グループ企業探訪
ワンストップの決済・送金サービスで着実に成長
NTTスマートトレードは、決済ゲートウェイサービスにより、クレジットカード決済、口座振替などの各種決済・送金サービスとその周辺業務をワンストップで提供して成長し続けている。2021年10月に会社設立15周年を迎え、法改正を契機とした新たなビジネスへの展開や、業界のDXへの思いを中村芳博社長に伺った。
NTTスマートトレード 中村芳博社長
競争激しい業界で、繰り返される法改正をビジネスチャンスに変えて成長
◆設立の背景と目的、事業概要について教えてください。
NTTスマートトレードは、 FX(外国為替証拠金取引)の会社として、2006年10月に設立されました。金利の差分などに着目した金融ビジネスをイメージされると思いますが、外国為替に関する取引の際に発生するトランザクションを扱うビジネスモデルを基に、NTTグループ企業の1つとしてスタートを切りました。
2010年4月の資金決済法の施行により、銀行以外の事業者でも送金サービスが可能となったことをきっかけに、ネット決済・ネット送金事業を主軸とする会社に方向転換し、その後 NTTコミュニケーションズから「ちょコム」という電子マネー事業を承継するなどさまざまなサービス拡充を経て、年商約30億円、社員1人当り約1億円超という高生産性の企業へと姿を変え、2021年10月に会社設立15周年を迎えることができました。
事業は、法人向けと個人向けにサービスを提供しています。個人向けにはちょコムをベースとした「電子マネー」、「ちょコム送金」、電子マネー販売の「ちょコムショップ」といった送金・決済サービスの提供のほか、最近では「学費公共スマート払い」という、クレジットカードを利用した学費の送金サービスも開始しました。
一方、法人向けには「クレジットカード決済」「コンビニエンスストア決済」「口座振替」「電子マネー(ちょコム)決済」といった決済・送金サービスを中心に展開し、お客さまにさまざまな決済手段を提供するだけなく、個別ニーズにも対応できるソリューションも提供しています。具体的なサービス例では、クレジットカード決済などの利用の際にシステム開発・接続不要で導入できる仕組み、毎月の料金案内や請求業務をサポートする「請求業務サポートサービス」、入金消込業務をサポートする「銀行振込消込サービス」、決済関連の周辺業務のBPO(Business Process Outsourcing)、振込手数料や収納手数料を削減するためのコンサルティングなども行っています。
◆政府の促進策でキャッシュレス決済が注目を浴びましたが、事業環境はどのようなものでしょうか。
開示される数値が資料によって異なるので比較は難しいのですが、当社の事業規模は業界のトップ10に入るレベルで、最大手の売上規模が約230億円とみられています。当社が年間に動かす資金は約5000億円に及びますが、業界トップ3のシェアが40%~50%といわれ、そのほか多くの会社が乱立しています。地域に根差した会社、決済などの単一業務のみで決済手段もクレジットカードなど単一の会社、特定の業種のお客さま向けの会社など、各社の特色は非常に多岐にわたっています。当社のお客さまには地方のCATVや新電力会社も多いのですが、このように広域で多様な分野をほぼカバーしている会社は、業界でも存在感があるといえます。キャッシュレス化の加速に伴いさらに新たな参入が続くと思われ、市場の成長とともに今後もしばらくこの状態が続くものと考えています。
さて、コロナ禍により企業活動や消費行動への影響が懸念され、特に対面決済の機会損失などはこの業界においても無視できないものですが、当社の状況をみるとクレジットカードを中心に収益が伸びています。よく分析してみると、大きな理由としては、食事の宅配やゲーム関係の課金など、旺盛な巣ごもり需要を取り込んできたことが見て取れます。政府のキャッシュレス・ポイント還元事業などの促進策だけではなく、現金を触らずに済む感染予防の観点からのキャッシュレス化という流れもあるかと思いますが、コロナ禍の下で生まれた新たなビジネスモデルにも着実に対応して成果を上げてこられたと思います。
新たな市場、新たな事業 ステータス、業界DXへの挑戦
◆こうした環境の中で勝ち残っていくためにどのように取り組んでいくのでしょうか。
