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特集

NTTグループの社会変革に向けたICTソリューション

お客さまとの共創による先端技術の社会実装の取り組み

NTT東日本では、社会課題の解決や地域のお客さまの新たな価値の創造に向け、お客さまとの共創による新規ビジネスに取り組んでいます。本稿では、ローカル5G(第5世代移動通信システム)、AI(人工知能)、データ利活用技術を用いた先進的なソリューションを実事例とともに紹介します。

長谷部 豊(はせべ ゆたか)/今村 達也(いまむら たつや)
佐藤 和輝(さとう かずき)/会田 悟(かいだ さとし)
中村 元(なかむら つかさ)/秋宗 瑠美(あきむね るみ)
NTT東日本

先端技術の社会実装による課題解決や価値の創造

NTT東日本では、最先端技術の社会実装を進めるとともに、より豊かで革新的な社会をつくり上げていくための新しいビジネスの創出を手掛けています。これまでの取り組みの中で、人手不足や少子高齢化など地域や社会が抱える課題の解決を図っていく一方、お客さまの事業や生活面を一変させるイノベ―ティブな価値を生み出してきました。本稿では、お客さまに寄り添いながら、ローカル5G(第5世代移動通信システム)、AI(人工知能)、データ利活用技術を駆使して、さまざまな課題解決をめざしたソリューションを紹介します。

新たな可能性を拡げるローカル5Gソリューション

ローカル5Gは、地域の企業・自治体等が自社敷地内に柔軟に構築・保有が可能な5Gシステムであり、光の先のラストワンマイルをつなぐ技術としても今後さらなる発展が見込まれています。NTT東日本は地方創生・地域課題解決を支援するICTパートナーとして、このローカル5Gの優位性にいち早く着目し、積極的に取り組み、多数の実績とともにプレゼンスを発揮してきました。

■無人トラクターの自動走行によるスマート農業等の実現

これまでさまざまなプレイヤーとローカル5Gの共創を進めてきましたが、中でも農業にかかわる事例が注目されています。その1つは、総務省がローカル5Gの開発や普及のために推進する実証事業である令和2年度「地域課題解決型ローカル5G等の実現に向けた開発実証」における「自動トラクター等の農機の遠隔監視制御による自動運転の実現」です。少子高齢化や過疎化などで労働力不足が深刻化する中、作業支援や経営効率化などにローカル5Gの活用が期待されています。そこで、北海道岩見沢市の広大な圃場内で、無人トラクターの自動走行、複数台トラクターの同時協調作業、圃場間の公道自動走行、それらの遠隔監視制御などを実現し、ローカル5Gの有用性を示してきました。本事業は、世界トップレベルのスマート農業の実現と社会実装を軸としたサステイナブルな地方創生・スマートシティのモデルづくりや革新的なネットワークのスマート農業への適用をめざし、北海道大学、岩見沢市、NTTグループ(NTT持株会社、NTTドコモ、NTT東日本)による産官学連携協定(1)を結び取り組んでいる事業の一環となっています(図1)。これには農林水産省がスマート農業の社会実装を加速させるために推進する「スマート農業実証プロジェクト(ローカル5G)」を含んでおり、より大きな価値を持つ事業として取り組みを進めています。
その他、中山間地における草刈りや病害虫駆除の遠隔監視制御、スマートデバイスを活用した遠隔での未熟練者指導などの実証や、ビニールハウスにおけるAI画像解析を活用した病害検知や熟度別数量把握等の実証にも取り組み、ローカル5Gの活用を通じたスマート農業の実現をめざしています。
また、農業分野のみならず、eスポーツや働き方改革、モビリティ等さまざまな分野で具体的なユースケースとともにローカル5Gの実用性を示し、さらなるローカル5G普及に向けた取り組みを行っています。総務省実証事業では令和2年度の3件採択に続き、令和3年度も3件採択されており、これらは豊富な実績とプレゼンスに基づくメーカやパートナーとの強い共創力によるものと考えています。

■今後の展望

現在、ローカル5G普及の大きな課題である“導入コストの低廉化”に向けて、実績をふまえた基地局メーカとの検討や複数ユーザによる設備共用モデルの実現などに取り組んでおり、ローカル5Gの社会実装加速に向け、より多くのお客さまにご利用いただくモデルの検討を進めています。

