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2025年12月号

特集1

IOWN/6Gに向けた光・無線の融合による伝送技術・高付加価値化技術

光・無線の融合が導く次世代ネットワーク・コンピューティング基盤の革新

NTT未来ねっと研究所(未来研)では、世界トップレベルの通信技術と、それらを最大限に活用するネットワーキング技術を駆使し、通信技術の飛躍的な性能向上と新たな利用領域の開拓に挑戦しています。常識を超える「世界一」「世界初」の研究成果の創出と、それらの社会実装による新たな価値創造をめざし、研究開発を推進しています。本稿では、未来研で取り組む技術の概要を紹介します。

赤羽 和徳(あかばね かずのり)†1/水野 晃平(みずの こうへい)†2
高杉 耕一(たかずぎ こういち)†2/鈴木 賢司(すずき けんじ)†2
木坂 由明(きさか よしあき)†2
NTT未来ねっと研究所 所長†1
NTT未来ねっと研究所†2

はじめに

近年、生成AI(人工知能)の急速な普及により、データ処理量と通信トラフィックが爆発的に増加しており、世界各地でデータセンタの建設が加速しています。これに伴い、データセンタの電力消費やデータセンタ間の接続が大きな課題となっています。さらに、量子コンピュータへの期待も世界的に高まっており、創薬・材料設計・金融・暗号通信など多様な分野での応用が期待されています。NTT未来ねっと研究所(未来研)では、これらの課題に対し、光・量子・電波・音波を活用した伝送技術とその高付加価値化の研究開発に取り組み、IOWN(Innovative Optical and Wireless Network)/6G(第6世代移動通信システム)の実用化に貢献する「世界一」「世界初」の新たな価値の創出をめざしています。
未来研の取り組み領域を図1に示します。光ファイバを用いた光通信、電波を用いた空中・宇宙での無線通信、音波を用いた水中での音響通信において、大容量化・長距離化・カバレッジ拡大・低電力化を実現する技術に加え、空間光通信や光無線融合伝送など、光と無線の境界領域、さらには量子を扱う伝送技術にも積極的に取り組んでいます。加えて、これらの伝送技術のさらなる高付加価値化の研究開発も進めています。
未来研では、2023年3月にサービスが開始されたIOWNのさらなる高機能化・高付加価値化に向け、研究開発を推進しています。
直近の取り組みとしては、APN(All-Photonics Network)IOWN 1.0サービスにおいてレイヤ1ネットワークの通信遅延を自在に制御する装置「OTN Anywhere」の進化版として、マイクロ秒精度の遅延測定・調整機能を備え、HDMI/USBなどの汎用インタフェースに対応する「OTN Anywhere model-B」の要素技術を開発しました。大容量デジタルコヒーレント光伝送技術を用いたDSP(Digital Signal Processor)について、800G版の技術開発を完了し、実用化に向けて準備を進めています。1.6 T版については要素技術を確立し、本格的な技術開発を開始しました。光ネットワークデジタルツイン技術については、トランシーバおよび伝送路の品質推定技術を確立し、実用化に向けた技術開発を進めています。
次に、IOWNの大容量化・長距離化・カバレッジ拡張に向けた要素技術の研究開発について紹介します。海中音響通信技術では、より高品質な通信エリアを面的に海中へ提供するため、変復調信号処理技術やマルチサイト受信技術を確立し、さまざまなユースケースの実現に向けた研究開発に取り組んでいます。スケーラブル光トランスポート技術では、2つの方向性で研究開発を進めています。1つは空間多重光伝送で、1本の光ファイバの中に複数のコアを内包するマルチコアファイバを用いて、12コアによる3000km級の増幅中継伝送を実現しました。もう1つは超広帯域光増幅中継伝送で、従来の光通信波長帯のC帯/L帯を大幅に拡大し、S+C+L+U+X帯(X帯はNTTが命名)による長距離大容量通信の実証に成功しています。
最後に、将来に向けて新たな価値を創造する研究開発について紹介します。空間光通信技術では、大気擾乱の影響を受けやすい昼間の地表付近において、従来比10倍以上の擾乱耐性を持つ波面補償技術を実証しました。さらに、ユースケースの拡大をめざし、海上の船舶間(~10km)通信に向けた研究開発にも着手しています。量子通信技術では、光子検出の安定化や光子対配信に向けた同期制御技術を確立するとともに、量子もつれ実験用プラットフォームの構築に着手し、量子もつれ生成システムの実現に向けた研究開発を進めています。
以降では、未来研が取り組んでいる最先端技術について、フロンティアコミュニケーション技術、波動伝搬技術、トランスポートイノベーション技術の3つのカテゴリに分けて紹介します。

