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Beyond 100G オプティカルクロスコネクト(B100G-OXC)システムの実用化

NTTネットワークサービスシステム研究所では、5G(第5世代移動通信システム)やIoT(Internet of Things)、クラウドサービス等の普及により急激なトラフィック増加が見込まれるNTTグループの中継ネットワークの大容量化を経済的に実現するため、1波長当り100 Gbit/s超の光伝送を可能とする「Beyond 100Gオプティカルクロスコネクト(B100G-OXC)システム」を開発しました。ここでは本システムの概要と特長について紹介します。

川崎 岳(かわさき たけし)/関 剛志(せき たけし)
伊藤 健(いとう けん)/菅野 康隆(すがの やすたか)
伊達 拓紀(だて ひろき)/河原 光貴※(かわはら ひろき)
前田 英樹(まえだ ひでき)

NTTネットワークサービスシステム研究所
※現、NTTコミュニケーションズ

中継ネットワークの大容量化

NTTでは増え続ける中継トラフィックの増大に対し、効率的かつ経済的な光伝送網を構築するため、光伝送システムの大容量化に取り組んできました(図1)。現在導入済みの光伝送システムではデジタルコヒーレント技術*1を用いて1波長当り100 Gbit/sの波長信号を最大80波長多重することで最大8 Tbit/sの伝送容量を実現しておりますが、さらなる大容量化に対応するため、信号速度の高速化により大容量化を図った「Beyond 100G光クロスコネクト(OXC: Optical Cross Connect)システム(B100G-OXC)」を開発しました。

*1 デジタルコヒーレント技術:光を波として扱うコヒーレント技術において、コヒーレント検波による受信感度と周波数利用効率を向上するとともに、超高速デジタル信号処理により光ファイバ伝送時に生じる波形歪を補償する技術。

B100G-OXCの技術的特長

B100G-OXCのシステム構成を図2に示します。B100G-OXCは、1本の光ファイバに複数の波長信号を多重する「超高密度波長多重技術(DWDM: Dense Wave-Division-Multiplexing)」およびデジタルコヒーレント技術をベースとした光伝送システムです。また、最大8つの伝送路に対して任意の光パスの挿入(Add)、分離(Drop)、通過(Through)が設定可能な光クロスコネクト部を有していることから光クロスコネクト(OXC: Optical Cross Connect)、あるいはROADM(Reconfigurable Optical Add-Drop Multiplexer)と呼ばれます。B100G-OXCの主な特長としては、①400 Gbit/sマルチチャネル光伝送、②100 Gbit/s伝送距離長延化、③低損失の長距離伝送用光ファイバへの対応、④400GbEクライアントIF(インタフェース)収容、にあります。

■400 Gbit/sマルチチャネル光伝送

光伝送システムの大容量化を図る手段としては大きく、多重する波長数を増大させるか、波長当りの光信号の伝送速度を上げる方法があります。さらに、光信号を高速化する方法としては大きく以下の3つが挙げられます(1)。
① 変調速度の高速化
② 多値変復調方式による多値度の向上
③ マルチチャネル光伝送
B100G-OXCでは上記②の手法により、変復調方式を従来の100Gbit/s光伝送システムで用いられていたDP-QPSK(Dual Polarization-Quadrature Phase Shift Keying)からDP-16QAM(Dual Polarization-16 Quadrature Amplitude Modulation)へと変更することにより、変調速度(Baudrate:ボーレート)は従来と同じ32Gbaudとしながらも1波長当りの伝送速度としては従来の2倍となる200Gbit/sに高速化しました(表1)。さらに、上記③の方法により200Gbit/sの光信号を2チャネル用いることで、データの伝送速度としては400Gbit/sを実現し、伝送距離として最大500kmの無中継光伝送を実現しました。

■100 Gbit/s伝送距離の長延化

中継伝送網においては、大容量化と同様、伝送距離の長延化もネットワークを経済的に構築する観点で重要となります。一般的には高速化(大容量化)と伝送距離との間にはトレードオフの関係があり、変復調方式の多値度を上げると高速化が図れる反面、伝送距離が制限されます。B100G-OXCではDP-QPSKを用いることで伝送速度としては従来と同じ100Gbit/sを維持するかたちで、従来の約2倍となる約1000kmの無中継光伝送を実現しました。さらに、B100G-OXCでは同一のトランスポンダでDP-QPSKとDP-16QAMそれぞれの変復調方式・伝送速度をソフトウェア上で設定変更できるようにすることで、伝送距離に応じて最適な変復調方式を柔軟に選択することが可能となっております。

