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挑戦する研究開発者たち

研究開発者は「未来」の最初の種。研究開発は未来を築く大きなエンジンにもなり得る

NTTドコモは2020年、5G(第5世代移動通信システム)のサービスを開始しました。IoT時代において5Gはその重要な基盤としてコミュニケーションを変化させ、新たなビジネスの進展に貢献すると期待されています。5Gサービスが注目を集めている裏側で、研究開発者はすでに次世代、6Gを見据えて動き出しています。10年ごとに大きく進化しているモバイル通信ネットワークの国際標準化会議の実際と研究開発者の姿勢について5G規格の国際標準策定の立役者、永田聡担当部長に伺いました。

永田 聡
6G-IOWN推進部 担当部長
NTTドコモ

議長職には技術力だけではなく人柄や信頼感等も求められる

現在の研究開発の内容から教えていただけますでしょうか。

私は5G国際標準化と6G、次世代の通信技術を中心に研究活動を展開し、3GPP(3rd Generation Partnership Project)の議長職を務めています。世界中どこでも固定電話や携帯電話、インターネット等の通信ができますが、これは、端末やネットワーク等の仕様、通信手順等に関する国際的な仕様(国際標準)があり、それに従うことで可能となります。3GPPは、こうした国際標準のうち3G以降の国際標準策定に取り組んでいるグループで、現在約40カ国から400近い企業、団体、大学が参画しており、年間合計で延べ5万人程度の研究者、技術者が会議に参加しています。その中でも私がこれまで議長を務めたTSG-RAN WG1(Technical Specification Group Radio Access Network Working Group 1) は規模が一番大きいグループです(図1)。会合は1カ月または2カ月に1回程度のペースで開催され、TSG-RAN WG1 の場合は年間6回程度、多いときで1回につき約700人が参加します。
会議には参加者から、国際標準化に向けた課題や標準に関する技術提案等のドキュメント(寄書)が提出されます。近年、3GPP標準化の会合に参加する人の数が増える傾向にあり、それに伴い寄書の数も増えており、一度の会合で1000件を超えるようになりました。
こうした寄書は会合の場でプレゼンテーションされ、議論の後に合意がなされることになりますが、必ずしも参加者の利害が一致するわけではないので、それぞれの利害を調整して標準としてまとめ上げていくことが議長の大きな仕事です。
参加者や寄書の数が多くなるということは、議論の収束に労力と時間を要することになり、場合によっては標準化作業の進捗が悪くなる危険性がありますので、私は問題点・課題を会合前に洗い出し、解決策を並べ、それを会合中に参加者で共有し整理していくことで議論を取りまとめています。ほかにも、議論が堂々巡りになりつつあるときや、対立する意見について両者譲らず膠着状態にあるときには、早めに議論をストップし冷却期間を設けるとともに、論点を整理して再議論の期日を指定するなどの試行錯誤を繰り返しながら議論交渉を進めています。

大変なお仕事ですね。ところで議長職への選出はどのようになされているのですか。

議長職はそれぞれのグループの中で候補者をつのり選挙によって選出されます。議長職には背景となる技術力だけではなく、参加者間の利害調整を行うことも必要であるため、交渉力や調整力に加え人柄や信頼感等が求められていると感じます。
こうした信頼感、理解力、交渉力、調整力のいずれもどの場面においても重要ですが、特に、理解力は議会の前に寄書等の分類をする際に、調整力・交渉力は会議前から会議中のメール等での連絡において、常に必要となります。実際の議論の場においては、意見の対立やすれ違いを整理して、必要に応じて全く違う意見やアイデアを照らし合わせることも行いながら調整して結論を導き出すのですが、それらが参加者の信頼に足り得る決断、行動かどうかは常に見られていると実感します。
世界各国、各社それぞれの経済圏やエコシステムにおいてさまざまな価値観、アイデアや思惑がありますから、個々の立場や背景を考慮して1つの仕組みをつくるのは困難です。これに対して本当に良いものをつくろうという熱量や熱意、情熱が議長職に求められていると思います。

大切なのは未来を予想するのではなく「つくり上げていく」というスタンス

5Gが商用化されて1年半ほどたちますが、次世代を見据えた研究開発はもう始まっているのでしょうか。

移動通信システムの場合、1Gから5Gに至るまで、約10年の周期で新しい技術が商用化されていますが、ちょうどその時期は、次の世代の技術の検討が始まる時期でもあります(図2)。私がNTTドコモに入社したときはまさにそのタイミングで、3Gの商用化とともに4Gの技術検討が立ち上がった時期でした。それから約20年、5Gが商用化されるのとほぼ時を同じくして6Gの技術検討が始まりました。
現在、世の中は正解のない時代を迎えていると言われていたりします。技術は加速し、高度経済成長期と比べても世界における日本の立ち位置は変化しており、人々の生き方、生きがいや幸せは多様化しているのかもしれません。ある意味、全員がめざすべき1つの明確な目標がない時代に突入しているのではないかとも思います。こうした状況下において、10年かけてつくり上げる技術が、時代、未来にどれほどあっているかという難しさもあります。
私は研究開発においてユーザ目線で考えているか、自分たちがどのような社会、未来をつくり上げたいと考えているかを意識しながら検討を進めています。「未来は予想するものではなくつくり上げていくもの」というスタンスで、そのための研究開発です。
おそらく、この先もコミュニケーションに関する人々のニーズは、形は変わるかもしれませんがなくならないでしょう。少子高齢化、相対的貧困と格差、自然災害などの社会課題を見据えながら持続可能な社会、未来をつくり上げていくことが私たちの使命であると考えます。

