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NTTの独自オープンソースソフトウェア「MSF」と「Beluganos®」を用いてNTTとTelefónica等と共同実験を開始

NTTとTelefónica社(Telefónica)は、オープンな伝送・転送技術に関する共同実験を開始し、第1回目の実験に成功しました。本成果について、オランダ・アムステルダムで2019年11月に開催された「TIP Summit ’19」において発表し、2020年1月にTelecom Infra Project(TIP)の公式ホームページにてホワイトペーパーを公開しました。
本共同実験は、TIPのOpen Optical Packet Transport(OOPT)プロジェクト内に、NTTとTelefónicaが共同で2018年10月に設立したConverged Architectures for Network Disaggregation & Integration(CANDI)が推進するもので、オープンかつ汎用的なネットワークの実現により、いくつかの装置について大規模な経済性を実現するとともに、機能分離(ディスアグリゲーション)された構成要素のオープンな市場を創出することを目的としています。第1回目の実験では、CANDIが選定したアーキテクチャやオープン技術、各技術をつなぐオープンなインタフェースに従い、電気通信トラフィックを制御する転送技術とデータを送信する伝送技術が統合されたネットワークを構築することに成功しました。

NTTが取り組む技術

シリコンバレーに端を発した通信技術のオープン化に向けた取り組みは、ハードウェアとソフトウェアの分離を可能にすることによってネットワークオペレータの自由度を拡大するとともに、Open Compute Project(OCP)やTIP等を通して新規企業参入を促し、通信機器に革新をもたらしています。NTTはOCP等のオープンハードウェアを活用したMSF(Multi Service Fabric)の研究開発に2014年から着手し、ハードウェア・ソフトウェアの分離とそのアーキテクチャ設計、およびシステム化を推進してきました。MSFは、ホワイトボックススイッチを含む汎用品を最大限に活用したアーキテクチャとソフトウェアベースのコントロール技術、さらに自律分散型のクラスタ設計が特徴であり、これらは従来のSDN技術に対して通信キャリアの求めるサービス信頼性とサービス開発の柔軟性を向上させる技術です。さらにベンダによる機能実装を促進すべく、2016年からは、オープンインタフェースを活用した、ホワイトボックススイッチ制御用の装置内蔵型のソフトウェア(Network OS)「Beluganos®」の開発を世界に先駆けて開始しました(図1)。
そしてNTTは、転送分野におけるオープン技術の促進と、キャリア要件のマルチベンダでの反映によるベンダロックインの回避をめざし、2017年からは、MSF/Beluganos®双方のオープンソース化を推進しています。併せて同年、台湾大手キャリアの中華電信股份有限公司(中華電信)のオーケストレータとコラボレーションした共同実験において、MSFおよびBeluganos®がホワイトボックススイッチの機能を最大限に引き出し、キャリアで必要とされるサービス継続性・信頼性を担保する転送機能の構築が可能であることを実証しました。

図1  MSFおよびBeluganos®で取り組む技術領域

本実験の内容と各社の貢献

本実験ネットワークは、CANDIがオペレータ5社で策定したドラフトアーキテクチャに沿ってNTTとTelefónicaがそれぞれレファレンスモデルとなる構成技術を提供しました(図2)。
NTTは、本実験ネットワークの転送機能として、MSFおよびBeluganos®を提供しました。Beluganos®はホワイトボックススイッチのオープンインタフェースを制御するとともに、上位向けインタフェースとして、昨今標準化が進むNetconf/Openconfigを実装しています。一方MSFは、Beluganos®を含む異なる3種類のネットワークOSをそれぞれ搭載したホワイトボックススイッチ群を、コントローラが1つの転送装置として管理制御し、さらにBeluganos®に対してはNetconf/Openconfigによる制御を実現しています。Telefónicaは、転送制御と伝送制御双方を兼ね備え、Netconf/OpenconfigやTransport-API(TAPI)等のオープンな標準インタフェースベースのマルチレイヤコントローラを提供しました。また、構成技術の実装に必要な装置類についてはTIPに参画するベンダと協力しています。さらに、伝送機能の実装については、外部連携するオープンコミュニティOpen Network Foundation(ONF)で伝送技術を牽引するOpen and Disaggregated Transport Network(ODTN)、および欧州で伝送技術を牽引するMetro-Haulが協力しています。
第1回目の実験では、CANDIで策定したキャリアのユースケースのうち、“Multi-layer provisioning(転送・伝送機能の同時制御)”と“Partial replacement(部品化されたアーキテクチャの部分的な更改)”に基づく制御について実験を行い、転送装置と伝送装置双方の統合パス設定と転送装置のOS入れ替えを行いました。

