グループ企業探訪
データドリブンな健康経営の アドバイザー
emphealは、企業の健康経営をデータドリブンに支援するベンチャー企業だ。企業の健康経営を促進するために、セミナー活動、可視化による健康経営課題抽出、対応策提案から実施フォロー、そして投資効果の分析まで、健康経営のアドバイザーとして企業に寄り添った支援を行うとともに、「よりよい健康文化の創造」にチャレンジする、西口孝広社長に話を伺った。
empheal 西口孝広社長
健康経営をデータドリブンに 支援するベンチャー企業
設立の背景と目的,事業概要について教えてください.
empheal(エンフィール)は、企業のデータドリブンな健康経営を支援することを事業の柱として、2019年4月1日に、NTTドコモと提携先であるエムスリー株式会社の出資により設立されました。
ドコモのヘルスケア事業は、B2Cのビジネス展開を中心に行っており、その業容拡大の一環で医師とのリレーション確保に着目し、約30万人いるといわれている医師の90%の約27万人をパネルとして有するエムスリー社との提携をしました。そして、健康経営をテーマとしてスピーディに事業展開をしていくために、ジョイントベンチャーとしてemphealが設立されました。
当社の事業は、データドリブンな健康経営のアドバイザーとして、健康経営課題の可視化、課題に対する最適な打ち手の提案、投資対効果の分析を通して、健康経営課題のPDCAをサポートする、「健康経営ソリューション」の提供と、従業員の健康課題に医療からアプローチすることで、「すでに起こっているもの(避けられず起こってしまうもの)」を解決し、従業員の生産性向上に寄与するエムスリー社のサービス、M3 Patient Support Program(M3PSP)の提供で、この2つを車の両輪のようにかみ合わせながら事業を行っています。
健康経営を取り巻く環境はどのような状況でしょうか。
健康経営とは、従業員等の健康管理を経営的な視点で考え、戦略的に実践することです。従業員への健康投資を行うことは、従業員の活力や生産性の向上につながります。
健康経営の目的の1つである生産性の改善とは、アブセンティズム(欠勤による損失)とプレゼンティズム(生産性の低下)の2つの改善を意味しています。アブセンティズムとは、入院を原因とした欠勤など、出社できない状態による生産性の低下を指します。対してプレゼンティズムは、出社はしているが健康上の問題が原因で、頭や体が十分に働かず、生産性が低下してしまっている状態を意味しています。さらに、この2つの生産性の低下を防ぐには、「将来の病気発症・重症化リスク」だけでなく、「顕在化している生産性の低下」へのアプローチも必要になります。
健康経営は、2013年に政府が閣議決定した「日本再興戦略」に取り上げられたところから本格的なスタートとなり、その後「健康経営優良法人ホワイト500」の創設等もあり、一定の普及がみられました。一方で、健康経営を掲げている会社は手探りの状態で、健康診断の受診率向上やウォーキングラリーのような、健康施策を実施することにとどまる会社が多く、本格的な健康経営という意味ではこれからの市場だと考えています。
そこで私たちは、健康課題の現状をさまざまなデータや定量調査に基づき定量化・可視化し、それぞれの会社特有な健康課題に対応していくこと、そしてそれをアブセンティズムとプレゼンティズムの観点から投資対効果を定量化して生産性向上に寄与していくことを中核の事業として、データドリブンな健康経営アドバイザーとしてさまざまな会社の支援をしていくこととしました。
健康課題の可視化はどのように行うのでしょうか。
プレゼンティズム調査というものを行います。例えば、企業の従業員を対象に、肩こりや腰痛といった身体の不調と、プレゼンティズム損失の有無の関係を調べます。結果には会社ごとの傾向が出てきます。また、新型コロナウイルス感染予防を幅広い企業で結束し実施することを目的に発足した、「STOP!新型コロナ 〜Stay Home For All〜」プロジェクトへの参画企業の従業員を対象とした、「在宅勤務における健康状態と生産性調査」(https://empheal.co.jp/news/2020-06-08.html)というような形態でも行っています(図)。
プレゼンティズム調査のほかに、M3PSPの利用結果から、その企業の従業員の健康上の悩みに関する傾向も分析できます。M3PSPは病気になったときに使うことが多いのですが、医師や看護師等への健康相談もサービスとして提供しており、この相談の内容の分類と件数を分析することで、健康上の悩みや病気の傾向等を可視化することができます。
