境と比較して23%増加という成果を得ました。また、自動運転やドローンの自律飛行においても続々と実験成果が出ていますので今後商材化につなげていきたいですね。
このほか、グローバル展開されているお客さまのモバイルサービスに対するニーズも高く、しっかりとこれに対応していくとともに、中小企業向けのサービス創出などについて移動・固定融合サービスのラインアップも強化していきます。引き続き、モバイル・クラウドファーストでの先進ソリューションによって、社会や産業のDXに貢献していきたいと思います。

サービスは「つくって、売って、使ってもらう」ことが大切

新たな価値提供、社会に与える影響を考えるとワクワクします。NTT Comのユニークな技術についてサービス戦略と合わせてご紹介いただけますでしょうか。

ソリューションサービス部長時代に、お客さま個々の要求に合わせさまざまなSIプロジェクトを立ち上げやり抜いてきましたが、個別SIはどうしても手間がかかり、リードタイムが長い、スケールしないという課題があります。以来、全社を挙げて、この課題をブレイクスルーすべくお客さまへの提供価値をベースにソリューションをリピータブルな「モデル」化するというイノベーションに取り組んでいます。
そして、このソリューションモデルを支えるサービスがデータと価値をつなぎ、データドリブンでDXを実現するプラットフォームであるスマートデータプラットフォーム(SDPF)です。ネットワーク、クラウド、ストレージ、セキュリティ、AIエンジン、データ利活用機能など、80以上のコンポーネントを、ビジネスに応じて必要な機能を選択して自由に組み合わせて利用することができます。先述のとおり、今回の再編成でモバイル、端末、デバイスなど新たなケイパビリティが強化されましたから、これまで提供してきたSDPFと組み合わせることで提供できる付加価値が格段に高くかつ広範になりました。
さらに、これらのコンポーザブルなサービス戦略を支えるテクノロジとしては、ネットワーク付加機能を仮想化するVxF(Virtual Everything Function)基盤や、コンポーネントをインテグレーションするDevOpsプラットフォーム「Qmonus(クモナス)」などの技術があります。これまでも、DCC連携サービス第一弾となったFlexible Mobile Connectをはじめ、さまざまなサービスのスピーディな開発・提供に貢献しています。IOWN(Innovative Optical and Wireless Network)構想の柱の1つである、Cognitive Foundationの核となるマルチオーケストレータ部分にも今後Qmonusが組み込まれる予定があるなどNTTグループ各社でも活用が始まっています。道半ばですが、世界的にみても通信事業者がこのような技術に内製開発で取り組んでいるのは他に例をみないと思います。
そして、現在このSDPFを活用して、多岐にわたるマーケットイン型のサービス開発プロジェクトを進めており、通信キャリアの強みを活かした「ゼロトラスト型ネットワークサービス」を拡充したり、社会課題を解決するスマートワールド推進でも、スマートシティのデータ利活用基盤やスマートエデュケーションの「まなびポケット」ユーザ500万IDを支える基盤として活用が進んでいます。

盤石な技術に裏打ちされたサービスが提供されているのですね。

私は、サービスは「つくって、売って、使ってもらう」ことが重要で、特に安心・安全に気持ちよく「使ってもらう」ことが大切だと考えています。そして、お客さまから選ばれ続けるサービスを提供するためにはCXが重要だととらえ、サービスの提案・導入時から導入後の運用、トラブル発生時の対応までのカスタマージャーニー全体にわたって、ニーズを先取りし、お客さまの体験価値の向上に向けて全社を挙げて取り組んでいます。
この実現のためには、お客さまの声(VoC:Voice of Customer)からサービスに対する期待と現状とのギャップを分析し、お客さま視点での改善サイクルを回していくことが大切です。例えば、サービスをご利用中のお客さまにはカスタマーポータルを提供していますが、残念ながら2021年のVoC調査では、NPS(推奨度)や満足度は非常に低い結果となりました。そのため組織横断でプロジェクト体制を立ち上げ、1年かけて典型的なお客さま像である「ペルソナ」を設定し、お客さまごとのカスタマージャーニーを整理し、ポータルの提供価値を再定義して改善を進めました。
その結果、2022年のVoC調査では、NPS、満足度ともに大幅に改善することができました。このような取り組みをお客さまとのタッチポイントごとに組織横断で進めていきたいと考えています。

