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特別企画

2021世界的スポーツイベントとNTT R&D:カテゴリ 大会に『備えた』NTT R&Dの技術

ネットワーク工事 × 暑さ対策ウェア

2021年夏に行われた世界最大のスポーツイベントにおいて、NTTの重要な役割の1つである安定でセキュアな通信環境の構築のため、炎天下での大規模なネットワーク工事が必要でした。暑熱による体調不良を防ぎ、より安全に工事を実施いただくために、ウェアラブル生体・環境センサを活用した体調管理システムを構築・導入しました。

高河原 和彦(たかがはら かずひこ)†1/都甲 浩芳(とごう ひろよし)†1
永井 菜央美(ながい なおみ)†2
NTTデバイスイノベーションセンタ†1
NTT研究企画部門†2

背景と目的

近年、気温変動の影響等もあり熱中症による救急搬送人員数や死亡者数が増加しており、社会全体で大きな課題になっています。総務省消防庁の調査では、2021年6月1日から10月3日にかけ熱中症により救急搬送された人員数は4万6299人、また、厚生労働省の公表では、2020年における職場での熱中症による死傷者(死亡・休業4日以上)は829人、うち死亡者は22人となっています。厚生労働省等からは、職場における熱中症予防対策の指針やマニュアルが公開されています。
NTTでは個人ごとの熱中症対策を実現するため、個人のバイタルデータから体調不良リスクを推定し、アラートを発出する手法を開発しました。体調不良リスクの推定、アラート発出手法の有効性を検証するため、NTT東日本の協力を得て2020年8〜9月に東京、神奈川、北海道エリアで49名(延べ834人日)の工事作業者を対象とした実証実験を行いました。実験では工事作業者から作業中の温冷感をアンケートで取得し、推定した体内温度変動と温冷感の関連性を確認できました。

体調不良リスクの推定・アラート手法

NTTが新たに国立大学法人名古屋工業大学(名工大)との共同研究により創出した体内温度*1変動推定ロジックを用いて、熱中症等の体調不良リスクを推定する手法を開発しました。体内温度変動推定ロジックでは、人の体温調節機能、服装、活動といった要素を考慮した電磁界解析技術と熱解析技術を融合した名工大独自のプログラムを応用し、個人ごとの心拍数、衣服内温度・湿度を用いて体内温度変動を推定します。また、NTTと国立大学法人横浜国立大学(横国大)と至学館大学(至学館大)、名工大との共同実験では、至学館大の人工気象室を用いた臨床実験*2により、体内温度変動推定ロジックの適用性を確認するとともに、温熱・運動生理学的理論に基づいて体内温度変動などを用いたアラート発出基準を作成しました(図1)。体調不良リスクの推定・アラート手法は、これらのロジックおよびアラート発出基準から成り立っています。

*1 今回紹介する手法は医療行為ではないため、「深部体温」ではなく「体内温度」という表現を用いています。
*2 至学館大学研究倫理審査委員会:受付番号124。

ウェアラブル生体・環境センサ

個人ごとの心拍数、衣服内温度・湿度を取得するためには、ウェアラブル生体・環境センサ*3を用います。NTT デバイスイノベーションセンタで研究開発したウェアラブル生体・環境センサ技術(1)をベースにして、NTT テクノクロスが商用化した小型センサTX02、東レ株式会社のhitoe®作業者みまもり用シャツ・hitoe®使用ベルト、もしくは株式会社ゴールドウインのC3fit IN-pulseから構成されており、心電位、衣服内の温度や湿度、上半身の加速度や角速度のデータを計測します(図2)。また、計測したデータを基に心拍数、RRI、歩数、上半身の傾き等のさまざまな特徴量を解析します。

*3 本センサは医療機器ではありません。hitoe®は東レ株式会社とNTT が開発した、体から発している微弱な電気信号である生体信号を、無意識に近い状態で収集するための機能素材です。機能素材hitoe®は両社の商標登録です。

世界的なスポーツ大会での運営支援

2021年に行われた世界最大のスポーツイベント会場で作業を行う工事作業者に本手法を適用することで、工事作業者の熱中症対策を実現し、安心・安全な大会に貢献しました。2021年5月24日から9月30日にかけて、2会場において計12名の工事作業者が暑さ対策システム(2)を運用しました。体調不良リスクを遠隔モニタリングするとともに、アラート発出基準に基づいて工事作業者自身と現場管理者へ適切にアラートが発出されました。期間中には合計10回のアラートが発出され、アラートを受け取った現場管理者は対象の工事作業者へ体調確認を行い、必要に応じ休憩を促すなどの対策を取ることができました。結果として、熱中症等の体調不良者の発生を防ぐことができました。

まとめ

NTTは、今後も本手法を多くの現場に導入していくことで知見を深め、安心・安全に大規模なイベントを開催できる世界をめざしていきます。

■参考文献
(1) https://www.ntt.co.jp/news2019/1911/191108a.html
(2) https://www.ntt-tx.co.jp/whatsnew/2021/210615.html

(左から)都甲 浩芳/高河原 和彦/永井 菜央美

問い合わせ先

NTTデバイスイノベーションセンタ
ライフアシストプロジェクト
ウェアラブルアプライアンス応用DP
TEL 046-240-2296
FAX 046-270-2323
E-mail kazuhiko.takagahara.ka@hco.ntt.co.jp