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グループ企業探訪

第210回 NTTレゾナントテクノロジー株式会社

スマートフォンの実機がなくても画面確認やテストができるサービス「Remote TestKit」をコアに事業を展開

スマートフォンの実機がなくても、インターネットに接続できる環境とPCがあれば、いつでもどこからでもスマートフォンの実機をリモートで使用して検証・テストができる「Remote TestKit」。その開発を行っているNTTレゾナントテクノロジー三澤淳志社長に事業内容や今後の展開についてお話を伺った。

NTTレゾナントテクノロジー 三澤淳志社長

Remote TestKitサービスを軸に新規事業、社内ベンチャーとして設立された会社

親会社のNTTレゾナントとは少し分野の異なる事業をされていますが、会社設立の背景と目的、事業内容をお聞かせください。

NTTレゾナントはポータルサイト「goo」の運営や、最近では「gooのスマホ」等、B2Cサービスの会社と位置付けられていますが、法人のお客さまに対して、システムインテグレーションを提供したり、クラウド上でサービスを提供するB2B事業もあります。私はNTTレゾナントのスマートナビゲーション事業部も統括しており、NTTドコモの「dメニュー検索」の運営をはじめ、「goo」で養った大規模分散処理技術や自然言語処理技術等を活用してクラウド上のサービスを提供する事業を展開しています。
あるとき、レゾナントの社員が新サービスの“ネタ”を探していたところ、久納孝治氏(現NTTレゾナントテクノロジー取締役)が個人で会社(当時カトマック社)をつくり、Remote TestKitの前身となるサービスを提供しているのを知りました。そこで、NTTレゾナントでこのサービスを提供したいと申し出て、一緒にビジネスのスキームをつくる中でNTTレゾナントテクノロジーの設立に至りました。いわば、NTTレゾナントの社内ベンチャー的位置付けの会社となります。
現在、NTTレゾンナントはRemote TestKitサービスの「提供」「営業」「マーケティング」を、NTTレゾナントテクノロジーが「開発」を担当しています。法人は違いますが、“ワンチーム”として一体的に動いています。開発者にとって魅力あるサービスであるためにも、日本だけでなく世界の最先端技術を開拓する必要があるため、そういう意味では開発を担当する当社の位置付けはとても重要であると思っています。
Remote TestKit以外では、NTTの研究所からの開発や調査依頼に当社の技術を使って協力することもあります。これについても、NTTレゾナントとの連携で行っています。

Remote TestKitは具体的にどのようなサービスなのですか。その特長は何ですか。

Remote TestKitは、クラウド上にスマートフォンの実機を配置し、それを遠隔でPCの画面上から操作することで、スマートフォン向けアプリやWebサイトの動作確認を行うための環境を提供するサービスです。データセンタに約750台の端末を配置しており、世の中で稼働している端末×OSのバージョンを多数カバーしております。
アプリの検証時には、世間で使われているさまざまな端末、OSバージョンで動作確認をする必要がありますが、端末1台が10万円ほどすることを考えると、それを準備するコストだけでもかなりのものになります。Remote TestKitをご利用いただくことで、このような端末を準備する必要もなく、また最新の端末にいち早く対応しているので、常に最新の検証環境をご利用いただけます。また、ソフトウェアコマンドによる検証だけでなく、ボタンの押下やスワイプといった物理的な操作ができるのも大きな特長です。このほか、簡単な検証レポートの作成機能や自動テスト機能など、検証担当者の作業負担を軽減する機能を提供しています。