人の目に成り代わるAI: 外観検査ソリューション

製造業や農業をはじめとして、従業員の不足・負担増加や高齢化に伴う技術継承の必要性が課題となっています。私たちは画像認識技術を活用し、人が目によって行っている作業を自動化する外観検査ソリューションを実現しました。

■お客さまの検査環境に最適な画像認識モデルをトータルで提供

外観検査ソリューションでは、事前に検査対象製品の不良個所(傷や汚れ、異物付着等の欠陥)の特徴を画像認識モデル(以降、本章ではAIと表記)に学習させ、新規に生産した製品に不良個所がないかを判定しています(図2)。
本ソリューションのポイントは、お客さまの製品や課題に適したAIを選定・作成し、自動化の実現に貢献することです。具体的には、AIの学習はデータの質が重要となり、データの質は製品の撮像環境に大きく左右されるため、照明の種類や当て方、カメラの組合せ等を含め、現場の運用に適した撮像環境を提案します。また、AI導入前に実施されるPoC(Proof of Concept)を行うだけではなく、お客さま現場内のネットワークやFA(Factory Automation)化などトータルソリューションとして提案し、業務効率化を支援しています。

■農業や工業分野における活用例

画像認識の技術は農作物へも適用可能です。農作物では果実の状態判定を実施しており、果実表面の傷や汚れ、形状の不備をAIが自動で確認し、どの程度良い状態であるかを判定したうえでベルトコンベアに乗せ、等級などを選別することで、果樹や野菜の出荷作業の効率化につなげています(図3)。
また、工業製品では、製品の検品選別を実施しています。表面の傷やかたちの異常をAIが自動で確認し、良品と不良品の選別を行い、AIが製品のどこに不良個所があると判定したかを可視化し、履歴を保存します。さらに、ロボットアームと組み合わせることで、検査が完全に自動化され品質の均一化を実現することができます。

■今後の展望

AIの特性を活かして、既存のルールベースによる検査機器では定義が難解で検査に莫大な時間を要していた画像(文字や絵柄など)を2次利用し、AI外観検査の効率的な実施やAIの活用拡大をとおして、お客さまの課題解決を図っていきます。また、画像による製品検査のみならず音等のセンシングデータを用いた加工機の故障予知など、製造業や農業のお客さまに対して幅広く課題解決に取り組んでいきます。

DX時代のAIを活用したシン大学データ経営

大学業界において、18歳人口の減少やリモート授業の急増は経営に深刻な影響を与えています。この困難な状況を克服するため、AIを活用したデジタルトランスフォーメーション(DX)にて効率的な大学経営を実現しようと取り組んでいます。

■AI予測で「今支援すべき学生が分かる」を実現

大学ではオンライン授業の増加等の環境変化による学生のモチベーション低下が懸念され、これによる休退学者の増加に危機感を抱いています。休学や退学する可能性が高い学生(要支援学生)との接点がより減少する中、大学が保有するデータを活用して要支援学生を早い段階で把握し、支援できないか模索していました。私たちはこの問題を解決するにはAIの活用が有効であると考え、実証実験にて大学の休退学者のデータからさまざまな特徴量を作成し、そして、RakuDA(2)による機械学習を行い、高い精度の予測モデルを作成しました。

■ローコードツールやOSSを活用したUI/UX構築

教職員が効率良く、要支援学生への支援や他のデータ利活用を推進するにはBI(ビジネス・インテリジェンス)ツールが有用ですが、使いこなすには高い技術とデータの準備が必要であり、多忙な大学の教職員が利用するには実用的でないと考えました。そこで、ローコードツールにて教職員がBIツールの操作することなく、レポートを表示するUI(User Interface)を開発し、UX(User eXperience)向上を実現しました。
また、OSS(Open Source Software)のデータ統合ツール(3)をシステムに組み込むことで、教職員が各種システムやエクセル等で管理しているデータを用意するだけで、AI予測やBIツールの分析結果を容易に更新できるようになりました。

■今後の展望

今回開発したAI-IR(Institutional Research)システム(図4)は、教育現場はもちろん、学校以外のさまざまな業種のDXを支えるツールとなっています。NTT東日本がめざす新たな価値の創造や地域循環型社会の実現に向けこのシステムを活用していきたいと考えています。

