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特集

つくばフォーラム2019 ワークショップ

多様なサービスを支えるワイヤレス技術

NTTグループでは、お客さまに多様なサービスを提供しています。無線技術はサービスを支える重要な技術です。無線サービスは使用する周波数の特性に応じて、さまざまな使い方が考えられます。本稿では、無線技術の研究開発の方向性、VHF/UHF/マイクロ波/ミリ波帯と使用する周波数に応じた無線サービスを支える技術、および衛星通信、無線LANの現状・展開について紹介します。

NTTアクセスサービスシステム研究所 プロジェクトマネージャ 鬼沢 武

はじめに

無線通信システムを通信インフラとして活用するニーズや利用シーンは拡大を続けています。特に、スマートフォンやタブレット端末の普及に伴い、移動通信のトラフィックは増加を続けています。無線サービスの発展と私たちの生活への浸透について図1に示します。過去の無線サービスは加入者系や中継系などに代表される電話サービスが中心でした。その後、無線サービスは生活により身近なものとなり、セルラシステム、衛星システム、無線LANなど、さまざまな無線サービスが独自に発展し広く普及してきています。今後は、これらの無線システムが連携、融合する時代が来ると考えられます。従来の無線システムに加え、UHF帯からミリ波帯まで幅広い低周波数帯から高周波数帯の活用、さらには、新たなシステムとして低軌道衛星技術、RoF(Radio over Fiber)技術の活用、高密度な無線LANなどが融合した時代が来ると考えられます。これらの無線サービスへの期待が高まる中で、NTTアクセスサービスシステム研究所では、あらゆるものが無線接続された、より利便性の高い世界の実現に向けて、無線の特長を活かした研究開発を進めています。
一方で、特に、東日本大震災以降は、災害対策に向けた研究開発に注力してきました。お客さまへの影響が甚大な広域災害発生時に通信インフラを迅速に復旧、構築するための災害対策用無線システムに関する検討を進めています。従来の災対関連システムの老朽化やスプリアス規格の改正もあり、各種無線システムの高度化を図ってきたところです。
これに加えて、無線通信システムの利用シーンが広がることに対応して、近年では、より高い伝送速度を実現するために、より高い周波数であるミリ波を活用した技術の検討も進めています。まず、都市部のトラフィック急増に向けた検討です。将来は多数の設置が必要になると推察されるスモールセル向け通信基地局に接続される無線エントランスへのミリ波の適用検討です。光回線の代替として無線エントランス回線をスモールセル向け通信基地局に接続することで柔軟な基地局配置を実現します。さらには、集中無線基地局でソフトウェアなどにより無線送受信機能を実現する高周波数帯アナログRoF技術の検討も加速させています。基地局の消費電力を抑えて、張出局の小型化、低消費電力化といった携帯基地局の利点を継承する方向で検討を進めています。
また、衛星通信システムにおいても、東日本大震災以降、衛星通信システムが持つ本来の特長である通信の広域性や即時性などに注目が集まりました。当時の衛星通信システムでは、関連装置類の老朽化や保守運用性の陳腐化が課題となっていました。したがって、災害対策用、さらには、光回線の敷設が困難な離島用の地球局に適用する高効率な信号処理装置の開発を進め、システム化を推進してきました。近年では、将来の通信への活用を探るべく、低軌道衛星への衛星通信システムの適用検討を開始しました。
無線LANでも、従来のアンライセンス帯での通信手段としてだけではなく、大きな飛躍を遂げています。無線LANはユーザの展開力が非常に大きなシステムです。新たな展開により豊かなサービスを提供しています。
本稿では、私たちが取り組んでいる、これらの無線技術についての研究開発動向を紹介します。

図1 無線サービスの発展と生活への浸透

VHF/UHF/マイクロ波帯無線システム

ここでは、VHF/UHF/マイクロ波帯を用いた研究開発について紹介します。まず、東日本大震災以降に注目をされた広域災害用のUHF帯を用いた災害対策システムについて説明します。次に、2018年7月に起こった西日本豪雨でのマイクロ波帯システム含めた活用事例を示します。
NTTグループの重要課題として、災害に強いネットワークづくりと早期復旧手段の整備があり、無線通信技術の災対活用では装置の機動性や早期復旧に強みがあります。一方で、設備の老朽化や専門スキルを持った人材の減少が進んでおり、設備更改や作業性・保全性の向上が求められていました。そこで、UHF帯を用いた災害対策用途として数10 kmの無線通信が可能なシステムを開発しました。本システムでは、東日本大震災の教訓を基に、1台の無線基地局から複数台の無線端末局を収容することができるP-MP(Point to Multi-Point)通信構成を実現しています。また、特設公衆電話に加えてインターネット接続機能の提供、巨大地震・津波被害などで想定される広域災害への対応、小型軽量化等の機動性や保守運用性の向上を図ることが要求条件となりシステムの開発が進められました。さらに、図2に示すように並行して全長を2分の1にした位相差給電法を活用した小型アンテナ、小型化を図った都市用アンテナも開発しています。
次に、西日本豪雨の際に用いられた、UHF/マイクロ波帯システムの活用例を図3に示します。岡山県ではUHF帯災対システムが、愛媛県ではマイクロ波帯中継システムが活用されました。
また、VHF帯では主に国立公園などに代表される有線設備等の設置が困難な地域や、携帯電話のエリア圏外となるような超ルーラルエリアへの適用を視野に入れた検討も進めています。本検討では長距離の電波伝搬が求められることから長遅延波の影響を明確化する必要があります。そこで、現在は、基礎検討として電波伝搬の実計測を行いVHF帯での電波伝搬モデルの確立やシングルキャリア方式へのMIMO(Multiple-Input Multiple-Output)伝送技術の適用可能性等の検討を進めています。

