2025年12月号
特集1
超長波長帯(X帯)の新規開拓による超広帯域大容量光増幅中継伝送技術
- 超広帯域波長多重伝送
- 光パラメトリック波長帯一括変換・光増幅
- 周期分極反転ニオブ酸リチウム導波路
デジタル信号処理技術の進展によって光ファイバ伝送システムの周波数利用効率は理論限界に近付いており、さらなる大容量化のためには波長多重を行う伝送帯域の広帯域化が重要です。本稿では、周期分極反転ニオブ酸リチウム(PPLN:Periodically Poled Lithium Niobate)導波路を増幅媒質とした光パラメトリック増幅器(OPA:Optical Parametric Amplifier)による超広帯域波長帯一括変換技術と、光ファイバ中の誘導ラマン散乱の有効利用によって実現した、新規超長波長帯(X帯)の開拓と、S+C+L+U+X帯を用いた27THzにわたる超広帯域・大容量伝送実験について解説します。
清水 新平(しみず しんぺい)†1/木村 光佑(きむら こうすけ)†1
川合 暁(かわい あきら)†1/阿部 真志(あべ まさし)†2
紺野 峻矢(こんの しゅんや)†2/風間 拓志(かざま たくし)†1、2
NTT未来ねっと研究所†1
NTT先端集積デバイス研究所†2
伝送帯域広帯域化の必要性
光ファイバ通信網は、インターネットなどを介しさまざまなデータがやり取りされる現代社会を支える通信インフラの根幹を担っています。基幹光通信網には、伝送チャネルごとに異なる波長を使用して多重化した波長分割多重(WDM:Wavelength-Division Multiplexing)信号を、エルビウム添加光ファイバ増幅器(EDFA:Erbium-Doped Fiber Amplifier)を用いて一定区間ごとに増幅しながら数100km以上にわたり光のまま伝送する光増幅中継伝送システムが導入されています。2010年代にはデジタルコヒーレント方式の導入による大幅な周波数利用効率の向上が実現され、現在では光ファイバ1本当り10Tbit/s級の伝送システムが実現されています(1)。
一方で近年では、高度な符号化技術や誤り訂正技術によって周波数利用効率は理論限界であるシャノン限界に漸近してきています。そこで、さらなる大容量化に向け、WDMを行う伝送帯域の拡張が重要となっています(2)。これまではEDFAの増幅帯域であるC帯やL帯と呼ばれる波長帯(バンド)内のそれぞれ4THz程度の帯域が利用されてきましたが、近年ではこの2つの波長帯を併用した10THz級の帯域のC+L帯マルチバンド伝送システムの開発も進められています(3)。また、研究レベルでは3バンド以上の波長帯を利用した検討が行われており、超広帯域(UWB:Ultra Wide Band)伝送と呼ばれています。図1は、光通信波長帯における、一般的な光ファイバの伝送損失スペクトルの測定例を表しています。C+L帯を最低損失帯として、短波長側は主にレイリー散乱の影響で、長波長側は石英系ファイバの吸収特性によって、損失が大きくなります。C帯の短波長側であるS帯はC+L帯に次ぐ低損失帯であり、第3の波長帯として有望視されています。さまざまな研究機関からS帯を用いたUWB伝送の報告がなされており、NTTでも18THz級S+C+L帯のUWB伝送によって、伝送容量100テラビット毎秒超の1000km伝送を実証しています(4)。一方で、UWB伝送システムの実現に向けた課題として、新規波長帯に対応した伝送装置(送受信機や光増幅器など)を新たに開発する必要がある点が挙げられます。特に、L帯より長波長帯であるU帯では、高品質なコヒーレント伝送を実現するための狭線幅なレーザや高速な受光器、EDFAのような希土類イオン添加型の光増幅器の実現が難しいという課題があります。
そこで私たちは、これまでNTTで20年以上にわたり研究開発を進めてきた周期分極反転ニオブ酸リチウム(PPLN:Periodically Poled Lithium Niobate)導波路デバイス(5)(6)*1を用いた光パラメトリック増幅器(OPA:Optical Parametric Amplifier)の適用による伝送帯域拡張技術の検討を行っています。PPLN型OPAは広帯域な増幅帯域を持つことに加え、増幅に伴って入力信号光とは異なる波長に発生するアイドラ光と呼ばれる成分を用いることで、全光学的な波長帯一括変換を行うことができます。この波長帯一括変換機能により新規波長帯(S帯やU帯)と既存の波長帯(C帯またはL帯)との間を高効率に相互一括変換・光増幅することで、既存の伝送装置を新規波長帯のWDM信号にも適用できるようになります(7)(8)。私たちは、この方式を利用して新規波長帯の信号にも既存のEDFAを適用する増幅中継器構成を検討しており、この構成をOPA/EDFAハイブリッド増幅中継器と呼んでいます。これまで、S帯用、U帯用のOPA/EDFAハイブリッド増幅中継器を開発し、S+C+L+U帯を用いた伝送帯域22 THzの超広帯域WDM信号の1000km増幅中継伝送を実証しています(9)。
