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特集 主役登場

ディスアグリゲーテッドコンピューティングが世界を変える

The network is the computer

田仲 顕至
NTT先端集積デバイス研究所
研究員

「The network is the computer」ーこのキャッチコピーをご存じでしょうか。これは1990年代のシリコンバレーを席巻した、サン・マイクロシステムズ(サン)が掲げた考え方です。サンが後世に残したものを少しだけ紹介すると、Javaという言語や、SPARCという計算機命令セットがあります。前者は高等教育で扱われるような一般的なプログラミング言語で、後者は日本のスーパーコンピュータ「京」にも採用されています。この「The network is the computer」という考え方は、メインフレームと呼ばれるような中央集権的な計算機の管理・運用から、パーソナルコンピュータ(PC)と呼ばれるような計算機の分散管理・運用へと変革する中で生まれました。当時、分散管理・運用することでPCの相互接続・運用のコストが急上昇したため、技術的に問題視されていたのです。
その後、サンは2010年にオラクルに吸収合併され、伝説的な歴史に幕が下ろされました。この歴史の節目は「The network is the computer」という考え方が終わったことを告げるのでしょうか。ジェフ・ベゾス(Amazon.comの創設者)に代わり、次期よりAmazonのCEO(最高経営責任者)に着任するアンディ・ジャシー(現 Amazon Web Services、 Senior Vice President)は「アプリケーションを構築する最小単位がWeb サービスとするならば、そのオペレーティングシステムはインターネットだ」と語っています。
前置きが長くなりましたが、私はIOWN(Innovative Optical and Wireless Network)時代の計算機を考えるプロジェクトに参画しています。このプロジェクトに参加したころ、(そして今でも、)私は計算機科学を語るには若輩者であり、ネットワーク・通信の会社であるNTTが計算機のことを考えることに疑問を感じていました。そんな中、前述の考え方に出会い、雷に打たれたような感覚を覚えました。私たちの生活を支えるサービスの多くがインターネット・クラウドに接続し、IoT(Internet of Things)や5G(第5世代移動通信システム)の実現により数多のデバイスが相互に接続している今だからこそ、さらには、ムーアの法則の遅滞により計算機の目まぐるしい性能向上に陰りが出てきた今だからこそ、「The network is the computer」を再考する時代が到来していると考えています。
今、私たちは通信と計算の融合を実現するために、現代のCPUの抱えるコンテキストスイッチ、割り込み・ポーリングによって発生するオーバヘッドを突破するための新アーキテクチャに取り組んでいます。さらに、通信と計算の融合によって可能となる計算機リソースがディスアグリゲーションされたアーキテクチャによって、管理・運用コストが劇的に低減できるよう研究開発に取り組んでいます。IOWN時代のコンピュータ開発は、挑戦的なテーマであり、まだまだ萌芽したばかりのテーマです。大きな期待にこたえられるよう努力する所存ではありますが、継続的な温かい支援をよろしくお願いします。