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2026年5月号

特集

NTT技術史料館25周年記念──過去と未来をつなぐ知の架け橋

初めての電報機械「ブレゲー指字電信機」の仕組みと動作

NTT技術史料館では、OB運営サポーターを中心に実物史料の復元・修理や、史料の動作原理が分かるような動作模型を作製するなど、通信の仕組みを分かりやすく説明・展示する活動を行っています。その取り組みの1つとして、史料館でもレプリカを常設展示しており、日本で最初の電報サービス開始時に使用されたフランス製ブレゲー指字電信機の動作模型を作製しました。本稿では、その仕組みや模型の設計・作製・実験の内容を紹介します。

赤池 武志(あかいけ たけし)†1/寺脇 元二(てらわき げんじ)†1
横瀬 史拓(よこせ ふみひろ)†2
NTT技術史料館(OB運営サポーター)†1
NTT技術史料館(NTT情報ネットワーク総合研究所)†2

はじめに

NTT技術史料館ではブレゲー指字電信機のレプリカ(写真1)を常設展示していますが、ケースに覆われていて残念ながら動くところを見ることはできません。そこで、説明員が実感を基に説明できるよう、OB運営サポーターが実際に動作する模型を作製しました(写真2)。現物を分解調査することができないため、レプリカの外観と断片的な情報を基に再現を試みました。完全に再現し得たかどうかは確認できませんが、19世紀、電気通信黎明期の技術者たちの創意工夫を感じることができました。
本稿ではブレゲー指字電信機の概要と再現した模型の仕様を紹介します。

ブレゲー指字電信機の概要

■歴史

ブレゲー指字電信機は、フランスのブレゲー社から輸入して明治2年(1869年)に日本で最初の電報サービス開始時に使われた機械です。「ブレゲー」の名前は高級時計の世界で有名ですが、まさにその時計メーカのブレゲー社により製造されました。改めてレプリカを眺めると、特徴的な円盤や、受信機の外観などは時計との類似性をうかがわせます。ブレゲー社は、現在はスイスに本社を置いていますが、1775年にスイス人時計職人アブラアン・ルイ・ブレゲーによりフランス・パリで創業されました(1)
18世紀末のフランスは通信の技術開発が活発に行われており、その当時はフランス人発明家クロード・シャップによる「腕木通信」と呼ばれる通信システムが実用化されていました(2)。腕木通信とは、木製の長い回転棒の両端に短い棒(腕)が付いた装置を塔などの上に設けて、その装置の形状で符号を伝える仕組みです。受け取る側は望遠鏡で符号を読み取ります。この拠点を各地につくることで、バケツリレー式に遠隔地まで文章を伝えることができました。なお、現在の英語の“telegraph”は、当時の腕木通信の名称に由来します。この腕木通信にもアブラアン・ルイ・ブレゲーがかかわっており、塔の中のオペレータがミニチュアの腕木の形状を変えると、それに連動して塔の上の装置本体の形状が変わる制御機構を製作しています。
19世紀初めごろにボルタ電池が発明され、電気を使った通信のアイデアも検討されるようになります。腕木通信が存在していましたので、当然のように電気でいかに文字を伝えるかという発想で研究開発が行われました。ボルタ電池に引き続き検流計や電磁石も発明され、米国でこれらの技術を応用してサミュエル・F・B・モールスによって「トン(・)、ツー(−)」のモールス符号による電信装置が発明されます。モールスの初期の電信装置では、電流のオン・オフで情報を伝え、受信側ではペンを上下させるなどして紙に符号を記録していました。モールス以外の発明者により複数の信号線を使う別の電信機も開発されましたが、アースを使えば1本の信号線だけで効率良く文字を送れるモールス信号が世界中に普及したのはご存じのとおりです。
一方フランスでは、アブラアン・ルイの孫であるルイ・クレマン・ブレゲーが1833年からブレゲー社の経営を引き継ぎ、電気通信分野に情熱を注ぎました。フランスでも電気通信の導入が検討されていましたが、モールス信号では読み書きのできないオペレータがモールス符号を習得するのは困難と考えられ、腕木通信の電気化が試みられ、複数の信号線を使い腕木と似た形状で符号化した文字を伝える指針電信機が開発されました。その後に、本稿で取り上げている1本の信号線で文字を送れるブレゲー指字電信機も開発されました。