今回、新たにU帯のさらに長波長側の波長帯に対応したOPA/EDFAハイブリッド増幅中継器を開発し、長距離伝送実験に適用しました。図1中の各波長帯の定義は電気通信標準化団体であるITU-T(International Telecommunication Union-Telecommunication Standardization Sector)にて定義されているものですが、長波長帯はU帯までしか定義されていませんでした。NTTでは、今回使用した1702nmまでの波長帯を新たにX帯と定義し、信号伝送に利用することを提案しました(10)。
*1 周期分極反転ニオブ酸リチウム:二次非線形光学媒質の1つ。効率良く非線形過程が発生するように、媒質の伝搬方向に非線形感受率の符号が反転した領域を周期的に形成し、疑似的な位相整合を実現する構造となっています。

OPA/EDFAハイブリッド増幅中継器
図2は今回開発したOPA/EDFAハイブリッド増幅中継器の構成図です。S+C+L+U+X帯のWDM信号が入力されると、WDMカプラによってそれぞれの波長帯に分割されます。その後、C帯およびL帯信号はEDFAを用いて従来どおり増幅されます。S帯信号とU+X帯信号は、それぞれの帯域とC+L帯との間に縮退周波数*2を持つように設計された各OPAによってC+L帯に変換されます(11)(12)。その後、C帯とL帯に分割され、それぞれC帯用とL帯用のEDFAで増幅されます。ここでは、波長変換によりL帯から拡張された短波長および長波長の帯域をそれぞれS−帯とU帯、C帯から拡張された帯域をS+帯とX帯としています。増幅後は、後段のOPAでS帯、またはU+X帯に再変換し、すべての波長帯の信号をWDMカプラで再び合波し、次のスパンへ送信します。この構成によって、既存のEDFAを活用して増幅中継帯域の新規波長帯への広帯域化を実現できます。
OPAに求められる要件として、S帯全域およびU+X帯をカバーする8THzを超える広い波長帯一括変換帯域が必要になります。また、広帯域なWDM信号の伝送品質を十分に得るためには、中継器全体の雑音指数を低く抑えるとともに、多くの波長チャネルを十分な光パワーで送信するために出力を大きくすることが重要となります。光パラメトリック増幅は高非線形媒体中の非線形光学効果を利用した現象であり、媒体として高非線形光ファイバを用いた3次非線形光学効果を利用した構成が代表的ですが、PPLN導波路を用いた2次非線形光学効果による構成では、信号間の不要な相互作用による信号劣化が少ないという特徴があります。この特徴により、広帯域な波長帯変換と20dBm以上の高い光出力を両立することができるため、増幅中継器への応用に適しています。本実験で使用した各PPLN型OPAの波長帯一括変換効率スペクトルを図3に示します。ほとんどの波長で正の変換効率を実現できていることが分かります。変換効率が正であるということは、波長帯変換に伴って増幅利得も得ているということを意味します。また、増幅中継器の雑音指数を低く抑えるには入力側の波長帯変換の効率が特に重要になりますが、各入力OPAは8THz以上の広帯域にわたって高い変換効率を実現できています。図4に増幅中継器の雑音指数を測定した結果を示します。NTTのPPLN導波路モジュールの低雑音性と高い変換効率によって、波長帯変換を介して増幅したS帯、U帯、X帯でも、C+L帯と同程度の低雑音な増幅中継が実現できることが分かります。
*2 縮退周波数:非線形光学媒質の位相整合特性とポンプ光周波数によって決まる周波数。二次非線形光学効果による光パラメトリック増幅過程においてはポンプ光の半分の周波数になります。この周波数を境にして対称な周波数に波長変換光(アイドラ光)が発生します。



チャネル間誘導ラマン散乱を活用した1040km 27THz増幅中継伝送実験
広帯域なWDM伝送を行う際の課題の1つとして、チャネル間誘導ラマン散乱 (ISRS:Inter-channel Stimulated Raman Scattering)という現象があります。この現象は、光ファイバを伝送中に短波長のチャネルから長波長のチャネルへ光パワーが遷移するもので、これにより、光ファイバの伝送損失スペクトルは光ファイバ固有の損失と比べ長波長側にシフトします。この現象は、光ファイバに入力されるWDM信号の帯域幅や各チャネルの送信パワーによって変化するため、伝送設計を複雑にします。一方で本実験では、このISRSを積極的に利用することでX帯までを利用した高速信号伝送を実現しています。従来の光通信波長帯は、石英系光ファイバの損失スペクトルを基に定義されています。U帯は通常、低損失に利用できる最長波帯であり、1675 nmより長い波長はファイバ伝送には適さないと考えられていたため、光通信波長帯としては定義されていませんでした。今回、マルチバンド伝送時のISRSを考慮すると、1700 nm付近の波長の伝送損失がS帯と同程度となることに着目し、従来の光通信波長帯の定義を超えたX帯の利用を提案しました。
