社会的要請にこたえる「農業の新しいカタチ」を創り、世界へ!
- 大規模温室
- 儲かる農業
- 食農ビジネス
NTTグループ唯一の農業専業会社で、農業生産法人である「NTTアグリテクノロジー」は、食農サプライチェーンに先端技術の実装を進めています。国内外の生産者、JAや全国の自治体、農研機構、農業関連企業等と協力し、地域の一大産業である農業の「新しいカタチ」を創るとともに、自らも最先端技術を集積した大規模温室を運営します。本稿では、儲かる農業の実現、食農ビジネスを通じた「地域づくりや人づくり」に、自ら役割を持ち、本気でかかわる挑戦を紹介します。
酒井 大雅(さかい たいが)/ 遠藤 大己(えんどう だいき)/ 樋泉 雅紀(ひいずみ まさき)/ 前原 慎吾(まえはら しんご)
NTTアグリテクノロジー
全国に拡がるプロジェクト
NTTグループ唯一の農業法人というインパクトからか、全国のみならず海外の生産者、企業の皆様、またNTTグループの現場等からの相談をいただいています。食農はまさに人間の根幹であり、日本の地域経済やコミュニティを支える一大産業であると改めて感じます。こうした中、少子高齢化・生産性向上・付加価値向上(=収入増)などに対処し、儲かる農業を実践する生産者や地域が増えています(図1)。
一方、農業というと生産現場に目が行きがちですが、重要なのは生産から消費までの「情報の流れ」を正確にとらえ、流通、加工、販売を含む各々のポイントで、付加価値を付けた経営を行うことです。こうした過程で、情報(データ)がつながり“環”となったとき、つまりフードバリューチェーンとして機能すれば、大きな可能性が生まれます。今回紹介するプロジェクトも、決して個々のソリューション事例ではありません。すべてが有機的に結びついていきます。「生産から販売までのバリューチェーン」「大規模から小中規模の農業経営者」「実証から実装」のすべてに効果的にアプローチする取り組みを通じ、社会的な要請にこたえていきます。
図1 全国のプロジェクトの一例(NTT東日本グループ)
「株式会社サラダボウル」グループとの取り組み
先駆的な農業法人として注目を集める「サラダボウル」。そのグループ会社「アグリビジョン」は、約3haの広大な温室で、環境自動制御等の先端テクノロジを活用し、高品質トマトの生産・販売を行っています。そのプロセスでボトルネックとなっていたのが「収量予測の揺らぎ」です。これまで人の目視と経験則に頼り予測していたため、担当者ごとの揺らぎがありました。この課題を解決すべく、収量予測システムを導入しました。方法としては、収穫作業用台車にスマートフォンを固定し、収穫対象のトマトを撮影、温室内にあるWi-Fiを経由し、光回線でクラウド上に蓄積します。このデータで、トマトの色見や大きさ・個数を分析し、翌日収穫のタイミングにあるものを選別し、収量を予測するものです(図2(a)、(b))。
算定された予測収量は、翌日の収穫スタッフや箱詰めスタッフの適正配置、物流トラックの適正手配、取引先バイヤーに提供する情報などに活用します。この取り組みは、畑でなっている状態から出荷先とのバリューチェーンをつなぐ一丁目一番地です。当日の急な欠品、過剰品の発生による出荷調整や機会ロス、フードロスを大幅に削減します。フードバリューチェーンをつなぐことで、高品質な農産物をより多くの人へ、また鮮度を維持し消費者に届けることが可能になり、結果として儲かる農業を実現します。
図2 収量予測
「JA全農」との取り組み
国内の少子高齢化に伴い農業従事者は減少する一方で、農業経営の大規模化や法人化が進んでいます(図3)。こうした中、人材確保はもとより、特に家族経営から企業組織経営に移行する中で「労務管理」の重要度が増していきます。すでに農業でも、ジョブシェアリング、外国人技能実習生の受け入れなどが進んでいます。また、農福連携のようにハンディキャップをお持ちの方にも活躍していただく動きもあります。農業でも、多様な担い手を受け入れる環境、また、人材定着のための働き方改革が必要な時代なのです。そのために大切なのは、適切なコミュニケーションにより農作業者の健康や安全を確保すること、作業計画の策定・見直し、作業者の適正配置、作業の標準化等の労務管理を適切に行うことです。そこで、JA全農と協力し、JA全農が地域のJA、自治体や生産者と協力して運営する大型施設園芸「ゆめファーム全農NEXTこうち」において、IoTを活用し、農作業者の健康管理・労務管理を通じて、安心・安全・効率的な農業経営を実現するプロジェクトを発足しました。
まず、ベトナムの技能実習生受け入れタイミングに合わせ、働く人の健康を守る取り組みを開始しました。腕時計型ウェアラブルデバイスで農作業者のバイタルデータ(心拍数等)を取得し、温室内にある環境制御用の温湿度センサから取得するデータと組み合わせ、身体の負荷状態を可視化、またあらかじめ設定した条件を超えたら管理者にアラート通知をします。外国人や、障がいをお持ちでコミュニケーションに課題がある場合でも、管理者から休憩を促すことなどができる仕組みです(図4)。
また、こうしたデータに位置情報を組み合わせ、農作業者ごとの作業内容や作業時間を適切に把握し、職場環境の改善(作業動線見直し等)や、適正な人員配置といった労務管理につなげます。地域に密着し、生産者支援を行うJA全農と協力することで、担い手確保を課題とする各地域への紹介や実装をめざします。
図3 国内の農業従事者数と農業法人数の推移
「国立研究開発法人 農業・食品産業技術総合研究機構(農研機構)」との事例
