世界の潮流
インドネシアにおける光アクセス技術支援
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NTT東日本国際室は、インドネシアPTテレコムとの技術交流や研修受入れ等を通じて、共に通信インフラ品質の向上をめざすことで、通信キャリアとしてのパートナーシップ維持・強化に努めてきました。ここでは、現在、インドネシアで実施しているFTTH(Fiber To The Home)の展開や運用・保守の取り組みを中心に紹介します。
宮崎 真実(みやざき まみ)/ 長江 靖行(ながえ やすゆき)/ 熊木 雄一(くまき ゆういち)
NTT東日本
インドネシアにおける現状
世界第4位の人口2億5500万人(2015年インドネシア中央統計局より)、世界第16位の国土面積191万931 km2、約1万3000の島々を保有するインドネシアは、近年めざましい経済発展を遂げています。2016年には名目GDP 9323億ドル(2016年世界銀行より)で世界第16位となり、1人当りのGDPは3600ドル(2016年インドネシア中央統計局より)を超えました。首都であるジャカルタでは、高層ビル、工業団地、大規模なショッピングモールの建設が続いています。
インドネシアにおける通信市場動向
インドネシア、特にジャカルタ市街では、多くの人々がスマートフォンを操作しているのを目にします。特に若者は、SNSやオンラインコンテンツを楽しみ、スマートフォンは生活必需品となっているようです。事実、携帯電話の加入率は約150%であり、国民1人当り1.5台の携帯電話を持っている計算となります。
一方で、固定ブロードバンド普及率は1.9%にとどまっており、固定ブロードバンドに比べてモバイルブロードバンドが急速に発展したことがデータにも現れています(2016年ITU World Telecommunication/ICT Indicators Databaseより)。
このような状況の中、2014年9月にインドネシア政府は、「インドネシアブロードバンド計画」を公布し、「都市部では71%の家庭を20 Mbit/s以上、100%のビルを1Gbit/sの固定網でカバーし、1Mbit/s以上のモバイル・インターネットの人口カバレッジを100%にする。またルーラル地域では、49%の家庭を10 Mbit/s以上の固定網でカバーし、1Mbit/s以上のモバイル・インターネットの人口カバレッジを52%にする」ということを2019年の目標としました。政府の指針を追い風に、インドネシアの第一通信キャリアであるPT Telkomnikasi Indonesia, Tbk (PTテレコム)でもサービスを本格化し、FTTH(Fiber To The Home)サービスが急速に普及・拡大してきました。
インドネシアにおける光アクセス支援実施の背景
1995年よりNTTは、インドネシア国通信インフラ整備計画において、PTテレコムを含めたインドネシア現地企業等と設立した合弁会社MGTI社を通して、約40万回線の電話網を設立するプロジェクト〔KSO(Kerja Sama Opearsi)プロジェクト〕を実施しました。1999年よりNTT東日本が継承し、2004年のプロジェクト終了以降も、築き上げたPTテレコムグループとのリレーションを活かし、さまざまな技術交流や幹部交流等を実施してきました。その後2010年6月にNTT東日本とPTテレコムはFTTHに関する覚書を締結し、より具体的な分野に絞り技術交流を行うことで、さらにパートナーシップを強めてきました。
FTTHサービスの本格化に伴い、PTテレコムグループでは数千人の通信施工技術者を新規に採用し、高い開通目標に向かって若いパワーで一丸となり、取り組む体制を強化しつつ、2016年には年間300万のFTTHサービス新規加入者取得を目標としていましたが、技術力のある監督・作業員がおらず目標達成が困難な状況にあったことから、PTテレコムはいかに早く開通工事を実施できるかを課題にしていました。
一方、成長が期待できるインドネシア市場において新たなビジネスを模索しているNTT東日本、ビジネス拡大をめざす日系通信電線線材会社(フジクラ、古河電気工業、住友電気工業)、ビジネス参入をねらう日系通信建設会社(協和エクシオ)は、単独での参入・拡大の難しさに直面していました。NTT東日本は、リレーションのあったPTテレコムからの支援要請を受け、各社の強みを活かし日本連合として連携してアプローチすることにより、FTTH開通工事に関するコンサルティングの受注に至りました。
開通工事コンサルティング
開通工事に関する調査(STEP1)
