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IOWN構想特集 ─オールフォトニクス・ネットワーク─

IOWN構想に基づくオールフォトニクス・ネットワーク関連技術の取り組み

社会のデジタル化の急速な進展に伴い、近い将来さまざまな課題が顕在化してくることが想定されます。その中で、NTTはIOWN(Innovative Optical and Wireless Network)構想を提唱し、パートナーの方々とともに新たなイノベーションを起こすべく多様な研究開発を進めています。本稿では、IOWN構想の3つの構成要素のうち、オールフォトニクス・ネットワークについて、その実現に向けて取り組んでいる関連技術を紹介します。

伊藤 新(いとう あらた)

NTT情報ネットワーク総合研究所 所長

はじめに

この十数年の間、インターネットの進展やスマートフォンの普及などが社会のあり方を大きく変え、いまや私たちが生活していくうえで必須の存在となっています。インターネットを利用することで生活環境は劇的に変化し、スマートフォン上で展開されるさまざまなサービスにより、プライベートだけでなくビジネスシーンを含めて私たちの生活や働き方は日々進化しています。またIoT(Internet of Things)の進展により、インターネットに接続される各種デバイスは爆発的に増えており、それに伴いインターネット上を流れるデータ量も急激に増加しています。これらに起因して、既存の情報通信システムの伝送能力と処理能力双方の限界や、IT関連機器のエネルギー消費量の増大などが大きな課題となりつつあります。さらに近年、情報処理産業の発展を支えてきたムーアの法則について今後の持続性に関する懸念が指摘されています。ムーアの法則は、「同じ面積当りの集積回路上のトランジスタ数は18カ月ごとに倍になる」というものですが、既存のトランジスタサイズは数 nm(ナノメートル)単位まで微細化が進んでおり、発熱の問題や製造上の物理限界が近づいています。

What's IOWN

このような中、NTTではこれまでの情報通信システムを変革し、従来技術の限界および消費電力の壁を超えてネットワークの大幅なポテンシャル向上をもたらす革新的な情報処理基盤の実現をめざすIOWN(Innovative Optical and Wireless Network)構想(1)を提唱し、さまざまなパートナーとともに活動を開始しています(2)。「エレクトロニクスからフォトニクスへ」そして結果としてもたらされる「デジタルからナチュラルへ」という2つの大きな変革により、環境に優しい持続的な成長、究極の安心・安全の提供、多様性に富んだ個と全体の最適化をめざしています。
IOWNは、①オールフォトニクス・ネットワーク(APN: All Photonics Network)、②コグニティブ・ファウンデーション(CF: Cognitive Foundation)、 ③デジタルツインコンピューティング(DTC: Digital Twin Computing)の3つの要素で構成されます。本特集ではそのうち、情報処理基盤のポテンシャルを大幅に向上させる基本的な要素であるAPNにおけるネットワーク関連技術について主な取り組みを紹介します。

What's APN

APNは、ネットワークに接続されるあらゆるデバイスを対象として、すべての情報伝送と中継処理をフォトニクスベースへ転換することで光の広帯域性・柔軟性を十分に活用し、端末・ユーザ・サービスごとに、多地点間にフルメッシュ接続された光パスを波長単位で提供するネットワークです。現在の通信システムでは、網内において複数回の光信号と電気信号の変換が必要ですが、APNでは電気信号を用いることなく光信号だけで通信を確立することを最終的なターゲットとしています。
APNでは情報ごとに異なる波長を割り当てることから、例えば8K120Pのような高精細なコンテンツを大量に送りながら、自動運転や遠隔手術などミッションクリティカルな通信を同時かつ超低遅延に提供することが可能となります。ベストエフォートのインターネット回線で提供されるサービスとは異なり、IOWNでは大容量かつ帯域保証された超低遅延サービスの提供が実現されます。
APNを構成する基本機能は4つに整理されます(図)。第1は、エンド・ツー・エンドで高速・高品質のデータ転送を行うための光フルメッシュネットワークおよび無線アクセスネットワークを実現する「ネットワークトランスポート構成機能」です。第2は、それらのネットワークを構築・運用する際に必要となる膨大な数の波長や周波数を効率的に収容するための「ネットワーク設計・制御機能」です。そして第3は、ネットワークリソースやコンピューティングリソースなどのICTリソースを最適に組み合わせ、さまざまなサービス要件を満たす専用環境を提供する「機能別ネットワーク機能」です。
また、上記機能を実現する装置・端末を構成するための核となる技術として、データ量あたりの低消費電力化・低遅延化を実現する光電融合デバイスをはじめとする「端末技術」が必須となります。

図 APNを構成する基本機能

APN実現に向けたネットワーク関連技術

APN実現のために、現在NTTではさまざまな研究開発を行っています。本特集では、 その中でキー技術となる特徴的な4つのトピックスについて取り組みを紹介します。
新たな光伝送基盤に関する取り組みとして、波長分割多重と空間分割多重を組み合わせることでバックボーンネットワークの大容量化をめざす最先端デバイス・部材に関する超大容量光通信技術(トピック1)を取り上げます。ネットワークトランスポート構成機能に関連する取り組みとしては、無線部分の大容量化や無線エリア展開の自由度向上に向けた検討(トピック2)、およびトランスポート機能の大容量化や低遅延化を実現する光フルメッシュネットワーク構成技術(トピック3)を紹介します。最後に、ネットワーク設計・制御機能に関連する取り組みとして、大量の光パスをAPNに効率的に収容するためのネットワーク設計技術の検討(トピック4)を紹介します。

■参考文献
(1) https://www.ntt.co.jp/news2019/1905/190509b.html
(2) https://www.ntt.co.jp/news2019/1910/191031a.html
(3) 伊藤:“NTT R&Dフォーラム2019特別セッション 2030(Beyond2020)を見据えた革新的ネットワーク,”NTT技術ジャーナル,Vol.32,No.1,pp.22-25,2020.

伊藤 新

従来技術の限界や消費電力の壁を超えた革新的な情報処理基盤をめざしたIOWN構想、その構成要素であるオールフォトニクス・ネットワークの実現に向けた取り組みを鋭意進めていきます。

問い合わせ先

NTT情報ネットワーク総合研究所
企画部
TEL 0422-59-2033
FAX 0422-59-5600
E-mail injousen-pb@hco.ntt.co.jp