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特別企画

東京2020オリンピック・パラリンピックとNTT R&D:カテゴリ2 東京2020を『彩った』NTT R&Dの技術

聖火リレー地域イベント × 音声認識通信技術

NTTは、聖火リレー地域イベントとして、地域の小学校にて聖火リレー応援体験イベントを実施しました。本イベントでは、音声認識通信技術を活用し、応援する小学生の声援を文字として可視化してランナーに送り届ける演出に加え、応援演出システムを小学生と一緒につくり上げることで一体感を醸成する、新たな応援体験を提案しました。本稿では、実施したイベントの概要と、小学生とともに制作した応援演出システムについて紹介します。

市川 裕介(いちかわ ゆうすけ)/稲葉 智宏(いなば ともひろ)
大谷 花絵(おおたに はなえ)/大和田 英成(おおわだ ひでなり)
金丸 翔(かねまる しょう)/神山 歩相名(かみやま ほさな)
河井 彩公子(かわい さきこ)/鴻野 晃洋(こうの あきひろ)
小屋迫 優士(こやさこ ゆうし)/坂元 一光(さかもと かずみつ)
鍔木 拓磨(つばき たくま)/広瀬 健太(ひろせ けんた)
森 友則(もり とものり)/吉田 由紀(よしだ ゆき)
和井 秀樹(わい しゅうき)/渡邊 真由子(わたなべ まゆこ)
美原 義行(みはら よしゆき)/薄井 宗一郎(うすい そういちろう)
NTT人間情報研究所、ほか

概要

全国を回る聖火リレーのルートに、NTT横須賀研究開発センタ(横須賀通研)も選ばれていました。研究所内で聖火を迎え入れるイベントの運営は、NTT側で行う予定でした。NTT研究所では、このイベントの企画運営に向けて、研究所横断で広くメンバーを募集し、9研究所から集まった18名のメンバーで検討を重ねました。そのメンバーで、NTT研究所では、横須賀通研という場所に聖火を迎え入れるにあたり、今までも交流を重ねてきた近隣住民の方々とともに迎え入れることを決めました。
イベントを企画するにあたり、最初にテーマの設定に取り掛かりました。東京2020オリンピック聖火リレーのコンセプトは、「Hope Lights Our Way/希望の道を、つなごう」です。横須賀通研は、横須賀に1972年に設立され、長きにわたって地域の住民たちと、技術を通じて交流を重ねてきました。この背景と聖火リレーのコンセプトを掛け合わせて、「時代をつなぐ、地域をつなぐ、技術をつなぐ」というテーマを設定しました。聖火ランナーは、このテーマを基に、ベテラン研究者から、若手研究者、地域学生へとバトンをつなぐ構成となりました。また、応援する観客には近隣小学校(横須賀市立粟田小学校、岩戸小学校)の小学生を招待し、観客を含めて聖火リレー全体で時代と地域をつなぐ構成としました。地域学生ランナーとして、スーパーサイエンスハイスクール等で横須賀通研と交流がある、神奈川県立横須賀高校の生徒に走っていただくことになりました。
このイベントでは、地域と技術をつなぐテーマのもと、応援を通じて小学生たちに研究所の通信技術に触れてもらう機会をめざしました。その中で、新たな聖火リレーの応援体験を提供することを目標にして検討した企画が、音声認識通信技術を活用した応援演出システムを用意し、小学生の声援が可視化されてランナーに届けられる体験です。小学生に技術に触れてほしいという思いから、応援演出システムの入力装置として、市販の紙コップと磁石、コイルを用いて自分たちでつくれる「紙コップマイク」を取り入れました。小学生たちには、イベント前に紙コップマイクを制作してもらいました。紙コップマイクを自作することで、磁石とコイルで音が伝わる通信の原理を学ぶ機会にもつながったと考えています。
このような準備をしていた中、新型コロナウイルス感染拡大の影響で、2020年3月に聖火リレーとオリンピックが1年延期することが決まりました。1年延期になりましたが、検討メンバーとして変わらず、横須賀通研に聖火を迎え入れる準備を重ねてきました。2021年3月には、予定どおり聖火リレーがスタートしましたが、イベント本番2週間前に、新型コロナウイルス感染拡大を受け、神奈川県が県内公道での聖火リレーの中止を決めました。この影響で、横須賀通研での聖火リレーイベントも中止となりました。中止の決定を受けましたが、検討メンバー全員が持っていた思いは、すでに紙コップマイクの制作に参加協力してくれていた小学生に思い出をつくって欲しいという想いでした。その想いから検討メンバー一丸となって、代替イベントの企画にすぐに取り掛かりました。横須賀通研での集合型のイベントはできないため、応援演出システムを粟田小学校、岩戸小学校の校舎に持ち込み、同様の聖火リレー応援体験イベントを実施する方針を立てました。検討メンバーで企画してきた、紙コップマイクは、飛沫拡散防止の利点があるだけでなく、マイクなので大声を出さなくても声が増幅されて応援ができる利点があります。この観点から、コロナ禍の中でも企画を安全に実施できると確信しました。
私たちの企画を小学校に相談したところ、企画を快諾くださり、粟田小学校は体育館での実施が、岩戸小学校は視聴覚室での実施が決まりました。参加対象は、それぞれ小学6年生となりました。本来聖火リレーを実施する予定であった6月29日に両校同時に実施しました(図1)。参加者数は、粟田小学校61人、岩戸小学校46人、合計107名となりました。