可視化に向けては分析のノウハウが重要であり、実績を重ねることでそれが蓄積されてきます。ただ、可視化で終わらせるのではなく、課題への対応を含めたソリューションを提供することでお客さまの企業へのバリューとなっていきます。そして、この蓄積された分析ノウハウと、医師パネルによる医師目線からのソリューションを確認・評価する術を持っていることが、当社の強みでもあります。
1人ひとりの主体的な健康意識・健康 管理にリーチする健康経営をめざす
今後の事業展開や抱負についてお聞かせください。
今後の事業展開としては、M3PSPを世の中に普及させつつ、それを導入している企業の健康経営をサポートしていくことを1つの軸足に置いています。それをベースにさまざまな業種・業界のお客さまとのお付き合いを増やしていくことが大切だと考えています。こうしたお付き合いを通して健康調査の幅を広げることで、それぞれの業種のお客さまの状況に最適な可視化、分析、アドバイスといったソリューションを提供できるようになりますし、早くそこに到達したいと思っています。さらにその先として、ドコモで行っているAI(人工知能)による健康診断結果分析や、エムスリー社で行っているM3PSP以外の施策をはじめ、新たな商材を追加していくことで、私たちの活動の付加価値を高めていきたいと考えています。
とはいえ、健康経営も行き渡るほどまで普及しているわけではなく、その効果まで具体的に意識しているかという点においては、緒に就いたばかりではないかと思います。新しい市場であり、ブルーオーシャンの世界ではありますが、それゆえに普及・啓蒙活動にも力を入れていかなければなりません。これについては、当面はセミナーや前述のプロジェクトのような調査報告の発表等の情報発信活動を続けていくつもりです。おかげさまでセミナーの依頼も多くなってきており、世の中の関心が少しずつ高まってきているという実感です。
さて、私たちの活動は企業に対して行うのですが、最終的には従業員1人ひとりが主体的に健康施策を実行することが個人の健康状態を向上させることにもつながります。個人の肩こり・腰痛といった、ちょっとしたフィジカルな健康課題の積み重ねが、メンタルに影響を及ぼすこともあります。私たちの分析や活動が1人ひとりの健康増進につながり、ひいてはメンタルを病む人を1人でも減らすことができれば嬉しいです。
担当者に聞く
M3PSPとソリューションの連携による実績を重ねてサービスの付加価値向上
カスタマーサクセス事業部
取締役
菊間 章之さん
菊間章之さん
担当されている業務について教えてください。
M3PSPの営業に加えて、M3PSPを導入いただいている企業のお客さまに対する健康経営のソリューションの営業を担当しています。ただ、当社は少人数のベンチャーでもあり、なかなか直販というわけにはいかないので、ドコモの法人営業と連携して営業展開しています。一般的に企業においては、社用の携帯電話と付随するシステムの契約や管理は情報システム部門等が行っているのですが、M3PSPは社員の福利厚生としてご利用いただく機会が多いので、法人営業を通じて人事部門や総務部門の窓口を紹介してもらい、ドコモグループとしてその企業との接点を広げ、関係を一層深める営業連携を行っています。
ご苦労されている点を伺えますか。
健康経営が世の中に十分浸透しているわけではなく、新しい価値概念でもあるので、啓蒙活動が必要になります。さらに、健康経営が認知されたとしても、そのバリューについて関連商材を売る側も、買う側も啓蒙していかないとマーケットが出来上がらない。という状態なのです。つまり、健康経営の効用である、従業員の健康にお金を投資して、それによってリターンを得て業績を上げていくといったところの理解が得られることで、初めてビジネスにつながっていきます。M3PSPは比較的高付加価値商品の位置付けなので、この効用の説明が一層必要であり、かつ難しいところでもあります。
啓蒙活動という点においては、各種のセミナーでの健康経営の意義を発信することや、「在宅勤務における健康状態と生産性調査」の分析結果等、emphealだからこそ取得されたデータや示唆を積極的に発信していくことに取り組んでいます。効用については、実際の導入事例の紹介等、具体的に例示していくことでご理解をいただくことから始めます。幸いにもNTTグループの福利厚生施策である「カフェテリアプラン」にM3PSPがメニュー化されているので、いい例示の材料になると思います。
今後の展望について教えてください。
