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特集

NTTグループの食農分野の取り組み──食農の新たな価値創造への挑戦

コンシューマ向けに農作物を販売するマルシェル by goo

NTTレゾナントでは、マルシェル by gooというC2Cのマーケットプレイスを提供しています。本稿では、昨今のクリエイターエコノミーの潮流・国内外のECサービスのトレンドや農作物を取り扱う中で、農業に携わる方々の生の声や、サービスを運営していくうえでの技術的課題、および今後の展望を報告します。

寺崎 宏(てらさき ひろし)/久須美 達也(くすみ たつや)
NTTレゾナント

マルシェル by goo

マルシェル by gooは、C2C(Consumer to Consumer)のサービスです(図1)。中古品や新古品を売るのではなく、商品の製作過程やストーリーを大事にしているサービスです。商品にまつわるストーリーをブログ・Twitter・Instagram・YouTube・TikTokなどさまざまなSNSと連携して掲載できるようにしています。特に、NTTレゾナントが運営するブログサービス「goo blog」との親和性が非常に高く、出品する際に商品への想いが書かれたgoo blogの記事を選択することや、goo blogの記事内に出品している商品を表示することができます(図2)。goo blogを利用している出品者は、ブログ記事を通してファン(読者)へ情報発信できる機能も有しています。また、goo blogは月間2800万ユニークユーザが訪れるサービスのため、そのユーザに対しても露出ができるメリットを有しています。
単に商品を販売するだけではなく、商品へのストーリーを伝えていくことでナラティブなブランディングを提供できると考えていますので、本サービスを説明する際は、クラウドファンディングに近いようなイメージでお客さまに紹介をしています。
このような世界観で、現在、力を注いでいる領域は多岐にわたります。コロナ禍において、発表する機会を失った学生の支援ということで美術系のクリエイターと行っている産学連携やリアル店舗での販売が困難になってきた、伝統工芸作家とのコラボレーション、そして、今回紹介させていただく農業連携です。それぞれの団体や学校と専用の共同企画ページを設けて、クリエイターの紹介と販売促進の支援に取り組んでいます。
マルシェル by gooは、サービスを開始して2年になりますが、ブログを書いているユーザとそうでないユーザとでは、商品の売れ方、リピート購入に大きな差が出ています。ユーザにとって、全く知らないクリエイターから商品を購入することは、心理的ハードルがとても高いものと思われます。ブログや他SNSで人となりを知ってもらい購入につながる傾向が、明らかな数字として出てきています。このことは、後述する、昨今のトレンドであるクリエイターエコノミーの状況においても同様のことがいえると考えます。

クリエイターエコノミー

「クリエイターエコノミー」という言葉が聞かれるようになったのは、2020年後半くらいだったと記憶しています。改めて定義を紹介すると、個人の行動や情報発信によって形成される経済圏となります。ここ数年、ダイバーシチ、副業といったワードが多く聞かれ、以前よりも個人で収入を得る方法が多様になってきました。YouTuber・ギフティング・ゲーム実況・オンラインサロンなど数年前では考えられなかったかたちで収入を得られるようになってきています。これに加え、NFT(Non-Fungible Token)の登場で、収入を得る手段は暗号資産を通して国境・通貨の壁を容易に超えることができるようになりました。NFTに関しては、イラスト・音楽・メタバースの中で自我を確立するアイテムとしてまだまだ成長していく市場だと思いますが、出品したらすぐに売れるようなものでもありません。やはり、先述のとおり、セルフプロモーション・セルフブランディングをしていく必要があります。とはいえ、SNSでのファンの獲得や情報発信は、以前よりも気軽にできるようになっています。このような流れに対して、Facebook、Instagramからは2022年クリエイターの囲い込みに総額10億ドルを投入するという発表がありました。クリエイターにとっては、報酬が得られる手段が今後も増えていくと思われますし、日本もこの潮流がもっとさかんになるのではないでしょうか。

農家との取り組み

マルシェル by gooは、農家の方もクリエイターととらえ、農作物の販売を強化しています。元々、goo blogで公開されている農業に携わる方々の記事は農作物に対するストーリーがしっかりしており、マルシェル by gooとは非常に相性の良いものになっていました。私たちが農家の方からお話を聞いていく中で感じたのは、農作物販売はまだまだ開拓・改善の余地が多くあるということです。
今現在、農林水産省の農業女子プロジェクト、新潟県の農家の方々、食の6次産業化プロデューサー(食Pro.)の方たちと取り組みを進めています。このうち、食Pro.は、生産(1次産業)、加工(2次産業)、流通・販売・サービス(3次産業)に対する専門家のグループです。中小企業診断士、大学教授、中小機構、公務員、地元の活性化を進めたい方などとともに、農作物の全国流通と農家の支援を本サービスで実現しようと考えています。新規就農者など農作物販売の方法が分からない方や、オンライン販売に一歩踏み出せないような方に対しては、専門家の方々の協力が不可欠であると感じました。