まず、日本とインドネシアの開通工事において、どのような点が異なるのか、2週間の調査を実施しました(写真1)。調査対象は「ODP(Optical Distribution Point)から宅内への引き込み~ONT(Optical Network Terminal)の接続まで」 とし、その際、開通工事のスピードだけでなく、①効率性、②安全、③品質、④顧客ケア、の4つの観点から比較を行いました。
調査後、現場で起きている実態について工程ごとに具体例を示しながら、「スピード」を優先するだけでなく効率性、安全、品質、顧客ケアを総合的に行うことにより、さらなる改善が図れるのではないかと、幹部に提言を行いました。
写真1 現地ディスカッション
開通工事に関するフィールドトライアルの実施(STEP2)
次にSTEP1の調査で提示した課題に関して日本ではどのように対処しているのか改善案を提示し、1つのエリアで特別チームを編成し実際に改善方法を適用してみるというトライアルを4週間行いました。その際、日本とインドネシアにおいて、環境、文化、国民性、宗教等、根本的な背景として異なる点も多くあることを十分考慮し、尊重しつつ、インドネシアのフィールドにおいて最善の方法を模索しました。
はじめに器具・工具の配備基準を見直し、必要物品の持参を徹底させるとともに日本で標準的に使用しインドネシアには未導入の新たな器具・工具を試用することで、効果測定を行いました。
次に、すでに全国に標準配備されている作業用梯子等の器具・工具類については、極力変更を避ける方向で検討しつつ、安全や品質面について不足している点を作業フローでカバーできないか、検討を行いました。
最後に、作業員に対して研修を行い、1つひとつの作業の重要性を丁寧に説明し、安全で品質の高い施工の徹底に努めました(写真2、3)。丁寧に業務を行うことを推奨したため、1つひとつの作業工程単体としては時間をかけることもありましたが、適切な器具・工具を使うことで無駄な作業を省いて作業を容易にすることができ、トータルとして施工時間の短縮化に成功しました。
また4週間の開通工事に同行する中で、バックオーダー(お客さま宅へ訪問したが何らかの問題により開通工事が完了できなかった件)が多いことが判明し、施工面だけでなく業務プロセスにも改善の余地があることが分かりました。
写真2 机上研修の様子
写真3 昇柱訓練
開通工事の改善活動(STEP3)
STEP3では、約半年間にわたり、1つの局舎の通常の開通工事班と一緒に、①施工、②開通工事ビジネスプロセス、の2チームに分かれて開通工事改善活動のコンサルティングを行いました。
(1) 施工の改善提案(品質の高い施工を実施)
通常の開通工事を実施するチームメンバ全員に、STEP2で検証した器具・工具、施工方法を習得してもらい、実際の開通工事に適用してもらいました。インドネシア、特にジャカルタ近郊においては交通渋滞が激しく、開通工事班の標準的な移動手段であるバイクでは必要十分な器具・工具・部材等を持ち運ぶことが難しく、それが原因で安全で品質の高い施工の妨げになっていたことから、試験的に小型の自動車を導入し、工事特性によって必要なものを持参できる体制を整えました。
また、施工方式についても新規提案を行いました。インドネシアでは電柱から放射線状に引込線が延び、他人の所有エリアをまたいで配線されることも多いのですが、日本で一般的な分岐方式を紹介・導入し、施工方式のバリエーションの1つに加えるようにしました。
このような情報をインドネシア語のハンドブックとしてまとめ、各作業班に配れるように準備するとともに、PTテレコムグループ社内のオンライン研修商材としてもアップしました(写真4)。
(2) 開通工事ビジネスプロセスの改善提案
STEP2で判明した開通工事のバックオーダーが多いという問題点に対し、まず各業務プロセスを調べ、何がもっともボトルネックになっているのかについて調査を行いました。
バックオーダーの直接的な要因として、主に下記2点が判明しました。
① お客さまと連絡が取れない。住所情報が間違っており、お客さま宅へたどり着けない。
② ODPの設備予約情報が間違っている。代替のODPへも接続ができない。
これらは、営業との連携の課題、設備情報データベースの課題、システムとその利用に関する課題等が複合的に関連しており、本プロジェクト内・体制での即時解決は難しいため、事例の共有とその原因分析、改善要望の提示をすることで幹部にも課題感を認識してもらい、長期的な改善の提案を行いました。
