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グローバルスタンダード最前線

TM Forum最新動向

本稿では、6G(第6世代移動通信システム)や将来のネットワークを見据えて、TM Forumで行われているAI(人工知能)を活用したオペレーションの自動化に関する最新の議論状況を紹介します。自動化の全体議論であるAutonomous Networkやそれを実現させるためのBSS(Business Support System)/OSS(Operation Support Systems)アーキテクチャであるOpen Digital Architecture、B2B2Xのようなさまざまな産業と連携したビジネス創出のためのAPI(Application Programming Interface)検討、およびAIをオペレーションへ適用していくことなどを見据えた通信事業者の組織や人の課題についての議論が活発になっています。

八木 佐也香(やぎ さやか)/堀内 信吾(ほりうち しんご)
田山 健一(たやま けんいち)
NTTアクセスサービスシステム研究所

TM Forumとは

TM Forumは1988年7月、ネットワークオペレーションの相互運用を推進するための標準化を行う非営利団体として発足しています。現在、通信、IT業界における世界のリーディングカンパニーを含めた850社以上が加盟しています。
現在TM Forumでは、3つのミッション、5つのテーマを設定し、図1に示すように、20のプロジェクトで標準化ドキュメントの議論が進められています。同時に、標準化要件などを見極めるPoC(Proof of Concept)実証を積極的に行っており、Catalystプロジェクトとして活動を行っています。
(1) 3つのミッション
・Composable IT & Ecosystems
・Autonomous Network Operations
・Data & AI Innovation
(2) 5つのテーマ
・Autonomous Operation
・People & Planet
・Cloud Native IT & Networks
・Ecosystems
・Data & AI
TM Forumでは、これらの標準化を進めるために、対面での集中議論の場を年1回、ワークショップ・展示会を中心としたイベントを欧州、北米、アジアで年1回ずつ開催しています。
本稿では、Autonomous Network、Open Digital Architecture(ODA)/API、Wholesales、People & Planet、AI Operationsの各プロジェクトにおける議論の動向について報告します。

Autonomous Network

Autonomous Operationのテーマに関する中心的なAutonomous Networkについて、3GPP(3rd Generation Partnership Project)やETSI(European Telecommunications Standards Institute)などの他標準化団体と連携し、ネットワークとオペレーションの自動運用を実現させるために議論が行われています。これまでに、全体アーキテクチャや自動化を実現させるための目的となるIntentのモデルやAPI、自動化のレベル規定およびレベルの判定方法などが標準化されてきています。Autonomous Networkのアーキテクチャを図2に示します。また、Autonomous Networkの実現レベルについて規定するとともに、Key Effectiveness Indicators(KEIs)などを用いて各社のオペレーションシステムを定量的にどの程度のレベルであるかを評価する手法も規定が進んでいます。この中では、IPやRAN(Radio Access Network)などのネットワークのドメインごとにAutonomous Networkのレベルを規定することが議論されています。
また、最近では生成AI(Generative AI:Gen AI)を用いた自動化のシナリオなどの議論が活発に行われていて、ホワイトペーパーなどがつくられています。この議論の中で、テレコム共通の大規模言語モデル(LLM:Large Language Model)をつくることなどの議論も行われています。さらに、ホワイトペーパーに含まれるユースケースなどからアーキテクチャとの関係を明らかにするための議論なども進められています。

ODA/API

近年のネットワークのソフトウェア化やAI技術の発展に伴って、BSS(Business Support System)/OSS(Operation Support Systems)のアーキテクチャをサイロ型のものからオープン型のものへ変革し、具体的な機能やモデルを標準として規定する、ODAの取り組みが進められています(図3)。ODAでは、従来のBSSの領域をCore Commerce、OSSおよびネットワークの領域をProductionとして定義しています。また、B2B2Xのような新たなビジネスモデルへの対応を行うためにParty Managementを規定しています。さらに、顧客とのUI(User Interface)やシステム間の柔軟な連携のための機能群をEngagement Managementとして、AIを効果的にオペレーションで利用するための機能群をIntelligence Managementとして規定しています。これらの機能群を連携させるためのOpen APIでODAは構成されています。
このODAの検討が進められ、ODAを構成する各機能コンポーネントの参照実装が進められODA Canvasと呼ばれる環境で利用できるものが公開されています。具体的なODAのComponentを図3に示します。このODAについては、基本的な考え方は多くの通信事業者に浸透してきていることがTM ForumのDigital Transformation Worldと呼ばれるイベントの動向などで示されています。NTTは今後のITシステムをODA準拠で構築していく指針を示しており、TM ForumのRunning on ODAの認証を取得しています(1)
TM ForumのAPIは、REST以外のAsyncAPIへの拡大が検討され、第5世代のガイドラインが示されています。これに伴って、70以上に及ぶ既存のOpen APIも対応が進められています。また、既存のTM Forumのモデルだけでなく他の標準化団体(SDO)で規定されたモデルのデータもAPIでやり取りできるようにするためにDomain Context Specialization(DCS)の議論が活発に行われています。このDCSにより、TM Forum のOpen APIを特定のニーズや要件に適応させることができ、結果的に効率的な開発プロセスを実現させることが可能になります。この結果、各SDOとのAPI連携を推進し、非CSPの3rdパーティにとっても扱いやすいOpen APIをTM Forumではめざしています。

