NTTアノードエナジーの取り組むサービス
- 分散型エネルギー
- バックアップ電源
- バーチャルパワープラント
近年、大規模自然災害により、大規模な停電が多発しています。その対策として、NTTアノードエナジーでは、分散型エネルギーシステムを活用したバックアップ電源サービスを提供しています。欧州では分散型エネルギーシステムを集め、1つの仮想的な発電所としての機能を持つバーチャルパワープラント(VPP)を構築する動きが出てきています。日本においても、経済産業省資源エネルギー庁の補助事業である「VPP構築実証事業」に対して、電力会社をはじめとしたさまざまなプレーヤーが参加しており、NTTグループでもその一員として実証に参加しています。本稿では、昨今のエネルギーを取り巻く課題を踏まえ、NTTアノードエナジーが今後取り組んでいくエネルギーサービスについて紹介します。
新居 丈司(あらい たけし)/ 渡邉 茂道(わたなべ しげみち)/ 宮崎 悠(みやざき ゆう)/ 菊地 範晃(きくち のりあき)/ 井上 裕子(いのうえ ゆうこ)
NTTアノードエナジー
は じ め に
北海道胆振東部地震で発生したブラックアウトをはじめ、近年、大規模自然災害により、大規模な停電が多発しています(図1)。2019年に上陸した台風15号、19号は各地にさまざまな被害をもたらし、停電が長時間に及んだことから、日常生活にも大きな影響を与える結果となっています。その要因の1つとして、暴風に伴う倒木や飛来物により、電力会社のエネルギー供給に必要となる送配電設備が損傷し、断線したことがあげられます。従来のエネルギー供給システムは、大規模な発電設備による集中型エネルギーシステムであることから、発電したエネルギーをお客さまに送るための送配電設備は欠かすことができません。しかし、送配電設備が損傷すると、エネルギーを利用できない状況に陥ることになるため、設備損傷の影響を受けずに、お客さまがエネルギーを利用できる環境を構築することが必要となります。この課題に対して、NTTアノードエナジーは、送配電設備に依存せず、お客さまにエネルギーを供給できる分散型エネルギーシステムを活用したバックアップ電源サービスを提供していきます(図2)。ここでいう分散型エネルギーシステムとは、分散配置される小規模な発電設備を利用したエネルギー供給システムのことです。分散型エネルギーシステムを活用したバックアップ電源サービスを普及拡大することで、地域のレジリエンスを向上させることができます。
昨今の環境意識の高まりにより、再生可能エネルギーは、その普及が進むものの発電設備としては自然の影響を受けることから需給を調整することが難しく、既存の火力発電や水力発電と同様にエネルギーを安定供給する主力電源とみなすには大きな課題があります。その課題を解決する方法として、バーチャルパワープラント(VPP)に期待が寄せられています。VPPとは、発電設備や蓄電池、需要家側設備をコントロールし、あたかも1つの発電所として機能させる新たなエネルギー供給システムのことです(図3)。エネルギーの需給調整を可能とするだけではなく、取り扱うエネルギーの容量を大きくすることで、既存の火力発電所の代替としても期待できます。既存の火力発電所の中でも石炭火力発電所については、1960年代に建設されたものが多く、2020年代に更改の時期が到来します。石炭火力は国際的な非難にさらされていることもあり、石炭火力発電所を更改していくことは難しくなると想定されています。また、地球温暖化対策に関する国際的な枠組みである「パリ協定」で目標として掲げられた脱炭素化に向け、経済産業省では2017年に16%であった再生可能エネルギーの比率を2030年には22~24%にする目標を掲げています。そのため、NTTアノードエナジーでは、再生可能エネルギーの主力電源化に不可欠なVPPの構築に取り組むことで、既存のエネルギー供給とは異なる新たなエネルギー供給の仕組みをつくっていきます。これにより、再生可能エネルギーの普及を後押しし、環境に配慮した社会を実現していきます。
図1 大規模災害による停電被害の状況
図2 バックアップサービスのイメージ
図3 VPPビジネス事業
バックアップ電源サービス
NTTアノードエナジーでは、地域のレジリエンス向上を図るため、自治体等のBCPニーズの高いお客さまに対して、バックアップ電源サービスを提供していきます。NTTアノードエナジーが提供するバックアップ電源サービスには、2つの取り組みがあります。