とにかく啓蒙活動が市場の入口なので、セミナーや調査結果報告のような情報発信の活動は継続的に進めていくつもりです。これと並行して、例えばテレワーク商材の提案ではスマートフォンやタブレット、またアプリケーションは必ず登場するので、それらを利用する従業員のヘルスケア(調査)をテレワーク商材パックとしてバンドル化する等、ドコモ商材との連携をつくり出して、営業の扱える商材化の検討もしていきます。また、中堅中小企業層の営業はドコモショップや代理店が担当しているのですが、このチャネルにより中堅・中小企業層への展開も検討していくので、そのためにも扱う商材化は重要になります。
それから、説明が難しい商材でもあるので、M3PSPや調査・分析・可視化等を「お試し利用」できるような仕組みも考えていきたいと思います。
M3PSPからの分析結果から 新しい健康ソリューションを提供
カスタマーサクセス事業部
事業部長
金井 絵里花さん
金井絵里花さん
担当されている業務について教えてください。
M3PSPからの分析結果や、ご利用の企業からのヒアリング等から、健康課題を抽出し、その対応策の提案、実施サポート、フォローといった健康ソリューションの提供を担当しています。単なる課題解決のみならず、他社の優良事例や当社の持つ知見から、健康課題に対する予防的な側面からのコンサルティングや改善施策の提案も行っています。
ご苦労されている点を伺えますか。
健康経営に取り組む企業でも、自社の優先課題がクリアになっている企業は少なく、調査や分析から、その仮説を立てるところからお手伝いをしております。また、少しずつ変わってきてはいますが、ご支援させていただく中、健康意識が必ずしも高くない従業員もいまだ多いため、まずは危機感を持ち、「自分事」にしてもらうことからスタートします。試行錯誤をしながら少しずつ、1人でも多くの従業員が、自分の健康への興味を持ってもらうきっかけをつくれるよう努力しているところです。こういった場を実現するため、医師等の医療従事者との連携による専門性の高いソリューションをかたちにし、そのうえで企業、従業員両方のニーズに答える工夫、そして、それをビジネスモデルとして成立させるために、試行錯誤を交えながら実現させてきているところです。
今後の展望について教えてください。
emphealに相談したらどんな健康課題に対してもサポートしてもらえる、という状態をめざし、従業員の生産性の低下に影響のある不調を広くカバーすべく、ソリューション開発に従事しています。また、個々のお客さまによって事情や制度,環境も違うため、お客さまに寄り添ってカスタマイズしながらのご支援を行っていますが、私たちの実績とノウハウが蓄積され、その事例をパターン化していくことで、ソリューションのメニュー化を図ることができます。その良い循環をスピードアップしていきたいです。また、このプロセスで私たちの目利き力も強化されていくため、良いソリューションを持っているパートナー企業のネットワークも構築していき、健康経営といえばempheal、という環境に早く近づけたいと思います。
ア・ラ・カルト
オンライン健康イベント その1
emphealでは、在宅勤務を機に運動不足解消のため、毎朝9:30から全員でオンラインでのラジオ体操を行っているそうです。さらに、肩こり、腰痛等いろいろなパーツに効くストレッチを理学療法士のパートナーさんに伝授していただき、それも休憩がてらオンラインで行っているそうです。在宅勤務の中で健康意識を向上させ、自分たちでいろいろなものを試しながら、良いものは商品化するという、まさに健康経営の会社ならではの取り組みで、在宅勤務終了後も継続していくとのことです。
オンライン健康イベント その2
在宅勤務におけるコミュニケーション不足解消のため、オンライン飲み会を行っているとのことですが、単なる飲み会ではありません。参加者全員が栄養を意識した同じ料理を、上司、部下関係なく、コツを学びながらつくり、出来上がったところで飲み会に。各自がつくった料理に加え、栄養・健康ネタもスパイスのごとく混ざり、話が盛り上がるそうです。特に、料理好きの西口社長の焼きそばは、その秘伝の焼き方をはじめ、人気メニューだそうです。
オープンエアーミーティング@皇居
ある秋の天気の良い日、オフィスの眼下に広がる皇居の芝生の上で、オープンエアーミーティングをやろうと、遊び心からの何気ない一言が現実のものとなったそうです。テント用のシートを芝生の上に敷き、昼食を取りながらピクニック気分でミーティングを始めたところ、雰囲気も気持ちも変わって、逆に良い提案が出るなど議論が盛り上がったとのことです(写真)。次回は桜を見ながらと計画していたそうですが、世の中が新型コロナウイルスを気にしているうちに、桜の季節は終わってしまいました。
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