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「核融合炉の最適オペレーション技術」「宇宙太陽光発電」

2020年7月に発足したNTT宇宙環境エネルギー研究所。地球環境の再生と持続可能かつ包摂的な社会の実現に向け、次世代エネルギーを含めたスマートエネルギー分野に革新をもたらす技術と、地球環境の未来を革新させる技術の創出とを目的とした新たな研究所です。今回は環境負荷ゼロ研究プロジェクトの研究のひとつ、次世代エネルギー技術グループを率いる秋山一也グループリーダにお話を伺いました。

秋山 一也 グループリーダ
NTT宇宙環境エネルギー研究所

PROFILE

1997年NTTに入社、環境エネルギー分野の研究に従事(うち2009年~2013年はNTT西日本技術革新部に出向)。2015年株式会社エネット・経営企画部長に就任。2017年NTT技術企画部門にて、合弁会社立ち上げなどに携わる。2018年NTTファシリティーズにて、ソリューション開発や販売などに携わる。2020年7月宇宙環境エネルギー研究所 環境負荷ゼロ研究プロジェクト 次世代エネルギー技術グループ グループリーダに就任。

宇宙環境エネルギー研究所とは

◆宇宙環境エネルギー研究所について教えてください。

もともとNTTには「環境エネルギー研究所」という研究所があり、NTTの通信ビルの省電力化、電柱や電線といった通信設備の長寿命化などに取り組んできました。その後、事業会社と一体になってR&Dに取り組もうということで環境エネルギー研究所は2015年春に廃止となりました。それから5年を経て、NTTグループという狭い視野ではなく、地球全体の未来を変えようという壮大な目的で、まったく新規で次世代エネルギーを含めたスマートエネルギー分野に革新をもたらす技術の創出と、地球環境の未来を革新させる技術の創出をめざした宇宙環境エネルギー研究所が2020年7月に発足しました。
研究所内には「環境負荷ゼロ研究プロジェクト」および「レジリエント環境適応研究プロジェクト」の2つのプロジェクトがあります(図1)。
「環境負荷ゼロ研究プロジェクト」は、これまでのNTTグループの研究所ではあまり扱わなかったテーマを扱おうというプロジェクトで、次世代エネルギーの活用技術を研究する「次世代エネルギー技術グループ」、仮想エネルギー流通基盤技術を研究する「エネルギーネットワーク技術グループ」、CO₂変換技術や環境負荷低減技術を研究する「サステナブルシステムグループ」の3グループで構成されています。
一方、「レジリエント環境適応研究プロジェクト」は、少し毛色の違ったプロジェクトで、ESG経営リスクマネジメント技術を研究する「ESG経営科学技術グループ」、環境適応リスクマネジメント技術を研究する「プロアクティブ環境適応技術グループ」の2グループで構成されています。
私が属する「次世代エネルギー技術グループ」は、圧倒的にクリーンかつ無尽蔵なエネルギー源の創出テーマとし、「核融合炉の最適オペレーション技術」と「宇宙太陽光発電」の2つの研究テーマに取り組んでいます。

◆「核融合炉の最適オペレーション技術」について教えてください。

核融合というと「原子力発電所とどう違うのですか」と良く聞かれます。原子力発電所で使われている技術は核分裂で、ウランのような重い原子が分裂するときに放出されるエネルギーを取り出すものです。
一方、水素のような軽い原子どうしが融合するときに放出されるエネルギーを取り出すものが核融合です。核分裂が放っておくと連鎖反応により際限なく続くのに対し、核融合では原子を非常に正確にコントロールしないとすぐに止まってしまいます。
現在、平和目的の核融合エネルギーが利用可能であることを実証するため、人類初の核融合実験炉を建設運転しようとする超大型国際プロジェクト(ITER計画)が日本・欧州連合(EU)・米国・ロシア・韓国・中国・インドの7極により進められています(図2)。
核融合実験炉ITERで核融合を起こすには、まずドーナツ状の磁場の中に燃料となる重水素、三重水素を閉じ込めてプラズマ状態にし、1億5000万度まで加熱します。ここからエネルギーを取り出すにはプラズマを長時間安定的に発生させる必要がありますが、そのためには核融合炉から得られる膨大なデータをコントロールセンターに転送し、そこで最適な数値を計算し瞬時にフィードバックする必要があります。その実現には制御ネットワークのさらなる高度化、低遅延化が不可欠となりますが、そこにNTTが現在研究開発を行っているIOWN構想のオールフォトニクス・ネットワークやディスアグリゲーテッドコンピューティングなどが貢献できるのではないかと考えています。
また、将来的にはデジタルツインコンピューティングを活用し、サイバー空間上に核融合炉をリアルに再現することで、高度なシミュレーションや未来性能予測によりさらなる制御技術の向上にも寄与する計画です。
現在は2025年のファーストプラズマ達成に向けて、IOWNが貢献できないか検討を進めています。

