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グローバルスタンダード最前線

第4回ITU-T TSAG会合報告

2019年9月22~26日まで、ITU-T(International Telecommunication Union-Telecommunication Standardization Sector)のTSAG(Telecommunication Standardization Advisory Group:電気通信標準化諮問会議)の第4回会合が38カ国から約140名の参加のもと、ジュネーブのITU本部で開催されました。ここでは、第4回ITU-T TSAGの会合について紹介します。

岩田 秀行(いわた ひでゆき)

NTT研究企画部門

はじめに

2019年9月22~26日まで、ITU-T(International Telecommunication Union-Telecommunication Standardization Sector)のTSAG(Telecommunication Standardization Advisory Group:電気通信標準化諮問会議)の第4回会合が38カ国から約140名の参加のもと、ジュネーブのITU本部で開催されました。日本からは、総務省国際戦略局通信規格課を日本団団長として、国内各社・団体(NICT、NTT、NEC、富士通、日立、三菱電機)から8名の現地参加者で対応しました。今回のTSAG会合では、日本から標準化課題とSDGs(Sustainable Development Goals)との関係の明確化の手法と、SG(Study Group)の標準化活動評価のための指標追加を提案しました。また、“Quantum Information Technology for Networks(QIT4N)”と“AI and Data Commons”に関する2つの新しいフォーカスグループ(FG)の設立提案についての審議を行いました。

ラポータグループ会合

各ラポータグループでの審議概要は以下のとおりです。

標準化戦略RG(Standardization Strategy)

今会合のRG議長はDidier Berthoumieux氏(フィンランド、ノキア)が務めました。日本寄書として、ITU-T SG(Study Group)の課題(Question)とSDGs(Sustainable Development Goals:持続可能な開発目標)の17のゴールとの対応のマッピングと各SGの新規作業項目を決定する際に、どのSDGsに貢献できるかを明確にすることが標準化戦略上重要であることを提案しました。継続課題として、次会合までに中間電子会議を開催して検討を推進することになりました。標準化活動の指標として日本から各SGの課題レベルでの参加者数や寄書数などのデータ指標の追加を提案し、多くの支持が得られました。今後、ITU-T事務局TSB担当者と連携して、次回TSAGまでに、評価指標追加の実現に向けた詳細検討を行うことになりました。次回第5回のRG議長はRim Belhassine-Cherif氏(チュニジア、チュニジテレコム)が担当する予定です。

作業計画・体制RG(Work Programme and structure)

ラポータはReiner Liebler氏(ドイツ、連邦ネットワーク規制庁)が務めました。今会合では、Q.A/SG9の新設、Q.6/SG9の修正、Q.18/SG12のQ.12/SG12への課題統合、Q.12/SG16の新設、Q.2/SG17の修正が認められました。標準化戦略での重点課題をSG再編に反映させるため、今会合では標準化戦略RGとの合同会合も開催しました。

作業方法RG(Working Methods)

ラポータはSteve Trowbridge氏(米国、ノキア)が務めました。今会期では、SGの作業方法を規定する勧告A.1“Working methods for study groups of the ITU Telecommunication Standardization Sector”と補助文書の規定を行う勧告A.13“Non-normative ITU-T publications, including Supplements to ITU-T Recommendations”の改訂を検討し、今会合で勧告改訂案を承認しました。作業方法RGの今後の課題としては、FGに関する勧告A.7とAAP承認手続きに関する勧告A.8の改訂の審議が継続される予定です。

標準化協調強化RG(Strengthening Cooperation/Collaboration)

ラポータはGlenn Parsons 氏(カナダ、エリクソン)が務めました。今会期では、他の標準化機関の仕様を参照引用するための手順(勧告A.5 “Generic procedures for including references to documents of other organizations in ITU-T Recommendations”)と、他の標準化機関の文書の一部を組み込むための手続き(勧告A.25 “Generic procedures for incorporating text between ITU-T and other organizations”)の改訂を検討しており、今会合で勧告改訂案を承認しました。

