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グループ企業探訪

第235回 NTTコム エンジニアリング株式会社

デジタルトランスフォーメーションの推進と高品質なワンストップオペレーションでお客さまからの信頼を得る

NTTコム エンジニアリングはNTTコミュニケーションズのネットワーク設計・構築・保守・運用、サービスデリバリーといったバリューチェーンを担い、高品質なワンストップオペレーションをお客さまからの信頼の源泉としている会社だ。自らのデジタルトランスフォーメーションとしてオペレーションの自動化とリモート化を推進し、コストセンタ的な発想からプロフィットセンターへの飛躍をめざす、梶村啓吾社長に話を伺った。

NTTコム エンジニアリング 梶村 啓吾社長

自らのデジタルトランスフォーメーションでオペレーションの自動化とリモート化を推進

◆設立の背景と目的、事業概要について教えてください。

NTTコム エンジニアリングは、FA(Factory Automation)向けシステムエンジニアリング事業を行う会社として、1987年4月に設立されました。その後、業容拡大に伴い、ネットワークサービスをベースとしたパッケージサービスやISDN通信機器の開発販売などを行い、2007年4月にNTTコミュニケーションズ(NTT Com)のエンジニアリングとソリューションのバリューチェーンの一角を担う100%の子会社となりました。2014年には、エンジニアリング業務を事業の中心とした会社として体制を一新、社名も「NTTコム エンジニアリング」としました。
その後も、NTT-MEから仙台センタ移管(故障対応業務)、NTT Comからクラウドサービスのエンジニアリング業務移管など、NTT Comグループの戦略に応じてさらに業容拡大し、創業期には13名だった社員が2021年4月1日現在で2083名となり、質・量ともにグループの中核企業に成長しました。
当社はNTT Comが提供しているクラウド・アプリケーションサービス、ボイスコミュニケーションサービス、ネットワークサービス、通信ビルや基盤ネットワーク等のインフラサービスの設計・構築・保守・運用を主な事業としています。また、グローバル系サービスについても、NTT Ltd.等のサービスのバリューチェーンを担っているほか、国際海底ケーブルについては全国5カ所のLanding Station(海底ケーブル陸揚げ局)の現地エンジニアリング業務、国際海底ケーブルの一元的な監視運用業務も担っています。このほか、放送事業者向けのTV映像の中継サービスも運用しています。そして、法人のお客さまの回線の移転・増設といった申込み受付から開通に至る一連のデリバリ、複数サービスにまたがるワンストップオペレーション、ご利用サービスの運用・監視を行うサービスマネジメント、さらにはお客さまの拠点からSaaSやパブリッククラウドまでの区間におけるネットワーク/トラフィックの品質を可視化し、ネットワーク運用の最適化をご提案する「お客さま体感品質モニタリングサービス」も当社の経験豊富なエンジニアが技術面でサポートしております。

◆事業を取り巻く環境はどうですか。

NTT Comのサービスが多様化し、サービスリリースまでの期間が短縮化してきており、それに対する対応が必要になってきます。また、オペレーション全体にわたってさらなる生産性向上が求められるようになってきました。
そこで、サービスの企画・開発段階から参加していくことで、効率の良いオペレーションのプロセスを定義できるようになるとともに、体制の準備も迅速に行うことができ、生産性向上にも寄与しています。さらなる生産性向上については、自らのデジタルトランスフォーメーション(DX)推進で対応していきます。
DXについて、オペレーションの自動化に積極的に取り組んでいます。当社は、非常に多くのサービスを扱っており、全社的な統一プラットフォーム上で各サービスのオペレーション自動化には至っておりませんが、例えば、SO(Service Order)については、個々のプロセス分析結果をRPA(Robotic Process Automation)とBPM(Business Process Management)により自動化を行い、自動化率が54%まで達成することができました。また、企業向けクラウドサービスの監視・故障対応においては、自動化率75%に達しており、故障発生から復旧までの時間を60分から5分に短縮させることができました。
オペレーションの自動化においては、いわゆるDevOpsといわれる、オペレーションの担当者が自らツールを開発して、使用しながら良いものにしていく中で、標準化していくような方法で内製開発しています。特に企業向けクラウドの場合は、非常に効果があったところもあり、電子情報通信学会 情報通信マネジメント研究会において「研究賞」をいただき事例紹介として発表しています。
DXのもう1つの側面として、業務のリモート化にも取り組んでいます。通常のオフィス業務については、リモートワークを積極導入しリモート率8割を達成しているのですが、当社には、TOC(Tokyo Operation Center)とSOデリバリセンタといったセンタ業務があり、この業務のリモート化の促進に取り組んでいます。センタにおいては、顧客情報や設備情報等非常にセンシティブな情報を扱っているので、セキュリティにはもっとも気を使うところです。前述のオペレーション自動化により担当者が介在する業務を減らすことで情報にアクセスする機会を減らしたうえに、セキュアなアクセスを実現するセキュアファットPC上で、オペレーション端末のリモートデスクトップを実現して操作を行い、クラウド型のコンタクトセンタ向けのプラットフォームを利用してお客さま対応を行うことでリモートワークを行っています。また、NTT ComのNeWorkというサービスを利用して、コミュニケーション環境も提供しています。1年近くこうした取り組みを行っており、オフィス業務を含めて全体の7割がリモートワークになっています。

