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グループ企業探訪

第220回 NTT DATA Asia Pacific Pte. Ltd.

NTTデータグループのグローバル戦略の推進役としてアジア・パシフィック地域を統括する

NTTデータは、グローバル戦略として「グローバルデジタルオファリングの拡充」「リージョン特性に合わせたお客さまへの価値提供の深化」「グローバル全社員の力を高めた組織力の最大化」の3点を掲げた。NTT DATA Asia Pacific Pte. Ltd. はこの戦略の推進役としてアジア・パシフィック地域(APAC)を統括している。APACにおける戦略展開、事業展開について土橋謙President & CEOに話を伺った。

NTT DATA Asia Pacific 土橋謙President & CEO

APACのお客さまにNTTデータグループのソリューションを提供するための統括・支援会社

設立の背景と目的について教えてください。

NTTデータは、2012年以降、グローバルオペレーションをより一体的・効率的に推進するための運営体制の構築と、顧客への迅速なサービス提供を実現する仕組みの構築、さらには海外地域における「NTT DATAブランド」の強化などを目的としたグループ会社の統合・再編を行ってきました。こうした動きの中アジア・パシフィック地域(APAC)においては、2012年7月にシンガポールに地域統括会社としてNTT DATA Asia Pacific Pte. Ltd. が設立され、その下に NTTデータ設立の現地会社やM&Aなどによりグループの一員となった会社が集結し、「NTT DATAブランド」で事業展開を行うこととなりました。APACでは、シンガポール、タイ、マレーシア、フィリピン、ベトナム、ミャンマー、インドネシア、オーストラリアでITコンサルティング、ビジネスインテリジェンス、アプリケーション開発・運用サービスなど、エンド・ツー・エンドのソリューションを提供しています。

事業概要についてお聞かせください。

当社は、APAC統括会社なので、APACにおけるガバナンスがメインの事業となります。グループとしては8カ国に13社があり、その中にはM&Aによりグループ会社となった、決済のような個別のサービスを提供する会社もありますが、各国の事業会社がそれぞれの国においてお客さまにソリューションを提供する、というのがAPACとしての事業の柱です。とはいえ、それぞれのエリアにおける事業会社からのレポートをモニタして指導するだけでは、APAC全体のビジネスを拡大していくことはできないので、マーケティングやビジネスコーディネーション等に関してお手伝いをすることも重要な業務です。
市場でデジタルシフトが進む中で、APACの市場としてみると、東南アジア諸国には多くの日系企業の工場が進出しており、それを含んで製造業が大きな産業となっています。しかし、生産管理のような工場独特の要素は、何十年も前から手掛けてきているのである意味出来上がった世界であり、そこにはITに関する需要はそれ程大きくありません。一方で、例えばタイでは最近は日系の流通・小売業の会社が現地向けに商売を行っており、これが活況で投資意欲もあり、このような分野のIT需要は大きい傾向にあります。同様に、東南アジアでは自動車が売れてきている関係から自動車販売系も元気があり、そのほか、ローカルな銀行や保険会社のような金融、公共機関、テレコムといったところも、IT投資が盛んです。こうした元気のある業界をフォーカスインダストリーとして戦略化したうえで、それを各国の事情にチューンしながら、それぞれの国に根を下ろして事業を進めることができるような支援を行っています。
さらに、例えば中国の自動車販売に関するCRMの事例をタイの自動車販売会社にアレンジして持ち込むといったように、日本をはじめ、世界各地域のNTTデータグループの事例やAIやビッグデータのような商材を各国の事業会社へ水平展開するような取り組みも支援策として行っています。

プロジェクトマネジメントと人材育成で地域各国でトップ10入りをめざす

こうした取り組みが開花しつつあるといったところでしょうか。

当社が設立されて間もなく8年になろうとしていますが、その間の成長率はどうかというと倍々ゲームのように順調に伸びていったわけではありません。これまで各国個別独自に事業を任せてきており、身の丈に合った事業ということで、どうしても会社として何とかやっていけるだけの小規模なものとならざるを得なかったからです。そこから成長していくためにはそれなりの投資も必要で、また、地域統括会社として戦略を立てて、育成していく必要もあるということで、2年前から支援の取り組みを始めました。ただ、リソースにも限りがあるので、タイ、マレーシア、フィリピン、シンガポールを重点国として設定して、そこに対して人材や資金といったリソースを投入して事業基盤をつくっていこうとしています。おかげさまでこれらの国は10~15%くらいトップラインが成長し、人数も増えています。
トップラインを伸ばすためには、最初はセールスを中心に人材育成や各種施策を行い、それを各社にハンズオンして基盤をつくりますが、次に来るのがデリバリです。重点国はひとまずは軌道に乗ってきたので、次はデリバリに注力しています。プロジェクトの規模も大きくなってくるので、デリバリをしっかりとしたものにしていくためには、プロジェクトマネージャ(PM)の力がその成否を左右するようになります。 PMについては人材豊富な日本から派遣します。さらにデリバリチームを当社の中に編成してそこにPMO(Project Management Office)をつくって、ある一定規模以上のプロジェクトを個別にモニタしながら、進捗遅延や予算超過等のアラームを早めに点灯・警告しながら、不足しているスキルやリソースの投入を行っています。各国の会社は体力がないので、統括会社としてこれをきめ細かくやらないとうまくいきません。特にPMについては、経験がものをいう部分も多く、これを繰り返していく中で、各国の事業会社にハンズオンしていきます。
重点国については、間もなく各社それぞれ独り立ちできるようになるので、並行して2020年からベトナムとインドネシアに範囲を広げようと思います。特にベトナムは、従来から日本向けのオフショアビジネスをしていましたが、そこはそのまま継続し、新たにローカルマーケットを開拓する方向へシフトしていくつもりです。ベトナムも財閥系の会社を中心にローカルマーケットが育ってきているので、そこをターゲットとしていくつもりです。ただ、これまでの取り組みと異なり、まだ高スキルのIT人材が育っていないので、ある程度ITのコーディングから始めて、少しSEの育成をしていかなければいけないと考えています。

