特集
モビリティ領域での4Dデジタル基盤™の活用
- 4Dデジタル基盤™
- コネクティッドカー
- 協調領域
クルマをはじめとする多様なモビリティは、技術の進化とともに、人々の暮らしに豊かさをもたらしてきました。その一方、道路交通をめぐるさまざまな社会的課題の深刻化も懸念されています。本稿では、多様なセンシングデータをリアルタイムに統合し、さまざまな未来予測を可能とする「4Dデジタル基盤™」にフォーカスし、モビリティ、特にコネクティッドカー協調領域を中心に、道路交通にかかわる社会的課題解決・新たな価値創造に向けた貢献と将来めざす姿について紹介します。
三輪 紀元(みわ のりゆき)†1/深田 聡(ふかだ さとし)†1
吉田 誠史(よしだ せいじ)†2/徳永 大典(とくなが だいすけ)†3
NTT研究企画部門†1
NTTネットワーク基盤技術研究所†2
NTTデジタルツインコンピューティング研究センタ†3
モビリティ分野のビジョンと取り組み概要
クルマをはじめとする多様なモビリティは、技術の進化とともに、人々の暮らしに豊かさをもたらしてきました。
その一方で、少子高齢化・都市部人口集中等の社会構造の変化を背景に、道路交通をめぐるさまざまな社会的課題の深刻化も懸念されています。
・ 高齢者がかかわる交通事故の増加
・ 地方過疎化による公共交通の廃止・減便や高齢者免許返納等による移動弱者の増加
・ 都市部の渋滞・混雑と、それに伴う経済損失・環境問題
・ eコマース拡大に伴う物流需要の増大と物流担い手不足
このような社会的課題を背景に、自動車メーカーを中心としたコネクティッドカーサービスの高度化、マルチモーダルMaaS(Mobility as a Service)の実現に向けた研究開発・連携・実証実験が進み、また日本政府においても産学官共同で取り組むべき共通的課題 (協調領域)の研究開発の取り組みが推進されています。さらに、コネクティッドカー・自動運転機能の高度化に伴い、それを支えるネットワークも不可欠で重要なインフラとなりつつあります。
NTTグループでは、モビリティのDXによるさまざまな社会的課題の解決および新たな価値創造をめざした取り組みを行っておりますが、本稿では、さまざまなデータを一元的に取り扱う基盤としてNTTグループにて研究開発を推進している「4Dデジタル基盤™」に着目し、モビリティ領域、特にインフラ協調領域基盤への活用の観点から、道路交通の整流化にどのような価値を提供できるかについて紹介します。
4Dデジタル基盤™構想の背景
近年、ICTのめざましい発展により、膨大なIoT(Internet of Things)データの収集や分析が可能となりつつあり、これに伴い、政府やさまざまな企業が、Society 5.0等で提唱されているようなサイバー空間とフィジカル空間を高度に融合させたシステムの実現をめざして研究開発に取り組んでいます。
しかし、サイバー・フィジカルの融合において、すでに統計化されているデータや、位置・時刻の情報にズレがあるデータどうしを掛け合わせても、実世界の現象の把握・そこからの未来予測の精度が高まらないケースもあります。
NTTでは、このような課題の解決に向け、ヒト・モノ・コトのさまざまなセンシングデータをリアルタイムに収集し、「緯度・経度・高度・時刻」の4次元の情報を高い精度で一致・統合させ、多様な産業基盤とのデータ融合や未来予測に資するデータの提供を可能とする基盤の構築をめざし、4Dデジタル基盤™の研究開発に着手いたしました。
4Dデジタル基盤™構想の概要と提供価値
4Dデジタル基盤™は、図1に示すように、高精度で豊富な意味情報を持つ「高度地理空間情報データベース」上に、多様なセンシングデータをリアルタイムに統合し、高速に分析処理を行います。
① 4Dデジタル基盤™の位置基点となる高度地理空間情報データベースの整備
・ 地図事業のデータ・ノウハウを活かした、既存の地図データの位置のさらなる高精度化
・ インフラ管理事業でMMS(Mobile Mapping System)等の活用による道路を中心とした高精度3D空間情報の整備
② 位置・時刻が高精度なセンシングデータのリアルタイム収集
・ 都市部での測位・時刻同期精度を高めるスマート・サテライト・セレクション®(1)(図2)等の技術と、5G等の高速・低遅延通信による、精度の良いセンシングデータのリアルタイム収集
・ マッピング技術を用いた高度地理空間情報データベースへのセンシングデータの精緻な統合
③ 膨大なデータの高速処理と多様なシミュレーションによる未来予測
・ リアルタイム時空間データ管理技術Axispot®︎(2)(図3)による動的オブジェクトから大量に送信される情報のリアルタイム格納・検索・分析
・ AI(人工知能)技術による最適化シミュレーション・未来予測と行動変容
本基盤による高精度なセンシングデータの収集、膨大なデータの高速処理の組み合わせの例として、従来技術では実現できなかった、実空間に存在する車両位置の精緻かつ高速な把握を行ったデモを示します。
図4は前述のリアルタイム時空間データ管理技術Axispot®︎と、都市部での測位・時刻同期精度を高めるスマート・サテライト・セレクション®の組み合わせによる、レーンごとの車両位置把握のデモで、吉祥寺駅前を例に、衛星測位による車両位置のプロットと、レーンごとの車両台数の検索を行っています。
従来技術(図4左側)では、高層の建造物に囲まれた吉祥寺駅前では衛星測位に誤差を生じ、地図上にプロットされたクルマの位置が道路から外れています。さらにレーン形状に合わせた車両の矩形検索処理に時間を要するため台数計測処理が間に合わず、最終的な検索結果(レーン別の車両台数)が正しくなりません。
