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グループ企業探訪

第234回 株式会社NTTSportict

スポーツを通じ、感動や笑顔を生み、地域社会に貢献する

NTTSportictはアマチュアスポーツの「スポーツ映像配信ソリューション」提供により地域に貢献する会社だ。各種スポーツ大会の中止や無観客試合が増加する中、エンゲージメントの高い潜在需要を掘り起こして、最新のテクノロジと付加価値ある映像でお客さまの期待にこたえるNTTSportictの事業の取り組みと、苦境をビジネスチャンスととらまえて将来に向かう思いを中村正敏社長に伺った。

NTTSportict 中村正敏社長

100万人が観る試合を1試合配信するのではなく、 100人が観る試合を1万試合配信する

◆設立の背景と目的、事業概要について教えてください。

NTTSportictは、アマチュアスポーツ大会、地方大会を対象としたスポーツ映像配信により、スポーツ観戦×ICTで新たなスポーツ観戦体験を提供、地域で行われるスポーツ大会の魅力を世界に発信することで地方創生へと貢献することを目的として、NTT西日本と朝日放送グループホールディングス株式会社の出資により、2020年4月に設立されました。
国内のスポーツ市場、スポーツ映像配信市場は拡大傾向にある中、映像コンテンツの多くは、プロを中心としたメジャーなスポーツや全国区の試合が対象となり配信されていることが多く、地方大会やアマチュアスポーツ大会に関する映像コンテンツを視聴する機会が多いとはいえません。一方、米国では学生スポーツを中心にアマチュアスポーツがビジネスとして成立しており、これらの映像コンテンツ視聴の機会も豊富で、これを日本でも展開していこうと考えているときに、イスラエルのAI(人工知能)カメラの技術を見つけたのがきっかけでした。それを使うことで映像に付加価値をつけたかたちで実証実験を行い、会社設立に至りました。
事業内容としては、最先端のAIテクノロジで自動撮影と配信プラットフォームをワンストップで提供する「スポーツ映像配信ソリューション」事業です。当社の理念は「スポーツを通じ、感動や笑顔を生み、地域社会に貢献する」であり、この実現に向けてソリューションを導入していただく施設や団体様のそれぞれに抱えている課題を解決すべく、低コストでAIカメラを販売し撮影と配信を行うだけではなく、映像を活用した映像ライセンス事業、当社の配信プラットフォームを活用したC向け(選手の親・競技関係者など)の映像販売や、映像に企業の動画広告など取り入れる広告事業などを行っています。

◆会社設立後1年ほど経過しましたが、事業を取り巻く環境はどうですか。

事業環境は想定以上に厳しいものでした。会社設立の時点で新型コロナウイルス感染拡大が始まっており、事業の生命線である国体やインターハイといったアマチュアスポーツの大会や試合が中止・延期になりました。会社設立前から当社のソリューション導入を前向きに検討していただいたお客さま方についても、コロナ禍の影響で導入する余裕がなくなりキャンセルが続出し、いきなり逆境からのスタートを切ることになりました。そのような環境の中でも当社は「学生スポーツ100試合無償配信」の施策を実行し、たとえ無観客でも、競技にかかわる方々とその家族等は試合を「見たい・見せたい」というシンプルな思いや要望が多くあるといったことをはじめ、学びと手ごたえを感じることができました。コロナ禍によるリスクは覚悟のうえで、その環境の中で当社がどうお客さまと向き合い事業を行うか、試行錯誤を繰り返しながら事業を進めています。同時にこの厳しい環境の中だからこそ、ニューノーマルではありませんが新たな環境が生まれてきており、これを事業の大きなチャンスに変えていきたいと思います。
さて、当社の経営戦略は「100万人が観る試合を1試合配信するのではなく、100人が観る試合を1万試合配信する」です。全国にあるアマチュア、ローカルスポーツのチームや団体は、当社で調べたところサッカーやバレーボールなど5つのスポーツだけでも約10万あります。そこにおいて練習や試合が行われているので、大量の映像コンテンツがあります。その映像を低コストで、AIカメラのテクノロジを活用し、当社のスポーツ映像配信プラットフォームで撮影から配信までを専門知識なしで自動化する。これが戦略のコアとなるものです。

