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特集

NTTグループの食農分野の取り組み──食農の新たな価値創造への挑戦

NTTデータが取り組むデータ駆動型土づくり

NTTデータでは土づくりを推進していくために、ICTを活用して日本全国の土壌診断データとそこでの営農作業情報を収集しデータベース化しました。このデータベースにより、これまでの経験や勘という領域においてデータに基づくデータ駆動型の取り組みが可能となります。データベースのデータは全国統一手法で土壌分析を行うことでデータの正規化を行っており、このデータを活用することで個別圃場の把握だけでなく地域特性の把握も可能となります。また、土壌診断における土壌採取の手間を軽減するための技術として、衛星画像から土壌成分の測定を行う技術を開発し実証試験を行っています。

大関 知夫(おおぜき ともお)/山根 和也(やまね かずや)
NTTデータ

ICTを活用した土づくり

農業において水田への堆肥施用量の減少が進むなど農地土壌の劣化が課題となっている中で農作物の収量向上等に向けた土づくりの取り組み拡大が重要となっています。土づくりにおいては土壌診断による土壌状態の把握、把握した状態を基にした営農作業の計画、計画した作業の実施と収量の検証、というサイクルを継続的に回していく必要があります。しかし、最初に実施すべき土壌診断は一部の圃場での実施にとどまっており、多くの圃場での営農計画は生産者の経験や勘で作成されています。これに対し、本取り組みではICTを活用して日本全国の土壌診断データとそこでの営農作業情報を収集しデータベース化しました。収集したデータは地域や作目特性を考慮して分析することで営農作業の示唆が可能となります。このようにICTを活用することで、これまでの経験や勘という領域についてデータに基づくデータ駆動型の取り組みが可能となり、今後もさまざまなメリットが考えられます。

全国のデータ収集とその活用

一般的にデータベースを構築する際にはデータの信頼性が担保されている必要があります。土づくりにおける現状把握の手段である土壌診断はこれまで各地域の土壌分析機関が分析していたため、分析項目が統一されておらず、単純にデータを収集するだけでは正規化することができませんでした。そこで、NTTデータでは日本土壌協会や全国26県の県組織と協力し土壌診断デ-タベ-ス構築推進協議会を立ち上げました。この協議会の取り組みでは全国の土壌データを統一手法で採取し土壌分析機関を集約することで、全国の土壌診断データの項目や分析値を画一的に扱うことを可能としています。また、土壌診断データだけでなく、土壌の物理性データや圃場カルテとして圃場の収量や実施した営農作業等の情報を収集することで、より正確に圃場状態を把握することが可能となりました。
土壌診断データベースでは蓄積された各種データを基にさまざまな分析が可能です。一例として、ある圃場で土壌診断をした際に、その分析値と協議会で定めた作目に応じた複数の指標値を自動比較することで、生産者の経験や勘に頼らず圃場の改善課題を導き出すことができます。また、地域や作目の統計情報を分析することで地域特性を考慮した土壌状態の良し悪しを判断可能とし、個別圃場の把握だけでなく普及組織で担当している地域としての特性を把握することもできます。2021年度は全国約4000地点の土壌データを収集しており土壌データを提供していただいた生産者や普及組織に処方箋として分析結果を還元しています。この取り組みは今後も拡大していき、全国展開を図っていきます(図1)。

衛星画像を用いた土壌診断

土づくりにおいては最初に土壌診断により状態把握を行います。この土壌診断では圃場の土を採取し乾燥させ分析機関に送付するという一連の作業が必要となります。これらの作業は手間がかかり、繁忙期には分析機関での分析作業に時間がかかり、次の作付けに間に合わないこともあります。データ駆動型土づくりの取り組みにおいても土壌診断の手間が大きく、診断件数が増えないという課題がありました。
そこでNTTデータでは、AW3D*で培われた衛星画像の解析技術を活かして、衛星画像から土壌成分の測定を行う技術を開発しました。本技術では3日に1回程度の頻度で取得している衛星画像を使用しており、圃場の営農状態に合わせて適切なタイミングで画像取得と解析を実施することが可能です。現在、3m×3mメッシュで腐植含有量、無機態窒素の2つの成分値について1週間程度で解析可能です。この技術を使用することで全国どの圃場でも手間なく成分値が分かります。また、広域的に情報を取得するため圃場間や圃場内での成分の偏りについても測定することができ、可変施肥等の他技術と組み合わせて施肥の最適化も可能です。2021年度は宮城県、新潟県の3地域でこの技術の実証試験を行っており、今後地域を拡大していきながら、データ駆動型の土づくりの推進に貢献していきたいと考えます(図2)。

* AW3D:長年にわたる衛星画像処理技術の蓄積を持つリモート・センシング技術センター(RESTEC)と、高速・高精度データ処理技術を持つNTTデータが共同で開発・販売する3D地図データです。

(左から)山根 和也/大関 知夫

NTTデータは、農業生産現場の情報をデジタル化し、『「食」と「農」の情報マッチングビジネス』の実現をめざし、取り組みを進めています。今後も、食農分野にかかわるNTTグループ各社と連携しながら、農作物の生産と流通・販売、消費にかかわるすべての人をつなぐことで、日本の農業を支えていきたいと考えています。

問い合わせ先

NTTデータ
デジタルビジネス推進部
食農ビジネス企画担当
TEL 050-5546-9784
FAX 03-5546-9294
E-mail nd-agri@kits.nttdata.co.jp

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