当初、本開通工事コンサルを実施するまでは、作業上、目に見えやすい施工の問題点・課題に注目していました。しかし、トータルな「生産性向上」をめざすためには、開通工事ビジネスプロセスの改善を実施することでオーダ処理量が上がり、収入の拡大につながること、効率良く品質の高い施工を実施することで、開通工事の稼動・費用だけでなく開通後の故障率が減り、保守費用の削減につながること、の両方を意識した改善が必要になります。今回、調査、分析、事例紹介等、NTT東日本の取り組みを通して伝えてきました。
写真4 開通工事ハンドブック
運用・保守コンサルティング
光加入者数が急速に増えるにつれ、ネットワーク品質の改善、運用の効率化が、PTテレコムの課題として浮き彫りになってきました。さらなる加入者増に向けて、リテンション強化、お客さま満足度アップのためにサービス品質向上が不可欠となり、また、限られた現場技術者で対応するために、故障修理の件数削減、作業効率化が急務となりました。そこで、NTT東日本はPTテレコムからの要請を受け、2018年に光アクセス運用・保守に関するコンサルティングを実施しました。プロジェクトの内容は、南ジャカルタにある1ビルエリアで、日本での標準手法を基にインドネシアの環境に合ったインドネシア全体の手本となるオペレーションモデルを確立するというものでした。PTテレコムでは、故障率および繰り返し故障の低減、MTTR(平均復旧時間)の短縮化を目標として掲げており、私たちは本プロジェクトを通して故障切り分け、修理作業の改善、故障予防策の提案を実施しました。
故障切り分け、修理作業の改善
特に時間を要していた、「ODPから宅内への引き込み~ONTの接続まで」の故障修理を対象として実際に故障修理班に同行し、現状の故障修理作業を調査することから始めました。故障切り分け時間短縮のためにOTDR(Optical Time Domain Reflectometer)の導入を、ドロップ故障の修理効率改善のために中間接続工法を提案し、実際に故障班へ研修を実施し現場に適用することで効果確認を行いました。インドネシアでは、ODP下部はすべてドロップ敷設となり、日本と比較しドロップ区間が長いため大きな効果が得られました。ドロップ張替え作業については、開通工事と同様の器具、工具、施工方法を提案し、安全作業、基本動作の徹底と合わせて、研修を行い故障班への落とし込みを図りました。最終的にこれらの手順、情報を現場技術者向けのハンドブックにまとめ成果物として提出しました。
故障予防策の提案
PTテレコムでは、故障発生個所、故障修理方法については各故障班が報告しシステム投入されていましたが、故障発生要因については記録されていませんでした。故障班の所持するスマートフォンで、簡易に登録できるシステムをつくり、さらに詳細ヒアリングを実施することで、故障要因の詳細を把握、分析し、故障予防策を検討しました。南ジャカルタでは、ONT機器故障以外に、鼠、蟻、凧糸によるドロップケーブルの断線、ODPの閉め忘れによる劣化等が多く発生していることが分かり、それぞれに予防策を検討し、故障修理の際に再発防止対策を施すことにしました。また、併せて開通班、故障修理班が開いているODPを見かけたら閉める活動を実施することで、故障低減に努めました。成果物として故障要因分析結果、故障予防策について報告するだけでなく、もっとも大事なことは、個々の予防策ではなく、故障要因を把握、分析し、それに対する予防策を打つサイクルを定着させることであると提言し続けました。
両コンサル活動の成果がPTテレコム幹部に認められ、2019年よりNTT東日本が提案した開通工事工法、故障切り分け・修理手法について、インドネシア全国へ展開していくことになりました。
今後の活動
現在、NTT東日本国際室は、PTテレコムがコンサルの成果を全国展開する支援を実施しています。すでに、全国の各地域から研修講師となるメンバを招集して、開通工事および故障修理について、座学、実技、OJTの研修を1カ月実施しました。今後も、彼らが各地域で実施する研修の支援を行っていく予定です。併せて、FTTHにおけるPTテレコムグループとの新たな事業連携を模索し、今後もインドネシアの光展開に資する活動を継続していきたいと考えています。
(左から)宮崎 真実/長江 靖行/熊本 雄一
問い合わせ先
NTT東日本
デジタル革新本部 国際室
TEL 03-5359-8662
FAX 03-5359-1208
E-mail kokusai@east.ntt.co.jp
成長著しい国々では、今後ますますFTTH整備が加速します。これらの国々には日本の高い品質と技術が必要であり、今、日本連合(通信キャリア、通信電線線材会社、通信建設会社)で当該国への貢献とビジネスで切り込んでいくための大事な時期にきていると感じています。