将来的には企業としての成長と拡大をめざしていくことは念頭に置きつつ、一方では現在の規模で小回りの利く体制であるからこそ、高生産性がキープできているという点も無視できません。この両者のバランスを取りながら、お客さまのニーズを敏感にキャッチした新サービスの提供や、法制度の規制が厳しい中での規制緩和の動きへの柔軟な対応、そしてTrusted Third PartyとみなされているNTTブランドの持つバリューを活用して、成長へのシナリオを描いていくつもりです。特に2022年からは新生ドコモグループの一員となりますので、スピード感や柔軟性といった当社の強みを一層スマートライフの分野で活かしていきたいと考えています。
こうした流れの中で、当面は具体的に①学費公共スマート払いサービスに代表されるようなペーパレスな決済サービスの展開、②改正資金決済法(「金融サービスの利用者の利便向上及び保護を図るための金融商品の販売等に関する法律等の一部を改正する法律」(令和2年法律第50号)により改正された資金決済法)への対応、③NTTグループ内の協創拡大、に注力していきます。
学費公共スマート払いサービスは、通常金融機関に出向いて振替用紙により納入していた学費などをクレジットカードの利用や口座振込みで支払うことができるサービスです。学費や入学金の納入がスマートフォンやPCからの操作で行えるだけではなく、学校側においても入金消込作業を効率化することができます。すでに約300校で実績がありますが、公共料金などの支払いにも応用できるので他分野への展開も進めているところです。
改正資金決済法については、銀行などを除いた資金移動業者は1回の移動限度額が100万円以下に規制されていたものが、第一種資金移動業、第二種資金移動業、第三種資金移動業の3類型に改められ、第一種資金移動業では100万円超の移動が可能となるものです。1回100万円超の資金移動は、大手だけでなく中堅中小企業でも需要が高いものと考えており、第一種資金移動業への認可申請を行い、新たな需要に対応する新サービスの開発・提供をめざしています。
NTTグループ内の協創拡大についてですが、実は当社はこれまで収益、利益の多くをグループ外で上げており、それが1つの特徴ではありました。ただ、先ほどもお話ししたように、今後は新ドコモグループの金融・決済事業の一翼を担うことになります。大きな土俵でグループ協創の利点を活かし、より大きく貢献したいと思います。特に、グループ各社がそれぞれ個別にソリューションやプラットフォームを提供しているところを決済の側面から下支えし、これらとうまく連携することでシナジーを出していきたいと考えています。
◆今後の展望についてお聞かせください。
金融や決済・送金に関する業界は、暗号資産やキャッシュレス決済、PCI DSS(クレジットカード業界のセキュリティ基準)、NFT(Non-Fungible Token:非代替性トークン)など多岐にわたり大きな成長の可能性を有していますが、課題が多いことも実感しています。特に利便性(流通性)と安全性(セキュリティ)の両立は重要で、究極の暗号といわれる量子暗号が実用化されるまでのセキュリティ対応については、常に関心を持ち研究していく必要を感じています。また、デジタル化の最先端に触れ、デジタル化そのものにも親和性がある一方で、減りつつあるとはいえ押印作業や多くの書類や規制などが残っており、デジタル化と距離のある部分も併せ持っています。この両者の差が大きいほど、デジタルトランスフォーメーション(DX)が貢献できる余地が大きいと思います。自らできるところからDXを進めることで業界に一石を投じるとともに、その成果を新たなソリューションとして展開していきたいと思います。
担当者に聞く
あらゆる決済サービスをワンストップで実現
取締役 送金決済本部長
小平 豊さん
◆担当されている業務について教えてください。
送金決済本部では、各種決済・送金サービスの提供、お客さま(加盟店など)への営業活動、決済機関・金融機関とのアライアンスからサービスを提供する基盤システムの構築・運用まで、NTTスマートトレードが提供しているサービス全般にわたって業務を行っています。
当社の基盤システムは各種金融機関のシステムと接続されており、この基盤システム上で提供される「決済ゲートウェイサービス」によりお客さま(加盟店)に多様な決済サービスをご利用いただけます。決済においては、例えば、クレジットカード決済では「決済データ」、口座振替では「収納データ」、請求書やコンビニエンスストア決済では「送付依頼データ」といったように、決済手段によりやり取りするデータも異なり、お客さまから見るとそれぞれ個別に対応しなければならないところを、この「決済ゲートウェイサービス」により1フォーマットですべての決済の請求から結果のやり取りが可能となります(図)。