図2 UHF帯災害対策・アンテナの小型化

図3 西日本豪雨災害での無線システム活用例

ミリ波帯無線システム

ここでは、高周波数帯を活用したアプローチとして、ミリ波帯を活用した検討を紹介します。主に都市部でのトラフィック向上対策として検討を進めている無線エントランス技術、RoF技術に関して説明します。現在、多数のスモールセル基地局を設置する場合には、光回線の活用が主流です。これに対して、将来は、さらに多くのスモールセル基地局が展開されることが期待されており、無線エントランス回線の広帯域化、高周波数化は必須の流れと考えています。また、光回線と併せて無線エントランス回線も柔軟に活用することで、フロントホールを効率的に構築することが期待されています。そこで、ミリ波を用いた無線エントランスの特性を実験的に検証しました。集約基地局とアクセスポイント間の機能分担に基づいたフロントホールインタフェースを10 Gbit/s程度以内の伝送速度を想定し、無線の伝送区間を20 m、50 mとして評価を実施した結果、光回線と比較して大きな特性劣化は見られないことが確認できました。
また、ミリ波の無線信号をそのまま光信号に変換して伝送する高周波数帯アナログRoFを活用した無線システムの研究開発を進めています。図4に示すように高周波数帯アナログRoF技術では、無線信号処理部は集約局に設置され、アンテナなどは光ファイバを介して張出局に接続されます。このような構成をとることで、張出局側の構成を単純化することが可能になり低消費電力化が期待できます。さらに、将来に多くの基地局が展開された際にも、ミリ波で必須なビームフォーミング技術を集約局のみで対応する遠隔ビーム制御も実現できます。これらのミリ波技術は将来のBeyond 5G時代での適用等を視野に入れて研究開発を進めています。

図4 RoFを用いた無線通信システム

衛星通信

ここでは、衛星通信システムの研究開発について説明します。東日本大震災以降、衛星通信システムの特長である通信の広域性や即時性などが再注目され、離島用、災害対策に適用する地球局の高効率な信号処理装置の開発を進めてきました。一方で、世界的にみると衛星通信は大きな変革期であり、従来通信に適用されてきた静止衛星だけではなく、低軌道衛星への通信の適用が検討されています。将来の衛星通信の展開を探るために、低軌道衛星システムにMIMO技術を適用する低軌道衛星MIMO伝送の検討を行っています。低軌道衛星を用いたMIMO伝送のモデルを図5に示します。下りリンクの大容量化を目的に、低軌道衛星に複数アンテナを搭載した場合の伝送容量の増加を初期検討結果として確認しています。私たちは、将来の新たな宇宙利用も見据えた研究開発を進めていきたいと考えています。

図5 低軌道衛星MIMO伝送

無線LAN

ここでは、無線LANの最近の研究開発について説明します。私たちは、IEEE802.11委員会への参画をはじめ、ARIB(Association of Radio Industries and Business)などの各種団体にも参画しながら、技術だけではなく、標準化、法制度の側面含めて研究開発を進めています。従来のアンライセンス帯を活用したLANとしての通信手段だけではなく、利用シーンも、その特性自体も大きな飛躍を遂げています。無線LANはユーザの展開力が非常に大きなシステムです。高品質化、大容量化、低遅延化などの無線スペックの高度化のみならず、測位、無線品質の見える化、電波による物体検出など、非通信領域まで含めた新たな展開によりさまざまなサービスに貢献しています。また、最近では、大規模スタジアムや展示場での1万人クラスの実証により、同時にコンテンツを共有体験できる大規模Wi-Fi・ネットワーク環境を構築するなど、全員参加の新しい体感型イベントでの大きな可能性を実証しています。

今後の展望

今後も、現在の多様な無線サービスを支えながら、さらなる利便性の高い無線サービスをお客さまに提供する研究開発を進めていきます。

問い合わせ先

NTTアクセスサービスシステム研究所
無線エントランスプロジェクト
TEL 046-859-8020
FAX 046-859-4311
E-mail takeshi.onizawa.lm@hco.ntt.co.jp