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トップインタビュー

「地域創生クラウドで地域を活性化、社会課題の解決に貢献」――ムーンショットで未来から今を築こう

「社会課題の解決に貢献する企業」をめざし、これまで培ってきた技術・ノウハウやサービスを十二分に活用し、IoT・AI時代の“先駆者”たる企業への変革に取り組んでいるNTT西日本。「豊かな生活、活力のある安心・安全な社会」の実現をめざし、新しい価値の創造に勤しむNTT西日本の新たな中期経営計画を支える志と具体的な取り組みについて、小林充佳NTT西日本代表取締役社長に伺いました。

小林 充佳 NTT西日本 代表取締役社長

PROFILE

1982年日本電信電話公社に入社。2006年岡山支店長、2008年サービスマネジメント部長、2010年取締役 サービスマネジメント部長、2012年NTT取締役 技術企画部門長、2014年NTT常務取締役 技術企画部門長を経て、2018年6月より現職。

800の自治体、200万の企業に相乗効果を起こす取り組みに挑む

西日本を取り巻く、経営環境をお聞かせいただけますか。

NTT西日本は来年7月で創立20年の節目を迎えます。創立当時は赤字が年約2000億円という経営状況でしたが、2016年度の営業利益は951億円というNTT西日本発足以来の最高益を出し、さらなる経営の合理化などで業績を少しずつ改善させて2017年度は1674億円の営業利益を計上し、2年連続の最高益を更新しました。これは社員の努力があってこその結果です。ただし、売上高のみをみると競争環境が激しいことやモバイルへのシフトが増えていることなど、20年間下がり続けています。20年前は2兆7000億あった売上が近年では1兆4000億あまりですから、約半分ほどになってしまいました。いくら営業利益を上げられても、売上が下がっている会社は、社員にとってはやはり先行きが不安だと思います。この状況を打開することは私の使命でもあり、社員にとっても悲願だと思います。できるだけ早い時期に増収基調に乗せたいと考えています。

具体的にはどのような戦略をお考えでしょうか。

NTT西日本という会社が世間にどのようなイメージを持たれているかというと、古くからある固定電話や光ブロードバンドのサービスを提供している、ネットワーク会社あるいは回線会社ではないかと思います。こうしたインフラにさらなる付加価値を持ったさまざまなサービスをお客さまに提供していくことで、「ICT、IoT(Internet of Things)の会社」と認識していただきたいと思っています。ただ、世の中にはICT、IoTを手掛けている企業はすでにたくさん存在し、サービスを提供していますから、こうした中で私たちがどのようなビジョンを持って未来に臨むかを考えていかなければなりません。
具体的な例として、日本は少子高齢化や地域間格差等、社会課題先進国といわれており、こうした社会課題を、ICTを活用して解決、サポートできる企業となりたいというのが1つです。特にNTT西日本は近畿・中国・四国・九州・東海、そして新潟を除く北陸にわたる、計30府県の通信網をカバーしており、離島なども多く、カバーするエリアが広いうえに市場が分散しています。つまり、小さなマーケットが多数存在しており、日本の社会の縮図のようでもあります。課題は放っておけばピンチですが、それをチャンスに変えられるようなサービスを展開し、地域から愛される存在になりたいのです。
西日本エリアには大小合わせて約800の自治体、約200万社の中堅、中小を主とした企業があり、それぞれが住民やお客さまへのサービス等を提供していますが、課題も抱えながら努力をされています。こういった自治体や企業を私たちのお客さまととらえ、その課題解決や社業拡大のお手伝いをさせていただくことで、さらにその先のエンドユーザの期待にこたえていきたいと考えています。まさに私たちが掲げるB2B2Xであり、このような営みを通して地域に貢献していきます。
そのためにもまずは、私たち自身が自らの強みや特徴を踏まえておくことが大切です。幸いなことに私たちは過去からの事業によりお客さまとつながるチャネルを持ち、信頼関係を築いています。これらをベースとして、通信のみではなくAI(人工知能)やIoTといった技術、そして、私たちのアセット(約4000の通信ビルと通信装置、約40カ所のデータセンタ、26カ所のコールセンタ等)を活用して、BPO(Business Process Outsourcing)を推進すること等によりお客さまに付加価値を提供していきたいと考えています。
例えば、多くの自治体には、システムをクラウド化したいというご要望があるのですが、一方で域外にシステムやデータを出すことに不安を感じているようです。約40カ所の私たちのデータセンタに地元自治体のシステムをお預かりし、さらにその業務も請け負うといった包括的なクラウドサービスを展開していくことで、これらの不安を解消することも可能だと思います。
一方で、西日本エリアの各地域には、それぞれの地域特性を活かしたユニークなビジネスを展開されている中小企業がたくさんあります。こうした企業とのコラボレーションを通した地域への貢献も可能となります。さらに、自治体や企業との連携により、多くのデータが集まり、それを分析することで課題や要望を抽出し、それに対応できる企業等とのマッチングを行うこともできます。このように地域をベースとした連携により地域の活性化が行われる、私はこれを「地域創生クラウド」と名付けています。

