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世界でもっとも広い241ギガヘルツの帯域を有する増幅器ICを実現
NTTは、高精度な回路設計手法と、広帯域化を図る新しい回路アーキテクチャにより、世界でもっとも広い241 GHzの帯域を有する増幅器ICの実現に成功しました。
増幅器ICは汎用性の高い基本素子であり、光通信、無線通信、計測器、レーダ・イメージング等さまざまな分野で利用されます。近年、各分野での高速化・高分解能化に伴い、より広帯域なアナログICが必要になっています。例えば、データセンタ等で使われるイーサネット等の光通信では、1レーン当りのアナログ帯域はCMOS DAC/ADCの帯域限界により20 GHz程度にとどまっており、さらなる通信容量の大容量化のボトルネックとなっていました。
NTTは、独自の高精度回路設計技術と、広帯域化を可能とする新しい回路アーキテクチャ技術を適用した増幅器ICをInP-HBTで実現し、世界でもっとも広い帯域241 GHzの増幅器ICの実現に成功しました。本増幅器ICと帯域拡張技術を組み合わせて光通信に適用することで、1レーン当り現在の10倍の大容量化につながることが期待されます。また、本増幅器ICを無線通信に適用することで、ミリ波帯までのマルチバンド一括送信・受信の実現につながるので、Beyond 5Gに向けたキーデバイスとして期待されます。
研究の成果
独自の高精度回路設計技術と、広帯域化を可能とする新しい回路アーキテクチャ技術を適用した増幅器ICをInP-HBTで実現し、世界でもっとも広い241 GHzの帯域を有する増幅器ICの実現に成功しました。本増幅器ICと帯域拡張技術を組み合わせて光通信に適用することで(図)、帯域ダブラ技術の次のさらなる帯域拡張技術を実現できる見込みであり、1レーン当り現在の10倍の大容量化につながることが期待されます。
図 帯域拡張技術を適用した短距離光送信器の構成例
今後の展開
本増幅器ICは、これまで世の中で実現が困難であった、広帯域(241 GHz)の信号を増幅できるので、光通信だけでなく、無線通信、計測器、レーダ、イメージング等さまざまな分野の高速化・高分解能化に寄与できます。本増幅器ICを無線通信に適用することで、ミリ波帯までのマルチバンド一括送信・受信の実現につながるので、Beyond 5Gに向けたキーデバイスとして期待されます。本技術を深化していくことにより、人々の生活の豊かさ・便利さを向上させ、人類の未来に希望を与える科学技術の発展に貢献していきます。
技術のポイント
InP HBTの性能を最大限に引き出す高精度な回路設計手法に関する技術と、広帯域化を図る新しい回路アーキテクチャにより、世界でもっとも広い241 GHzの帯域を有する増幅器ICの実現に成功しました。これまで、200 GHzの帯域を超える回路を設計するために必要な高精度かつ高自由度な伝送線路モデルがなく、また、200 GHzの帯域を達成するために必要な寄生成分に対する対策手法がありませんでした。今回、自由度の高い伝送線路モデルを創出するとともに電磁界解析と組み合わせる手法により設計精度を向上しました。また、寄生成分による高周波での減衰をカスコード段ピーキングで補償し広帯域化を図りました。
問い合わせ先
NTT先端技術総合研究所
広報担当
TEL 046-240-5157
E-mail science_coretech-pr-ml@hco.ntt.co.jp
URL https://www.ntt.co.jp/news2019/1906/190603b.html
研究者紹介
待つストレスがない世の中へ
徐 照男
NTT先端集積デバイス研究所
光電子融合研究部
「このダウンロードはいつになったら終わるのだろう?」そう思いながら待つことが最近でも多々あります。この待つストレスをなくしたいという思いが、私がこの研究を進めるモチベーションの1つです。近年、動画をはじめとするコンテンツ容量の増大に伴い、トラフィック量が爆発的に増大しています。大量なデータを瞬時に届けるためには、光や無線通信用のハードウェアを高速化する必要があります。ハードウェアの中でも、特に増幅器は小さい信号を増大させる大事な役割を担います。より高速な通信のためには、より広帯域な増幅器回路を実現しなければなりません。
「つくるなら“世界一”をつくろう」この研究を始めたときの私の思いの1つでもあり、私の部署のミッションの1つでもあります。世界一広帯域な増幅器回路を実現するためには超高速で動作するトランジスタは必要不可欠です。幸いなことに、NTTは超高速トランジスタを安定して製造できる世界屈指の化合物半導体プロセスを保有しています。このトランジスタを活用し、広帯域化に向けた回路設計上の課題を解く手法を考案・適応することにより、今回の世界一広帯域な増幅器回路を実現しました。
今回の研究成果を実際に世の中で使ってもらうためにはまだまだハードルがたくさんあります。待つストレスがない世の中の実現をめざして、これからもチャレンジしていきたいです。