グループ企業探訪
時代に即したネットワーク系のサービスを提供する会社
NTTPCコミュニケーションズは、通信が自由化された1985年に設立された、35年の歴史を誇り自らネットワーク系のサービスを提供する、NTTグループの中では珍しい会社だ。技術開発チームによるインキュベーションに注力し、NTTグループのグリーンベレーをめざす、田中基夫社長に話を伺った。
NTTPC コミュニケーションズ
田中基夫社長
自ら技術開発を行い、サービスを提供する会社
◆設立の背景と目的、事業概要について教えてください。
NTTPCコミュニケーションズは、電気通信事業法等の改正により、通信が自由化された1985年9月に、NTTとロジック・システムズ・インターナショナル株式会社(現ロジック株式会社)の出資により、パソコン通信を扱う会社として設立されました。会社設立当初から技術開発系の社員を擁し、自由化された事業環境の下、1986年11月には電話回線を使用したネットワークによるビジネスとして、商用パソコン通信ネットワークである「NTTPCネットワーク」サービスの提供を開始しました。1995年1月には日本で3番目になるISP(Internet Service Provider)としてインターネット接続サービス「InfoSphere」を提供開始し、以降、IP-VPN、ハウジング・ホスティング・データセンタサービス、ASP(Application Service Provider)系のサービス、広域イーサネットサービス、クラウドサービス等、技術者により先駆的にサービスを開始・提供してきました。2020年に創立35周年を迎え、この間、1999年のNTT再編によりNTTコミュニケーションズグループの会社に、2002年にはNTTコミュニケーションズ単独株主の会社となり、現在のポジションを築いてきています。
当社はバリューチェーンを担うグループ会社とは異なり、自らサービス、ソリューションをお客さまに提供する事業を展開しています。会社設立以降、時代の流れに呼応するように、サービスの開発、統合等を行い、現在は①「Master’sONE®」に代表されるネットワーク・モバイルサービス、②「Security BOSS®」等のセキュリティサービス、③お客さまのデジタルトランスフォーメーション支援等のビジネスプロセス業務支援、④IoT(Internet of Things)・AI(人工知能)関連サービス・ソリューション、⑤「WebARENA®」に代表されるデータセンタ・ホスティングサービス、⑥クラウドサービス、⑦サーバ・ネットワーク機器ソリューション、⑧OEM・再販サービスを中堅・中小企業向けに提供しています。
◆長い社歴は技術・サービス開発の歴史でもあるのですね。
当社は設立当初から技術者が在籍しており、技術開発を行ってきました。中には特許を取得した技術もあります。このような技術者のスキル・ノウハウがサービスというかたちで結実してきています。中にはインターネット接続サービスである「InfoSphere」のように、小さな規模の会社であるがゆえの小回りが利くといった特性を活かして、NTTよりも先にリリースしたサービスもいくつかあります。こうした積み重ねの結果、NTTグループ企業としては珍しい、サービスを提供する会社として事業展開をしています。
技術開発は今後も継続して行っていくつもりで、特に内製化に力を入れて人材育成も含めて取り組んでいきたいと考えています。いくら良い技術があっても、サービス開発において人に頼っているようでは、スピード感や柔軟性は外注先に依存することになります。当社のような規模の小さい会社にとっては、サービスの規模を追うことは非常に困難ですが、スピード感をもって70%くらいのできでサービスを出して改良を加えていくためにも内製化が重要です。
また、API(Application Programming Interface)にもこだわりを持っていきたいと思います。これまでのサービス、特に通信系のサービスは、人が利用することが前提でしたが、AIやIoTが活用されると、サービスの利用者として人が介在せず、コンピュータや機械が利用するようなケースも増えてきます。そのときに重要になってくるのがAPIなのです。
インキュベーションに注力し、新しい技術をビジネスとして展開することでNTTグループのグリーンベレーをめざす
◆こうした技術開発を今後はどのような方向に展開していくのでしょうか。
インキュベーションに注力していきたいと思います。これは4〜5年ほど前から手掛けてきたことなのですが、例えば、インターネット関連の技術・サービスはある程度行きわたり、ISPも淘汰されてきています。とは言いながらも、利用者は数多くいるのも事実で、こうした利用者の受け皿としてのビジネスは十分にやっていける状況です。ただ、これでは先の姿が見えてこないので、既存事業で収益基盤を確保しつつ、新しいビジネスの種をまいて育てるインキュベーションにパワーシフトしていきます。これを、機動力のある精鋭部隊によるインキュベーションという意味で、米国陸軍特殊部隊「Green Berets」になぞらえて、グリーンベレーと呼んでいます。