一方で、4Dデジタル基盤™の技術を活用した場合(図4右側)、高精度な衛星測位により車両位置が地図上に正しくプロットされ、矩形検索処理も高速で行われるため、レーンごとの検索結果は正しくなります。
このような機能群とデータを組み合わせることで、図5に示すような、道路交通の整流化や、そのほかにも、都市アセットの最適活用、社会インフラの維持管理等、さまざまな領域で活用の可能性があると考えています。
モビリティ領域への4Dデジタル基盤™の活用イメージ
前述のとおり、日本政府では、ICT活用によるモビリティサービス高度化および将来の自動運転技術による社会的課題の解決、すべての人が質の高い生活を送ることができる社会の実現をめざして、産学官共同で取り組むべき共通的課題 (協調領域)の研究開発を推進しています。
NTTグループでも、多様な通信を活用しクルマやさまざまなデータを一元的に取り扱うコネクティッドカー協調領域基盤の実現に貢献し、自律自動運転だけでは実現が難しいと考えられる交通流全体の把握により、都市交通の効率化・安全性向上をめざします(図6)。
コネクティッドカー協調領域におけるネットワークは、分散処理基盤を活用した効率・高速のネットワークアーキテクチャを前提に、オーバーレイネットワークで交通流にかかわるヒト・クルマ・道路の情報を幅広く収集することが求められると考えています。また、システム領域においては、4Dデジタル基盤™を活用し、収集した交通流にかかわるセンシングデータをリアルタイムに高度空間情報データベースに蓄積・補正(データ同化)し、他のセンシングデータを含めたデータの統合や高速なデータ検索・抽出を実現します。
4Dデジタル基盤™で位置・時刻が精緻化・統合されたデータは、モビリティ・ITSのための官民連携基盤や、その他の産業の基盤に活用していただくことを想定しています。
モビリティ領域での4Dデジタル基盤™活用ユースケース
次に交通にかかわる面的な情報収集および4Dデジタル基盤™による情報の精緻化・統合により、技術面で可能となるユースケースと、実現に向けた技術開発の方向性を説明します。
(1) 交通事故の低減
重大事故の原因となり得る動的危険情報(落下物、飛び出し、駐車車両や交差点の死角情報)の早期発見・位置特定と確実・速やかな回避に向けた情報の配信。
・ 車載カメラ・路側設備等から収集される画像データ・車両挙動にかかわるデータによるリアルタイムの物体認識と正確な位置特定および影響範囲の推定
・ 危険回避のための迅速な情報配信・注意喚起の伝達による誘導
(2) 渋滞の緩和・解消
都市部を中心に大きな経済損失の原因となっている渋滞の解消のための、交通量に応じた信号機制御やロード・レーンプライシングによる混雑平準化。
・ プローブデータ、路側機器等からの観測データ、高精度測位による交通量のリアルタイム把握
・ さまざまな環境要素を考慮した交通流シミュレーションによる混雑予測・対応策の効果測定
・ 信号機・ドライバー等に向けた行動変容のための情報配信
今後の展開~IOWNが実現する究極のモビリティ社会~
本稿で紹介したアプローチ・技術や、高速・低遅延で高信頼なネットワークや高速処理基盤を実現するIOWN(Innovative Optical and Wireless Network)の社会実装により、将来、「ヒト」「クルマ」「インフラ」が高度に協調し、究極の安心・安全を提供する「高度協調型モビリティ社会」が実現できると考えています。
例えば、車両の自動運転制御だけではなく、全体の最適制御によって、信号のない交差点でのスムーズな交差(図7)や、事故・災害などの緊急時にも被害を最小化する最適誘導などが実現されると考えています。
実現に向けてさまざまなチャレンジがありますが、以下のIOWN技術の特長を活かし、社会実装を推進します。
・ 超高速・低遅延通信によるデータ収集・演算結果の全車両配信
・ 統合的なICTリソースアロケーションによる通信キャリアをまたがるネットワーク
・ 超高速な情報処理による膨大な組合せ問題に対する最適解の計算
・ 正確な位置基点上に構築した高度空間情報上への車両・周辺情報の正確・リアルタイムな収集・分析と精緻な未来予測
おわりに
本稿で取り上げた、4Dデジタル基盤™と関連する技術群を活用したコネクティッドカー協調領域のアーキテクチャは、政府、自動車メーカー、地図会社、通信・IT企業などのさまざまなステークホルダが連携し、ビジネス性・社会受容性なども含めて検討する必要があり、非常にチャレンジの多い領域です。
また、現実の交通においてはさまざまな不測の事態が想定され、非常に複雑・高度な制御や、交通インフラ・法制度・倫理問題等を含め、社会全体の取り組みとして進められるべきものかと考えています。
モビリティを中心に、人々の暮らしを支える基盤・豊かにするサービスをめざし、NTTグループの技術・ノウハウ・アセットを活用し、パートナーの皆様とともに貢献していきたいと考えています。
■参考文献
(1) https://www.ntt.co.jp/journal/1904/JN20190415_h.html
(2) https://www.ntt.co.jp/journal/1911/JN20191118_h.html
(上段左から)吉田 誠史/三輪 紀元
(下段左から)深田 聡 / 徳永 大典
問い合わせ先
NTT研究企画部門
プロデュース担当
E-mail contact_mobilityp@hco.ntt.co.jp
4Dデジタル基盤™、コネクティッドカー協調領域は新たな社会基盤構築であり、一朝一夕で実現できるものではありません。重厚長大なプラットフォーム構築ではなく、スピード感をもって、実現可能な技術・サービスから、NTTグループおよびパートナーの皆様と社会実装していきたいと思っています。