■低損失の長距離伝送用光ファイバへの対応

B100G-OXCでは伝送路として、シングルモードファイバ(Single Mode Fiber: SMF)(国際標準規格ITU-T G.652に準拠)や分散シフトファイバ(Dispersion Shifted Fiber: DSF)(ITU-T G.653準拠)に加え、近年長距離伝送用にさらなる低損失化が図られた光ファイバである、カットオフ*3シフトファイバ(Cutoff Shifted Fiber: CSF)(ITU-T G.654.E準拠)にも対応することで、400Gbit/sマルチチャネル光伝送での500km無中継光伝送実現に寄与しました。CSFはSMFやDSFに比べ、さらなる低損失化を図るとともに、光ファイバのコア径拡大により実効断面積*2を大きく確保することで、光ファイバ内での伝搬中に発生する非線形光学効果による信号品質劣化を抑えることが可能となり、結果として伝送距離の長延化が可能となります。表2にSMF、DSF、CSFそれぞれの光ファイバの一般的な光学特性を示します(2)。また、B100G-OXCでは伝送距離長延化に有用な技術として高出力分布ラマン増幅を実現しました(図3)。分布ラマン増幅とは光ファイバそのものを増幅媒体として光信号を増幅する技術ですが、利得特性は光ファイバの特性に大きく依存します。コア径の比較的大きなカットオフシフトファイバでは他の光ファイバに比べて分布ラマン増幅による利得が得られにくいことから、B100G-OXCでは最新の低損失光ファイバにおいても十分な利得が得られるよう分布ラマン増幅の高利得化を実現しました。さらに、分布ラマン増幅では数100mW級の非常に高出力の励起光源を用いる必要があることから、長期的な運用を見越した安全設計が重要となります。B100G-OXCでは光ファイバ通信システムの安全性に関する国際標準規格であるIEC60825-2に完全に準拠するかたちで安全性を担保しつつ、伝送性能を最大限引き出すため高出力分布ラマン増幅の最適な励起光条件を設定しました。

*2 実効断面積(Effective Area):ファイバのコアに閉じ込められた光のパワー分布の広がりを示す指標。この指標が大きいほど光のパワー密度が低減されるため、非線形光学現象の発生が抑制されます。
*3 カットオフ波長:光ファイバ伝送中の光が基本モードのみが伝搬できる最小の波長のこと。伝送波長がカットオフ波長よりも短くなる場合、基本モード以外のマルチモードで伝搬する可能性があります。

■400GbEクライアントIF収容

B100G-OXCでは400Gbit/sマルチチャネル光伝送と合わせ、400GbE(400ギガビットイーサネット)*4クライアントIFの収容を実現し、最新の大規模ルータやL2スイッチとの接続が可能となりました。400GbEはすでに標準化が完了しており、現在はデータセンタを中心に利用が急速に拡大しております。B100G-OXCにおいては、図4に示すように、送受信機であるトランスポンダ内部のフレーマ・信号処理部において、受信した400GbE信号をOTN信号であるOTUC4フレームから100Gbit/s単位のOTUCフレーム4個にそれぞれマッピングします。OTUCフレーム2個ずつをそれぞれの200Gbit/s光信号に乗せ換えることで、400GbEデータを伝送します(3)。

*4 400GbE:国際標準規格IEEE 802.3bsで規定される高速イーサネットクライアントインタフェースの最新規格。データ転送速度は100GbE(IEEE 802.3ba準拠)の4倍となる400Gbit/sになります。

今後の展開

B100G-OXCは中継伝送網の経済化に対応するべく大容量化と伝送距離の長延化を実現しました。現在NTTではIOWN(Innovative Optical and Wireless Network)構想の実現に向けた革新的な光伝送基盤としてオールフォトニクス・ネットワーク(APN)の研究開発を進めています(4)。APNの実現に向け今後は1波長当りの信号速度を400Gbit/sさらには1Tbit/sへ高速化をめざす一方、伝送波長帯域を拡張するためのマルチバンド伝送(5)や、マルチコアファイバなどの空間多重技術(6)を用いることにより、伝送容量の飛躍的な拡大ならびに光伝送システムの高度化に向けて研究開発を進めていきます。

 

■参考文献:
(1) H.Maeda,K.Saito,T.Kotanigawa,S.Yamamoto,F.Hamaoka,M.Yoshida,M.Suzuki,and T.Seki:“Field Trial of 400 Gbps Transmission Using Advanced Digital Coherent Technologies,”IEEE J.LightwaveTechnol.,Vol.35,No.12,pp.2494-2499,June 2017.
(2) 菊池:“光情報ネットワーク,”オーム社,2002.
(3) 新宅・小林:“光伝送網の多重収容技術に関する標準化動向,”NTT技術ジャーナル,Vol.32,No.10,pp.102-106,2016.
(4) 伊藤:“IOWN構想に基づくオールフォトニクス・ネットワーク関連技術の取り組み,”NTT技術ジャーナル,Vol.32, No.3,pp.10-11,2020.
(5) 関・河原・宮村・前田・原・金子・可児:“オールフォトニクスネットワークの実現に向けた伝送技術の進展,”信学誌,Vol.104,No.5,pp.463-469,2021.
(6) 坂本・森・松井・山本・中島:“空間チャネルを活用した新たな光ファイバ基盤技術,”NTT技術ジャーナル,Vol.29,No.3,pp.28-32,2017.

(上段左から)川崎 岳/関 剛志/伊藤 健/菅野 康隆
(下段左から)伊達 拓紀/河原 光貴/前田 英樹

光伝送システムのさらなる経済化と高機能化に向け新技術の研究開発を今後も進めていきます。

問い合わせ先

NTTネットワークサービスシステム研究所
ネットワーク伝送基盤プロジェクト 高速リンクシステムグループ
TEL 0422-59-3609
E-mail takeshi.kawasaki.pb@hco.ntt.co.jp