地域創生クラウドでコミュニティを支え、観光客へのサービスを通じて地域の魅力を浸透させる

分かりやすくてユニークなネーミングですね。中期経営計画ではどのように取り組まれていきますか。

人、技術、そしてアセットを組み合わせて社会問題の解決や地域の活性化を図ることができるのが「地域創生クラウド」であり、私たちは相互の連携や発展をお手伝いできるのではないかと考えています。1つひとつ実績をつくりながら、仲間を増やし、輪を広げていき、最終的には800の自治体、200万の企業に相乗効果が起こるような取り組みにしたいですね。
新中期経営計画ではこれらをさらに具体化して、増収、および利益の安定的な創出につなげていきます。戦術の1つは、エッジコンピューティングです。映像データ等を一次加工・分析して、施策に利用することを「地域創生クラウド」の目玉にしたいと思います。そして、エネルギー問題、これは社会的課題の1つですが、この課題への対応です。例えば、通信ビルやデータセンタ等に常備している、災害などによる停電への備えとしての非常用の鉛蓄電池は、充放電を繰り返すと劣化してしまいます。非常用電源で通常は使用しないうえに定期的に点検・交換しているので、劣化は特に問題にならないのですが、日常的に使うことを考えると充放電が繰り返されるので不向きです。これをリチウムイオン電池に置き換えれば劣化しませんから、日常的に使用することができます。AIやICTを駆使して、電池の状態監視や最適な送配電等を行うことで、通信ビルやデータセンタ等をエネルギー供給のコア施設とする利用法を模索したいと考えています。現段階では、コストや安全性の問題があるため、この対応を研究所等とともに検討しています。
別の見方をすると、これはエネルギーの地産地消につながります。通信ビルは半径8~10 kmのエリアに分散するお客さまをカバーしています。しかも効率を考えて街の中心に配置してあります。この範囲に位置する太陽光パネル等で発電した電気を通信ビル内のリチウムイオン電池に充電し、同じエリア内のお客さまに電力供給することで、エネルギーの地産地消が実現します。遠隔地の発電所からの送電では、さまざまな工夫がなされているものの、多くの電力ロスが発生していますが、地産地消によりこの送電によるロスを削減できます。こうした地域密着型、そして地域創生につながるサービス、事業展開で好循環を生み出して地域に愛される企業として成長し続けたいですね。