■特徴

ブレゲー指字電信機は、送信機のハンドルを回して目的の文字まで動かすと、離れた場所の受信機の針が同じところまで動き、送った文字を指し示します。
「信号パターンを翻訳するのではなく、文字を直接指し示すので初心者でも使いやすい」、「文字盤には空白の行があり、自分の国の言葉を入れて使うことができる」という特徴があり、実際に日本では「イロハ」を書き込んで使用していました。しかし使ってみると、「1分間に4〜5文字しか通信できない」「受信側では針から目が離せない」という難点があり、電報のために日本で最初に導入されたブレゲー指字電信機はモールス信号に置き換わっていきました。
現代の私たちにとっては電話やインターネットを介したテキストメッセージは当たり前のものですが、日本で最初の電報サービスが開始された当時はまだ電話は存在しておらず、文字を送るだけでもさまざまな仕組みがあったことが分かります。そして、一見すればモールス信号よりも高度で便利そうに見えるブレゲー指字電信機が廃れてしまったことは現代の私たちに興味深い示唆を与えています。技術の良し悪しは一面的な基準では計れず、技術の進化もダーウィンの進化論のように前世代の技術を土台としてさまざまなアイデアが生み出されそれらが多様な要因によって淘汰された結果とみることができます。

■動作原理

ブレゲー指字電信機は図1のような原理で動いていたと考えられます。送信機のハンドルを回すと一文字ごとに歯車がスイッチを押し電気が流れます。受信機は時計で使われる脱進機*(がんぎ車)になっていて、電気が流れると電磁石がアンクル盤を引き歯車が1段進みます。これで送信機がハンドルを回した文字数だけ、受信機の針が動きます(3)

* 脱進機:機械式時計の速度を一定に保つための部品です。機械式時計に特徴的な「カチカチ」という音は、脱進機から発せられています。

■通信手順

実際の通信では送信機、受信機に加えて、同期を取るためのベルも使い、図2のように1つの通信回線の両端で接続を切り替えながら通信を行います。
S(信号監視)の状態は、通信の同期を取るために手順の途中でベルが鳴るまで監視します。ベルを鳴らすスイッチはありませんが、相手がS(信号監視)状態のときに自分をE(送信)にしてハンドルを早回しすると断続信号が送られて相手のベルが鳴ります。相手がR(受信)状態のときに自分をE(送信)にしてハンドルをゆっくり回すと相手の受信機の針が1段ずつ動きます。送りたい文字のところでハンドルを止めると相手側の針も止まるので送られた文字が判定できます。文字を判定したらベルを鳴らして同期を取り、初期状態に戻って次の文字を送信します。文字盤の2列目〜4列目の指定方法については後述します。

■切替レバー

E・S・Rの切り替えは1つの切替レバーで済むはずですが、実機では切替レバーが2つパネルの左右に付いています。2つ必要な理由については詳しい資料がなく推測の範囲ですが、自局折り返し試験のためのものではないかと考えます。
パネル面の構成から推察した内部配線を図3に示します。通常の通信時は両手で左右とも同じレバー位置にして運用します。折り返し試験のときは左レバーをEにしておけば、右レバーをSにして自局内で送信要求の試験、Rにして自局内で電文の送受信試験ができます。動作時のレバー状態を表に示します。
なお、模型ではレバーの代わりに3接点のロータリースイッチを使用しました。