図2  第1 回共同実験のネットワーク構成

本実験の成果

本実験により、キャリアで必要とされるユースケースをオープンな伝送・転送技術で実現可能なことを示すとともに、マルチベンダ接続における課題を明確化し、これらの結果をホワイトペーパー化し公開しました。本共同実験は、これまでにない、キャリア共同で技術要件を示すエコシステムの始動となりました。本取り組みを通じ、TIP CANDIにおいて各キャリアが提唱するユースケースの実現性立証を開始するとともに、最終的なすべてのユースケースの実現のための機能、スケーラビリティや運用等の課題明確化を推進していきます。

今後の展開

今後もTIP CANDIにおいて年2回の実験にて実現性と課題抽出のサイクルを回し、キャリアのユースケースの実現に必要な技術の発展の推進に貢献していきます。機能分離技術の優位性を最大限に活かし、ベンダロックインを回避するとともに、キャリアが必要な最新技術をいち早く、サービスに影響を与えることなく利用できるネットワークを実現し、ユーザがより良い多様なサービスを早く安価に享受できる通信サービスの実現に貢献していきます。

問い合わせ先

NTT情報ネットワーク総合研究所
企画部 広報担当
TEL 0422-59-3663
E-mail inlg-pr-pb-ml@hco.ntt.co.jp
URL https://www.ntt.co.jp/news2019/1910/191016b.html

パートナー紹介

オープンかつインテリジェントなクラウド対応トランスポート網の実現に向けた取り組み

Óscar González de Dios

Telefónica I+D global CTO

Telefónicaはここ数年、FUSIONというプロジェクトにおいて、お客さまの転送要件を実現すべくIPおよび光伝送網の高度化に取り組んできました。しかし、ベンダ独自のソリューションにすべて依存する現行のアプローチは、新たな機能やイノベーションの導入に遅れが生じます。運用支援システム間のインタフェースもnon-programmable/closedな独自仕様のものであるため、同様の課題が存在します。
そこで現在、Telefónicaはコア網やメトロ網そしてバックホール領域についてのSDNベース制御を実現するネットワークモデル“iFUSION”の定義に取り組み、さらに「ネットワークのソフトウェア化」を実現すべく、インタフェースやサービスモデル等については標準的な技術、特に業界内でより成熟したものを選択・活用しています。
また、光伝送網のように単一ベンダで構成されたネットワークモデルは、運用的には非常に有効ですが、他ベンダの新たな伝送技術の迅速な導入を妨げます。パケット転送についても、ハードウェアとソフトウェアが現状一体であるためルータの容量、機能そして動作が密に関連しており、やはり新たな技術の迅速な導入が困難です。これを踏まえ、光伝送網の部分的な部品化やIPルータの汎用化/ホワイトボックス化を促進する“OpenFUSION”プロジェクトもTelefónica内部で推進しています。
そしてTelecom Infra Projectでは、TelefónicaはNTTとともに、CANDIを主導し、通信業界のオープン化を促進しようとしています。CANDIは、オペレータにとってオープンなネットワークソリューションを開発し、業界を牽引するのに最適な場です。私たちは今後も、実証実験等の活動を通じ、オープンな標準インタフェース、IP/光統合制御、そして部品化アーキテクチャにより通信事業者のユースケースを実証していきます。

 

研究者紹介

オープン技術によるネットワークの実現に向けて

山口 秀

NTTネットワークサービスシステム研究所
ネットワーク伝送基盤プロジェクト IPフロー制御装置DP

サーバ仮想化技術のような自由な選択・運用ができる世界をネットワークの世界でも実現することをめざして、NTTネットワークサービスシステム研究所ではMSFやBeluganos®を研究開発し、オープン化することで高い柔軟性と信頼性を持つネットワークの実現を推進してきました。そんな中、TIPにてNTTの活動が賛同を得られ、オペレータどうしでユースケースやアーキテクチャを議論し、機能分離とオープン化を推進するサブグループを設立しました。コミュニティ運営も海外に機材を持ち込んでの共同実験も経験のない中で、コミュニティ推進のためオペレータ5社との技術議論と事務局運営を並行して行い、さらには共同実験に向けた詳細検討や環境構築も同時に進めていました。共同実験では自らスペインのTelefónica研究所に赴きOscarやその同僚、さらにはベンダや他コミュニティとも協力して環境を構築し実験を遂行しました。時差や言語の壁だけでなく各社の事情もあり、議論や予定が合わずにプロジェクトが思うように進まないこともありましたが、議論内容や時期感の整理等をしながら各社と共通の要件や課題認識を得ることができ、大きな成果が得られたと感じています。
今回の共同実験の結果を複数オペレータ共通の要件として発信することで、多くの方々の関心を得ることができ、大きな訴求力があることを実感しました。今後も多くの立場の方々を巻き込んで共に活動することで、より良いネットワークの実現をめざして頑張っていきたいと思います。