眠っていたデータを活用し、睡眠障害問診数を大幅に削減し患者負担を削減へ

「睡眠障害の早期発見早期治療に向けて、まずは睡眠障害に関する事前問診の患者負担を減らせないか」と会話の中からスタートしたプロジェクトでした。患者負担の少ない問診を実現するために、当初は問診のWeb化や簡易化等の検討を行っていましたが、まずはお客さまとのコミュニケーションの中から「問診数の削減」に着眼しました。そして、機械学習によって結果と問診の関係性を示すことで、削減しても結果に影響しない問診を示し、睡眠障害の早期発見につながる患者の負担軽減を実現しました。

■眠っていた3160名分のデータを活用して問診数を大幅に削減

今回、パートナーシップを結び実証実験を行った太田睡眠科学センター(川崎市)では、さまざまな診療科の知識を持って正確な診断を行うべく、独自問診を含めると初診時に111問の問診を用いて患者の状態を把握しています。問診の回答には約30分以上を要し、回答される患者にとっての負担も大きいため、診断精度を確保しつつ問診数の削減を図ることが必要とされていました。
太田睡眠科学センターでこれまで実施してきた3160名分の事前問診データおよび確定診断での結果データをインプットとして、まずは睡眠障害の中でも閉塞性睡眠時無呼吸症候群(OSA)の判定および重症度(軽症、中等症、重症)の判定、慢性不眠障害の判定にフォーカスし、患者の初診時の問診の回答情報を用いて判定を実施する機械学習モデルの構築に取り組みました。
そのうえで、構築された機械学習モデルで利用されている項目を参考に問診数の削減を図り、初診時問診111項目のうち、10項目の問診結果を用いて重症OSAを判定するモデルにおいて既存のOSA評価方法と比較し、良い判定精度を導き出すことができました。
本実証実験の結果については、日本睡眠学会第46回定期学術集会(2021年9月23日・24日)にて「問診票と機械学習モデルによる閉塞性睡眠時無呼吸診断の検討」として公表しています。
この取り組みの中で注視したこととして、睡眠障害という専門領域では、一見機械学習上では不要と思われる問診項目であっても、医師の視点から必要とされる項目が存在することが挙げられます。単なる機械学習での結果に基づく選定だけではなく、医師と共同で実施し専門性の高い結果を導き出せたことにより、今後の実現場での活用が期待できます。
さらに、大幅な問診数の削減による問診受診ハードルの低下が期待できます。株式会社ブレインスリープが毎年実施している全国1万人に対する睡眠調査では、睡眠障害の可能性があり、専門医への診察を実施すべき割合は51.9%とされていますが、治療経験がない人の割合が93.9%と多数であり、早期発見に向けた初期診察への移行率が課題となっています(図5)。今回のプロジェクトにより問診数が削減されたことで、事前問診実施時間の短縮により、より多くの方が簡単に自身の睡眠障害に関する確認ができるようになる点が大きな効果と考えています(4)

■今後の展望

現在は患者が睡眠専門病院まで足を運び、問診を受ける必要があります。より多くの方が手軽に受診の機会を手に入れられるよう、自宅からでも簡易的に問診および医師の診療が受けられるようなICT活用を検討していき、さらなる日本の睡眠課題の解決をめざしていきます。

おわりに

本稿で紹介したソリューションの共通点としては、お客さまや社会の人々の声を聴き、悩みに寄り添うことを第一に考えながら、さまざまなデジタル技術により課題解決に取り組んできたことです。今後も、NTT東日本ではさらなるデータ利活用やDXコンサルティングに取り組み、お客さまに対する新たな価値を創造していき、よりスマートで快適な社会の実現をめざしていきたいと考えています。

■参考文献
(1) https://www.ntt-east.co.jp/release/detail/20190628_03.html
(2) https://www.rd.ntt/e/sic/team_researchers/team/250.html
(3) https://www.talend.com/
(4) https://www.ntt-east.co.jp/release/detail/20210315_01.html

(上段左から)長谷部 豊/今村 達也/佐藤 和輝
(下段左から)会田 悟/中村 元/秋宗 瑠美

私たちNTT東日本は、今回紹介した事例以外にも数多くのビジネスパートナーと連携して、より豊かで便利な社会を実現するための活動に取り組んでいます。今後も皆様とともに、農業、工業、教育分野などさまざまな社会課題の解決や新たな価値創造につながるビジネスに積極的に取り組んでいきます。

問い合わせ先

NTT東日本
ビジネスイノベーション本部
ソリューションアーキテクト部
E-mail sa-inquiry@east.ntt.co.jp