今後の展開について教えてください。

2019年5月に発表された、NTTデータの中期経営計画では、グローバルの利益率を上げていくというのが1つの目標となっています。APACにおいては、現在各国におけるビジネスが自走できるよう立ち上げを行っている過程なので、しばらくはトップラインを伸ばしていくことを進め、その中でプロジェクトマネジメントをしっかりと行うことで利益率を確保していこうと思います。そのうえで、現在東京からの投資や人材等の支援をしていますが、2025年ごろにはそれらがなくても、マーケットでNTTデータという名前が広まり、IT業界の中でもある程度名の知られた会社として、それぞれの国で大手10本の指に入れる会社になりたいと思います。そこまでくると、アジア全体で中国を入れて1000億円くらいの規模のトップラインになると思いますし、米国市場、欧州市場のように、APAC市場という1つの大きな市場が形成されるのではないかと思います。

本コーナー初登場の海外の会社です。どのような雰囲気なのでしょうか。

当社には約20名のスタッフがおり、日本人をはじめ、シンガポール人、中国人、インド人、スリランカ人と、その出身もさまざまで、それぞれの文化も異なります。一方で、シンガポール人は多数が中国出身の人で構成されており、春節といわれる中国の正月(旧暦の正月)等をはじめ、中国の文化が変化してきた文化となっています。ビジネスのスタイルは欧州に近いところがあるかもしれませんが、社内の雰囲気は中国文化の基盤の上に、世界各地の文化が共存しているかのような感じです。例えば、春節の時期に、社員全員で昼食に行きました。中華料理を前に、中にはベジタリアンの社員もおりましたが、それぞれの文化的背景を越えて、現地の作法で新年を祝いました(ア・ラ・カルト参照)。まさに、中国的な文化の上に多国籍の文化がそれぞれ乗っている感じです。

担当者に聞く

日本やEMEA、北米等でNTTデータグループが持つ事例やソリューションをNTT Ltd. との連携でAPACに展開

Chief Digital Officer

村上 功修さん

担当されている業務について教えてください。

私はChief Digital Officer(CDO)として、NTTデータグループがグローバルで手掛ける、AI、ビッグデータ、ブロックチェーンといったデジタル系のソリューションやプロダクトをAPACに持ち込み、域内の各社に展開していくことがミッションです。
2018年7月に現職に着任したのですが、それまではAPACではどちらかというと、OracleやSAPのようなベンダプロダクトやERPパッケージ、AMO、その他のシステムインテグレーション等一般的にレガシーと呼ばれるビジネスを、インドをはじめとするオフショアリソースを活用して、お客さまに提供するビジネスをしてきました。ところが、APAC単体で従来のレガシーなビジネスを継続することや、既存顧客ベースのビジネスをそのまま継続するだけでは、早晩ビジネスが頭打ちになることが予想されたため、日本や欧州、米国等で持っているNTTデータグループのデジタル系ソリューション、プロダクトをAPACに持ち込むとともに、パートナーとの戦略的連携によりビジネス展開を図るスキームを構築してきました。
パートナーの選択にあたっては、大手ベンダや現地のSIer等とMeetingを繰り返す中で、シンガポールにAPACの本拠を構えるNTT Ltd. に着目し、連携を始めました。NTT Ltd. はマネージドサービス、データセンタファシリティ、サーバ・ネットワークインフラといった基盤系のビジネスを得意とする一方で、当社はその基盤の上で動作するアプリケーションビジネスを得意としており、お客さまに対して両社が補完関係にあること、さらにNTT Ltd. が持つグローバル企業やローカル企業をはじめとする強固な顧客基盤を活用できることは、これまで当社単独ではアプローチできていない顧客に対してもアプローチが可能となるため、非常に良好な関係を築けております。NTTグループは「One NTT」としてグローバル各地域の連携強化をめざしており、海外におけるNTT Ltd. との連携の成功モデルとしてパイロットになれればと思っています。

