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グローバルスタンダード最前線

IECにおける光コネクタの標準化活動と今後の動向

世界中の光通信ネットワークやデータセンタで、世界各国でつくられる膨大な数の光コネクタが使われています。光コネクタはわずか1㎛の部品誤差が信号品質に影響を与えるため、精密な部品を必要とする製品であり、その接続互換性を保つためには部品形状、性能、そしてそれらを試験するための測定法を国際標準化することが不可欠です。ここでは、光コネクタの標準化活動の概要と近年の動向について紹介します。

小山 良(こやま りょう)/阿部 宜輝(あべ よしてる)
NTTアクセスサービスシステム研究所

はじめに

光コネクタの国際規格はIEC (International Electro-technical Commission) にて標準化されています。IECは電気・電子技術分野における標準化および関連事項に関する国際協力と国際的意思疎通を図る目的により、1906年に発足しました。規格の制定にかかわる作業は専門委員会(TC: Technical Committee)およびその下に設置される分科委員会(SC: Sub-Committee)で行われますが、光コネクタについてはTC86 (Fibre optics)/SC86B (Fibre optic interconnecting devices and passive components) で審議されています。2021年2月現在、SC86BはIECの中で家電安全性(TC61)に次ぐ第2位の文書を発行しており、作業中の文書数も太陽光発電(TC82)に次ぐ第2位です。光コネクタの標準化活動はIECの中でもっとも活発なものの1つとなっています。光コネクタ分野ではNTTが開発したSC(Single-fiber Coupling) コネクタ、MPO(Multi-fiber Push-On)コネクタが30年以上にわたり市場のトップシェアを占めるなど、日本が大きく技術貢献を果たしてきました。2021年3月にはこの功績を認められ、両コネクタがIEEE Milestone*1に認定されています(1)。光コネクタの標準化活動においても日本の貢献は大きく、SC86Bでは2003年より日本が幹事国を務めています。IEC TC86/SC86Bは3つのWG(Working Group)から構成されますが、光コネクタに関する標準化文書はWG4(試験・測定法)とWG6(光接続部品)で審議されています。なお、光コネクタの性能については、通信ネットワークのシステム要求条件という観点でITU-T(International Telecommunication Union - Telecommunication Standardization Sector)でも規定していますが、ダブルスタンダードにならないよう連携して標準化が行われています。
光コネクタの標準規格は表1に示すとおり、試験・測定法 (Basic test and measurement procedures)、性能標準 (Performance standard)、かん合標準 (Fibre optic connector interfaces)、光学互換標準 (Connector optical interfaces) の4つの文書体系に分かれます。かん合標準と光学互換標準の規定対象を図1に示します。光コネクタは接続するファイバコアの位置を合わせ、これを密着させることで光ファイバを接続します。この接続方式をPC(フィジカルコンタクト)接続と呼びます。このファイバコア位置を合わせるのにフェルール*2と呼ばれる調心部品を用いますが、ファイバコアが密着するのに必要なフェルールの寸法を規定するのが光学互換標準です。光コネクタはフェルールがコネクタハウジングに収容された構造となっており、接続時にはハウジングどうしがかん合固定されます。フェルールはハウジングに内蔵されたバネで互いに押し付け合うかたちとなります。この構造を二重かん合構造と呼びます。このかん合に必要なハウジングの寸法とバネ力を規定するのがコネクタかん合標準です。このPC接続と二重かん合構造はほぼすべての光コネクタで採用されていますが、互いに独立した技術です。例えば同じSCコネクタでもSMF用とMMF(マルチモード光ファイバ)用で異なるフェルールが必要です。また、SCコネクタとFCコネクタといった異なる光コネクタでも同じフェルールを採用しています。このような製品実態を踏まえてIECでは光学互換標準とかん合標準を分けて標準化を行っています。

*1  IEEE Milestone :IEEE(Institute of Electrical and Electronics Engineers)により、電気・電子・情報・通信分野における画期的な技術革新の中で、開発から25年以上にわたり国際的に高い評価を受けてきた技術革新の歴史的業績を称える表彰制度。
*2  フェルール:光ファイバを保持固定する部品。ファイバ外径とほぼ同じ大きさの穴が決められた位置に設けられており、そこに光ファイバを挿入して接着固定します。

光コネクタの標準化動向

光コネクタは長距離通信用光ファイバと伝送装置との接続を主な用途として、屋内での単心ファイバの接続で使用されるSCコネクタ、LCコネクタが広く普及してきましたが、近年では、データセンタ内の情報処理装置間を結ぶ高速通信配線において多心コネクタであるMPOコネクタの利用が急速に伸びています。無線アンテナと光ファイバケーブルとの接続用途で屋外での光コネクタ利用も広まりつつあります。また、長らく高速大容量通信を支えてきたシングルモード光ファイバ(SMF)の通信容量が2020年代には限界に近づくといわれており、SMFを超える大容量伝送が可能と期待される空間分割多重(SDM)用光ファイバの研究開発が近年さかんに行われています。光コネクタの標準化においてもデータセンタや屋外での利用を背景とした新規標準化の提案や、SDM用光ファイバの標準化に関連した活動が活発に行われています。

