NTT技術ジャーナル記事

   

「NTT技術ジャーナル」編集部が注目した
最新トピックや特集インタビュー記事などをご覧いただけます。

PDFダウンロード

from NTT東日本

システム開発業務とヘルプデスク業務のDX ――運用と技術の融合

NTT東日本では,RPA(Robotic Process Automation)を活用した業務の自動化やスマートメンテナンス技術を活用した点検業務の効率化などデジタルトランスフォーメーション(DX)の推進に取り組んでいます.アクセスオペレーションセンタ(AOC)では,システム開発業務やヘルプデスク業務においてNTTの研究所と連携してDXの取り組みを推進しています.ここでは,その一例を紹介します.

背景

NTT東日本はAI(人工知能)やIoT(Internet of Things)などの最新技術を活用した効率的なオンサイト保守の仕組みづくりや,アクセス・ネットワーク業務の融合による新オンサイト保守の実現をめざしています.また,建設・保全業務が中心だった設備部門についても収益拡大に貢献するためにビジネス分野へ活動の場を広げており,このような目標を実現するためのさまざまな変革を推進する組織として2019年7月にアクセスオペレーションセンタ(AOC)が発足しました.体制としては,センタ施策を円滑に運営させる業務管理等を行う事業推進部門,遠隔点検や新オンサイト保守の効率的運営を推進する保全系のアクセス運営部門,工事者支援と開通ビジネス業務の技術支援を行う開通・ビジネス系のユーザビジネス運営部門,設計・算定から竣工までの品質向上などを担うエンジニアリング系のアクセスエンジニアリング部門,アクセス系の研修と資格試験運営を通して技術者育成を担うアクセス研修部門,設備系業務システム開発や導入支援,ヘルプデスク業務を担うシステム推進部門の6部門が連携して運営コンセプトをこれまでの「オンサイトサポート」から「集約オペレーション」に変革し,集約運営機能を充実させアクセス業務の運用コントロールタワーをめざしています.

2019年度のセンタ内重点施策項目の1つに新技術等を活用した業務BPR(Business Process Reengineering)推進を掲げ,社外の展示会やNTT R&Dフォーラム等に参加し,業務上の課題解決に活用できる有用な市中技術情報の収集を行っている中で,NTT R&Dフォーラムにて私たちシステム推進部門の主業務であるシステム開発や導入支援,ヘルプデスク業務に活用できる技術情報を探し当てたことから,NTTの研究所と連携し業務への適用検討を進めることとなりました.

システム推進部門における業務のDX

ケース1:テスト自動化技術の活用

現状,設備の計画~建設~保守といった一連の業務においてさまざまな業務システムを使用しており,新サービスの追加や業務改善などを契機としてシステムの機能追加や変更のためにおよそ四半期に1回というサイクルでシステム開発が行われています.この開発による機能変更などが原因でシステムに不具合が生じると,システムユーザの業務遅延・停止,ひいてはお客さまへのサービス提供などに影響が生じるおそれがあります.これを未然に防ぐため,システム開発後リリースまでの間に,実業務を想定したシステム操作が問題なく実施できるかを確認する「運用試験(OT)」を行っています.

ところが試験対象の業務システム数は年々増加傾向であり,追加機能の開発により機能数も増え続けているためOTの試験項目・稼働が増加するとともに思わぬバグも発生しています.さらにシステム開発からリリースまでの期間が短くなる傾向もあり,試験品質向上・効率化が求められています(図1).

これに対応するため,NTTソフトウェアイノベーションセンタ(SIC)が開発したテスト自動化技術「Regumo」は試験品質向上・効率化を目的としていることから,OTでの活用を検討しました.

Regumoはシステムのソースコードの解析や画面の自動操作によってシステム画面の構造を明確にすることで,システムの画面遷移と画面上の入力欄の入力値制約を網羅的に抽出し,それをテストするプログラムを自動生成する技術です.さらに,生成したテストプログラムを市中技術のテスト自動化ツールを活用することでシステム開発前後での動作差異を容易に発見し,不具合を効率的に検出することが可能です(図2).

RegumoをOTに活用することでシステムの全機能を網羅的かつ自動で試験することが可能であることから試験品質向上・効率化が実現できると考えられます(図3).

