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from NTTデータ

アジリティ高い組織経営を実現するための6つの奥義(Key Success Factor)

日々変化する顧客ニーズや新型コロナウイルス感染症等の不測の事態に対して、迅速に対応するためにアジリティの高い組織運営がますます求められています。一方、大企業の組織構造は「階層型」が一般的であり、階層型の組織の意思決定は遅く、「横」のつながりも希薄であり、価値の提供スピードという観点で課題があります。ここでは、大規模な組織でも変化に迅速に対応できるアジリティの高い組織運営を実現するための6つの奥義(Key Success Factor)を紹介します。

組織変革ニーズの高まり

「VUCA」の時代、つまり「未来が予測不可能な時代」に突入したことで、企業にとって「変化にどれだけ俊敏に対応できるか」ということが、非常に重要になってきました。企業は顧客・社会の課題を解決するための仮説となるプロダクトやサービスを繰り返し市場に提示し、データに基づいて顧客・社会の反応を把握しながら、迅速にプロダクトやサービス、あるいはその提供体制にフィードバックし続ける必要があります。従来の組織・体制、やり方では限界を感じている企業も多く、さまざまな企業で変化に適応する能力、組織運営のアジリティ向上のための組織変革が求められています。そこで、活用されているのがアジャイルの考え方です。従来は開発のプロセスを指すことが多かったキーワードでしたが、考え方を企業の営みや経営まで対象としてアジリティを向上させていくことが強くなってきています。アジャイル開発からアジャイル経営へ、といわれることも多くなっており、McKinsey&Companyが実施した『McKinsey Global Survey(ビジネスリーダー2,500人への調査)(1)』によると、回答者の75%の優先事項のトップ3に「組織のアジャイル化」が入っていることが報告されています。

顧客の抱えている課題・ニーズ

デジタルトランスフォーメーション*1(DX)推進の波が加速していく中で、顧客の抱えている課題・ニーズは多岐にわたります。“2025年の崖”(2)*2に代表される既存システムの課題や新規ビジネス・サービスの創出、組織のアジリティ向上に向けた仕組みづくり等の課題があり、各企業でDXがなかなか進まないという状況は経済産業省が2020年12月に公表した『DXレポート2』でも報告されています(3)。各企業の動向や案件状況を分析した結果、DX推進に向けた顧客の抱えている課題・ニーズは、図1のとおり7つのシナリオに大別されると考えています。
図1の7つのシナリオに対して、顧客の経営課題全体をとらえて、優先度が高いものから一気通貫で総体的に支援し、顧客と一緒にビジネスをつくり上げていくことが求められています。また、これからのデジタル時代を生き抜くためには、プロダクト・サービスを提供する「スピード」が最重要であり、この「スピード」を最大化できるような組織・チーム構造を築くことが求められています。

*1 デジタルトランスフォーメーション:企業がデータとデジタル技術を活用してビジネスモデルやプロセス、組織、企業文化等を変革し、競争上の優位性を確立すること。
*2 2025年の崖:経済産業省が公表した『DXレポート』で記載されている既存システムの老朽化や肥大化・複雑化、ブラックボックス化等の問題。