フロンティアコミュニケーション技術

フロンティアコミュニケーション技術の概略を図2に示します。AI基盤や光量子コンピュータにより超高速な計算を実現し、さらに光ネットワークデジタルツインや量子通信によって、これらのコンピューティングリソースを広域に接続・連携させます。これにより、素材開発や創薬、地球環境問題などの幅広い分野において、従来は現実的な時間内に計算不可能であった複雑な問題を短時間で処理することが可能となり、さまざまな社会課題の解決に貢献します。

■光ネットワークデジタルツイン技術

IOWN APNの性能を最大限に引き出すには、光伝送路の状態を正確に把握し、機器設定を自動最適化する技術が不可欠です。光ネットワークデジタルツインは、光伝搬の物理特性に基づき光ネットワークの設備を可視化し、実ネットワークの情報を仮想空間に高精度で再現します。この仮想空間でシミュレーション結果を活用し光ネットワークの設計・制御を行うことで、送受信機の伝送モード(変調方式、ボーレート、誤り訂正方式)や中継用光増幅器の増幅度を自動最適化できます。本技術により、人的作業を必要としない自律的な光ネットワーク運用が実現し、オンデマンドで高速かつ柔軟な拠点間光波長パスを提供可能となります。IOWN APNサービスの可能性を大きく拡張する光ネットワーク設計・制御技術です(1)

■AI基盤向け光インターコネクト技術

AIの学習・推論など大規模処理を支えるデータセンタインフラとして、AIクラスタネットワークの高速化・省電力化・大規模スケールアウトを可能とする光インターコネクト技術の研究開発を進めています。従来の電気スイッチベースのネットワーク構成では、拡張性や消費電力に制約があり、GPU基盤を複数利用者で効率的に使う「マルチテナント運用」にも課題がありました。本プロジェクトでは、OCS(Optical Circuit Switch)と呼ばれる光スイッチを活用し、テラビット級のAI基盤に対応した光インターコネクトを実現します。オンデマンドでのAIクラスタ提供とセキュアなマルチテナント運用を両立し、90%の省電力化とネットワーク規模の飛躍的拡大をめざします。

■光量子コンピュータ技術

光通信で培ったデバイス・制御・ソフトウェア技術を結集し、光量子コンピュータ(連続量方式)の研究を統合的に推進しています。光は室温・常圧で高速動作し、大規模な量子もつれ生成に適しており、時間多重によるスケーラブルな拡張が可能です。これにより、省エネルギー性と大規模化の両立が期待されます。これまでNTT研究所が長年研究開発を続けてきた世界最高水準の量子光源や、他方式における先行的な量子ソフトウェア研究を基盤とし、大規模汎用計算を可能とするFTQC(Fault-Tolerant Quantum Computer)の早期実現をめざします。さらに、産学連携やコミュニティ形成を通じてアプリケーション開発や標準化を推進し、パートナーとともにエコシステムを構築することで、量子技術の社会実装を加速します。これにより、新素材開発や創薬、地球環境など幅広い分野での社会課題解決に貢献します。

■量子通信技術

量子コンピュータ間で量子情報を伝送する量子通信技術の研究開発を進めています。特に、量子コンピュータにおいて重要な量子もつれリソースを、安定的に長距離・高速伝送するため、単一光子による量子もつれ配送システムを研究開発しています。本システム開発では、複数量子もつれを生成し、複数拠点へのリアルタイム配送を可能しています。また、単一光子の高速伝送に対応する量子測定装置も開発しました。さらに、2025年から新たに異種混合の量子コンピュータをオンデマンドに接続するため、多モードに対応した量子ノード構成技術の研究にも着手しています。今後、多数の量子コンピュータをネットワーク化し、計算能力を指数関数的に拡張できる量子ネットワーク基盤の実現をめざします。