映像配信から映像販売、 広告事業等へ事業領域を拡大

◆逆境の中のスタートですが、ビジネスが回りだした要因は何でしょうか。

「学生スポーツ100試合無償配信」等の施策による努力もありますが、世の中のスポーツ映像に対する潜在需要を見つけたことと、そこに当社が持つリソースやテクノロジ、ノウハウ等がマッチしたことだと思います。
小中学生・高校生のスポーツ大会に行くと、ほとんどの親が三脚にビデオカメラをセットして我が子のプレーを撮影しています。また、大学生や社会人のチームは練習を含めてプレーを撮影して、プレーフォームの研究・コーチングや対戦相手の情報収集・作戦立案に使っています。大会が中止や無観客になれば、これができなくなります。これとは別に、観たいのに過去の映像が残っていないという現実も分かりました。つまり、極端な話、選手の数だけ需要があるということです。
こうした背景に対して、当社のサービスの3つの特長がマッチしました。まず、「強いUX(User Experi­ence)」です。前述のような映像は圧倒的にエンゲージメントが高く、そこに技術やノウハウを活かした付加価値をつけることで、感動や喜びを提供することができ、視聴者はその体験が得られます。
2番目が「最新のAIテクノロジ」です。優れたスポーツAIアルゴリズムを採用しているので、さまざまな角度、位置からの撮影や撮影対象の特定等が可能になり、多くの競技に対応可能なうえに、個人の特定や選手のコーチング・競技分析など、テクノロジの進化により提供できる価値もユニークなものになります。
そして、最後に「多様なビジネスモデル」です。AIカメラを販売し映像配信するだけではなく、お客さまと一緒にビジネスを行うモデルも用意しています。撮影された映像を販売したり、また、大会などでは試合映像の前に地元企業の動画広告を挿入したり、得られた収益を役割分担に応じて分配します。なお、これは施設や団体等のお客さまが対象となります。

◆今後の展望についてお聞かせください。

2020年度はAIカメラの展開事業(競技場等へのカメラの常設設置)がメインでした。2021年度は、さらにそこに力を注ぐほか、広告事業、映像販売事業も立ち上げ、将来の事業の柱をつくりたいと考えています。そのためには、小規模の団体や個人のお客さまの要望におこたえできるプロダクトやメニューの開発も必要と考えています。オリンピック・パラリンピックが開催される予定の2021年は、当社にとってはチャンスであり、将来を占う年だと感じています。そして今後のスポーツ事業発展の1つの答えになるような事業にしていきたいと思います。

問い合わせ先

https://nttsportict.co.jp/lp/

担当者に聞く

スポーツの振興や子どもの成長・関係者の満足度向上に向けたバリューを提供

営業部
川崎 豪己 さん

◆担当されている業務について教えてください。

スポーツ映像ソリューション事業の営業担当として、スポーツ団体様やスポーツ施設の指定管理会社様をメインとした、AIカメラおよび映像配信プラットフォームの提案活動を中心に業務に取り組んでいます。
具体的な導入事例の1つとして、愛知学院大学様の案件がございます。本大学は東海大学バレーボール連盟主催の男子大学リーグ戦春季/秋季大会(1部リーグ)のメイン会場になっており、2021年4月から開催されている春リーグでは、全28試合のライブ配信を行っています。本ケースは、私の地元である愛知県のスポーツ強豪校へAIカメラを導入したいと考え、さまざまな学校関係者にアプローチする中で得た愛知学院大学男子バレーボール部の監督へのご提案機会から始まりました。さまざまなディスカッションや映像配信のトライアル実施等を通じて、その可能性や価値を感じていただくことにつながり、結果、男子1部リーグ参加の各校から費用負担していただくことでAIカメラの常設導入に至りました。