2020年が目前に迫ってきました。NTT西日本ではどのような取り組みがなされていますか。

2020年のスポーツイベントは開催地が東京中心ではありますが、そこに訪れる海外からのお客さまはすべてが東京地区にとどまるわけではありません。現在、関西空港を利用される訪日客は全体の3割くらいを占めています。名古屋のセントレア空港、福岡空港等の訪日客を合わせれば約5割は西日本エリアに降り立っているのではないでしょうか。このお客さまへのより良いサービス、現在は空港にAR(Augmented Reality)を配備して、スマートフォンをかざすだけでお客さまをご案内するサービスやデジタルサイネージの提供で集客につなげるといったものですが、今後もICTを活用し、間接的なかたちで貢献できると思います。
2020年もさることながら、2019年開催のラグビーのワールドカップ、国際会議G20といった、前後して展開される国際的な大イベントへの備えも万全にすべく動いています。私たちには空港の案内サービスのようなおもてなしのサービスはもちろんですが、通信を支えるという使命があります。このほかにも、総合型リゾート(IR)構想や「MICE(Meeting, Incentive tour, Convention/Conference, Exhibition)」といわれる大きな集客が見込まれるイベントも予定・想定されており、これらに対してもサイバーセキュリティ対策を含め、ICT、AI技術で支えることが私たちの重要な役割です。
こうした機会を通じて訪れるインバウンドのお客さまへの対応は日本全体の活性化を図るためにも有効ではないかと思います。多様な習慣や価値観をお持ちの方への対応が私たちに新しい視点をもたらす可能性もあります。少子高齢化や地域間格差といった社会問題解決につながる取り組みになるかもしれません。
このような動きによるものなのか、数年前に比べて西日本は活気付いていると実感しています。先ほどもお話ししたとおり、大小合わせて800の自治体や200万の企業がコラボレーションして多様な価値観が西日本の経済を支えているともいえるでしょう。

ムーンショットで、ときめき、ひらめき、きらめきを創出しよう

このような環境下で、トップとしての信条はどのように貫かれているのでしょうか。

社員は聞き飽きたかもしれませんが、私はよく「ムーンショット」という言葉を使用しています。実はこの言葉、米国のエンジニアが使っていた言葉で、その元はジョン・F・ケネディ米大統領が1961年の大統領就任当時に出した宇宙開発政策「アポロ計画」にちなみます。米国とロシア(当時ソ連)の冷戦時代、宇宙開発においては国の名誉をかけてしのぎを削っていました。ロシアが優勢だった当時、ケネディ大統領は「1960年代が終るころには人類を月に送り、無事に帰還させる」と宣言しました。技術を向上させるという考えの延長線上で戦うのではなく、本来の目的である宇宙へ人類を送り込むために何をするかを見据え、目標を掲げることが大切だと諭した言葉なのです。実際に1969年にアポロ11号が月面着陸、人類上陸を果たし、地球に帰還しています。
これに端を発して、ムーンショットとは本来の目的や物事の本質を把握した目標を打ち立て、それへ向けてのアプローチをどう考えるかを示した言葉なのです。私たちは目前の問題解決に対応しようとしますが、本来の目的や課題は何かを考えることが大切なのです。ちなみに良いムーンショットの三原則があります。1番目は独創的であるか、2番目は「ある程度の」技術的な裏付けがあり、実現への見通しが立つか、そして、3番目はその提案や企画がより多くの人を魅了し、協力する意欲を醸成できるかということです。私は、NTT西日本が発表した新中期経営計画もムーンショットだと自負しています。