波動伝搬技術

IOWN/6G時代の社会基盤となる無線価値創造に向け、波動伝搬技術に取り組んでいます(図3)。海中音響通信技術や超広域IoT(Internet of Things)無線技術、空間光通信技術では、陸上以外の海、宇宙、空といった通信エリアを究極まで拡大する超カバレッジ拡張をめざすとともに、波動制御大容量伝送技術や光無線融合伝送技術により、通信速度を飛躍的に向上する究極に速い高速大容量伝送にも取り組んでいます。さらには、無線環境を把握・予測することにより、通信エリアを最適制御し高品質・安定な無線伝送を可能とするユーザセントリック無線AI制御基盤技術にも近年新たに取り組んでいます。

■海中音響通信技術

これまで移動通信システムとして未踏領域であった海中への超カバレッジ拡張により、海底資源開発や港湾設備工事、海洋設備点検といった産業分野における通信を活用した業務効率化への期待が高まっています。1Mbit/s級の海中音響通信技術の実現によって世界初となる完全遠隔無線制御型水中ドローンを実験実証し、海底通信ケーブル保守業務への適用検討などを行ってきました。現在は産業分野の各種パートナーと連携し、さまざまな業務への適用・技術実証に取り組むとともに、水中音響測位や複数基地局の連携による広域通信ネットワークといった新たな技術開発にも取り組んでいます。

■超広域IoT無線技術

衛星専用の装置や周波数を用いずに、地上普及している一般的なLPWA(Low Power Wide Area)端末を用いて、IoTデータを収集する超広域IoT無線プラットフォームの基盤技術に取り組んでいます。山間部や海洋など、地上網ではカバーできない超カバレッジの通信プラットフォームにより、地球規模でのセンシング実現をめざしています。

■空間光通信技術

光ファイバの敷設が困難な場所や移動体に対して超高速無線回線の提供を可能とする新たな通信インフラ技術の確立をめざし、空間光通信技術の研究に取り組んでいます。大気伝搬に伴い発生する大気揺らぎに対し、波面補償技術による高効率ファイバカップリングにより、安定した超高速大容量伝送を実現し、将来的には災害時での迅速なネットワーク一時復旧などへも適用することをめざしています。

■波動制御大容量伝送技術

IOWN/6G時代のフロントホールやバックホール、無線アクセスにおけるテラビット級の無線伝送技術に取り組んでいます。近年では、OAM(Orbital Angular Momentum:軌道角運動量)多重伝送によりミリ波帯で世界最高速となる140Gbit/sのリアルタイム大容量無線伝送を実証しました(2)。マルチシェイプ無線では特徴的な電波の軌跡を持つエアリービームやベッセルビームを生成・組み合わせ制御することにより、自在な無線空間の形成を行い、干渉フリーで大容量な無線伝送の実現をめざしています。

■光無線融合伝送技術

IOWN/6Gにおける無線システムでは、ミリ波以上の高周波数帯の活用が期待されています。高周波数帯での伝搬損失を補うため、数千~数万素子の超大規模アレーアンテナを用いた無線ビームフォーミングが必要になると考えられています。これらに資する要素技術として光信号処理技術を用いて、複数信号を光波長上で多重して処理することで、超大規模アレーアンテナで複数ビームを同時生成する技術に取り組んでいます。

■ユーザセントリック無線AI制御基盤技術

高周波数帯の電波や音波、光を用いた無線通信では伝搬環境のわずかな変化が通信品質に影響を与えます。そこで、無線・物理空間等を組み合わせたマルチモーダルな無線環境情報を収集し、仮想空間上で分析・予測を行い、ユーザの求める未来の状態にもっとも近い未来環境を選択し、現実世界への制御としてフィードバックする技術に取り組んでいます。

トランスポートイノベーション技術

IOWN構想の基盤となるAPNのさらなる付加価値向上と大容量化をもたらすトランスポートイノベーション技術の研究開発に取り組んでいます(図4)。革新的な光ネットワークの実現に向けて、ネットワーキング技術と光伝送技術の両面において基盤研究から実用化開発まで幅広く展開しています。具体的には、①ユーザとオペレータに新たな価値をもたらすエクストリームレイヤ1ネットワーク技術、②光パスの大容量化かつ低電力化を実現する大容量デジタルコヒーレント光伝送技術、③将来の膨大な通信トラフィックを効率的に収容するスケーラブル光トランスポート基盤技術を重点テーマとして研究開発を推進しています。