コストセンタからプロフィットセンターへ

◆DevOpsによる内製開発のためには人材育成も必要になりますね。

内製開発のノウハウというのは非常に大切で、そのための人材育成は課題の1つです。いわゆる業務の中身だけ分かって仕事をしているだけではなく、それをいかにDXの施策に直して、自ら実行する中で自動化、標準化して生産性を上げていく。そこの能力が必要になってきます。AI、BI(Business Intelligence)、Splunk(ログデータの「検索」「分析」「可視化」ツール)、 ServiceNow(統合型IT運用マネジメントツール)等、 DXのためのさまざまなツールやプラットフォームがあるので、最初はこのような分野の勉強を進める中で、最適な仕組みを検討し、各チームで自律的にDXを進めていくのが望ましいと考えています。
特にAIに関する勉強は難易度が高いので、知識習得を目的に深層学習に関する G検定等の検定にチャレンジすることを奨励しており、すでに200名超がG検定を取得しています。その先には、実践力が必要となるので、NVIDIAのチップ(GPU)をラジコンカーに搭載して、ラジコンカーのカメラの映像を基に、レース場を自走させタイムを競うためのAIのアルゴリズムを全部自分で勉強してつくるという、知識から実践力までをカバーした特徴的な取り組みをしています。
こうしたスキル向上に加えて、現場発のシステム開発という発想の転換を図り、現場の担当自らがDXの推進役として自動化を進めていくような流れができてきました。
一方、ベテラン社員の皆さんはこれまで培われた特殊・高度スキルと経験をお持ちで、その技術伝承も大きな課題となっています。そこで「炎のマイスター」というベテラン社員有志によるワーキング活動にて、若手への技術伝承の機会を設ける等、コミュニケーションの活性化も含めて人が活きる活動を進めています。

◆今後の展望についてお聞かせください。

バリューチェーンが主業務であるため、意識が生産性向上によるコスト削減に向き、いわゆるコストセンタ的な状態・発想になりがちです。一方、当社には、オペレーションをとおして培ってきたスキル、ノウハウがあり、DX推進によりさらにスキル・ノウハウが広がりを持ってきました。これらを活用してお客さまに付加価値を与えるようなサービスを提供することで収益を得る、プロフィットセンター的な役割を増やしていきます。お客さまへのサービスの提供としては、例えばこれまで個社対応的要素が多かったマネージドサービスをプラットフォーム化して、NTT Comのサービスとして提供しています。前述の「お客さま体感品質モニタリングサービス」では、当該サービスを通じて当社のエンジニアが直接顧客に対し価値提供するパターンもあります。DXの推進により、リソースに余裕が生まれてくるので、それによりプロフィットセンター化をさらに加速していきたいと考えています。
また、世界最高水準となる400 Gbit/s伝送基盤の構築・運用、NTT Comの新たな事業の柱の1つである「データと価値をつなぐSDPF(Smart Data Platform)」に対応したエンジニアリングと複合デリバリ・オペレーション実施、ローカル5Gの設計・構築等、当社の特徴を活かした新たな領域への業容拡大も図っていきます。