研究者の皆さんへ一言お願いいたします。

地域創生につながる研究を推進していただき、私たちとともに地域のお客さまに還元していただきたいと考えています。すでに「WinActor」「ForeSight Voice Mining」「@InfoCanal」といった商品が導入されていますが、これに続くものを期待します。
「WinActor」は、ボットにより、繰り返しの入力作業を自動化し、作業時間の短縮、入力ミスの軽減を実現する業務効率化ソリューションツール、RPA(Robotics Process Automation)の1つであり、西日本でも利用していらっしゃるお客さまが多く、私たちも積極的にお客さまにお薦めしています。
「ForeSight Voice Mining」は、音声ビッグデータソリューションで、例えばコールセンタにおいて、通話音声からクレームを自動的に抽出することができます。声を荒らげた感情的なクレームだけではなく、今までシステムで自動抽出することが困難だった感情を抑えて淡々と話しているクレームも、抑揚や間の取り方などから推測し、抽出することができます。このソリューションを利用して、事業を改善していくことで、より顧客のニーズに合ったサービスを提供できるようになります。
そして、過日の災害時にも大変役立ったのが、クラウドと携帯電話網を含めたIP通信網を活用した幅広い端末が対象の情報配信サービス「@InfoCanal」です。地方自治体による防災情報の配信を担いました。防災無線などで放送しても暴風音等でかき消されてしまうことがあり、実際に情報が届いているのかを確認することができないこともあります。これならスマートフォンやタブレット、高齢者向けの専用戸別受信機のほか、防災無線機などにも一斉にテキストと音声で配信できます。双方向性があるので安否確認にも使えて、反応のない端末には個別にメッセージを送って再確認することもできますから、自治体は住民の何割に情報が行き届いたのか可視化できるのです。
これらはすべてNTT研究所の技術であり、NTTアドバンステクノロジやNTTテクノクロスで実用化、商品化され、私たちがお客さまにお届けしているものです。こういった事例はたくさんありすぎて挙げきれません。この関係をもっと広げて、強固なものにしていきたいです。エッジコンピューティングもエネルギーについても、さらに新しい技術を生み出して、私たちとともに地域に貢献していただきたいと思っています。
お客さまと接しているときに、「うちには研究所があって、こんな技術がたくさんあるのです」と申し上げると、お客さまが安心してくださいます。こういったお客さまの反応からもいかに研究所の存在が大きいかが分かります。だからこそ、私たちも研究所のアウトプットをお客さまに届けていきたいと考えています。

社員の皆様にも一言をお願いいたします。

やはり、楽しくないと仕事はうまくいきません。企業も個人も、自分の存在が認められ、それが社会の役に立っていることが仕事の楽しさにかかわってくると考えます。「いてくれて良かった。やってくれて良かった」と、自分や自社の存在、仕事の価値を認めていただくことが一番嬉しいことではないでしょうか。そのためには、やはり楽しく仕事をしなくてはならないのです。ウキウキ、ワクワクとときめくときがありますね。これが大切だと思います。ときめくような会社、仕事の方法、環境にするのは経営者や管理者の役割でありその環境づくりに努めますので、つらいことや大変なことがある中でも、皆さんはぜひときめいてください。ときめくとひらめくのです!すると、きらめくのです!!
楽しく仕事をすれば、良い考えがきっとひらめきます。良い考えがひらめくと良い仕事ができるのできらめきます。自分のしていることが世の中に認められるという好循環が生まれます。
(インタビュー:外川智恵/撮影:大野真也)

インタビューを終えて

冗談を交えて、丁寧にお話しくださる小林社長とのお話は聞き手の私たちも楽しさのあまりつい脱線してしまうこともあります。今回はトップインタビュー2度目のご登場とあり、どんなジョークが飛び出すかスタッフ一同、そのときを待ち望んでおりました。ご自身の信条である「ムーンショット」について伺ったときのことです。「プライベートのムーンショットをお話しくださいますか」の問いに…「うーん。ナイスショットの話で良いかな」と、ご趣味のゴルフへとスマートに話を転換。待ってましたとばかり、スタッフも大笑いしてしまいました。しかし、お話を伺っていくうちにやはりご趣味だけでゴルフをなさっていないことが分かります。年間30回近くラウンドされている中で、ご自身の気分転換を図りつつ、ご一緒にプレーする方とのコミュニケーションを通して分かり合う時間を大切にされているとのことです。ご自身の予定の入っている休日の合間をゴルフの時間に充てられているそうで、「休日であってもお付き合いを深められるいい機会です」と、充実した休日を過ごされています。「ナイスショットはともかく、ムーンショットという考え方、使ってみてくださいね」と、スタッフにも知恵を授けてくださった小林社長。どんなときでもお仕事やかかわり合いのある人たちを大切に考えてくださる暖かさに触れたひと時でした。