■エクストリームレイヤ1ネットワーク技術(OTN Anywhere)

レイヤ1ネットワークにおいてユーザとオペレータに価値をもたらす要素技術を創出することで、APNサービスの高度化とユースケース拡大に貢献し、APNの広範な普及をめざしています。大容量・低遅延のレイヤ1通信パスに対して、新しい付加価値機能を実現してユーザエクスペリエンスに変革をもたらす技術として、ナノ秒精度でネットワーク遅延を測定・制御する遅延マネージド伝送システム(OTN Anywhere)、さまざまな通信規格が混在するネットワークにおいてもシームレスな通信パスの提供を可能とするヘテロジニアス光ネットワーク構成技術、サービスオーダに対してネットワークリソースの使用状況を踏まえて即座に通信パスを提供する即時的・機動的ネットワーク設計技術などの研究開発に取り組んでいます。

■大容量デジタルコヒーレント光伝送技術(コヒーレントDSP)

APN構築に必須となる光伝送技術の大容量化、低電力化、および長延化を実現する大容量デジタルコヒーレント光伝送技術を確立することをめざしています。大容量デジタルコヒーレント光伝送は従来の通信事業者向け長距離ネットワークだけでなく、データセンタインターコネクト(DCI)等の近距離ネットワークにも適用され、適用領域を急速に拡大しています。デジタル信号処理を駆使して、光ファイバ伝送路の状態をエンド・ツー・エンドでモニタして伝送方式・補償処理等を柔軟に変更することで、適応領域に応じた最適な光パスを実現する技術の研究開発に取り組んでいます(3)。また、大容量デジタルコヒーレント光伝送を実現するためのキーデバイスである1.6Tbit/s級光通信用デジタル信号処理回路(コヒーレントDSP)の開発も進めています。

■スケーラブル光トランスポート基盤技術

高速モバイルアクセスやAIサービスの普及などにより、今後も継続的に増加していく通信トラフィックを収容可能とし、伝送容量も拡張可能なスケーラブル光トランスポート基盤技術の確立をめざしています。また、ペタビット級の光ネットワークの実現に向けて、革新的な大容量光伝送技術、およびこれを可能とする光信号処理技術の開拓を推進しています。大容量光伝送技術としては、空間多重(コア多重・モード多重)技術などの研究開発に取り組んでおり、世界初12コア光ファイバによる7000km以上の長距離光伝送実験に成功しています(4)。また、光信号処理技術としては、広帯域パラメトリック光増幅中継による一括光増幅の帯域拡張や波長帯一括変換技術などの研究開発に取り組んでおり、波長帯一括変換技術を用いた世界最大27 THzの光帯域を利用した160Tbit/s、1000km以上の長距離光増幅中継伝送を実証しています(5)。これらの基盤技術を統合し、将来の超大容量光ネットワークの実現をめざしています。

おわりに

本稿では、未来研で取り組んでいるIOWN/6Gに向けた最先端技術に関する取り組みの概要を紹介しました。光・量子・電波・音波を用いて伝送技術や高付加価値化に取り組み、数年以内の実用化につながる差別化技術と、ゲームチェンジにつながる革新技術によって、事業会社の継続的なビジネス創出に貢献します。

■参考文献
(1) https://group.ntt/jp/newsrelease/2025/03/31/250331a.html
(2) https://group.ntt/jp/newsrelease/2025/03/24/250324a.html
(3) https://group.ntt/jp/newsrelease/2024/08/20/240820a.html
(4) https://group.ntt/jp/newsrelease/2024/03/21/240321a.html
(5) https://group.ntt/jp/newsrelease/2025/08/12/250812a.html

(上段左から)赤羽 和徳/水野 晃平/高杉 耕一
(下段左から)鈴木 賢司/木坂 由明

増加し続ける膨大な通信トラフィック需要にこたえるとともに新たな価値を提供するため、世界最高性能の大容量化とカバレッジ拡張を実現する革新的な光・無線伝送技術と、これらの通信性能を最大限に引き出す高付加価値化の研究開発に取り組んでいきます。

NTT未来ねっと研究所

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