NTTアノードエナジーがめざすスマートエネルギー
- エネルギー政策
- 通信用電力供給
- 再生可能エネルギー
NTTアノードエナジーは、NTTの持つ技術、資産を活用し、環境・エネルギーに関する社会課題解決への貢献を目的として、2019年6月3日にNTTから100%出資を受けて設立した会社です。今回、私たちの取り組む事業内容について紹介します。
伊達 新哉(だて しんや)/ 鈴木 直行(すずき なおゆき)
NTTアノードエナジー
日本のエネルギー事情と政策方針
日本は、従前より化石燃料の埋蔵量が少ないためエネルギー自給率が低く、海外から輸入される燃料への依存度が高いなどの地政学上のリスクを低減するため、エネルギー政策として原子力発電所の建設や、豊かな自然環境を活用した水力発電、太陽光発電などの再生可能エネルギーの導入を推進し、エネルギーの自給率を高め、安定供給に寄与してきました。しかし、2011年3月11日の東日本大震災の影響による福島第二原子力発電所の事故を契機とした首都圏における計画停電の実施をはじめ、2018年9月6日の北海道胆振東部地震をきっかけとする全島停電、直近では2018年9月に近畿地方を襲った台風21号や2019年9月に房総半島に多大な被害を及ぼした台風15号、19号での送配電網のトラブルによる長期にわたった停電など、自然災害の大規模化によりその安定供給が脅かされる場面が増えてきています。
このような中、日本政府は2018年7月3日に第5次エネルギ ー基本計画を閣議決定し、エネルギー需給構造の改革を大胆に進め、「3E+S」、すなわち「安全性(Safety)を前提としたうえで、エネルギーの安定供給(Energy Security) を第一とし、経済効率性の向上(Economic Efficiency)による低コストでのエネルギー供給を実現し、同時に、環境への適合(Environment)を図る」ことをめざす方針が出されています。
またパリ協定においては、2030年の日本の温室効果ガス排出量を2013年比で26%削減することを宣言しています。この目標を達成するため、徹底した省エネルギーと再生可能エネルギーをはじめとしたゼロエミッション電源比率を引き上げる基本方針が示されています。特に、再生可能エネルギーの導入については、2013年時点で発電量の約11%ですが、2030年には原子力発電を含めて44%まで比率を引き上げる目標設定がされています。
一方で、発電量が不安定な太陽光発電や風力発電については、導入ポテンシャルが大きいものの電力系統の制約により導入が制限されるケースも出てきています。電気は、需要と供給のバランスがくずれてしまうと、最悪の場合は大規模停電につながるため、常に需要と供給の量を一致させる必要があります。需給のバランスをとるため、需要の変動に合わせて発電量をコントロールしていますが、このコントロールできる許容量を超える場合、新規の発電所の系統への接続を制限したり、運用中の太陽光発電所等の出力を抑制する必要が出てくるため、再生可能エネルギーを大量に導入し、主力電源化する際の障壁となっています。
この課題を解決し、再生可能エネルギーを普及促進するため、蓄電池と組み合わせて需給バランスの変動の調整をしたり、小規模なエリアにてエネルギーを地産地消し、かつエネルギーの強靭化を実現するため、分散型電源に電気自動車(EV)や蓄電池を組み合わせて複数の施設で融通したり、エネルギーマネジメントシステムによりエネルギー消費量や消費パターンをコントロールすることが求められています。これらを実現するためには、電力の充放電が可能な蓄電池がキーデバイスとなってきます。
NTTグループにおける今までの取り組み
全国に約7300ビルある通信ビルでは、通信事業を止めることなく提供し続けるため、100年以上にわたって積み重ねられた電力供給の仕組みを保有しています。電力会社から交流で受電した電力は、整流装置にて直流に変換され、通信装置に電力供給をしています。また、バックアップ電源として蓄電池、非常用発電装置をビルに備えており、長時間停電や非常用発電装置の故障に備え、移動電源車も保有しています。
通信ビルにおける特徴の1つである直流給電ですが、メリットは「信頼性」と「高効率」です。通常、データセンタ等で一般的に用いられている無停電電源装置(UPS)では、交流⇒直流⇒交流と電力を変換したうえでICT装置に電力を供給し、ICT装置の中でさらに交流⇒直流と3段階の電力変換を要します。直流給電の場合は、1段階の変換で済み、変換回数が少ないことにより故障率が低減され、信頼性が約10倍、変換ロスが最大20%低減されます。そのため、24時間365日電力供給を継続することが求められる通信事業においては直流給電が選択されてきました。