■試験・測定法の標準化動向

光コネクタの試験・測定法では、昨年よりSDM用光ファイバの1つであるマルチコアファイバ(MCF)の光コネクタについて接続損失、反射減衰量の測定法を標準化する検討が進められています。SMFとMCFのコネクタ端面と接続時の断面の様子を図2に示します。SMF用光コネクタではコネクタ端面の中心にファイバコアがあるので、接続損失を小さくするためコネクタ中心軸を水平、垂直方向に調心します。一方、MCFでは周辺部にもファイバコアがあるので回転方向も調心する必要があります。また、光コネクタではバネを用いてコネクタ端面どうしを押し付け、ファイバコアを密着させることで十分な反射減衰量を確保していますが、MCFはSMFよりの広い範囲にファイバコアがあるため、より広く密着させる必要があります。接続損失と反射減衰量は光信号品質に影響する重要な光学特性ですが、ファイバコアが中心から遠いほど十分な信号品質を確保するために高精度な回転調心や大きなバネ力が必要になります。このため、MCFのコア配置を決める際にMCF用光コネクタの接続損失、反射減衰量を評価することが重要ですが、それには標準化された接続損失、反射減衰量の測定法が必要です。NTTはSDM用光ファイバ、光ケーブル、光コネクタの標準化をめざす中で、この2つの測定法の標準化を最初に進めています。

■性能標準の標準化動向

光コネクタの性能標準では、接続損失や波長特性などの光学特性、引っ張り耐性や耐衝撃性などの機械特性、そして設置環境の温湿度に対する耐環境性が規定されます。近年、モバイルアンテナや無線LANなどの高速無線機器が屋外に設置されるようになり、屋外用の耐環境性を持つ光コネクタの需要高まりつつあります。2018年に改定されたIECでの光コネクタ標準化における環境分類を表2に示します。改定前は4分類でしたが、より厳しい気候環境での屋外設置を想定したカテゴリOP+と、それぞれの環境で熱源となる電動部品と同梱されることを想定したCHD、OPHD、OP+HD、IHDが追加され9分類に増えました。従来、光コネクタは屋内利用が一般的だったので、ほとんどの性能標準でカテゴリCの環境条件が採用されていますが、昨年からもっとも高温となるカテゴリOP+HDの環境条件を持つコネクタ性能標準の新規制定作業が開始されています。

■コネクタかん合標準の概要と標準化動向

コネクタかん合標準では、コネクタプラグとコネクタアダプタのかん合構造とコネクタ端面どうしを押し付けるバネ力を主に規定しています。SCコネクタ、MPOコネクタのかん合構造を図3に示します。近年のデータセンタにおける通信配線の高速化に伴い、多心コネクタのMPOコネクタにおいて、従来の12心よりもファイバ心数の多いかん合標準が活発に標準化されています。前述のとおり、光コネクタでは十分な反射減衰量を確保するためにファイバコアどうしを密着する必要があり、MPOコネクタのファイバ心数が増えるとより大きなバネ力が必要です。一方、MPOコネクタは斜め端面を採用しているためバネ力を大きくするとせん断力が発生し、ファイバコアの調心がずれてしまうため、接続損失は劣化します。このため、用途ごとに必要な心数と実現できる光学特性を考慮しながら、16心、24心、32心と細分化した標準化が行われています。24心、32心は2017年、2019年に制定され、16心は来年の制定が見込まれます。また、今年から36心の標準化作業が開始される予定です。

■光学互換標準の概要と標準化動向

光学互換標準では、フェルールの調心基準に対するファイバコアの位置が主に規定されます。SCコネクタで使用されるジルコニアフェルール、MPOコネクタで使用されるMTフェルールの端面を図4に示します。ジルコニアフェルールは割りスリーブという部品を用いてフェルール外径が同じ位置になるように調心するので、フェルール中心を基準としてファイバコアがどの範囲に位置しなければいけないかを規定します。MTフェルールは2つのガイド穴にガイドピンを挿入して調心するので、2つのガイド穴中心を結ぶ線分の中点を基準としてファイバコア位置を規定します。光学互換標準には通常の光通信に使用される標準コネクタ用と、光コネクタの高精度な接続測定に使用される基準コネクタ用がありますが、基準コネクタにはより厳格なファイバコア位置が求められます。近年、データセンタでのMPOコネクタの利用が拡大するに伴いコネクタサプライヤが増えてきており、MPOコネクタの正確な損失測定が必要となってきました。現在、MPO基準コネクタは標準化されていないので、IECでは一昨年からMPO基準コネクタ用光学互換標準の新規制定作業を開始しました。理論上、基準コネクタ用のMTフェルールに求められるファイバコア位置の誤差は1㎛以下ですが、この誤差は今のファイバコア位置の測定精度を上回っているため、これを規定しても確認する測定法がありません。そこで、より測定精度の高いファイバ穴位置を用いたフェルール寸法の規定と接続損失試験によるコネクタ選別を組み合わせた規定方法をNTTから提案し、これに基づいて標準化を進めています。

今後の展望

データセンタや高速無線機器での光配線の利用を背景に、光コネクタの多心化や屋外利用に向けた標準化の取り組みは今後も活発であると思われます。これからは、さらなる情報処理の高速化のために従来のメタル配線に代わって、光配線が情報機器内の基板上や自動車の内部などへ広がっていくことが予想されるため、より高密度な光コネクタやより環境耐性に優れた光コネクタの標準化が重要な課題となります。光通信用途でもSDM伝送技術の発展とITU-Tでの標準化の進展に合わせてSDM伝送用ファイバを接続する光コネクタの標準化が進むことが期待されます。

■参考文献
(1)  https://www.ntt.co.jp/news2021/2103/210305a.html