Remote TestKitを使ってテストを自動化し、技術者の生産性を上げる

非常に画期的なサービスですが、市場にコンペティタはいるのでしょうか。

日本で同じようなサービスを提供している会社がないわけではありません。しかし、当社ほどの規模で端末やOSに対応している会社はほぼないといえます。一方、世界的にみると同様のサービスを展開している企業は多く、グローバルではしのぎを削っています。とはいえ、最大のコンペティタは、端末を自社で準備して検証しているお客さまです。しかし、Remote TestKitでは最新機種を含め数多くの端末をそろえていますので、自社の端末と、Remote TestKit上の端末を複合的に活用して検証するパターンが多くなるのではないかと考えています。
また、リリース前のアプリの検証以外にも、カスタマーサポート対応としてもRemote TestKitを活用できます。例えば、提供中のアプリに対して、不具合に関する問い合わせがエンドユーザからあったとします。サービスの提供者は不具合が起こった環境を再現・検証して、ユーザへの回答やアプリの修正などの対応を行うのですが、このとき、ユーザが使っている端末やOSを自社で保有していない、ということが多々あります。Remote TestKitであれば、新機種はもちろん、古い機種・OSも取り扱っているので、このような事態にも対応が可能となります。

Remote TestKitの今後についてお聞かせください。

大きく分けて2つの流れがあります。
まず、2018年12月に、端末の操作履歴を自動録画する機能を追加しました。さらに、動画の1シーンをキャプチャー化し、同じく自動で記録されている操作履歴表と併せて、検証作業のレポート作成が素早く・簡単にできるようになっています。検証作業は、1つのアプリでも複数の端末で行うのがほとんどで、端末ごとにレポートを作成するのはかなりの時間を要します。そこで、この機能を通じて検証者の作業負担を大幅に軽減することができると思っています。このように、技術者に喜ばれる機能追加・サービス改善に今後も努めます。
もう1つは、「テストを自動化して技術者の生産性を上げよう」という世界的な流れとの連動性を高めていくことです。この流れを受けて、2018年にAppiumという自動テストのツールに対応しました。今後、テスト自動化のニーズは日本でも高まっていくと考え、いち早く対応しました。
前者は、Remote TestKitのサービス開始当初から大事にしているビジョンです。これからも、お客さまからのご意見を大切にしながら、サービス開発に取り組んでいきたいと考えています。後者は、昨年始めたばかりの取り組みです。先々の潮流をとらえるという意味でも力を入れていきたい分野です。
Remote TestKitを通じて、技術者の生産性向上を実現したうえで、生まれた時間をアイデアの創出や、開発に集中する時間に使っていただきたい、と考えています。

今、世の中でエンジニア不足が深刻化していますが、技術者の生産性向上はどのようなバリューがあるのでしょうか。

例えば、昨今主流となっているアジャイル開発においても、検証作業のルーチンが繰り返し発生し、クリエイティブな作業に時間をとることができない、というジレンマがあります。これが技術者のモチベーションを低下させ、ゆくゆくは離職者の増加にもつながりかねません。その意味で、自動テストは、技術者の生産性向上だけではないバリューを提供できると考えています。
一方、自動テストというと何でも自動化されると思われがちですが、自動化できることとできないことが少し複雑であったりします。お客さまへの啓蒙活動を通して理解をしていただきつつ、一緒に自動テストのこれからを考えていくべきだと思っています。我々自身も、長いレンジで取り組んでいきたいです。

ベンチャーとして活躍するには、小さく、速く、鋭く動くことが重要

会社の雰囲気をお聞かせください。

私は、NTTレゾナントにも席があり、会社にいないことも多いので、それが理由なのか定かではありませんが、皆は比較的自由に業務を行っていると思います。NTTレゾナント(田町)とは別のところに居を構えたのは、意味があったようですね。ベンチャー的に、小さく、速く、鋭く動くことができますし、この業界で勝負をかけるには、軽やかに動ける状態をつくることも重要です。ロケーションが離れていてもワンチームで動き、アジャイル開発で進める当社のやり方は、我々としても先進的だと思っています。

自分でやって自分で試す、環境そのものがアジャイルですね。最後に社員へのメッセージをお願いします。

いつも言っていることなのですが、仕事を速く回すことは我々自身が変化することなので、皆で相談しながら速くきちんと変化に対応していくことが成長する道だと思います。さらに、NTTグループの中において、自社社員がスクラッチ開発でサービスやシステムをつくっているところはあまりないので、それができる当社社員の技術力に期待しています。