農業従事者が減少する中、省力化や生産性向上を実現するスマート農業への関心が高まっています。政府も「2025年までに農業の担い手のほぼすべてがデータを活用した農業を実践」する目標を宣言(統合イノベーション戦略2019)しました。一方、「データを活用した農業の実践」に向けては、生産者や地域の利益につながる仕組みが求められます。例えば、生産者からは「経験に頼らず、高単価な農産物や競争力がある新たな品種を安定生産でき、所得向上につながる」、自治体からは「農産物の栽培技術の継承や、ブランド力向上を通じ、農業を持続可能な産業として維持・成長させる」仕組みに期待する声をいただいています。
こうした中、農業の生産性向上や生産者の所得向上を目的に、データ駆動型農業の地域実装を協力して推進するため農研機構と連携協定を締結しました。第一弾の取り組みとして、農研機構および地域の公設農業試験研究機関と協力し、両者が保有する、現在は紙ベースの栽培マニュアルをデジタル化しクラウド上に格納します。そしてデジタル化した栽培マニュアルと、生産者の圃場に設置したIoTセンシング機器が取得する環境データ(温度等)を自動的に連動させる仕組みを提供します。これにより、栽培経験が浅い生産者でも、最適な圃場環境の管理ができる情報や栽培手法を効果的に入手できます。例えば、農業に新規参入した生産者や、付加価値が高い品種の栽培に新たにチャレンジする生産者の安定生産の支援につながります。さらに、地域や農産物の種類ごとに、最適な圃場環境管理に必要となる温度等の基準が生産者のタブレット等の端末に自動で表示されるため、ICTの専門知識がなくても手軽に活用でき、地域におけるデータ駆動型農業を身近にします。
また、デジタル化された栽培マニュアルは技術の継承を容易にし、農業を持続可能な地域の産業として維持・成長させることが期待できます。さらに、圃場に設置するIoTセンシング機器にて蓄積された環境データや、気象データ等のオープンデータを反映させ、デジタル化された栽培マニュアルのブラッシュアップを図ることで、産地全体のブランドや付加価値の向上を実現します(図5)。
図5 取り組みイメージ
「NTTアグリテクノロジー」自らによる次世代施設園芸(大規模温室)での生産・販売
「世界の良いものを、日本ならではの環境に適合させる技術の実証」と「生産性が高く、儲かる農業を自ら実践する農業経営の実証」のため、自社で次世代施設園芸の圃場を構え生産、販売を行います。
着工に至るまでに、欧州を中心にさまざまな国で企業と技術リサーチを行い、日本の環境に即した温室設計の議論を数カ月間繰り返しました。結果圃場には非常に高い戦略性が反映されています。高い生産性の実現には、機械化によるオートメーションが必須です。そしてオートメーションは生産活動の一連の流れでしっかり機能しなくては、その効果が発揮できません。自社圃場では、最初に販売先やマーケットを確定し、そのニーズを踏まえ生産品目の最終出荷形態を定め、1つのパッケージ商品の大きさ・出荷量の目標値を設定し、必要な日当りの生産量を算出しました。そこから、収穫、灌水や薬散などの中間管理、定植、育苗、発芽、播種とさかのぼって具体化し、工程ごとの作業量や必要スペースを算定しています。生産活動のシミュレートを通じ、ボトルネックとなる個所を徹底的にあぶり出し、優先的に機械化することで工程全体の流れを研鑽します。その結果、高い効果が期待できることを確認したうえで、導入するオートメーション機器、ロボットを選定しました。中には日本初導入となるものもあります。導入効果として、栽培効率は通常の1.5倍、作業人数は半減を見込みます。こうして自ら生産者として、技術の導入効果や投資対効果を定量的に実証することで、世界の生産者に自信と確証を持って提供できる実力をつけていきます(図6)。
図6 次世代施設園芸
今後の展開
日本は農村文化という言葉があるように、地域づくり、人づくりに農業が密接にかかわっています。スマート農業というと「生産現場のICT活用」に目が行きがちですが、私たちがめざすのはそこではありません。「地域づくり」に対し、自ら担うべき役割をもってかかわりたいのです。農業はその基点となり得る、重要で可能性のある産業です。今いくつかの自治体から、農業を軸に、物流・倉庫・エネルギー・加工などの関連産業、働く人に必要な環境(託児所等)を集積(クラスタ)し、そのエコシステムを生産者へ提供することで、地域を元気にしたいという相談があります。期待にこたえていくには中途半端な想いではできません。こうしたプロジェクトは数年単位の時間をかけて実現していくことになりますが、生産者、地域の想いにこたえられるよう精進し、世界でも稀な少子高齢社会で磨いた生産性の高い日本農業を、人口の爆発的増加に対処する世界の農業に供給できるくらいまでの高みをめざしたいと思っています。
■参考文献
(1) NTT東日本・アグリテクノロジー監修:“一次産業の課題解決へ地域IoT ―農業,林業,畜産業,水産業から始まる街づくりへの挑戦,”リックテレコム,2020.
(2) NTT東日本監修:“地域で活きる実践IoT ―自治体,農業,倉庫・工場の活用事例,”リックテレコム,2018.
(3) グループ企業探訪:“株式会社アグリテクノロジー,”NTT技術ジャーナル,Vol.31,No.11,pp.48-51,2019.
(上段左から)酒井 大雅/遠藤 大己
(下段左から)樋泉 雅紀/前原 慎吾
問い合わせ先
◆問い合わせ先
NTTアグリテクノロジー
デジタルファーミング推進部
TEL 03-5359-4831
E-mail contact@ntt-agritechnology.com
地域に拠点を構えるNTT東日本グループとして、社会的課題の解決、社会的な要請にこたえるために担える役割の1つが「食農分野」だと思います。応援をよろしくお願いします。