第1の取り組みは、レジリエンス強化が必要な建物に対して、分散型エネルギーシステムを導入していく取り組みです。分散型エネルギーシステムを活用することで、災害等で電力会社の保有する送配電設備が損傷した場合でも、分散型エネルギーシステムからエネルギーを供給することで、停電を回避することができます。具体的には、お客さまの建物の屋根等に太陽光パネルを設置し、太陽光パネルで発電したエネルギーを自家利用するとともに、蓄電池を合わせて設置し、余剰のエネルギーを貯蔵しておくことで、発電できない時間帯でもエネルギーを利用できるようにします。太陽光パネルは屋根の大きさに依存するため、お客さまが利用する電気量すべてを賄うことができるとは限りません。そのため、不足する電力量については、電力会社から供給する仕組みを残すことで、必要な電気量を確保します。バックアップ電源サービスは、PPA(Power Purchase Agreement)モデルという仕組みを活用します。PPAモデルとは、発電設備である太陽光パネル等を第三者に設置してもらう一方で、お客さまはその電気を購入する契約を締結するモデルです。そのため、お客さまは発電設備等の設置にかかわる初期費用の負担が不要であるとともに、メンテナンスにかかわる費用の負担も不要です。発電設備等のコストは、お客さまに長期で電気を購入いただいた料金で回収します。お客さまにとっては、電力会社からのエネルギー供給とお客さまの建物に設置した分散型エネルギーシステムからエネルギー供給の2つのルートを確保する環境が構築できることから、分散型エネルギーシステムがバックアップとしての役割を果たし、エネルギーレジリエンスを向上させることが可能となります。
しかし、課題となるのは分散型エネルギーシステムによるエネルギー供給コストです。なぜならば、分散型エネルギーシステムによるエネルギー供給コストが高価であれば、お客さまは電力会社からのエネルギー供給のみを使い続ける可能性が高いからです。現状では、太陽光パネルによる発電コストが電力会社からのエネルギー供給コストと同等または下回る「グリッドパリティ」は実現されているものの、太陽光パネルと蓄電池を組み合わせた発電コストが電力会社からのエネルギー供給コストと同等または下回る「ストレージパリティ」には至っていません。グリッドパリティが実現した理由は、世界で太陽光パネルの市場が拡大したことにより、海外製品を中心にスケールメリットが働き、安価な製品が出てきたためです。ストレージパリティを実現するためには、グリッドパリティと同様、市場拡大が欠かせません。それによる蓄電池コストのさらなる低廉化と、周辺装置であるパワーコンディショナー(PCS)の低廉化が必要です。
第2の取り組みは、災害等で停電している重要拠点に対して、エネルギーを運搬する取り組みです。具体的には、停電している重要拠点に電気自動車(EV)で駆けつけ、EVに搭載されている蓄電池からエネルギーを供給することで、災害時でもお客さまがエネルギーを利用できるようにしていきます。しかし、EVが駆けつけても、そのままでは重要拠点の建物に直接エネルギーを供給することはできません。EVから重要拠点にエネルギーを供給するためにはPCSが必要です。
そこでNTTアノードエナジーでは、当面は、EVから供給するエネルギーをEVと一緒に運搬した可搬型PCSで受け、給電が必要なお客さまの機器類をPCSに直接接続する方法によりサービスを提供していきます。将来的には重要拠点の建物に対してV2X(Vehicle to Everything)に対応したEVステーションを設置することでEVに貯めたエネルギーを建物に直接給電できるようにしていきたいと考えています。EVを活用したバックアップ電源サービスを提供するためには、EVの普及が必要不可欠です。そこで、NTTグループではEV100に加盟し、2030年までに保有する約1万台の社用車をすべてEVに更改する計画を掲げ、全国で年間約1000台のペースで導入していく予定です(図4)。NTTアノードエナジーでは社用車のEVへの更改に合わせ、EVを充電するためのEVステーションの整備を進めていきます。社用車用だけではなく、お客さまの重要拠点に対してもEVステーションの整備を進めていくことで、さらなるEVの普及拡大に寄与していきたいと考えています。
図4 社用車EV化計画のイメージ
バーチャルパワープラント(VPP)
電気の貯蔵が可能な蓄電池やEVの普及が見込まれている中、欧州では再生可能エネルギーと蓄電池をネットワークで連携し、1つの発電所のように扱うVPPを構築する動きが出てきています。VPPでは発電側設備に加え、需要家側の設備も束ね(アグリゲーション)、遠隔・統合制御することで、電力の需給バランス調整に活用することができます。需要家側のコントロールが中心ですが、VPPの構築を見据えたNTTアノードエナジーの3つの取り組みについて紹介します。
VPP構築実証事業への参加