応援演出システム

応援演出システムは、紙コップマイクを通じて発せられた小学生の声を、音声認識通信技術を用いて可視化するものです。全体のシステム構成は図2となります。声の音声を取得するため、紙コップマイクとスマートフォンを1台ずつ接続します。紙コップマイクで集音した音声はスマートフォンを通じて、音声認識通信網に送られます(図2 ①)。音声認識通信網では、通信の間に音声の内容を文字化して出力します。音声認識通信網を通じて出力された音声の内容は、会場内のプロジェクタにて表示され、ランナーに見えるようになります(図2 ②)。今回、特定の「がんばれ」「ファイト」という応援ワードに限定することで認識精度を高めました。応援ワードの発生回数もカウントし、応援ワードの集計結果に応じた演出を会場のプロジェクタで投影する画像、およびスピーカに出力し、紙コップマイクで集めた声援を可視化してランナーに届けます(図3)。

技術

■音声認識通信技術

紙コップマイクで集音した音声は、S/N比が低く、音声に必要な帯域の周波数が落ちてしまう問題がありました。結果として、音素(/a/、 /i/、 /u/、 /e/、 /o/などの音の種類)認識に失敗することが、本システムを実現するうえでの課題となりました。このため、紙コップマイクの特性に合わせた学習モデルを新規に構築、チューニングを実施しました。本イベントに対しては、指定した応援ワードを漏れなく認識することが重要です。したがって、認識するワードを限定したうえで、適合率(精度)より再現率(感度)を優先したチューニングを行うことで、応援の体験価値を向上できました。
また、音声認識通信技術に声援を送るため、小学生に紙コップマイクを制作してもらいました。紙コップマイク制作は2012年に開催の「NTT横須賀研究開発センタ 一般公開」の子ども科学教室にて実施した実績がある技術教育コンテンツです。今回のイベントにおいては、学校側から割り当てられた時間(2時限120分)以内に全員が制作完了する必要があるため、検討会メンバーにて試行を繰り返し、作業に手間取るポイントを特定、ハサミを使用した作業個所の省略など工夫し、制作キット化したものを用意することで、全員が同じ時間内の完成を実現しました。制作当日の様子を図4に示します。
当日は、紙コップマイクが完成した生徒から順に、スマートフォンへ接続、音声を録音、録音した音声をスピーカから再生し、動作確認を行う手順としました。実際にスピーカから音声が再生されると、生徒からは「おー!」と感嘆の声が出るなど、楽しみながら音声を通信する仕組みを学んでもらうことができました。

結果

応援体験イベントでは、学校の先生たちが教室や体育館の中でトーチを持って走り、次のランナーの先生のところまで行くと、トーチの先端を重ねるトーチキスを擬似的に実施しました。この疑似リレーは約15分間にわたって行い、その間、小学生たちは必死に大声をこらえながら、応援を続けました。大声での声援ではないものの、紙コップマイクで声が増幅されて大きな声援になっただけでなく、ランナー走行の間に約9000もの応援ワードがカウント表示され、大いに盛り上がり終了しました。イベント終了後、参加した小学生全員からもらった感想文(完全自由記述形式)において、「紙コップマイクで音がでた時すごいうれしかった」「普通の声で話してみたけど本当にマイクだった」「紙コップマイクで応援をしてほんもののマイクのようになっていてすごい」と、ただ単に楽しいというだけでなく、今回の応援体験が技術への興味につながったことが分かりました。「なんであんなふうになるのかをしりたい」等、技術のさらなる根幹に興味を持った感想もみられました。
また、両校の校長から、「さまざまな通信の技術が身近な施設で研究されていることを知れたことは、地域を学ぶうえでも良かったと思っています」(粟田小学校 金子校長)、「NTTの研究されていることや、その技術に触れさせていただくことは、キャリア教育のうえでもとても意義のあることでした」(岩戸小学校 原口校長)と、本イベントが地域交流に加えて、教育として価値があったとの評価をいただきました。

まとめ

今回、計画していた横須賀通研での小学生を招いたかたちでの聖火リレーは、実現できませんでした。しかしながら、紙コップマイクの制作から、実際の応援まで、小学生が積極的に疑似リレーを体験したことで、当初のテーマであった「時代をつなぐ、地域をつなぐ、技術をつなぐ」を実現できたと考えています。聖火リレーに触れたことで、オリンピックへの機運も醸成できたと考えています。今後も、地域との技術を通じた交流を重ねていき、地域とともに発展を続ける研究所をめざしていきたいと考えています。

謝辞

本イベントの趣旨をご理解いただき、ご参加いただいた横須賀市立粟田小学校、横須賀市立岩戸小学校の教員、生徒の皆様に感謝いたします。また、聖火リレーの準備にご協力いただいた神奈川県スポーツ局、横須賀市政策推進部、神奈川県警警備部、神奈川県立横須賀高校の皆様にも感謝いたします。

横須賀スポンサーストップ検討会 メンバー一同

問い合わせ先

NTTサービスイノベーション総合研究所
E-mail svkoho-ml@hco.ntt.co.jp