これまで手掛けてきたものとしては、当社のデータセンタには多くのGPUサーバが設置されているのですが、これを使った「イノベーションラボ」を開設し、IT系のスタートアップの方々と検討を行ったり、スタートアップどうしのマッチングを行ったりしています。また、PCメーカがPCにモバイルSIMやセキュリティ等の機能を付加して企業にサブスクリプションモデルとして販売する際の、サブスクリプション管理ツールをBPaaS(Business Process as a Service)として提供しました。これらのベースとなる技術は市中の技術なのですが、NTTには研究所があり、そこには多くの技術があります。当社のサービスである「Master’sONE CloudWAN」は旧NTT i3のSD(Software Defined)-WAN技術を使ったもので、すでに研究所の技術を使った実績もあります。このほか、NTT コミュニケーションズグループで行っている新規ビジネスコンテストで最優秀賞を2018年、2019年と連続して獲得しているのですが、その技術も研究所の技術であり、少しずつ動き出してきたところです。
◆今後の事業展開や抱負についてお聞かせください。
こうしたグリーンベレーの活動成果は、当社のサービスとなって事業に組み込まれていくのが理想的なのですが、規模を追い求めることは難しいので、NTTコミュニケーションズやNTT東日本・西日本のような会社にこれを移転して大きく育ててもらう、というのも1つの出口だと考えています。つまりNTTグループのグリーンベレーになるということです。
また、NTTグループに限らず、通信に限らず、他社のサービス・製品のコアな部材として組み込んでいくという出口も考えています。さらに、前述のPCサブスクリプションのBPaaSの場合は、モバイルSIMや回線は当社のサービスをご利用いただいていますが、このようにインキュベーションの結果が既存の事業にまで波及していくところまでめざしていきたいです。
この活動のベースとなる技術は、NTTの研究所に数多くあります。ところが、これまでは研究所とのコミュニケーションの接点が少なく、技術の事業展開に向けた意識のマッチングもできていないのが現状です。そこで、研究所とのコミュニケーションがとれるよう、数多くの場に出かけて、グリーンベレーがよりお客さまに近い立場で、技術の事業展開のための触媒となれるよう、努力していきたいと思います。
担当者に聞く
写真や動画から人間の関節の動きをベースとした動作を可視化するサービス
サービスクリエーション本部
第二サービスクリエーション部
サービスクリエーション担当(AnyMotion担当)
渡辺 隆久さん
渡辺 隆久さん
◆担当されている業務について教えてください。
「AnyMotion」というサービスの企画・開発を担当しています。「AnyMotion」とは、写真や動画から人間の関節の動きをベースとした動作を、AI(人工知能)を使って可視化するサービスです。3次元で本格的なシステムはすでにあるのですが、2次元で簡易に表示するものです。「AnyMotion」は2018年のNTTコミュニケーションズグループの新規ビジネスコンテストで最優秀賞を獲得し、これをきっかけにサービス化に向けて動き出しました。
このサービスは内製で開発しているのですが、現在私はどちらかというと企画サイドの業務を主に担当しています。サービスをどういったかたちで組上げていくか、展開戦略をどうしていくのかといったことを検討しており、トライアルサイトを構築し、それを通してお客さまとビジネスに関する意見交換をさせていただいています。
◆ご苦労されている点を伺えますか。
「AnyMotion」の利用シーンとして考えられるのが、ヘルスケアとかスポーツといった分野があり、実際お客さまからの問合せや引き合いもヘルスケアの分野が多くなっています。ヘルスケアの場合は、リハビリテーションや整体といった分野が多いのですが、例えば整体1つとっても、診察、継続施術、アフターフォロー等、その場面も複数あり、またこれを遠隔で行うのかどうか等、お客さまの利用シーンが多岐にわたっています。
こうした中、例えば人が歩いているところを撮って解析した結果、この人は膝が悪いのではないか、といったところまで表示できると良いのですが、そこまでやるには専門知識が必要となります。ところが、このような専門家が周囲にはおらず、さらにはお客さまの利用シーンごとに専門家が必要になってくるので、この領域にまでは踏み込めていないのが現状です。一応、お客さまにはご理解いただいてはいるものの、結果を表示して判断の部分はお客さまに任せざるを得ない点にジレンマを感じています。
また、「AnyMotion」は簡易なサービスであるにもかかわらず、3Dの本格的なシステムと比較されたり混同されたりすることもあり、この違いをお客さまにご理解いただくことも苦労しています。
◆今後の展望について教えてください。
現在は、パイロット的にヘルスケア関連を中心にサービスを展開しているところですが、この分野をさらに広げていくことを推進していきます。例えば、スポーツ指導であれば、指導者の経験を基に指導していた部分を、可視化されたデータを基にした指導に変えていくことができるようになります。ボーリングやダーツであれば、単にスコアを競うだけではなく、投球フォームを点数化して芸術点のようなかたちで加算することで、エンタテインメント性を高めることもできるようになります。こういったアイデアを数多く創出して可能なところから展開していきます。
「AnyMotion」はAPIで提供されているのですが、このような展開を図っていくうえでアプリケーションの領域にまで踏み込んでいく必要があると思います。当社には内製チームもいるので、アプリケーションの開発については取り組みやすい環境にあります。アプリケーションとの連携により、サービスの展開領域をさらに拡張していきたいと考えています。
あなたの声を好きな声に変換、ディープラーニングを用いた声変換サービス