◆ご苦労されている点を伺えますか。

スポーツの映像化・活性化というのは、お客さまに強い興味を示していただくことは多いですが、一方で資金面、肖像権等の権利や日々の運用等の課題に直面することがあり、「あったら良いけど…」というフェーズで立ち止まられることもあります。特に費用対効果の話になると、限られた情報の中から仮説ベースでお話をさせていただくので、難しさを感じる場面もあります。
しかし、導入していただいたお客さまは、例えばスポーツ団体の場合、その競技種目の振興につながる可能性の創出や、教育関連では子どもの成長、および保護者・関係者の方の満足度につながるといった多方面にわたるバリューを見出しています。こうしたお客さま個々に持たれている課題や価値を、いかにご一緒に創っていけるかどうかが重要であると、日々感じています。

◆今後の展望について教えてください。

夢のような話ですが、AIを含むICTが発展してくると、特にスポーツ映像の場合は、そのうち人が介在しなくてもロボットやAIが映像を撮っている世の中になると思っています。5年先なのか、20年先なのか、そのときに誰がその役回りをしているかは分かりません。ただ、そこでふたを開けてみたらNTTSportictだったという世界にしたいと考えています。
そして、そのためにも、スポーツ映像の持つ可能性を訴求していくことで、NTTSportictとして「スポーツを通して人々の感動や笑顔が生まれるコミュニティづくりの基盤」を提供し、地域社会の発展に寄与できるよう、これからも日々邁進していきます。

お客さまのご要望にこたえるソリューション

ビジネス開発部
瀬古 圭一 さん

◆担当されている業務について教えてください。

スポーツ映像配信ソリューション事業を支える機能プロダクトの開発を担当しています。具体的には会員アカウント登録による会員限定配信機能、サブスクリプションやペイ・パー・ビューといった課金系の機能、広告コンテンツ(在庫)管理機能、広告の出現率を広告主ごとに制御する機能等、スポーツ映像配信ソリューション事業を拡大していくために必要となるサービス・機能を実現するものとなります。
設立1年の小さな会社ということもあり、オープンソースソフトを活用したり、開発効率の良いフレームワークを選定することによって、最短の開発手法となるように心掛けています。

◆ご苦労されている点を伺えますか。

当社の事業は基本的にB2BもしくはB2B2Cの形態なのですが、Bのお客さまの映像配信以外にかかわるご要望が千差万別、かつコストにシビアな部分もあり、この二律背反する要件の板挟みに苦労しています。複数のお客さま間での機能の共通化等の努力もしているのですが、まだまだお客さまの数がパッケージ化するまでには至っていないこともあり、いかにその特別な案件を効率良く実現するかということに日々頭を使っています。とはいえ、このような最適な実現手段の検討は、良いトレーニングになっていて、勉強させていただいています。

◆今後の展望について教えてください。

プロスポーツとは比較にならないほど視聴者数はまだ少ないアマチュアスポーツ映像ですが、視聴者を増やしていくためにも、「簡易な仕組みでできる」という特性を活かしつつ、映像の付加価値を高める取り組みを展開しています。例えば、他カメラを活用した「マルチアングル撮影」や「リモート実況解説」など、実証実験も行ってきました。このようにコンテンツのプラスアルファという部分を、スピード感を大切にして次々と開発していきたいと考えています。

ア・ラ・カルト

■圧倒的スピード感

コーポーレートベンチャーで、さまざまなキャリアの社員がいることを強みとして、今までの仕事のやり方に固執せず、日々異なる試行錯誤を重ね、スピードを意識して事業を推進しているとのことです。社員個々人の対応能力もさることながら、誰から教わることもなく、自然とこれができているところが驚きです。

■スポーツの会社

NTTSportictはスポーツ関連の会社ですが、そこにはNTTグループのスポーツチームの選手はいまのところ1人もいません。スポーツ好きの社員を意識して集めたわけではありませんが、社内での雑談や自己紹介等の場ではなぜか、「地元で野球をやっていました」とか「サッカーをやっていました」とか、何かしらスポーツにまつわる話で盛り上がるそうです。

■つくったもの勝ち

少人数で意見を言いやすい社風とのことですが、開発部門の社員の中には「こういうものつくっちゃいました」と提案したところ、他の社員が賛同してそれが商品になった事例もあるとのこと。当の本人は「つくったもの勝ち」と気を良くし、次の仕込みを考えているそうです。