アジリティ高い組織経営を実現するための6つの奥義

本記事では、主に「DXに資する組織変革」というシナリオにフォーカスして、アジリティ高い組織経営を実現するための6つの奥義を紹介します。
① マインド:「アジャイルマインド」を持った組織にすることで、チームごとに素早く、かつ効率的に戦略・人材・プロセス・技術を形成できるため、市場の変化に迅速に対応できるだけでなく、全員の向かう方向性や目的が非常に明確となり、組織の安定性を保つことが可能となります。そのため、上位層から現場社員まで以下に示す「アジャイルマインド」を十分に浸透する必要があります。
・「現状維持」のマインドセットから「成長」へのマインドセットへと転換
・リーダーはリーンな思考方法*3を習得し自ら実践、チームメンバーの手本に
・リーダーは変革の指導者として、変革ビジョンの提示、肯定的な動機付け、必要な組織内の連携と権限移譲、心理的安全性の担保を推進
・リーダーはチームの自己組織化のため、指示型ではなく支援型マネジメント
・チームメンバーは常に複数選択肢を持ち、さまざまな変化に柔軟な対応が必要
② プロセス:顧客ニーズの変化が激しいビジネス環境に適したプロセスとして当社が注目しているのがScrum*4およびScaled Agile FrameworkⓇ(4)*5(SAFeⓇ)です。SAFeⓇはScaled Agile Inc.が提供しており、NTTデータはGlobalパートナーを締結しています。まずはScrumを実行できるチームを構築し、実際のプロジェクトを通して小さな成功を積み重ね、アジリティを損なわずチーム数をスケールさせ、経営活動としっかりと同期を取りつつ価値をつくり上げていきます。
③ ツール:継続的に価値検証していくためには、コミュニケーションツールを含むDevOps*6環境と、エンドユーザからのフィードバックを基に、早いサイクルで改善し続けるためのデジタルプラットフォーム(クラウド・ファースト*7、マイクロサービス*8、完全自動化等)が必要となります。当社は、これらを実現するためのツール・プラットフォームを用意しており、最新の技術を積極的に取り込み、さまざまな外部サービスとの連携も可能とした基盤技術を利用し、短期間で安心・安全に価値検証・サービス提供を実現することができます。
④ ルール:DXを推進していく中での足かせや、社員のやる気の阻害要素となっている既存ルールを速やかに改定し、ガイドラインを提示、社内規定変更への働きかけを実施し、組織全体に浸透させていく必要があります。プロダクト・サービスの開発速度を高めるためには、意思決定の速度も最大化する必要があり、エスカレーションによる遅延を避けて、その場で判断を下せるように、意思決定・権限移譲のルールを整備する必要があります。
⑤ ロール:従来のシステム開発で定義されているロールとは別に、デジタル時代に必要とされるロール・人材像を定義し、研修等を通してその人材を育成し、体制を整備する必要があります。組織全体での大規模な変革には、高度な技術者が必要となるため、高度な技術者を社内外から集約させてモチベーション向上を図り、戦略的な調達と組織化を行う必要があります。また、チームをスケールする際は、縦ではなく横にスケールさせ、全体統制を取るチームを横串で配置するような組織のデザインが重要となります。
⑥ ガバナンス:①〜⑤の変革を着実に行うためには、ガバナンスが効いた体制・仕組みが必要であり、それにより組織運営の健全性や透明性、業務執行の効率性を確保できます。その実現方法の1つとして特区化があります。デジタル領域を特区化することで予算配分や関係組織のリソース配置(階層型とネットワーク型組織の融合)等を全体的に見直します。また、チャレンジできる場として新たなオフィスの開設や組織運営・チームパフォーマンスの可視化、人事評価の見直し等によりガバナンス強化につながります(図2)。

*3 リーンな思考方法:スモールスタートで価値ある最小のプロダクトを素早く提供しフィードバックをもらい改善していくこと(Fail First)。
*4 Scrum:アジャイル開発手法の1つでITシステムを反復的に開発するフレームワーク。
*5 Scaled Agile Framework:大規模なアジャイル開発手法の1つでSAFeと略され、システム開発だけではなく、経営・ビジネス領域を含みます。
*6 DevOps:開発 (Development) と運用 (Operations)を融合し、リリース頻度を向上させるためのソフトウェア開発手法の1つ。
*7 クラウド・ファースト:システム構築時にはさまざまなメリットを得られるクラウド利用を優先すべきという考え方。
*8 マイクロサービス:複数の小さなサービスをAPIによって連携させるアーキテクチャのこと。

DXに資する組織変革の事例

■事例1(社内企画型案件)