人の話に耳を傾けなければ、人としての成長は止まってしまう

新たな技術が次々と生まれるこの時代をどのようにとらえていらっしゃいますか。

唐突ではありますが『スタートレック』というSFテレビドラマ・映画をご存じですか。SF好きの私はこの作品が大好きです。NTTに入社するきっかけの1つにもなりました。私は1989年にNTTに入社して、フリーダイヤル等の電話サービスの設計等を手掛けていましたが、当時すでにデータをネットワークでやり取りする時代が到来する兆候はあったものの、ここまで急速に発展するとは思ってもいませんでした。
まさに、『スタートレック』に描かれているように、イノベーションが進み、電話時代には考えられなかった世界が現実となりました。2000年当時、「次は宇宙の時代」と訴えても周囲にはあまり理解されなかった「宇宙開発」についても、いまやトレンド・ビジネスです。さらに、その先の未来もIOWN構想によって、現実のものとなりつつあります。
こうした社会を一変するイノベーションはこの仕事の醍醐味ではないでしょうか。そして、イノベーションを起こすためにも、トップは「将来はこうなる」と5年後、10年後の世界を見通して、会社のあり方や方向を示すことを求められていると思います。
収益の安定している事業をあえて見直そうとする人は少ないと思います。組織をまたいで新しいことを始めようとも思わないかもしれません。しかし、こうした環境ではイノベーションは起きにくいのです。このため、広い視野を持ってビジネス全般を俯瞰していくことに注力しています。現在進行中の私たちの取り組みがそれを具体化したものです。
また、物事を多角的に見る必要性も感じています。ポジションが上がったり、年を重ねたりすると人の話に耳を傾けなくなる傾向にあるように思います。そのあり方はトップに限らず、人の成長を止めてしまうのではないでしょうか。だから、私は社員との対話を欠かさず、コミュニケーションを図るようにしています。

コミュニケーションの重要性に気付いたきっかけはあったのですか。

きっかけは、いわゆる仕事上の「失敗」です。いくつかの失敗を経験し、そのたびに多くの人に助けていただき、その方々の話にしっかりと耳を傾けたことで突破口を見出すことができたのです。
私は事業の基本となるのは「人財」だと考えています。「サービスを創る力」「組み上げる力」のスキルアップに加え、新しいイノベーションを起こしていく原動力になる「共感力(人と人のつながりを力に変えるコミュニケーション活性化)」を有する人財を育てていきたいですね。
企業と顧客、社員と社員との「出会い」の場があって、つながりが生まれ、そこで湧き上がる「共感」が新しい価値を生む原動力となります。継続的にイノベーションが巻き起こるように自律的に協力し合い切磋琢磨する「共感する組織」づくりに努めていきたいです。
また、核となる部分はしっかりと持って、その軸がぶれないようにしています。一方で、現代は計画経済の時代とはいえませんし、イノベーションも加速しています。これまでのスピード感覚で物事をとらえられませんから、譲れない核となる部分はしっかりと据えて、あとは状況に応じて臨機応変に変化させていくように心掛けています。

技術者、社員、お客さまに向けて一言お願いします。

技術者の皆さん。プロの方から自分の知らない技術の話を聞くのは勉強になるだけでなく楽しいしワクワクします。さまざまな技術やノウハウを持っている人と人がつながることで新しいイノベーションが起きますから、異業種間、競合どうしでも技術交流は大事だと思います。まさに技術は共通言語なのです。そして、マーケットと技術をつなぐ、顧客志向の技術者として活躍してください。
そして、社員の皆さん。変革に終わりはありませんからネクストステージに向けて一緒に頑張っていきましょう。
最後に、私たちだけでは社会課題の解決には臨めません。NTT Comでは大手町プレイスにOPEN HUB ParkというIOWNをはじめとしたさまざまな技術の実証、共創の場を用意しています。また、IOWN推進室を設置し、ネットワークのソフトウェア化やデータセンタ間へのAPN(All Photonics Network)適用、IOWNの実証環境を活用したフィールド実証などの取り組みを加速しています。お客さまとともに目線を未来に向け、いろいろな技術を磨きつつ社会課題解決に向かって共創していきたいと思います。ぜひご一緒によろしくお願いいたします。

(インタビュー:外川智恵/撮影:大野真也)

インタビューを終えて

トップインタビューでは、普段のビジネスインタビューでは垣間見られないトップの一面に触れようと、やや斜めからの質問もさせていただくことがあります。やみくもに質問して失礼にあたらないようにとスタッフに副社長のお人柄を伺ったところ、「どんなお話もにこやかに聞いてくださいますから、どんなことでも質問してください」とのこと。前評判どおり、梶村副社長はインタビューの間は笑顔を絶やすことなく、どんな質問にも躊躇なくお答えくださいました。
中でも、梶村副社長のサービス精神を感じたのは趣味についてのお話です。ゴルフやお酒がお好きだそうで、「スコアが今ひとつだったので、3年ぶりにドライバーを変えたんです。やっぱりイノベーションは大切だと思いましてね」と、ご自身の信念であるイノベーションになぞらえてお話しくださいました。お話はここでおしまいでもよかったのですが、「何かでお話していないことを…」と振り向けると、「SF好き」であることを明かしてくださいました。『スタートレック』について語られる梶村副社長はまるで少年のように揚々として、そのお姿とお話に会場全体が引き込まれていきました。人を大切に思い、人とのかかわりを大切にされる梶村副社長。インタビューではこのページに収まらないほど、さまざまなエピソードを聞かせてくださいました。梶村副社長の口先だけでない、実の伴った言葉に信頼感を覚えたひと時でした。