模型による再現

■内部機構の作製

送信機はプラスチック板を切って歯車をつくり、歯車でマイクロスイッチを押す構造としました。受信機の脱進機(がんぎ車)を構成する歯車とアンクル板もプラスチック板でつくりました。直径10cmの歯車と周辺部品で設計しました。
送信機のマイクロスイッチと受信機のアンクル盤は、穴あきベークライト板の上に配置して位置調整しながら組み立てました。歯車の角の丸みや凹みの形などをカッターで微調整し、送信機のハンドルを回して1段ずつスイッチが入ること、受信機のアンクル盤を手で引いて1段ずつ動くことを確認しました。なお、実際の受信機の資料写真を見ると大きな電磁石でアンクル盤を引いていたようですが、動作模型ではソレノイド磁石で引くことにしました。
写真3が組み上がった装置です。送信機、受信機はそれぞれ木箱の上に配置し、木箱の中で配線しています。ベルと電池は送信機の箱の中に格納します。
ベルの機構部品は安価な市販品が見つからなかったので、小学生向けの科学学習キットのベル部分を使用しました。

■文字盤の作製

模型の文字盤を図4に示します。実機の文字盤は一周26文字ありますが、今回は作製の容易化のために24文字としました。そのため文字配列は実機と若干異なりますが、空欄部の配置は実機に準拠しています。今回の文字盤ではさらに、空欄部を色分けしました。空欄部の使い方についても図4に示しています。
送信時に空欄部でハンドルを一時休止することによって文字の列を指定し、その後再開して目的の文字まで進めます。受信側はその動きを見て列と文字を判定しなければならないため、針の動きから目が離せません(4)
当初の模型では歯車に貼り付けた回転文字盤で文字を指していましたが、より実機に近づけるために固定文字盤も作成しました。固定文字盤を模型の上に被せて回転軸を固定することで、送信機は固定文字盤の上でハンドルを回して文字を決定し、受信機は固定文字盤の上で針が動いて文字を指すようになります。必要に応じて内部の動きが見えるように、固定文字盤は取り外し可能な構造としました。

■対向通信実験

実際に対向して(写真4)、手順どおりに文字を送ったところ、1文字に60秒かかりました。「1分間に4〜5文字しか通信できない」と説明していましたが、かなり熟練しないとそれも難しそうです。また、ハンドル操作が早すぎると受信機が反応できずに文字のずれが生じることや、ノイズや伝送エラーで誤動作することもあるので、通信文を受け取ったら復唱する(同じ通信文を送り返す)というような手順も必要だったと考えられます。そのため通信の完了までにはそれなりの時間がかかりますが、馬で手紙を運ぶよりは早いということで役立っていたのだと思います。

おわりに

文字通信のさきがけの1つとして常設展示中のブレゲー指字電信機の動作に、模型で近づくことを試みました。この模型を2024年12月〜2025年1月のNTT技術史料館特別公開の体験コーナーで「電報のはじまり」として展示し、来館のお客さまにも実際にハンドルを動かして受信機の針を動かしたりベルを鳴らしたりする操作を体験してもらいました。
現在はバックヤードで保管していますので、ご覧になりたい方はNTT技術史料館までご相談ください(5)

■参考文献
(1) https://www.breguet.com/en/breguet-house
(2) スタンデージ・服部(翻訳):“ヴィクトリア朝時代のインターネット,”早川書房,2024.
(3) 総務省郵政研究所:“黎明期の通信に関する調査研究報告書 : 電気通信共同研究報告,” 総務省郵政研究所附属資料館 (逓信総合博物館), 2003.
(4) https://www.kahaku.go.jp/albums/abm.php?d=1452&f=abm00002855.pdf&n=BNSM_E2501.pdf
(5) https://hct.rd.ntt/

(左から)赤池 武志/寺脇 元二/横瀬 史拓

ブレゲー指字電信機の模型作製を通じて、先人たちの知恵と工夫に満ちた技がよみがえる感動を、世代を超えて多くの方と共有し技術史の魅力と発見の喜びを育められたなら、これ以上うれしいことはありません。

NTT情報ネットワーク総合研究所
企画部

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