図5に、本実験で使用したWDM信号のファイバ伝送路への入出力スペクトルと伝送損失を示します。伝送路として陸上基幹伝送網で標準的に利用されている増幅中継間隔に相当する80kmの標準シングルモードファイバを使用しました。各波長帯の帯域は、波長多重間隔150GHzを想定し、S帯は54波長8.1THz、C帯は30波長4.5THz、L帯は40波長6.0 THz、U帯は28波長4.2THz、X帯は28波長4.2THzであり、総伝送帯域は180波長27THzでした。
光ファイバ伝送における信号品質は、増幅中継器で発生する雑音と、光ファイバに入力するパワーに応じて増加する非線形歪みとのバランスによって決まります。そのため、より良い伝送性能を得るためには、波長帯ごとの光パワーやスペクトル上の傾きなどの、WDM信号の送信条件を最適化する必要があります。しかしながら、この送信条件を実験的に最適化することは、信号が広帯域になりISRSの影響が大きくなるほど膨大な数の測定を要するため、困難になります。そこで、このような石英系光ファイバのラマンシフト周波数(約13 THz)をはるかに超える超広帯域WDM伝送の送信条件を最適化するための方法として、非線形歪みの影響を含めた信号品質を高速にシミュレーションできるガウス雑音モデルの広帯域化の検討が活発化しています。本実験でも、ISRSを考慮した広帯域ガウス雑音モデルに基づいて、総伝送容量が最大となるように送信条件の最適化を行いました(13)(14)。送信条件を最適化したWDM信号を伝送することにより、ISRSによって最低損失帯はL帯とU帯の境界付近へシフトしました。また、光スペクトルの両端における伝送損失は同程度となっており、ISRSを利用することでX帯へ低損失帯を拡張できることが確認できました。このときの総送信パワーは26.5dBm(約450mW)でした。
前述のOPA/EDFAハイブリッド増幅中継器を適用した中継間隔80kmの周回伝送系*3によって、27THz WDM信号の長距離増幅中継伝送を実施しました。テスト信号として、144 Gbaudの確率的コンスタレーション整形(PCS:Probabilistic Constellation Shaping)直交振幅変調(QAM:Quadrature Amplitude Modulation)信号を使用しました。図6は560km、1040km伝送後の全180チャネルのネットビットレート*4の測定結果です。すべてのチャネルの合計で、560km伝送後において189.5テラビット毎秒、1040km伝送後において160.2テラビット毎秒の伝送容量を達成しました。また、X帯でもテラビット毎秒級の高速信号伝送が実現できており、X帯の利用の有効性を示すことができました。
図7に増幅中継間隔80km以上のUWB伝送の実証例を伝送容量と伝送距離の観点でまとめました。本実験の結果は、500km以上、1000km以上の長距離伝送において、最大の伝送容量を記録しました。UWB伝送では、ISRSによって過剰な損失を受ける短波長帯の伝送品質を改善するために分布ラマン増幅*5が適用される場合が多いですが、本実験では、WDM信号内のISRSを効果的に設計することで、集中増幅だけで大容量かつ長距離の伝送を実現できていることも特徴的な点です。また、27THzの伝送帯域は、これらの増幅中継伝送実験において最大の伝送帯域となっています。
*3 周回伝送系:光増幅器や伝送路ファイバをループ状に接続し、光スイッチで光信号の入出力タイミングをコントロールすることで、少ない機材で長距離の光増幅中継伝送を試験できる実験方式。
*4 ネットビットレート:エラーフリー復調を実現するための誤り訂正用の冗長ビットなどを差し引いた正味のビットレート。
*5 分布ラマン増幅:光ファイバ伝送路中にWDM信号とは別にポンプ光を入力することで、ポンプ光からの誘導ラマン散乱によって光ファイバを伝送中にWDM信号を増幅する手法。実質的に光ファイバの伝送損失を減らすことができるため効果的に伝送品質を向上することができますが、サブワット級の光パワーのポンプ光を伝送ファイバに入力する必要があります。



まとめ
本実験では、従来の4 THzの伝送帯域の6倍超となる27THzの伝送帯域による大容量長距離伝送を実証しました。本技術を用いることで、既設ファイバインフラを活用した基幹光伝送網のさらなる大容量化を実現することができます。
本研究成果の一部は、国立研究開発法人情報通信研究機構(NICT)の委託研究(JPJ012368C04501)および助成事業(JPJ012368G60101)により得られたものです。
■参考文献
(1) https://journal.ntt.co.jp/article/14780
(2) Y. Miyamoto et al.: “Wideband PPLN-based optical parametric amplifiers for scalable optical transport network,” Proc. of OFC 2021, paper M5B.2, 2021.