サービスクリエーション本部
第二サービスクリエーション部
サービスクリエーション担当(VOICEMARTTM担当)
飯田 嘉一郎さん
◆担当されている業務について教えてください。
「VOICEMARTTM」という新規事業の企画・開発を担当しています。「VOICEMARTTM」とは、一言でいうと、ディープラーニングを用いた声変換サービスのアイデアです。ディープラーニングによる声変換なので、従来の声の高さだけが変わるような声変換ではなくて、全く別人の特定の誰かの声になれる、例えば、好きなアイドルの声、好きなアニメキャラクターの声になれるといった声変換です。ユースケースとしては、例えば電車の車内アナウンスの声をあるキャラクターの声に変える、場合によっては駅ごとにキャラクターも変えるとか、スマートスピーカーの声を好きなタレントの声にするとか、あとはオンラインゲームのボイスチャットとかでキャラクターになりきりながら話すといったことが想定されます。この場合のビジネスモデルとしては、例えば声優さんの声を「VOICEMARTTM」上でやり取りをして、その声が使われた分ライセンス料として声優さんにバックされる、というようなモデルを構想しています。少し現実に近い話としては、「VOICEMARTTM」によって、自分の声をより良い声質に交換することに着目して、サービス化をめざした実証に向けた開発を行っています。「VOICEMARTTM」も2019年のNTTコミュニケーションズグループの新規ビジネスコンテストで最優秀賞を獲得し、これをきっかけに事業化に向けて動き出しました。
◆ご苦労されている点を伺えますか。
現在事業化に向けて取り組んでいるところなので、苦労している点といえばすべてになります。その中でも、技術面と市場開拓に特に苦労しています。
音声変換をはじめとする音声処理技術については、NTTの研究所が世界でもトップレベルの技術を持っており、その協力をいただいているのですが、私たちに全く知見がないため、非常に挑戦的な取り組みになっています。まずは、プロトタイプでいろいろと試しながら知見を蓄積していくところから始めており、現場での実証を通してさらにそれを高めていきたいと思います。
一方、市場については技術が先進的なものなので当たり前ですが、まだ市場そのものがない世界です。そこに対して、ファーストターゲットのユーザ像とユースケースを想定して仮説を立てながら、それを市場のお客さまに理解していただき、市場の声を聞きながらフィードバックして事業化をしていくということを、繰り返し行っていくことになります。
私たちでこういう使い方ができるだろうというイメージしたことを実際に現場で話を聞くと、時期尚早であったり、市場にマッチしないということは多く発生します。技術的知見が蓄積されればさらに加速すると思うので、諦めずに第一歩となる市場でヒットできるように、仮説検証と技術検証を継続していきます。
◆今後の展望について教えてください。
現場における実証というプロセスをとおして、具体的な事業を形成していくというアプローチになります。特に実証においては、接客系の場面において声変換をしながら相手とコミュニケーションが取れるというパターンによるユースケースに取り組んでいくつもりです。そのためには、まずは実証の環境整備を優先して行います。一番のベースとなる部分は、AIでディープラーニングさせるためのデータ収集ですが、単に音声を収集するだけではなく会話の中での抑揚やアクセントといったところまで意識して収集する必要があります。また、実証に参加してもらうパートナー探しと実際の利用シーンの環境への組み込み等に注力していきます。
技術が先進的で市場が未開拓、いわゆるブルーオーシャンへ少しでも早く船出できるよう、頑張っていきたいと思います。
ア・ラ・カルト
■アジャイル開発研修
「次世代エヴァンジェリスト」と称するアジャイル開発の技術者育成のために、外部の研修に参加しています(写真1、2)。研修は仮想プロジェクトのメンバーになり、それぞれがプロジェクトマネージャー、デザイナー、デベロッパー等の役割をもって実戦形式で行われます。オープンで明るいオフィスにはリラックススペースがあり、そこにはキッチン、卓球台やお菓子もあり、他社からの参加者の顔ぶれも含めて、とてもインターナショナル。参加者全員が研修後は相当スキルアップを図ることができ、それを社内の業務に活かしていきたい、との意気込みを持っています。中には、アジャイル開発のみならず、充実した朝食への感動と卓球のスキルアップも図ることができた、という話もあるとか。
写真1
■社内報「PCアイ」
「PCアイ」というWebベースの社内広報誌が毎月発行されています。社内広報誌といいながらなぜか会社の公式ホームページ内で公開されており(https://pceye.nttpc.co.jp)、冒頭には、 「毎月何となく…、19日あたりに配信してマス…」と書かれており、なんとも「ユルフワ」な雰囲気です。「突撃レポート!美人広報員が行く」というコーナーでは広報員の独断と偏見で社内の気になる人をインタビューして紹介しており、社長はもちろんのこと、単身赴任中の社員の趣味に迫ってみたり、中には退職や出向元への異動等でOBになった人の職場にまで出掛けてインタビューをします。また、「NTTPCドキドキリレー」というコーナーでは、登場した社員が次回登場の社員を指名してリレー形式でつなぎ社員を紹介していきます。いきなり指名されるので「ドキドキ」している社員もいるかと思えば、次回の指名を待ち望んでいる社員もたくさんいます。
写真2