(1) 課題・ニーズ
高コスト構造、システム数の増加、複雑化となってしまっている既存システムを刷新するとともに、新規サービスを迅速に提供できるようにシステムの構造の見直しに加えて、組織運営の変革も行い、組織のアジリティ向上を実現したいという課題・ニーズがあり。
(2) 実施内容
① マインド:変革リーダーの下、研修等を通して「アジャイルマインド」の定着化を図り、全体戦略・方向性を社員全員に浸透させ、チャレンジ精神や成長へのマインドセットを醸成。
② プロセス:1-2チームでのScrumから開始し、既存組織と切り離して大規模アジャイルのPoC(Proof of Concept)を実施。Scrumチームを拡大した後SAFeを導入し、経営・ビジネス領域まで拡大。
③ ツール:パブリック・プライベートクラウドをハイブリッドに活用し、最新技術を取り入れ、高セキュリティでアジリティの高い環境を導入し、業務のデジタル化、作業効率化を促進。
④ ルール:SAFeに合わせて社内ルールを見直し、意思決定スピードの向上を実現。組織運営情報可視化基盤を構築し、戦略変更とリソース同期の速度向上を実現。
⑤ ロール:SAFeで定義されているロールやGoogleが提唱している専門職であるSRE/CRE(Site Reliability Engineering/Customer Reliability Engineering)の人材像を定義し、それに適した人材育成を実施、チームパフォーマンスの可視化により改善活動を促進。
⑥ ガバナンス:既存とデジタルを切り離して特区化。働く環境についてもデジタルテクノロジを駆使し革新的な環境を提供する“場”を構築。
(3) 効果
デジタル人材、プロセス、ルール等をSAFeに合わせてサービス志向型組織に変革し、300名を超える体制で組織一体となったアジリティ高い組織経営を実現しました。また、事業運営にかかわる業務のデジタル化や最新技術の活用により、作業の効率化と組織のアジリティ向上に寄与するとともに、社員のエンゲージメント向上にも貢献しました(図3)。

■事例2(社外受託型案件)

(1) 課題・ニーズ
競合他社が次々とデジタルプロダクト・サービスを提供している中で、自社でも早く魅力的なサービスを創出したいが、VUCAな状況の中で、従来型の予測・計画・遂行の進め方に限界が来ているというボードメンバ含めた共通の課題認識があり。
(2) 取り組み内容
① マインド:幹部向けの勉強会やトップ対談、変革エージェントへの教育を実施することにより、上位層の理解・承認を得るとともに、社員のアジャイルマインドへの意識改革を実施。
② プロセス:開発の方法論のみではなく、意思決定方法等の社内ルール・組織面も含めたビジネスプロセスの変革検討およびその実践。
③ ツール:高速な価値開発を支えるプラットフォームの構築、既存資産にとらわれず、ゼロベースであるべきシステムアーキテクチャ・組織をデザイン。
④ ルール:社内ルールの抜本的な見直しを行い、費用とリソースの優先順位や配分の管理・意思決定スピードを向上。
⑤ ロール:人材育成指針の策定やSAFeロールも意識した人材像の定義、育成施策、評価制度等のタレントマネジメントの仕組みづくりを実施。
⑥ ガバナンス:既存組織とは切り離した出島戦略(特区化)をとり、横断的で一体的な体制を構築し、組織全体でのビジネスプロセスの高速化・柔軟性向上を実現。
(3) 効果
新ビジネスプロセスによるフロー改善(開発着手まで39%削減、9カ月→5.5カ月)、DX人材制度試行適用(人材定義・採用・育成)。小さな成功の達成(1部門の特区化適用→拡大本格化)を実現しました。また、クラウドの徹底活用による開発アジリティ向上(1年の開発期間を3カ月短縮)、スモールスタートで実績を積み重ねることで、成果を基にToBe像実現に向けたスケールアウトを現在も継続的に実施し、社員エンゲージメントも向上しています(図4)。

今後の展望

顧客ニーズの多様化や不確実性の高いビジネス環境において、それらの変化に迅速に対応するための組織変革・アジリティ高い組織経営の実現に向けたアプローチについて解説しました。
NTTデータではDXに資する組織変革のニーズに対応するために、6つの奥義(Key Success Factor)の具体的な進め方やアウトプットをAltemistaⓇ*9としてアセット化し、広く展開できるように整備を進めています。また、「顧客の抱えている課題・ニーズ」に記載しました7つの代表シナリオに対して、一気通貫でのトータルソリューションを整備し、信頼パートナーとして顧客と一緒に経営課題を解決し、ビジネスをつくり上げていく役割を担えるように、これからもNTTデータ自らが変革していきます(図5)。

*9 AltemistaⓇはNTTデータの登録商標、NTTデータのデジタル技術のケイパビリティを示すテクノロジブランド。

■参考文献
(1)https://www.mckinsey.com/~/media/McKinsey/Business%20Functions/Organization/Our%20Insights/Harnessing%20agile%20compendium/Harnessing-Agile-compendium-October-2018.ashx
(2) https://www.meti.go.jp/press/2018/09/20180907010/20180907010.html
(3) https://www.meti.go.jp/press/2020/12/20201228004/20201228004.html
(4) https://www.scaledagileframework.com/

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