担当者に聞く

スマートフォンでの検証を支援するRemote TestKit

取締役 コア開発部 久納 孝治さん
企画部長 角田 和也さん

左から、久納孝治さん、角田和也さん

ご担当の業務内容について教えてください。

久納:私は開発をメインで行っており、ほぼ100%プログラム開発を担当しています。Remote TestKitは課金周りなどいくつかのコンポーネントに分かれているのですが、その中ではお客さまが目にするサービスの中心部分の開発を担当しています。
角田:私は企画部長として、事業計画をつくったり、経理関連の数字周りをみています。それに加え、つくられたコードの品質を上げて世に出し、サービスを運用していくという立場の統括も担当しています。また、NTTレゾナントの営業チームと話をして、お客さまが何を望んでいるかを抽出し、何をつくったら良いかを議論して、コアチームが開発するという進め方をしています。

Remote TestKitについて教えてください。

角田:Remote TestKitはアプリ開発者、サイト開発者向けにクラウド上でスマートフォンをレンタルし、実機検証を可能とするサービスです。日本・韓国・米国の3拠点でサービスを運用しています。Remote TestKitは実機で検証できるというところがポイントです。エミュレータやシミュレータと勘違いされることが多いのですが、それではハードウェアで発生した問題を抽出できず、正確なテストを行うことができません。Remote TestKitであれば実機で動かしているので、ある特定の機種やハードウェアに依存したような問題も抽出できます。

どのようなご苦労がありますか。

久納:開発の苦労はたくさんあります。スマートフォン向けアプリを検証するためのサービスなので、Android・iOSのバージョンアップデートに追随し、前のバージョンとの違いを明確にしつつ、必要な新機能を追加しなければいけないという難しさがあります。バージョン間の違いをソースコードの差分から調べるだけでなく、ソースコードそのものを調査するためのツールを自社でつくり込んでいます。具体例では、Androidのソースコードを独自技術で圧縮して元の1%以下にまでサイズを落とし、開発ツールで高速に調査や検索できる仕組みを整えたりしています。このように、時間がかかる作業をカバーする社内ツールが多く準備されていることが、当社の強みです。問題に対して直接当たるのではなく、中長期的に課題を解決するために、たとえ回り道をしたとしても最大の効果が得られるように取り組んでいます。
角田:SaaS(Software as a Service)でレンタルした端末には履歴やデータが残るため、次の人が借りる前にデータを消す作業が必要になりますが、その実現においてもひと手間かけています。工場出荷状態に戻すファクトリーリセットという機能が使えると楽なのですが、これでは端末とサーバとの連携設定も外れて操作不能となってしまうため、この機能を使わずに初期に近い状態にもっていくのが肝です。通常のAPI(Application Programing Interface)によるコマンド操作ではクリアできない項目などのクリーニング処理も、独自の技術で自動化しています。
また、最近はOSのバージョンアップのサイクルが早まったので、その点でも苦労しています。さらに、 iOSはAndroidと違ってソースコードが公開されていないため、金鉱掘りが手近なところからひたすら掘るように、OSの機能を片っ端から調べ、前バージョンとの差分を見つけては深掘るという調査を繰り返しつつ、必要な機能を実現する地道な研究が必要です。
加えて、ソフトウェア面だけでなく、ハードウェア面での変化にも対応する必要があります。iPhoneのホームボタンがなくなったことは非常にインパクトがありましたね。

ソフトウェアだけでなくハードウェアでも苦労があるのですね。

久納:どうしてもソフトウェアで解決できないものは、ハードウェアで解決しています。例えば、音の取り込みなどはAPIが用意されていないので、ハードウェアとソフトウェアを組み合わせて解決しています。
角田:音は、著作権の関係で簡単には取り出せないようになっています。そこで、スマートフォンのイヤホンジャックから出た音をそのままループさせて、少ない劣化でマイクからアナログ音源として取り込むことのできるハードウェアを開発しました。また別の例では、 iOS端末からホームボタンがなくなったことでできなくなった操作を再現するために、物理的に画面を操作するロボットのようなハードウェアも開発しました。
久納:端末がレンタルされたときは基本的にソフトウェアで入出力を行っているのですが、シーンに応じてソフトウェアとハードウェアを組み合わせて解決しています。
角田:こういったハードウェアは自分たちで開発することで、販売されているものよりも一桁も二桁も安く実現できています。