研究開発をするうえで心掛けているユーザ目線での検討や未来・社会の価値創造を実現するために、日々どんな努力をされているのですか。

現在は自動車、医療、ロボット、宇宙、ゲーム・アニメ業界等、多様な業界の方々と各業界での課題感や各自が描きたい未来を議論する場を数多く設けるようにしています。多くの業種、業界の皆様に移動通信システムを使っていただけるようになりつつある一方、各業界に何が起きているのか、現場のご意見を直接伺うことの大切さを感じているからです。さらにいえば、既存の業界、業種の垣根がどんどんとなくなってきており、組合せや異業種間の交流の重要性を強く感じていることも別の理由として挙げられます。
また研究開発を進めるうえで、自身がどのような視座、考えで検討を進めているかを意識することは大切だと思います。6Gの検討では、現時点での社会に存在する課題を1つひとつ解決することで未来をあぶりだしていくforecast的な考え方と、各自の理想、究極の姿を考えながら未来を描くbackcast的な考え方の双方を考慮しながら研究開発を進めるようにしています。
こうした場でさまざまな業界の方々と話していると、未来についての強い思いを持った方々が数多くいらっしゃることを実感します。一方、技術が加速している時代において、技術によって提供されるものに対する人の恐れや不安も感じます。例えば、人がAIに支配されてしまうのではないか、ロボットに仕事を奪われてしまうのではないか、などです。技術、サービスを提供する側が、どのように人、社会に寄り添っていくか、また、技術、サービスのあり方が問われているようにも感じます。人の心や社会・未来を感じつつ、人として、大人として次世代、子どもたちにどのような未来を紡いでいくべきかを大切に考えていきたいですね。

自ら価値や意味をつくり上げられる領域であり、やるべき領域が増えている

研究開発者には、夢や理想と現実の両方を勘案できる能力が求められるのですね。

既存の業界の垣根がどんどんなくなり、組合せが求められる時代では、研究開発者、研究開発に求められるものが変化していることを感じます。異なる分野、例えば哲学、心理学、宗教、考古学などの皆様とのコミュニケーションに加え、AI、ロボット、バイオテクノロジなど最先端の技術動向を常にトラッキングし、さまざまな業種、技術との掛け算をし続けていく感覚が大切ではと思います。
また、日本では研究開発者や技術者、科学者になりたいという人の数が少ないように感じる一方、 GAFAM、BATHを含む企業が一国レベルの経済規模を持ち、新しいものや大きな仕組みをつくって社会を変革しています。こうした状況下において、研究開発の意義や、楽しさを発信、啓蒙していくことも必要ですし、腕の見せ所ともいえます。
研究開発は創りたい「未来」の最初の種にもなり得るし、大きなエンジンにもなり得ます。「0」から「1」をつくり上げる、何かを生み出すことに挑戦できる意義のある仕事です。「0」から「1」を生み出すことは非常に難しいことですが、「0」が「1」になったときにものすごく心が躍りますね。そして、どんな「1」をつくったのかがとても大事です。振り返ってみると、私にとっての印象深い「0」から「1」は4G、5Gになるのかもしれませんが、非常に重い責任を感じています。なぜならば新しい技術を世に送り出した研究開発者、サービス提供者には、その理由や意義、社会的責任を問われるからです。だからこそ、ユーザ目線で研究開発をしているか、どのような社会、未来をつくり上げたいと考えているかを意識してテーマを探し、情熱を持って進めることが重要だと思います。

後進の研究開発者の皆さんに一言お願いいたします。

仕事を進めていくうえでその意義や内容に悩むことがあるかもしれませんが、研究開発は自ら価値や意味をつくり上げることができる領域だと思います。研究開発者として自身が何をしたいか、何を創り上げたいかを考えて、形にしていくことにやりがいを感じてくれたらうれしいです。
プレッシャーを感じたり、壁にぶつかることがあるかもしれません。そんなときには、NTTグループに集まっている世界的に優秀な研究開発者とのコミュニケーションや、全く違う業界の皆様との交流をしつつ進んでいっていただければと思います。
失敗なんてありません。そこで得られたものは財産になりますから、若いうちから挑戦し続け経験を重ねることに意義があると思います。NTTグループにはチャレンジできる伝統、土壌があると思います。まずは自分が研究開発者として何を感じ、どんな意義を持ち、どういう将来を描いていくかをしっかりと築き上げていくことが大事です。あとはとにかく経験していくことです。長い目でみれば失敗は大いなる財産です。失敗した数が財産になると思って自分の思いを信じ挑戦し続けてください。