また、再生可能エネルギーの取り組みでは、1962年に公衆電話の災害対策を目的として、福岡県小呂島に32 Wの太陽光発電設備の導入をしたのが最初の取り組みです。その後、1989年には、当時日本最大級の10 kWの太陽光発電設備を北海道根北峠の公衆電話BOXへ導入、自然エネルギーの利用促進をめざしNTTグループのオフィスビル、研究所を中心に合計5MW以上の太陽光発電システムを導入してきました。また、NTTファシリティーズにおいては、大規模な太陽光発電所の構築に取り組んできており、2017年度末時点で日本トップクラスとなる80カ所、26.9万 kWの自社発電所を保有、その構築・運用ノウハウを活用し、全国約1400カ所、約88万 KWの発電所の構築、保守運用に携わっています。
その他、電力自由化後の1999年には、東京ガス、大阪ガス、NTTファシリティーズの3社共同出資にて小売電気事業を営むエネットを設立し、20年以上にわたり、新規参入の電力会社(新電力)のリーディングカンパニーとして事業を続け、現在、約9万件のお客さまに電力を供給しています。また、2011年には、オムロンとNTT西日本の合弁でNTTスマイルエナジーを設立し、太陽光設備の遠隔監視装置(エコめがね)の販売や小規模な再生可能エネルギー発電事業を展開し、太陽光発電の見える化サービスにおいては全国トップレベルのシェアを獲得しています。
NTTアノードエナジーがめざすスマートエネルギー
NTTアノードエナジーでは、前述の今まで培ってきた再生可能エネルギーや直流給電技術、ノウハウ、および、NTTグループが保有するICTを活用し、「蓄電・デジタル技術を活用した電力調整力の確保」、「再生可能エネルギーの主力電源化」、および「再生可能エネルギー、EV、マイクログリッド等を組み合わせた分散型エネルギーシステムの構築」により、既存の電力系統を補完するスマートエネルギー事業として、バックアップ電源事業、バーチャルパワープラント(VPP)事業、グリーン発電事業、電力小売事業と、それらのデータ活用をサービス提供していく予定です。
このスマートエネルギー事業の推進体制を整えるべく、2019年9月にNTTスマイルエナジー、2019年10月にはエネットを子会社化しました。今後、他のパートナー等と連携し、B2B2Xモデルでのサービス提供を実施していきます。
私たちは、昨今の災害の大規模化を踏まえ、世の中ではバックアップ電源のニーズが高まっている中、防災×エネルギーとして、バックアップ電源サービスを活用した地域防災への貢献をめざしていきたいと考えています。想定を超える規模の災害による長時間停電が起きるケースが増加している中、電力会社の復旧や公的な支援(公助)を待つよりも、自衛の観点での自立電源の保有(自助)や、地域・コミュニティでの助け合い(共助)が重要となってきています。実際の事例として、2019年の台風15号、19号の際には、道の駅に構築された太陽光発電設備により停電時に地域の施設へ電源供給を行ったり、EVにより自治体避難所に電力供給が行われていました。
今後、分散型エネルギーとしての太陽光発電設備や蓄電池、EVの自治体の避難所等への導入提案を進めていきますが、非常時にはそれらを面的に制御し、停電時の限りあるエネルギーを必要な場所に届ける仕組みを提供していきます。また、将来的には、コグニティブ・ファウンデーション®やデジタルツインコンピューティングの技術を活用し、高度にエネルギーをコントロールし、非常時の電源供給を支える仕組みをつくり上げていく予定です。
現在の電気機器は、一般的に交流で動作をしていますが、PCやスマートフォン、その他USBにて動作する機器はすべて内部では直流で動作しており、このような機器は広く普及してきています。また、太陽光発電設備や蓄電池も直流であることから、これらの親和性をうまく活用した直流電力を活用したサービスの検討も進めていきます。
(左から)伊達 新哉/鈴木 直行
問い合わせ先
◆問い合わせ先
NTTアノードエナジー
スマートエネルギー事業部
TEL 03-6738-3211
E-mail infontt-ae.co.jp
NTTアノードエナジーの役割は、スマートエネルギー事業を通じて、エネルギー流通を補完する新たな仕組みを創り上げ、持続可能な社会を実現することです。エネルギー効率の向上、地球温暖化対策・再生エネルギー活用、耐災性(レジリエンス)向上などの価値創出をめざします。