2019年3月末からSICと連携し,開通業務や故障修理業務で使用されている業務システムの検証環境を使用してRegumoのトライアルを実施しました.当初,Regumoを業務システムへインストールし,解析をスタートさせたところ正常に動作せず原因を調査した結果,業務システムのブラウザInternet Explorer(IE)にRegumoが対応していないことが判明しました.その後,IE対応をした新バージョンのRegumoを使い改めてトライアルを実施した結果,システムの画面遷移をたどることができないという事象が発生しましたが,システムのソースコードに使用されている特定のコードが原因であることが分かり,解析時に使用する補助的なプログラムを変更し問題の解消に努めています.このように地道に対応方法の検討と対処を繰り返しながら業務システムへの適用を進めています.

ケース2:業務ドキュメント参照支援技術の活用

システム推進部門では前述したシステム開発業務の支援のほかに,設備系業務システムのユーザから寄せられる問合せの受付・回答を行うヘルプデスク業務も行っています.問合せの受付・回答には専用のWebサイトがあり,ユーザからの問合せに対しオペレータが回答を行い,それをユーザが確認することができます.また同Webサイトでは,ユーザによる自己解決も可能となるよう,過去の問合せ履歴や各種業務に有用となる情報を掲載しています.ところがこのWebサイトを利用し,ユーザおよびオペレータが必要な情報を探し出そうとした場合,大量の情報が検索結果に表示され,それらを1つひとつ確認しながら探し当てなければならないため,多くの時間を費やすケースがあります(図4).これらのことから,ユーザによる自己解決やオペレータによる回答が迅速に行える仕組みが望まれています.

これに対応するため,NTTアクセスサービスシステム研究所(AS研)が開発中の業務ドキュメント参照支援技術(本技術)は応対品質の維持・効率化を目的としていることから,ヘルプデスク業務への活用を検討しました.

AS研が開発中の本技術は業務システム利用中に発生したユーザの不明点の解消に必要な情報が記載されたドキュメントを自動で検索してユーザに提示してくれる技術です.平常時と不明点発生時の業務システムの画面表示内容を比較し,ユーザの不明点に関連するキーワードを認識します.認識したキーワードを基に文書検索を行うことで,不明点解消に有用なドキュメントを見つけ出しユーザに提示することができます.本技術をヘルプデスク業務に活用することで,オペレータがユーザ対応に有用なドキュメントを誰でも簡単に参照できるようになることから迅速なユーザ対応が可能になることが期待できます.また,ユーザにも本技術を利用してもらうことで,ユーザの自己解決の迅速化,自己解決率の向上にもつながることが期待できます(図5).

2019年10月からAS研と連携し,問合せ受付・回答の専用Webサイトを使用して本技術のトライアルを実施しました.トライアル環境には社内の業務システム網(業務網)を使用して実施することにしましたが,業務網への適用にはセキュリティ等の規制が多く動作に問題が生じたため, AS研と協力して対応方法の検討と対処を繰り返し取り組みました.

トライアルの結果,ユーザの不明点解消に有用なドキュメントが提示されない場合があることが明らかになりました.本事象について調査したところ,本技術が画面表示内容を取得することができず,不明点に関するキーワードが認識されないことが原因の1つとして分かりました.そこで画面表示内容を常に安定して取得できるように改良したことで,この問題を解決することができました.現在はその他の原因についてもAS研と協力し解決に向けて取り組むとともに,提示されるドキュメントの有用性評価を進めています.

今後の展開

ここではSIC,AS研と連携したシステム開発業務やヘルプデスク業務におけるDXの取り組みを紹介しました.これらの技術をさらに業務システム上でトライアル実施し,明らかになった課題については今後もSIC,AS研と連携し1日も早い業務への導入に向けて対応していきます.また,本取り組みを通してNTTの研究所と連携して業務効率化を検討できるという事例ができたことから今後も幅広く研究所と交流し,さまざまな先端技術を取り込みながらDXの取り組みを進めていきたいと考えています.

 

脚注(用語解説):

*オンサイト保守: 通信設備(NTTビル内の通信装置や電柱・通信ケーブル等)やお客さま宅内装置の故障修理・保全業務など現地で実施する業務.

問い合わせ先

NTT東日本-南関東
アクセスオペレーションセンタ システム推進部門 第一サポート推進担当
TEL 03-5819-6405
E-mail aoc-sys-newtech-gm@east.ntt.co.jp