担当者に聞く

「お客さま体感品質モニタリングサービス」をワンストップで提供

スマートオペレーションサービス部
塩原 努さん、高村 将裕さん、山口 将輝さん、サービスネットワーク部 木村 倫也さん

◆担当されている業務について教えてください。

東京オペレーションセンター(TOC)においてハイレベルな技術対応を行っているレスキューチームと、大口のお客さま向けにきめ細かな保守サポートを提供しているサービスマネージャー(SM)チームが合同で体感品質チームを構成し、「お客さま体感品質モニタリングサービス」を提供しています。
「お客さま体感品質モニタリングサービス」は、NTT Comのサービスの範囲だけではなく、他社の通信サービス、他のベンダが提供しているようなシステムまで、つまり、お客さまのICT環境全体を把握・俯瞰して問題解決につなげるコンサルティングサービスです。お客さまのシステムは複数のベンダ等で構成されている場合が多く、トラブルが発生するとベンダ間でたらい回しになりお客さまが困ってしまうという事象がありました。レスキューやSMにはこれまで蓄積してきたトラブルシューティングのスキルやノウハウがあり、これを活用することでお客さまの課題解決に貢献しています。

◆今後の展望について教えてください。

お客さまのICTシステムはクラウド化や複数のSaaSの組み合わせ利用などによって非常に複雑化してきています。しかし、お客さまからすれば、とにかく快適に使いたい、正常に使えるようにしてほしいというのが要望で、だれの責任かというのは二の次の話です。その意味で、「お客さま体感品質モニタリングサービス」であればワンストップで問題解決のお手伝いをすることができ、お客さまにNTTグループの付加価値を認めていただいています。実際に本サービスをご利用いただいたお客さまではアプリケーションの遅さの原因が特定できたり、ネットワーク設計の見直し前後におけるトラフィックフローの変化や効果測定ができたりと、お客さまの問題解決や品質改善につながるアドバイスによって感謝のお言葉も多数いただいております。
今後はNTT Comをはじめとするグループの連携により、このサービスをさらに広く、深く展開し、プロフィットセンター化の大きな柱として発展させていきたいと思います。

内製開発によるオペレーションの自動化

サービスネットワーク部
佐々木 俊介さん、三木原 杏弥さん、中嶋 大河さん、秦 慶和さん、木下 加那子さん

◆担当されている業務について教えてください。

TOCのフロント業務を担当しており、24時間365日故障等に関するお客さまからの電話等による問合せへの対応を行っています。ネットワークを構成する装置類は高機能・高性能化と複雑化、大容量化が進んできており、それに収容される回線数、サービス数等も多くなり、災害時のようにいったんトラブルが発生するとサービスのり障範囲、影響を受けるお客さまの範囲が大きくなっています。こういった場合、災害が原因であることは理解されつつも、お客さまからの厳しい入電が多くなります。そこで、ログデータの検索、分析、可視化を行うBIツールであるSplunkにより、迅速かつ的確な応対に向けたオペレーションの改善を行いました。大規模障害発生時のお客さま対応において必要となる警報・収容・工事状況等のデータは、そのデータを生成するシステムの関係から複数のデータベースに分散されており、それぞれにアクセスすることで障害の全体像と時々刻々と変化する状態を把握して、お客さま対応をしていました。これらのデータを一元集約し、お客さまへ通知を行うまでのプロセスのフロースルー化を図ることで、これまで故障発生から通知まで1〜2時間要していたものが、10〜20分で通知できるようになりました。

◆今後の展望について教えてください。

今回のDX推進による自動化のポイントは、内製開発により行ったことです。しかも、専門の開発チームではなく、現場のオペレータが開発を行ったという逆転の発想です。ネットワークは今後も新装置の導入、構成の変更、新サービスの導入等により、常に変化しています。こうした変化に対して現場で直接かつ迅速に対応を行うことが可能となり、さらには装置取り換え等の移行期における品質のデグレード防止につながります。このような特徴を活かして、今後はポータル経由でのさらなる素早い情報共有の実現やAI連携に向けて展開を進めていきたいと思います。