■サービス運営で明らかになっている課題

農家の方と本サービスについてヒアリングをする機会が多くあり、本サービスに限らず、ネット販売で農作物を取り扱うことに対する課題をいくつか伺うことができました。
(1) 配送の問題
折角の格安の野菜が、送料の問題で近くのスーパーよりも価格が高くなる問題があります。簡単に解決できる問題ではありませんが、例えば、限られたエリアだけでも、送料の問題を解決すると、競合に対してかなりの競争優位性が見込めます。調査をしていくうちに、全国をターゲットとせずエリアを一部に絞ったネット販売サービス等も多くあることが分かりました。
安い農作物を売るのではなく、近くでは手に入れにくい割高な野菜を販売する方法も考えられます。有機農業で生産された農作物は、D2C(Direct to Consumer)での流通が多く利用されています。有機農業の取り組み面積は、海外と比べると日本は少ないのが現状ですが、一定の付加価値が市場に認められているため、多少割高でも購入する消費者が多いというレポートもあります。今後この領域はさらに拡大していくと考えています。
発送伝票は、ITリテラシーのある方はデータ化して印刷することが可能ですが、不慣れな方も多く、手書きで記載することによるトラブルもあります。これに対し、競合他社は、地元でサポートできる仕組みを取り入れているところもありました。大手配送業者と発送伝票のAPI連携を実現するためには、月間数千件の取引が必要となりハードルが高いのも課題です。
本課題に対して、マルシェル by goo においては、多少割高であっても商品価値を高く感じていただけるようこだわりをブログに記載いただき、農家の熱い想いに共感していただき購入していただく仕掛けを提供し、配送の問題に関しては、スタートアップの事業者と話を進めており、1つひとつ課題解決に取り組んでいっています。
(2) 発注の数や在庫管理
本サービスの特性上小口の発注が多いのですが、農家の方からすると、大量に卸したいという方々が多いのが実態です。大口で受注して、各家庭に配送するなど、この要望にこたえる仕組みがあると、配送料に対する課題も解決に近づくので、チャレンジする価値があると考えます。
(3) セルフプロデュース
マルシェルby gooで野菜を購入される方は、「何を買うか」よりも「誰から買うか」を重視している傾向があるように思えます。農作物をただ買うというよりも、応援という意味合いも含まれているかもしれません。農家の情報発信は面白く、作物を育てる事前準備や成長過程、「動物に野菜を食べられた」などといった苦労話のように、楽しく食育につながるようなコンテンツが多くあります。

技術的側面でマルシェルby gooを成長させていくには

■商品への流入手段

ユーザがWebで商品を探す際、固有名詞がしっかりしている商品であれば、検索結果に表示されるさまざまなECサービスを経由して、目的や予算感に合う新品や中古品に出会い、購買行動に進むことができます。一方で、クリエイターが制作した商品は、商品名も紹介文も自由記述であり、なかなか分類しがたいものです。これにより、極端にWeb検索によって商品へたどり着くことが少ないのが実情です。そのため、Web検索に頼るよりも、SNSやブログなどの口コミを経由した商品への誘導や、クリエイターとファンの距離が近くなることで口コミを発生させる、いわゆるソーシャルカレンシーの構築のほうが重要と考えます。
また、サービスへの来訪者に対して、再購入につながる仕組みをつくることも大切です。例えば、定性的な自分の好みを数値化して共起しているものや、好みから、少しずれているものをお薦め商品として、提案するような機能があると、新たな購買につながると考えています。ユーザの好みを認識して提案するので、通常のECサービスとは異なった提案方法が必要であると考えています。

■カゴ落ちと決済手段の多様化

どのECサービスでも必ず、商品をかごに入れたものの購入せずに終わってしまう(カゴ落ち)問題が発生します。その原因の1つとして考えられるのが、決済時の手間です。ECサービスはクレジットカード払いが多いですが、クレジットカードをお持ちでない方は予想以上に多く、実際マルシェル by gooへも多く問い合わせをいただいています。この問題に対して、海外ではBuy Now Pay Later(BNPL)の決済方法が増えてきています。BNPLは、購入時にクレジットカード情報を入力することなく、商品が届いてからコンビニや銀行等で後払いすることが可能です。これにより、カゴ落ちの問題に対し、細かいUI(User Interface)のチューニングをするよりも、購入へと到達する割合が大きく改善されますし、ジェネレーションZなど若者の層にも購入の機会を与えることが可能になります。この後払い決済は、国内でも徐々に広がってきています。

■タッチポイントと開発工数

ECサービスは、商品の一覧・商品の詳細などのフロント部分と、在庫管理・決済代行・顧客管理・受注管理等のバックオフィス部分に大まかに分かれます。マルシェル by gooでは、これを1つのシステム・自前のシステムで運用しているため、一部修正があった際に大きな試験期間を要してしまいます。例えば、クーポン機能を新たに追加する場合、すべてのシステムに手を入れるような大掛かりなシステム改修が発生してしまいます。UIとバックオフィス部分をAPIで接続し、多様なフロント(PC・スマートフォン以外も、スマートデバイスやSNS等)を設けてもAPIで接続さえすれば、バックオフィスの部分は大きな変更が不要というメリットが出てきます。このような仕組みは、ヘッドレスコマースと呼ばれ、開発コストを大きく抑えることが可能です。さらには、バックオフィスの仕組み自体は専門家に任せられるという大きな安心感が得られます。現在、AmazonやShopifyなどが本機能を提供していますが、まだまだ初期導入コストが高いのが課題です。

今後のサービス展開とまとめ

マルシェル by gooでは、農作物・加工品に加え、2022年はお酒の取り扱いも開始します。
また、イラストレーター連携にも兆しがみえてきおり、印刷代行のビジネススキームやオーダー販売、企業様との連携なども進めていきます。昨今のトレンドからデジタルコンテンツの取り扱いに対しても、キャッチアップをしていく必要があると考えています。
引き続き出品者の獲得と、販促活動を強化していき、多くの取引が発生することをめざしていきます。冒頭に記述した、サービスの世界観を大切にした、UX(User eXperience)の提供も進めていきます。大事にしているのは、「What」より「How」・「もの」より「こと」で購入してもらうことに価値を感じていただけることです。

(左から)久須美 達也/寺崎 宏

マルシェル by gooを通して、クリエイターの想いのこもった作品・農作物を全国にお届けします。サービス連携を進めていますので、ご連絡をお待ちしています。

問い合わせ先

NTTレゾナント
パーソナルサービス事業部
E-mail weblog@nttr.co.jp