◆「宇宙太陽光発電」について教えてください。

「宇宙太陽光発電」は、地上36000キロ上空の静止衛星軌道上で太陽光発電を行い、そのエネルギーを地上にレーザーやマイクロ波で送りとどけ、再度地上で電力などのエネルギーに変換するという構想です。静止衛星軌道上では、ほぼ24時間365日太陽からのエネルギーを受けることが可能なうえに、地球の大気によるエネルギーの吸収や散乱の影響を受けないことから、地上と比較し単位面積当たりで約10倍のエネルギーを安定して受けることができます。我々はマイクロ波よりも波長が3~4桁ほど短いため、ビームの広がり角が小さく長距離を伝送させやすいという観点を重視し、レーザーによるアプローチを試みています。
技術要素としては大きく分けると3つあり、1つめは太陽のエネルギーを効率よくレーザーに変換する技術、2つめはレーザーを地上のターゲットに正確に照射する技術、そして3つめは宇宙から届いたレーザーを効率よく電気に変換したり、電気以外の形態に変換して効率よく蓄えたりする技術です。
1つめの技術については、太陽光の各波長成分をシフトさせ、単色、つまり特定の波長のレーザーに変換する「スペクトルシフトレーザー技術」を検討しています。太陽光を直接レーザーに変換できるため、高い変換効率が期待できます。
また、宇宙から地上に送るレーザーは、非常に長い距離を大気の揺らぎなどを取り除いた上で、高いエネルギー密度で伝送させる必要があります。そこで、2つめの技術については焦点深度の深い光学系を活用する方式や、いくつものビームを重ね合わせることによってエネルギー密度を高める方式を検討しています。
3つめの技術については、通常はエネルギーを電力に変換する場合には太陽電池を利用しますが、我々の身近にある一般的な太陽電池の変換効率はおおよそ20%しかありません。残りの80%は表面で反射や透過などによって熱として失われています。そこで単色のレーザー光を効率よく変化する素子の研究に加えて、熱化学反応や触媒を用いていったん水素やアンモニアといった違う形態にエネルギーを蓄える方法についても検討を行っています。この技術は水素社会を実現するためのキーにもなりうるのではないでしょうか。

宇宙環境エネルギー研究所はまだ発足したばかり

◆今後の展開についてお聞かせください。

ITER計画では、ファーストプラズマが2025年、本格的な試験開始が2035年に予定されています。商業的にペイするかどうかの検討はそのタイミングで行われ、実用化されるのは2050年以降になるでしょう。
現在は核融合炉の最適オペレーションの実現に向けて研究開発を行っていますが、最難関のここでしっかりとIOWN技術のユースケースを創っておけば、超高速で低遅延のネットワークを使って機器をリアルタイムで制御する技術や、大容量のデータを高速で処理してデータを伝送する技術は他の産業や分野にも適用可能だと思います。
「宇宙太陽光発電」も同様で、現在は21世紀中頃の実現が目標とされています。こちらも数十年を要する非常に気の長い話です。そのため、研究で得られた成果を早めに切り出し、社会に貢献することを考えています。
例えば最終的には36000キロの伝送を目指しますが、一足飛びにそこを目的とするのではなく、それよりも短い距離で、例えばドローンや自動車などの移動体にレーザーを照射してエネルギーを伝送する技術、また災害時にNTTの通信ビルから被災地の公民館や避難所などに向けてエネルギーを伝送する技術への転用などが考えられるでしょう。

◆NTTの強みはどのような点にあるとお考えでしょうか。

私がNTTグループの研究所について面白いな、と感じる点は、色がついていない、特定の分野に偏っていないということです。
NTTは通信産業を担う会社ですが、研究分野は通信に限られておらず、エネルギーサイエンスやコミュニケーションサイエンスなどさまざまな研究を行っています。そのため、いろいろな分野の専門家が身近にいて議論をすることができます。我々もネットワークに関しては情報ネットワーク総合研究所、情報処理で言えば先端技術総合研究所やサービスイノベーション総合研究所などの各研究所をはじめ研究企画部門などとも連携し、まさに「オールNTT」体制で研究にあたっています。
また、エネルギー分野に革新をもたらす技術の創出、地球環境の未来を革新させる技術の創出という非常に高いビジョンを掲げていることもあり、フラットな立ち位置で研究に臨めるということがNTTの強みではないかと思います。

◆研究者、学生の方へメッセージがあればお願いします。

現在、宇宙環境エネルギー研究所はまだ発足したばかりですし、新しい分野へのチャレンジですので、我々にスキルやノウハウが足りないところも多々あります。通信だけでなく、核融合や宇宙分野を専門とする方などが必要です。そうした点を補うため、NTTグループに留まらず、さまざまな技術をお持ちの研究所、大学、企業の方と今後も積極的に連携していきたいと考えています。
今回のインタビューを通じ、少しでも興味を持たれた方がいらっしゃれば、ぜひ我々にアクセスして欲しいと思います。また、お話しした2つの研究テーマ以外でも、エネルギー分野に革新をもたらす技術についてアイディアがあれば、ぜひ宇宙環境エネルギー研究所の門を叩いてほしいと思いますね。この研究所ではそれをやれるだけのチャンスを得られると思いますよ。