グローバルな事業環境はいかがでしょうか。

角田:理由は分かりませんが、海外の競合サービスは、端末のレンタル後にデータクリアしなくてもOKという文化があるようです。私たちが膨大な労力をかけている作業をやらない分、先に行くスピードは速い。対抗するには、なるべく賢くやっていく必要があります。
久納:端末レンタル後のデータクリアは、グローバルのコンペティタが日本に進出してきた際に、Remote TestKitの強みの1つになります。ほかにも、日本語で提供していること、日本の端末でサービスを提供しているということも私たちの強みです。
角田:比較的日本の文化に近いのは韓国です。レンタル後の端末のデータ消去を求められたり、アプリ市場の中でもスマートフォン向けゲームアプリが盛んな点が似ています。これまで韓国の方々と一緒にやってきた取り組みが、今花開きつつあります。
また、クラウド上の端末の操作性の高さも、他社より先へいっていると考えています。私たちは端末の操作感を重視しているので、サクサク動き、気持ち良く使えることができます。フレームレートが出るように画面の速度を上げることにも注力しており、好評をいただいております。

今後、力を入れていく部分について教えてください。

久納:大きく2つ取り組んでいます。1番目は、ユーザのマニュアルテストを効率化する機能の拡充、2番目は自動テスト環境の提供です。前者では、テストを行った後、他のメンバー間でのテスト結果の共有を効率化するための、レポート出力機能をつくり込んでいます。端末のレンタル開始直後から操作履歴が自動で保存されるので、エラー発生時に前後の作業を確認することができます。さらに、操作履歴は動画でも出力されます。
技術的な特徴として、動画再生部分はムービーファイルを再生するのではなく、差分として保存されている画像ファイルを組み合わせて動画的に表示することで実現しています。このエンコード方式は当社で特許を取りました。本機能は現在開発中ですが、次のバージョンでリリースする予定です。
角田:テストをしていると、エラー発生後に同じ操作をしても、エラーが出ないという場合がよくあります。“気のせいだったかな”と思っても、確かにバグは存在しています。こうした一度きりかもしれないバグも、記録に残すことができることが価値となります。
久納:テスト後の振り返りはもちろん、実際にテストを行ったという証跡を残すためにも、操作や画面がレポートとして出力できる機能は、お客さまに喜んでいただいています。
角田:日本市場は技術者目線の細かな機能追加がすごく重要です。実機のほうが便利だと思った瞬間に、お客さまはRemote TestKitの利用をやめてしまうので。
久納:画面上での操作だけでなく、メニューから行ったアプリのインストールなども履歴として残るため、テスト内容の再現が非常に楽になります。このように、マニュアルテストのボトルネックの解消をめざしていきます。

NTTレゾナントテクノロジー ア・ラ・カルト

柔軟な働き方

今回インタビューさせていただいた久納さんは大学卒業後、東京で働き、子どもが生まれたタイミングでご両親が住む実家近くの福岡へ。そこからさらに環境が良いところを探して、現在は長野県の塩尻からフルリモートで開発を行っています。一方で社内インフラのほとんどがクラウドにあるため、いつでもリモートにすることはできる環境はあるものの、角田さんはオフィスのほうが快適だといい、会社に出てきてお仕事をされています。技術だけでなく、働き方の面でも最先端をいっていました。

趣味もプログラミングでツール開発

開発を行う久納さんにとって仕事がプログラミングですが、趣味もプログラミングで、正月もほぼ休まずプログラミングしていたそうです。最近では勉強を効率化するために、YouTubeにアップされている大手IT各社の講演動画を絵コンテ形式にするツールを作成しました。テキストを字幕のデータから生成する機能や動画へのリンク、翻訳機能などを実現し、個人的にも役立っているとのこと。趣味での開発がRemote TestKitに通じることもあり、自然と技術力が磨かれ、事業にも活かされていくそうです。