さらに、決済業務においては請求書発行などの周辺業務もあります。当社では、請求書作成・発送業務、口座振替依頼書登録処理業務、クレジットカード情報登録処理業務、弁護士への回収委託取次ぎ業務や決済周辺業務などのBPOの受託も行っており、お客さまの決済関連業務をワンストップできめ細かくサポートさせていただきます。
単なる決済サービスではなく、こうしたワンストップのトータルサービスがお客さまに評価され、さらにはTrusted Third PartyとしてのNTTのブランドバリューもあり、営業収益も順調に伸びてきています。
◆ご苦労されている点を伺えますか。
法制度による規制の厳しい業界で、法改正への対応がしばしば発生します。最近の例では、クレジットカードを取り扱う加盟店におけるクレジットカード情報の漏洩事件や不正使用被害の増加を背景に、2018年6月に改正割賦販売法が成立し、クレジットカード利用の加盟店にカード情報保護対策が義務付けられ、2021年4月施行の改正法においては、その対象加盟店の範囲が拡大されました。これにより、加盟店ではクレジットカード情報の非保持とPCI DSSに準拠したシステムやオペレーションが義務化されました。
当社もPCI DSSに準拠しているのですが、毎年、クレジットカード情報の保護についてシステム面、運用面など、多面的に厳しく審査を受けており、この対応にかなりの稼働と費用を要しています。加盟店においては、すべてのカード端末のICカード対応だけでも大変なうえに、PCI DSS準拠・維持などとても手が回りません。そこで、PCI DSSに準拠した事業者にクレジットカード情報を登録してもらうことで対応せざるを得ません。法制度の改正をチャンスととらえて、PCI DSSに準拠することで、お客さまの開拓やカード情報登録ソリューションなどの決済ソリューション提供といった新しいビジネスにつなげることができました。
新たな事業の柱の構築と、法改正への対応でビジネスチャンスをつかむ
◆今後の展望について教えてください。
新しい事業の柱として、教育関連をターゲットとした「学費公共スマート払いサービス」の拡大に注力していきたいと思います。日本では、金融機関の窓口において振込用紙で学費を支払っている学校が大半で、これをクレジットカードにより金融機関の窓口へ行かなくても支払い可能とするサービスです。利用者(支払者)からはその利便性に対する評価をいただいており、学校側にも入金消込業務の効率化を図ることができると評価をいただいています。実績は現在で約300校ですが、日本には学費を払う学校が5000以上もあり(2021年文部科学省調査速報)、それらをターゲットにお客さま開拓を進めていきたいと思います。
そして、改正資金決済法への対応として、企業間決済や社員給与払いなどの新たな事業展開をめざして第一種資金移動業への認可申請です。監督官庁の金融庁にとっても当社にとってもすべてが初めてのことなので、書類のやり取りやQ&Aなど、予想以上に頻繁に行っており、これから最後の山場を迎えようとしています。
ア・ラ・カルト
■ジェネレーションギャップが懐かしい
少人数でまとまりがよく、40歳代以上の社員数が多く、その中に20歳代・30歳代の若手が混ざっているとのことです。当然話の傾向も異なり、音楽の話1つをとっても、先輩方は昔のヒット曲、若手はYouTubeの映像を中心とした話題で、どうしてもジェネレーションギャップが出てしまうそうです。とはいえ、中にはその間に入って「通訳」をしてくれる社員もいるとか。最近は在宅勤務が多くなり、社員どうしが顔を合わせて会話することもほとんどなく、「ジェネレーションギャップが懐かしい」という声も聞こえてくるようです。
■桜に囲まれて
会社の近くには北の丸公園や靖国神社、千鳥ヶ淵といった桜(花見)の名所が点在しています。それ以外でも数多くの桜が植えられており、まさに桜に囲まれた会社です。昼休みには散歩やランニングをしている人も多いそうですが、季節になるとその人数も増えるとか。中には、外出からの戻りが心なしか遅くなる人もいるのかもしれません。
■お堀の向こうは日本武道館
会社のすぐそばにあるお堀の向こうは日本武道館です。現在はコロナ禍で開催が見送られていますが、イベントがある日には最寄りの地下鉄駅付近を中心に多くの人が行きかいます。付近の飲食店やそのほかの店の看板や、行きかう人たちの年齢層や手に抱えているグッズを見るだけで誰のイベントなのか予想もつくとのことです。お気に入りのアーチストのライブの日には、チケットを持っていないにもかかわらずソワソワしだす社員もいるそうです。また、登録有形文化財の「旧九段会館」も一部を残しながら新しいビルへと変わり、時間の経過を感じるそうです。