(3) https://journal.ntt.co.jp/article/20087
(4) F. Hamaoka et al.: “Long-Haul >100-Tb/s Transmission Over >1000 km With High-Symbol-Rate Triple-Band WDM Signals,” J. Lightw. Technol., Vol. 43, No. 4, pp. 1987–1994, 2025.
(5) T. Umeki, O. Tadanaga, A. Takada, and M. Asobe :“Phase sensitive degenerate parametric amplification using directly-bonded PPLN ridge waveguides,” Opt. Express, Vol.19, No.7, pp.6326-6332, 2011.
(6) T. Kazama et al.:“Over-30-dB Gain and 1-dB Noise Figure Phase-Sensitive Amplification Using Pump-Combiner-Integrated Fiber I/O PPLN Module,” Opt. Express, Vol. 29, No. 18, pp. 28824–28834, 2021.
(7) T. Hoshida et al.: “Ultrawideband Systems and Networks: Beyond C+L-Band,” Proc. IEEE, Vol. 110, No. 11, pp. 1725–1741, 2022.
(8) T. Kobayashi et al.: “C+L+U-Band 14.85-THz WDM Transmission Over 80-km-Span G.654.E Fiber with Hybrid PPLN-OPA/EDFA U-Band Lumped Repeater Using 144-Gbaud PCS-QAM Signals,” Proc. of OFC 2024, paper Th4A.1, 2024.
(9) S. Shimizu et al.:“133-Tbps 1040-km (13×80 km) Lumped-Amplified Transmission Over 22 THz in S-to-U-Band Using Hybrid Multiband Repeater with PPLN-Based Optical Parametric Amplifiers and EDFAs,” Proc. of ECOC 2024, paper Th3B.2, 2024.
(10) S. Shimizu et al.:“27-THz ISRS-Supported Transmission Over 1040 km in S+C+L+U and Extreme Longer-Wavelength Band,” Proc. of OFC 2025, paper Th4A.2, 2025.
(11) M. Abe et al.: “Periodically Poled Lithium-niobate-based Wavelength Converters for Waveband Extension to U-band and Beyond,” J. Lightw. Technol., Vol. 43, No. 13, pp. 6335–6341, July 2025.
(12) S. Konno et al.:“9-THz Wideband PPLN-Based Wavelength Converter for Simultaneous Conversion of C+L-Band WDM Signal to Full S-Band,” Proc. of OFC 2025, paper W1I.2, 2025.
(13) P. Poggiolini and M. R.-Zefreh:“Closed Form Expressions of the Nonlinear Interference for UWB Systems,” Proc. of ECOC 2022, paper Tu1D.1, 2022.
(14) K. Kimura et al.:“100-Tb/s-Class C+L+U-Band NZ-DSF Transmission with Closed-Form-GN-Model-Based Launch Power Optimization,” J. Lightw. Technol., Vol. 43, No. 13, pp. 6313–6325, July 2025.

(上段左から)清水 新平/木村 光佑/川合 暁
(下段左から)阿部 真志/紺野 峻矢/風間 拓志

IOWN/6Gにおけるオールフォトニクス・ネットワークの進化に向けて、独自のデバイス技術と光伝送技術の融合を深化させ、研究開発を進めていきます。