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特集 主役登場

超レジリエントスマートシティの実現に向けたNTT宇宙環境エネルギー研究所の挑戦

環境負荷ゼロのエネルギーネットワークをめざして

花岡 直樹
NTT 宇宙環境エネルギー研究所
研究主任

近年、自然災害が激甚化・頻発化しており、被災地域を中心に自然災害への対応力の向上(レジリエンス)が重要となっています。また、地球環境への配慮やエネルギー自給率の向上を目的として太陽光発電や風力発電などの再生可能エネルギー(再エネ)の導入拡大が求められています。NTTグループでは、2020年5月に環境エネルギービジョン「環境負荷ゼロ」を策定し、NTTグループ全体で再エネ利用の割合を2030年度までに30%以上に引き上げることを掲げ、さらには地球環境の再生と持続可能かつ包摂的な社会の実現に向け、革新的な技術を創出することをめざしています。
このビジョンを実現するため、NTT宇宙環境エネルギー研究所の環境負荷ゼロ研究プロジェクトでは、「エネルギーネットワーク技術」「次世代エネルギー技術」「サステナブル技術」を3本柱として研究しています。この中で私たちは、「エネルギーネットワーク技術」における、双方向直流マイクログリッドの実現に向けた研究を進めています。私たちの考える双方向直流マイクログリッドとは、NTTの通信ビルで培った通信機械室向けの直流給電技術を強みに、再エネによる発電システムと蓄電池を備えた通信ビルと避難所双方の電気設備を通信・電力線で接続した直流給電システムのことです。実現すれば、平時は再エネによる電力の地産地消が可能となり、大規模災害時に停電が長期化したときは通信ビルから避難所に電力を供給することが可能となります。
双方向直流マイクログリッドを実現するために、中でも重要な課題は、自然災害や人災による、火災や感電の重大事故の発生を未然に防ぐための安全なシステムを構築することです。重大事故を引き起こす主な要因には、「屋外直流配線における短絡(ショート)・地絡」および「屋外直流電気設備への直撃雷・誘導雷」があります。
私は特に「屋外直流配線における短絡・地絡」について、事故時に流れる大電流を安全に遮断する技術開発に取り組んでいます。屋外直流配線の長さは屋内と異なり、時には数kmに及びます。配線自身のインピーダンスの変化に応じて、事故点に流れ込む電流も大きく変化するため、屋内の電流遮断技術をそのまま適用することができません。さらに、電気通信事業に求められる高い信頼性と電気事業に求められる高い安全性を両立することが必要です。そのため、NTTグループ会社をはじめ業種の異なるさまざまな企業、大学、自治体と意見交換をしながら、新しいエネルギー供給のあり方について検討を重ねています。
私は、これらの研究を積み重ね、将来的に高い信頼性と安全性を兼ね備えた双方向直流マイクログリッドを社会実装につなげたいと考えています。そのために環境や経済の側面を含む多面的な観点から技術の開発を継続していきます。NTTグループのスマートエネルギー事業を支えることを通して、環境負荷ゼロの安定したエネルギーネットワークを実現し、1人ひとりが自然とともに安心・安全に暮らせる社会づくりに貢献していきたいと考えています。