Wholesales

ヨーロッパを中心にFTTxサービスの展開が進むことに伴って、アクセスサービスのAPIによる卸ビジネスが加速しています。元来、欧米では物理ネットワークを提供する事業者と通信サービスを提供する事業者が別であることが多く、アクセスサービスの迅速な提供のためにAPIの検討につながっています。卸サービスを提供する業務プロセスに対応して、具体的にどのようなOpen APIを使うかがIG1351にて示されています(図4)。

People & Planet

AIなどの新しい技術を積極的に取り入れる通信企業(TechCo)をめざして、組織や人がどのように変革をしていくべきかについて議論が行われています。変革していく過程で考えるべき側面としてどのようなものがあるか、変革の度合を指標化するなどの検討が具体的に行われています。例えば、通信事業者が組織、人材、文化を変革する際の成熟度の基本レベルを決定するのに役立つ指標として、Digital Talent Maturity Model (DTMM) の検討が進められています。図5に示すとおり、DTMMは組織、人材、文化の3つのカテゴリーにおける6つの主要な測定分野に焦点を当てており、各測定分野はさらに主要なtransformation factorに分割されています。各transformation factorは5段階の成熟度でレベル分けされており、ギャップが存在する領域の特定、改善に向けたステップの計画に活用できます。また、抽象的な戦略論にならないようにするために、ODAとの関係を明確にすることも意識しながら検討が進められています。なお、議論としては始まったばかりの状態であることから、今後の議論動向をみていく必要があると考えています。

AI Operations (AIOps)

TM ForumではAIのアルゴリズム自身を議論するわけではなく、通信事業者がAIを利用していくためのガイドラインなどの検討をしており、モデルのライフサイクルなどを標準化することで通信事業者でのAI活用を促進するための議論が進められています。GB1065 E2E AIOps Lifecycle v1.0.0では、AI OpsのDesign & DevelopmentのフェーズとMaintenanceのフェーズをそれぞれ詳細に分解し、AIを導入していくためのフェーズを分解した要素との組み合わせを考えることで詳細な機能などを定義できるとしています。近年では、AI & Data Governanceとして、よりAI技術の導入と運用のための管理監督のための議論が盛んになっています。

おわりに

オペレーション全般に関して、ビジネス視点を意識した標準化議論が可能なTM Forumを活用することで、オペレーション技術を幅広いビジネスで利用してもらえる機会創出に使えると考えています。
NTT研究所では、Intentに基づく自律自動化の技術開発や複雑化・多様化するオペレータ業務の改善を実現する技術開発を行っており(2)、標準化を通して幅広いオペレーション領域での活用をめざしています。具体的にはIntent関連技術の要件からIntent API(TMF921A Intent Management API Profilev1.1.0)への寄書提案をするとともに、Catalystプロジェクトでの実証を通じて、将来のネットワーク向けオペレーション技術を標準準拠させることで普及展開を図っていこうと考えています。なお、Catalystプロジェクトでは、14社で議論を進めてきたAutonomous Network Hyperloops Phase Vのチームで、Outstanding Catalyst - Beyond Telcoの賞を2024年6月に開催されたDigital Transformation World2024にて受賞しています。

■参考文献
(1) https://inform.tmforum.org/features-and-opinion/oda-unboxed-ntt-streamlines-processes-by-25-with-subsequent-cost-savings
(2) https://journal.ntt.co.jp/article/18762