Zero Touch Operationによる完全自動化をめざす

クラウドアプリケーション&ボイス部
小山 和邦さん、宮崎 友貴さん

◆担当されている業務について教えてください。

Zero Touch Operationという、人を介さない故障の自動復旧に取り組んでいます。システムや装置が故障すると、感知システム等でアラーム検知し、オペレータの解析、切り分け等による故障個所・故障原因の特定と復旧方法の検討を行い修理し、事後処理とともにお客さまに通知するというプロセスを、どのサービスでも共通して行っています。この人が介在している部分を統合型IT運用マネジメントツールであるServiceNowとAnsibleを活用して自動化しました。
2018年に検討をはじめて、2018年10月に故障系をメインに導入し、メンテナンス工事や機器交換等の作業ベースも既存データの活用により対処し、さらに対象サービスも拡大してきました。また、Slackへの自動投稿により顧客フロント等のオペレータとのつながりを持たせることで、人を中心のシステムにしています。その結果、2021年5月現在で、8割の警報が自動処理され、対象プロセスの100%が自動化され(全稼働削減)、故障復旧時間も15〜60分要していたものが数分に短縮されました。

◆今後の展望について教えてください。

保守者が自らツールを開発するDevOpsで開発しているのですが、保守者は業務における苦労が分かっているので、それを改善していくことに対するモチベーションがあり、もし、リカバリ・自動化のシステムが失敗しても、どうすれば直せるのか分かっているため、最後は自身が直接対応できるという強みがあります。特にモチベーションについては、自分たちの業務を自動化したという思いと、単なる自動化ではなくて、プロセスの最初から最後までを自動化したという思いが大きいのが特徴です。一般に自動化においてはコスト効果の部分が注目されますが、Zero Touch Operationでは、コスト効果としての稼働削減ばかりではなく、故障復旧時間の短縮や人為故障がなくなるといった品質面の効果も出ており、今後はAIを組み合わせたZero Touch Operation のさらなる活性化により、NTTコム エンジニアリングのプロフィットセンター化に向けたリソースや付加価値の材料を提供していきたいと思います。

世界最高水準となる400 Gbit/s伝送基盤の構築

インフラネットワーク部
石牟礼 涼太さん、坂田 伸幸さん、藤田 由佳さん、伊藤 有人さん

◆担当されている業務について教えてください。

インフラネットワーク部では、NTT Comの基盤業務の設備計画から設計、構築、設備管理に関する業務を行っています。
2019年から、世界最高水準となる400 Gbit/s伝送基盤の構築の取り組みを進めています。モバイル、インターネット、クラウドをはじめとするさまざまなトラフィックには特徴があります。専用線等を中心とした法人のお客さまのトラフィックと全国に分散した個人のお客さまのモバイルのトラフィックの特性を吸収してどのようにして効率の良い伝送基盤ネットワークを構築するか、といった点が課題で、光スイッチ等の新技術の導入や上位のレイヤまで含めるかたちで検討し、対応しています。

◆今後の展望について教えてください。

400 Gbit/s伝送基盤を順調に進めていく中で、今後はこれまで培ったノウハウを活用し、5G(第5世代移動通信システム)も意識したデジタル化の進展を支える伝送基盤の高性能・高信頼化の実現を手掛けていきたいと思います。

ア・ラ・カルト

NTTコム エンジニアリングでは、CSR活動より包括的な概念であるSDGs推進活動を通し、社会課題を事業で解決することを目的に、SDGs(Sustainable Development Goals)推進室を2021年4月1日設立しました。

■Step1:SDGsバッジ

社内外で少しずつSDGsという言葉が聞かれるようになってきた2019年11月、まずは形からということで社内ポータルにSDGsクイズを掲載し、全問正解者にSDGsバッジを配ることを始めたそうです。バッジを胸に着けている人を見て、「それ何」と興味を持ってもらうことを目的としたところ大成功で、2021年5月現在で約1200のバッジが配布されているそうです。

■Step2:SDGs検定

ベテラン社員の「炎のマイスター」の1名が「SDGs検定」という冊子をつくり、それにより50問程度の検定を行ったそうです。第1回目、第2回目までの検定合格者は約100名、今後さらに第3回、第4回と継続的に実施していこうと計画中とのことです(写真1)。

■Step3:活動計画からSDGs推進室設立へ

社内に閉じることなく、外部の専門家から意見をいただき、社員参加型のSDGsワークショップやアンケート、意見交換会を開催する中で、会社として具体的な活動計画の検討を始めました(写真2)。これから、コムエンジ独自のSDGsアクティビティが実行され、SDGs推進室の活動が会社や社会をどのように変革していくか、期待したいと思います。