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Focus on the News

衛星に送信する無線信号を自在に複数の信号に分解・合成するスペクトラム分解合成伝送技術を実現し衛星実験で実証成功

NTTは、このたび、衛星通信の送信信号のスペクトラムを自在に分解し、宇宙空間にある衛星中継器の空いている任意の周波数に分解後の信号を配置して通信し、受信側で分解された信号を再び合成するという「スペクトラム分解合成伝送」を実現し、衛星を使用した実証実験でその有効性を確認しました。
本技術は、既存の衛星通信用モデムに外付け装置(アダプタ)として接続するだけで、信号のスペクトラムを分解・合成でき、これまで衛星中継器上に散在していた未使用帯域を、既存ユーザの使用領域に影響を与えることなく利用することを可能とするものです。平常時の利便性向上に加え、災害時など急遽衛星通信を必要とする際にも、より効率的な衛星利用が可能になると期待されます。また、信号を分解して送信し、受信して再合成するというプロセスを経ることにより、通信のセキュリティ向上にもつながります。
このたび、本技術を実装した装置による衛星実験に成功したことで、実際に衛星中継器上に散在する未使用帯域を有効利用できることを明らかにしました。今後は中継器を共有する複数ユーザに対する未使用帯域の効率的な割り当て方法について検討を進め、中継器のさらなる利用効率向上をめざします。

研究の成果

NTTアクセスサービスシステム研究所は、衛星通信モデムから出力される信号のスペクトラムを、自在に分解し、衛星中継器の所望の周波数に分解した信号を配置し、受信側で所定の信号を抽出して再び合成する、「スペクトラム分解合成伝送技術」を研究開発しました。本技術を用いることで、周波数の再配置をせずに衛星中継器の未使用帯域を複数束ねて利用して迅速に高速通信を実現するなど、ユーザに対して柔軟な周波数割当が可能となり、利便性の向上が見込まれます。平常時の利便性に加え、災害時など急遽衛星通信を利用する際にも、より効率的な衛星利用が可能になると期待されます。
さらに、物理レイヤで信号のスペクトラムを分解し、情報を中継器上に分散配置することで、第三者の信号傍受が困難となり、よりセキュリティを高める技術としての利用も可能となります。

スペクトラム分解合成技術

スペクトラム分解合成技術は、衛星通信モデムから出力されたアナログ信号を送信アダプタ装置に取り込んでデジタル信号に変換後、新規に考案したフィルタバンク技術によりスペクトラムを分解し、衛星中継器に所定の周波数帯域に信号を分散配置します。その後、アナログ信号に再度変換して、アンテナを通じて衛星に対して送信します。一方、受信側では衛星からの信号をアンテナで受信後、受信側のアダプタ装置でデジタル信号に変換し、フィルタバンク技術で所定の周波数信号だけ抽出します。抽出された信号を周波数変換して、スペクトラム合成を実施し、その後、再びアナログ信号に変換して、衛星通信モデムに受け渡します。受信側の衛星通信モデムでは、通常のアナログ信号として受け取るため、伝送途中で分解合成されたことを意識することなく、復調処理をできます。したがって、本技術は衛星通信モデムが採用している信号フォーマットに依存することなく信号を分解合成することが可能です。
(1) スペクトラム編集技術
信号のスペクトラムを複数のサブスペクトラム信号に分解して、中継器上に分散配置すると、各サブスペクトラム信号の遷移域の数が分解数分だけ増えるため、分解前と比較して、信号ののべ帯域が増加し、周波数利用効率が低下する課題がありました。この課題に対し、分解時に各サブスペクトラム信号の周波数特性を編集し、サブスペクトラム信号の帯域を狭くするスペクトラム送信編集技術を考案しました(図)。これにより、信号の分解前後で占有帯域が変わらず、周波数利用効率を維持した状態で信号の分散配置が可能となりました。
(2) スペクトラム同期合成技術
スペクトラム合成において、分解前の送信スペクトラムを再現するには、受信側においてサブスペクトラム間の位相同期・周波数誤差補償・振幅調整といったスペクトラム同期合成技術が重要です。サブスペクトラム間で電力密度差が生じると、スペクトラム合成特性が劣化することから、合成前にサブスペクトラム間の電力密度をそろえる自動利得制御技術を実装しています。また、周波数誤差がある状態ではサブスペクトラム合成時にフィルタバンクで信号電力が削られることから、自動周波数誤差補償技術を実装しています。さらに、スペクトラム合成時にサブスペクトラムの遷移域の位相が連続するように位相同期技術を実装しています。

衛星実証実験

本技術の実用性を確認するため、実際の衛星による実証実験を実施しました。衛星通信モデムとしては海外製品の市販モデムを使用しました。ロールオフ率0.1および0.05のQPSK信号のスペクトラムを自在に分割し、所定の周波数に配置できることを確認しました。さらにスペクトラム分解有無でBER(ビットエラーレート)特性を比較し、特性差がないことを確認することで、本分解合成技術の有効性を確認しました。

図 スペクトラム編集技術

問い合わせ先

NTT情報ネットワーク総合研究所
企画部 広報担当
TEL 0422-59-3663
E-mail inlg-pr-pb-ml@hco.ntt.co.jp
URL https://www.ntt.co.jp/news2019/1912/191211a.html

研究者紹介

NTTにおける衛星通信の研究開発

山下 史洋

NTTアクセスサービスシステム研究所
無線エントランスプロジェクト 衛星通信グループ 主幹研究員

私が入社する前、NTTでは静止衛星を用いて日本全土に通信サービスを提供する計画がありました。その後、携帯網やDSL・光ファイバ網が急速に整備され、船舶など地上網がカバーできないエリアでの通信や、災害時における臨時通信が主な利用途となりましたが、現在でもなおNTT研究所では先人の貴重なインフラ衛星通信技術を継承し、社会的意義が高い災害対策・離島衛星通信装置を研究開発し、事業導入しています。
一方で、世界では現在も通信インフラが十分に充実しているといえず、広域にサービス提供できる衛星通信の魅力が大きいのも事実です。私は長年NTTに蓄積された衛星通信技術を、どうしたら世界に発信できるか、常々考えていました。世界では衛星ベンダが小型で性能が良いモデム装置を次々に販売しており、今からその市場に参入することは難しいと感じました。そこで、私たちが開発したNTT事業会社に導入された衛星通信装置から、私たちの強みである衛星中継器に散在する複数の未使用帯域を同時に有効利用できる信号処理技術だけを切り出して、既存の市販衛星モデムに外付けするだけで無線信号を自在に分解合成するアダプタ装置を考案しました。信号フォーマットに依存せず分解合成できるので、汎用性が極めて高い装置です。今後興味を持っていただいた企業やユーザと連携して、NTT発で新たな衛星通信サービスを創出したいと考えています。