NTT技術ジャーナル記事

   

「NTT技術ジャーナル」編集部が注目した
最新トピックや特集インタビュー記事などをご覧いただけます。

グローバルスタンダード最前線

第9回ITU-T TSAG会合報告

WTSA(世界電気通信標準化総会)-20に向けての今会期の最終会合となる第9回TSAG(Telecommunication Standardization Advisory Group:電気通信標準化諮問会議)が2022年1月10~17日にオンライン会議で開催されました。また、世界の地域機関の代表によるWTSA-20に向けた準備会合である第4回の地域相互間連携会議(IRM: Inter-Regional Meeting)がTSAG前の1月6日に開催されました。ここでは第9回TSAGについて報告します。

荒木 則幸(あらき のりゆき)
NTT研究企画部門

TSAG会合の概要

2022年1月10~17日にITU-T(International Telecommunication Union-Telecommunication Standardization Sector)のTSAG(Telecommunication Standardization Advisory Group:電気通信標準化諮問会議)の第9回会合が49カ国から206名の参加のもと、リモートで開催されました。日本からは、総務省国際戦略局通信規格課を日本団団長(HoD: Head of Delegation)として、国内各社・団体(NICT、NTT、KDDI、NEC、日本ITU協会、日立、三菱、TTC)から15名で対応しました。

TSAG会合の概要

今回のTSAG会合の構成は、全体審議を行うプレナリと課題ごとに詳細検討を行うRG(Rapporteur Group)会合で、1日2セッションのオンライン会議で構成されました。今会期最終のTSAG会合ということで、クロージングプレナリには14日と17日の2日間が割り当てられました。
プレナリはTSAG議長Bruce Gracie氏(カナダ、エリクソン)が、RG会合はRG-WP(Work Programme)、RG-WM(Working Methods)、RG-SC(Strengthening Collaboration)、RG-RR(Review of Resolutions)の4つの課題ラポータがそれぞれ議事運営を行いました。RG-StdsStrat(Standardization Strategy)は主要な課題検討は終了しており、今会合での審議はありませんでした。日本からはRG-WPラポータとして、永沼美保氏(NEC)が参加しました。
オンライン会議の開催時間は、事務局のあるジュネーブ時間を基準とし、参加者間の時差を考慮し、90分を1セッションで、1日2セッションを基本に、ジュネーブ時間で13:00~16:00(日本時間で21:00~24:00)をコア時間として開催されました。
リモート会議ツールとして、今会合ではZoomを使用しました。ITUにはオープンソースで構築されたMyMeetingsという独自のリモート会議ツールがありますが、参加者数が200名を超える大規模な会議では当面はZoomを利用するということです。また、会議機能として、アクセシビリティ向上の観点から、英語のCaptioning(字幕表示)とコア時間内のプレナリでは国連公式6カ国言語での同時通訳が提供されました。

WTSAに向けた地域機関相互間連携会合

TSAGの前週の1月6日に、世界6つの地域電気通信機関(APT、ARAB、ATU、CEPT、CITEL、RCC)の代表によるWTSAに向けた準備会合である地域相互間連携会議(IRM: Inter-Regional Meeting)が行われ、TSAGプレナリに概要報告がありました。WTSAへの各地域からの共同提案の現時点での提案状況は、既存WTSA決議の改定または廃止の決議案が61件、新規決議案が12件、ITU-TのAシリーズ勧告改定案が17件となっており、WTSA-20で審議されます。
IRM会合の目的は、各地域機関がWTSAのどの決議と勧告にどのような提案を行っているか、それぞれの提案の比較分析など、提案内容の相互理解を促進するための事前の情報交換を図ることです。
APTからはTTCの前田洋一氏がAPT WTSA準備会議議長として進捗報告を行い、WTSAでの決議案の統一化に向けた審議のために、APT共同提案29件の課題調整対応者(Focal point)の最新情報を提供しました。

WTSA-20開催に向けた議論

ITU-Tの運営方針の最高意思決定会議であるWTSA-20は、2020年11月インドのハイデラバードで開催予定でしたが、新型コロナウイルス感染症の影響で2度延期され、最終的にインドでの開催は中止となり、2022年の3月1~9日にITU本部のあるジュネーブでの開催となりました。会場はITU本部に隣接するCICG(ジュネーブ国際会議場)とITU本部のモンブリアンビル会議室を使用しました。
WTSA-20直前の2月28日には、GSS(Global Standards Symposium)が開催されました。今回のGSSのテーマは「デジタル変革を可能にし、持続可能な開発目標を達成するための国際標準」で、WTSA-20出席者のGSSへの参加が期待されています。
現状のWTSA会議規則では、WTSA-20全体会議での採決は各国代表者の物理的参加者のみにより執り行われ、リモート参加者は賛否採決や投票に参加することができません。ただし、コロナ禍の影響を考慮し、WTSA-20におけるすべての会議について、リモートオンライン形式での議論への参加を可能とし、全体会議のモニタリングや各分科会での事前審議には参加可能となる予定です。