ご苦労されている点を伺えますか。

NTT Ltd. がお客さま案件のリードを取り当社へ照会が来ても、当社側にそれに対応できる商材や体制がなければビジネス連携はうまくいきません。そこで、NTTデータグループがグローバルで手掛ける、AI、ビッグデータ、ブロックチェーンといったデジタル系のソリューション事例や日本の技術開発本部や海外グループ会社のR&D部門等で開発したプロダクト、およびそれらの知見を集約し、案件への対応方針を検討し、各国の事業会社へのセールス、プリセールス支援やPMの派遣・教育、それに付随するお客さまへのヒアリングシートやテンプレートのような標準ツールの作成、デリバリ体制を構築するためのチームであるDigital CoE(Center of Excellence)を2019年に立ち上げ、活動が軌道に乗りつつあります。それに伴い活動規模、活動範囲ともに拡大してきています(図)。
NTT Ltd. との連携開始当初は、お互いの企業文化やビジネスの進め方の違い、対象ビジネスの違いによる知識レベルの相違で苦労することはありましたが、お互いに理解を深めていく中で仕組みが出来上がってうまくいくようになってきました。一方、連携ビジネスが拡大するに伴い、両社のAPAC地域における対象国等の相違により、連携できないパターンが出てきました。NTT Data Asia PacificのほうがNTT Ltd. APACよりもカバーする国が狭いので、例えばNTT Ltd. からもたらされる中国の案件は、中国のNTTデータの組織へ引き継ぐかたちで対応しています。
また、当社も以前からAPACでビジネスをしており、顧客が両社で重複・競合している場合や、ビジネスの対象領域が異なるとはいえ同じお客さまへの対応が必要となり競合している状態になってしまう場合があります。こうした場合は、両社のうちどちらがプライムを取るのか、双方でマージンをどうシェアするのか、といった調整をDigital CoEが中心となって実施します。
両社の連携は、地域レベル/国レベルでそれぞれ体制を構築し、各国で発生する課題で解決できないものなどは、地域レベルで実施している四半期単位のExecutive Meeting(Quarterly Business Review)の中で解決を協議したり、パイプラインの状況確認、注力国、注力商材の選択などを協議しています。さらにAPAC各国を回って、お互いの得意分野や実績をセールスのメンバに紹介するワークショップを開催しそこから案件リードにつなげる、また、お客さまとの打ち合わせにも同席するなどの活動も行っています。

図 APACにおけるDigital CoEの立ち上げとNTT Ltd.連携

今後の展望について教えてください。

現在のAPACの売上はまだまだレガシーシステムがメインですが、少しずつDigitalに関連する売上もたち始めています。今後はその比率を上げていくことでAPAC全体のビジネス拡大を図っていくために、NTT Ltd. との連携やデジタルCoEによる支援といった取り組みを継続していきます。また、NTT Ltd. だけではなく、各ベンダとも連携を強化してさらなるビジネス拡大も図っていきたいと思います。このDigital CoEの取り組みは着手してからまだ1年ほどと間もないところでもあり、しばらくはこれを続けていきます。ただ、現在は、Digital CoEが主体となって戦略立案、各案件のリードからデリバリまでの仕組みづくりを行っていますが、基本的には各国の事業会社が立てた戦略に則り、そこに対してDigital CoEが事例づくりや紹介、各国のプリセールス要員教育、PMやエンジニアの育成というかたちで支援するような位置付けに変わっていくことが必要だと考えています。そうすることにより、APACのビジネスを今のものから2倍、3倍にすることができると思います。

NTT DATA Asia Pacific ア・ラ・カルト

旧正月のお祝いランチ

シンガポールは多様性のある社会で、NTT DATA Asia Pacificにもさまざまな国・地域、宗教を持つ人が、お互いを尊重し合いながら一緒に働いています。2020年の旧正月のお祝いとチーム内の交流を兼ねたランチ会(写真1)では、旧正月の定番料理である「魚生(ユーシェン)」と呼ばれる縁起の良い食材を集めてサラダのようにした食べ物を、皆で一斉に箸で掴んで高く持ち上げつつ、願い事言い、豪快にかき混ぜられた後は皆で食べる、といった現地の風習で行ったそうです。

写真1

チャリティラン

「Run Because We Care」をスローガンに、NTTファシリティーズのグループ会社、PRO-MATRIXが主催するチャリティランイベントが2019年10月に開催されました(写真2)。イベントで集まった寄付金が全額、自閉症の子どもたちの学校に寄付されます。総勢100名以上のシンガポール内のNTTグループ関係者が参加する中、NTTデータからはNTT DATA Asia PacificとNTT DATA Singaporeから合わせて約30名の社員が参加し、シンガポール市内を4kmまたは9km、CSRの一環として走ったとのことですが、チームビルディングやチーム間の交流としても機能したそうです。グローバル企業NTT、国は変われど同じような活動をしていますね。

写真2