NTTアノードエナジーはNTTファシリティーズが参画する、経済産業省資源エネルギー庁の補助事業である「VPP構築実証事業」への業務支援をしています。現在取り組んでいる実証事業は、市場におけるVPPおよびディマンドリスポンス活用を見据え、早稲田大学からの指令に基づき、アグリゲーションコーディネータと連携して、リソースアグリゲータとして需要家側の空調や蓄電池等設備をコントロールし、需要家側の需要を抑制することで、指令で規定された調整電力量(ΔkW)を提供するというものです。課題は、遠隔でコントロールできる需要家側の設備を増やすことと、指令を受けてから応答するまでの時間を短くすること、指令されたΔkWを正確に提供できるよう、需要家側設備のコントロール精度を向上させること等があげられます。コントロールできる設備が増えれば、調整力を増すことができます。また、応答時間の短縮化、コントロール精度の向上が図れれば、より細やかな調整が求められる調整力電源として提供することができます。2021年度には電力を取引する市場の1つとして需給調整市場が開設されます。NTTアノードエナジーは、需給調整市場の開設を見据え、実証事業を通じて現在抱えている課題の解決に向けて取り組んでいきます。
NTTビルを活用した電気料金削減施策の検証
NTTアノードエナジーでは、NTTビルで使用する電気料金削減を目的に需要家側の設備を遠隔でコントロールする取り組みを実施しています。もっとも電力使用の多い時間帯の電力使用を抑えることで、電気料金を削減するピークカット施策、削減可能な電力消費を抑制する省エネ施策により電気料金削減をめざします。具体的な取り組みとしては、需要家側に設備を遠隔でコントロールするためのゲートウェイ(GW)を設置し、電気の使用状況を監視するとともに、使用量がしきい値を超える場合には設備をコントロールし、抑えます。課題はGWの設置コスト低減と、コントロールできる設備の対象を増やします。コントロールできる設備が限定される中では、費用対効果も限定的になります。そのため、今後普及が見込まれる蓄電池と組み合わせ、エネルギーを使用する時間帯を変更するピークシフトにも取り組むことで、費用対効果を高めていくとともに、コントロール可能となったリソースを市場に活用することを志向していきたいと考えています。
電源Ⅰ´厳気象対応調整力提供の取り組み
NTTアノードエナジーは、一般送配電事業者に対する電源Ⅰ´厳気象対応調整力の提供に関する取り組みを行っています。一般送配電事業者は、猛暑や厳寒等の稀頻度な需給の逼迫時における需給調整のために必要な調整力電源を確保する必要があります。電力会社は、調整力の調達の調達について、多くの電源等への参加機会の公平性確保、調達コストの透明性・適切性の確保の観点から、原則公募により調達を実施しています。NTTアノードエナジーでは、電力会社からの指令発動時にNTTグループ等が保有する常用発電機設備を活用した需要抑制により電源Ⅰ´の提供に取り組んでいます。電源Ⅰ´については、稀頻度かつ3時間前の発動判断があることから、需要家側の設備等の稼働計画を調整することで需要抑制(ネガワット提供)により収益を得ることができ、電力会社にとっても需要側にとってもメリットのある仕組みです。
NTTアノードエナジーは、上記の需要家側設備のコントロールの取り組みに加え、今後は再生可能エネルギーも需給調整の対象にしていく予定です。NTTグループは、全国津々浦々に多くの通信ビルと蓄電池を保有しているとともに、需給調整に必要となるICTを保有しています。NTTアノードエナジーは、NTTグループの持つリソースや強みを活かし、VPPに必要となるプラットフォームを構築していきたいと考えています。
今後の展開
地域のレジリエンスの向上が要望されている中、既存のエネルギーシステムの脆弱性を補う新たなエネルギーシステムが必要となっており、分散型エネルギーシステムはその解決策の1つであると考えています。NTTアノードエナジーで取り組むバックアップ電源サービスは、分散型エネルギーシステムの一形態であるため、全国に普及拡大することで、地域のレジリエンスの向上に貢献できると考えています。また、今後さらに再生可能エネルギーが普及していくためには、安定供給するための仕組みが必要であり、VPPの構築はその解決策の1つです。NTTアノードエナジーはVPPのプラットフォームを構築することで、再生可能エネルギーの普及拡大に貢献していきます。
(上段左から)新居 丈司/渡邉 茂道/宮崎 悠
(下段左から)菊地 範晃/井上 裕子
問い合わせ先
◆問い合わせ先
NTTアノードエナジー
スマートエネルギー事業部
TEL 03-6738-3211
E-mail infontt-ae.co.jp
社会のレジリエンス向上、再エネ促進・環境負荷低減等のエネルギーを取り巻く課題解決に向けて、分散型エネルギーを活用した、バックアップ電源サービス、VPPサービス等のサービス開発を進めてまいります。