FG、JCA、AHGの個別会合

FG(Focus Group)、JCA(Joint Coordination Activities)、AHG(Ad‐Hoc Group)の活動報告が行われました。FGの検討成果は、関連SGへ移行され、ITU-Tが扱う新規課題として検討されることから、次会期の各SGの課題構成に影響するものであり、今後の審議動向を把握することが重要となります。
(1) Quantum Information Technology for Networks (FG-QIT4N)
量子情報通信技術に関するFG-QIT4Nの最終活動報告が行われ、報告書は承認されました。このFGはTSAGが親となり、2019年9月に開設され、2021年12月まで活動し、9件の成果文書を作成しました。成果文書について、具体的な標準化を推進するため、関連するSGへの成果移行を円滑に行うための説明会を、FGメンバーが各SGに対して企画する提案がされ、その旨をリエゾン文書で全SGに送付することを合意しました。
成果文書は、用語解説、ユースケース、QKDNプロトコルやネットワーク技術など9件にまとめられ、それぞれ関連の深いSG13、SG17、SG11、SG15などへ移管され、検討が展開される予定です。このFGはロシア、米国、中国からの3名の共同議長で運営されました。
(2)  COVID-19デジタル証明書に関するJCA-DCC
前回TSAGで設立が合意されたJCA-DCC(Digital COVID-19 Certificate)について、JCAの設立と活動目的、JCAへの参加申し込み期限を2月末までとする周知を行うため、リエゾン文書の発出を合意しました。JCAの活動範囲は、関連するITU-TのSG、外部組織およびフォーラム間でのデジタルCOVID-19証明書の標準化作業の調整、データ共有のための互換性のあるデータアーキテクチャの促進、およびユーザと関係するすべての関係者に対する相互運用性、機敏性、および安全性の促進です。JCA-DCCの議長はHeung Youl Youm氏(韓国、SG17議長)で、第1回会合は、電子会合として2022年5月に予定しています。
(3)  Testbeds Federations for IMT-2020 and beyond (FG-TBFxG)
信号プロトコルや試験仕様を扱うSG11が親となる新しいFG-TBFxGの設立報告が行われました。このFGは、SDO/Fora間でテストベッドの仕様を調和させるプラットフォームとして機能し、ETSI TC INTと共同で開発された勧告ITU-T Q.4068で定義されたテストベッド連合参照モデルに沿ったAPI(Application Programming Interface)を開発し、連合テストベッドとAPIのユースケースのセットを定義するものです。

RG会合

TSAGに設置されているRGにおいて議論された主要事項について以下にまとめます。各RGの報告書はTSAGのクロージングプレナリで承認され、WTSAでのTSAG会合報告の一部として反映されます。
(1) 作業計画・体制RG-WP
RG-WPは、SG再編の課題を扱うグループであり、2セッションの時間枠が与えられ、審議が行われました。このRGは、すべてのSGの活動報告を検証し、プレナリにおいてSGが提案する課題構成案に対して是認(endorse)を求めるとともに、WTSA-20に向けたSG再編議論の取りまとめを行います。
WTSA-20では、SG構成は現状の11SG構成の維持を前提としており、本格的な再編はWTSA-24に向けて議論する予定で、この検討を加速するために、RG-WPの配下にSG構成の最適配分を中心に分析検討を進めるCG(Correspondence Group)が設置されています。CGの議長Philip Rushton氏(英国、DCMC省)からCGのアクションプランが報告され、SG再編分析のためのアクションプランを合意しました。
SG再編分析のためのアクションプラン作成については、今会合中に2回の追加のエディティングセッションをもって検討しました。このアクションプランは、実証分析に基づいて、ITU-Tの潜在的な再構築オプションの徹底的な見直しをめざすもので、WTSA-24でのSG再構築案を承認することを視野に入れており、今後のTSAG対応課題として対処が重要となります。アクションプランを進めるにあたって、収集するKPI(Key Performance Indicator)/指標の定義の明確化、収集するさまざまなKPI/メトリックの優先順位とKPI/統計の実装時期を明らかにするとともに、検討資金についての配慮をすることが合意されました。
(2) 作業方法RG-WM
RG-WMでは、ITU-Tにおけるさまざまな作業手順やルールを規定するWTSA決議1やAシリーズ勧告(決議32、勧告A.1、勧告A.7、勧告A.8など)の改訂検討を行っています。今回の会合でも多くの審議課題があり、RG-WMには3セッションの審議の時間枠が割り当てられました。今回のTSAGプレナリでの主な成果としては以下の事項が挙げられ、RG-WMの報告書は承認されました。なお、ITU-T勧告A.1「ITU電気通信標準化部会の作業方法」における韓国提案のJCAに関する5.3章の改訂提案については、RG-SCでの議論も踏まえ、その必要性が十分に理解されず、改訂提案は合意されませんでした。
(3)  標準化協調強化RG-SC
RG-SCは、他の標準化機関との協調のあり方や強化策について検討を行っています。今会合では、ITU内のセクタ間、他の標準化機関であるISO/IEC JTC1、oneM2Mなどとの連携強化のためのリエゾン活動を議論しました。本会合では、WTSA関連課題として、A.5「ITU-T勧告に他の組織の文書への参照を含めるための一般的な手順」の改訂勧告案について、1回のドラフティングセッションを経て改訂した勧告案をプレナリで合意し、WTSA20に提案することとなりました。また、ITU-T勧告A.23「情報技術に関する国際標準化機構 (ISO) および国際電気標準会議 (IEC) との協力-付録II:ベスト・プラクティス」の改訂勧告案を合意し、WTSA20に提案することとなりました。

今後の会合予定

新研究会期での第1回会合となるTSAGは、2022年12月12~16日にジュネーブで開催の予定です。