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Focus on the News

世界最高速の帯域100 GHzを超える直接変調レーザを開発

NTTは、東京工業大学(東工大)と共同で、高熱伝導率を持つSiC基板上にインジウムリン系化合物半導体を用いたメンブレンレーザを開発しました。直接変調レーザとして世界で初めて3dB帯域が100 GHzを超え、毎秒256ギガビット(2560億ビット)の信号を2km伝送できることを確認しました。
直接変調レーザは、現在、データセンタで広く使用されていますが変調速度に限界があり課題とされてきました。本成果を用いれば、今後予想されるトラフィックの増大に低コスト・低消費電力に対応でき、また本技術の研究開発を進展させることで、NTTが提唱するIOWN(Innovative Optical and Wireless Network)構想を支える大容量光伝送基盤の実現に貢献していきます。
本成果は、英国時間2020年10月19日に英国科学雑誌「Nature Photonics」のオンライン速報版で公開されました。

■研究の成果

これまでNTTでは、レーザの変調速度を制限する緩和振動周波数を増大するために活性層の光閉じ込め係数に注目し、熱酸化膜(SiO2)付きシリコン(Si)基板上にメンブレン(薄膜)レーザの開発を行ってきました。メンブレンレーザは活性層の光閉じ込め係数が大きく小型という特長から、低消費電力な直接変調レーザが実現できます。一方で、熱伝導率の小さなSiO2上に素子を作製していることから電流注入に伴う活性層の温度上昇が大きいため、電流量を増やしたときに活性層の利得の飽和により緩和振動周波数は20GHz程度で飽和していました。
今回、活性層での発熱を抑えることを目的にSiO2の約500倍の高い熱伝導率を持つ炭化ケイ素(SiC)基板上にインジウム燐(InP)系メンブレンレーザを作製しました。SiCはInPと比較して屈折率も小さいことから、光閉じ込め係数もSiO2上の素子とほぼ同等です。SiCはInPの集積には、極薄膜(40ナノメートル)のSiO2を間に挟んだ直接接合を用いました。100 mWの発熱源を仮定した計算では、活性層長50ミクロンのメンブレンレーザの活性層の温度上昇は、SiO2膜厚が2ミクロンから40ナノメートルになった場合、130.9度から16.8度に大幅に削減されることが分かりました。実際に作製した素子では、緩和振動数が最大値となる電流値はSiO2上の素子では5.5 mAでしたが、今回の作製した素子では30mAまで大きくすることができ、世界最高の緩和振動周波数42 GHzと3dB帯域60 GHzが得られました。
さらに、出力導波路端面からの光フィードバックを用いて、フォトン-フォトン共鳴が95GHz付近で起こるような素子を設計しました。その結果、3dB帯域108GHzを得るとともに、毎秒256ギガビット(2560億ビット)のPAM(Pulse Amplitude Modulation)4信号の生成、および2km伝送に成功しました(図)。

■今後の展開

伝送容量が1テラビットを超えるような次世代イーサネットの規格に4つあるいは8つのアレイで対応可能な送信機の実現などが期待されます。低消費電力化が同時に実現できることにより、今後懸念されるデータ量の増加によるデータセンタやスーパーコンピュータの消費電力の増加を削減することも期待されます。将来的にはNTTが提唱するIOWN構想に向け、光を中心とした革新的技術を活用し、これまでのインフラの限界を超えた高速大容量通信の実現をめざします。

問い合わせ先

NTT先端技術総合研究所
広報担当
TEL  046-240-5157
E-mail  science_coretech-pr-ml@hco.ntt.co.jp
URL  https://www.ntt.co.jp/news2020/2010/201020a.html

研究者紹介

低消費電力な光通信技術の実現をめざして

松尾 慎治
NTT先端集積デバイス研究所 機能材料研究部

光ファイバ通信は大容量データを非常に小さな損失で運ぶことができるため現在の情報通信を支える基盤技術です。光ファイバ通信に最低限必要なデバイスは光ファイバに加え半導体レーザと受光素子です。したがって、半導体レーザを直接変調して信号生成する方式は、もっともシンプルな構成であり、そのためもっとも安く、低消費電力なことからデータセンタ内の光インターコネクションなどに広く用いられています。一方、半導体レーザの直接変調速度は、ここ30年ほど頭打ちの状態でしたので、この限界を打破することは研究者にとって大きな夢であるばかりでなく、それを利用する人たちにとっても大きなメリットを生むことになります。
今回、東京工業大学の小山教授が検討されている光フィードバックによる高速化の効果とNTTで開発しているSiC上の高速なメンブレンレーザ技術を融合することで、従来の約2倍の高速化を実現できました。共同研究はお互いの持つ技術を持ち寄ることで、短期間で良い成果に結びつけることができるということを実感できました。今後とも、大学の持つ高い基礎技術を積極的に活用し、より良いデバイスの研究開発を行い、最終的には安価で低消費電力な光ネットワークの構築に貢献できればと考えています。