地域グループRG(Rapporteur Group on Creation, Participation and Termination of Regional Groups)

ラポータはKwame Baah-Acheamfuor氏(ガーナ、国家通信局)が務めました。全権会議PP-18で承認された勧告8に関する課題で、各SGが設立するRegional Groups(地域グループ)の設立、参加、解散にかかわる基準の明確化の検討を行いました。

WTSA決議レビューRG(WTSA Resolutions Review)

ラポータはVladimir Minkin氏(ロシア、国立無線通信研究所)が務めました。WTSAの決議の進捗検証を行いました。

標準化新規課題

新規課題の提案として、量子情報技術、AI(人工知能)、新IP将来ネットワークの3つの課題について議論しました。

量子情報技術

前回会合で、中国より「ネットワークのための量子情報技術」(QIT4N)に関するFGの設立提案がなされましたが、時期尚早ということでFG設立は見送られていました。今回、改めて中国からFG設立の提案があり、FGの検討スコープを絞り込むことでFG設立を議論しました。
当初、米国、英国、カナダは量子通信課題は時期尚早である、としてFG設立に反対しました。ITU-Tでの量子通信関連の課題については、QKD(Quantum Key Distribution:量子鍵配送)に関するネットワークアーキテクチャとセキュリティに関して、すでにSG13とSG17で標準化が進展していることから、今会合では、ITU-Tや他の標準化機関との検討の重複について指摘しましたが、検討対象を既存のQKD課題検討との重複をしないことを明確化、QKDではカバーされていない量子通信、量子コンピュータ、量子センサなどを含む量子情報処理のための幅広い概念となるQIT(Quantum Information Technologies)を対象とすることで1年間限定の活動として、QITに関する用語やユースケースの検討を優先する条件でFGの設立を合意しました。量子通信に関連する標準化団体との連携については、ETSI ISG-QKD、ETSI TC Cyber、IEEE、ISO/IEC JTC1 SC27/WG3、ISO/IEC JTC1 AG4、IETF、IRTFなどとの連携の必要性と、これらの団体とITU-Tが連携を行うためのグローバルな場をFGが提供する重要性が認識されました。

AI Commons

ITUではジュネーブで2017年からAI Good Global Summit(本年は2019年5月28~31日)を開催しています。AIサミットでのAI専門家の情報交換の中で、安全で透明なAIソリューションの開発のためには、AIがいかに問題解決に役立つかを評価する標準化された手法が必要であり、AI専門家が問題解決のための経験や知識を共有し、グローバルに協調連携できる共通の場である「Commons」の必要性が唱えられました。AIサミットでの関心の高まりを背景として、将来の国際標準化活動の基盤となる事前標準化の取り組みとして、今回のTSAG会合で、「AI Commons」のFG設立が提案されました。提案は、グローバルサミットのプログラム委員長(米国)やAI研究の第一人者でモントリオール大学AI研究機関(カナダ)らが中心となって行われ、FG設立に関心のある組織として、Google、Facebook、Intel、Symantec、Element AI (Toronto)、China Telecomなどの名前が紹介されました。今回のTSAGでは、AI Commonsに関するチュートリアル講演を行った後に、アドホック会合でFGの設置について議論しました。アドホック会合では、FGの設立に関して多くの支持が表明されましたが、米国、カナダ、英国の政府代表からは、FGのスコープが広すぎる点と趣旨の理解に時間が必要であり、今会合での合意については時期尚早で反対であることが示され、審議の時間切れでFG設立は見送られました。

新IP将来ネットワーク

中国〔Huawei Technologies, China Mobile, China Unicom, CAICT(China Academy of Information and Communications Technology)〕から寄書で、「新しいIP、将来ネットワークの形成」と題して、戦略的変革のための将来ネットワーク課題が提案されました。IoTやインダストリ・インターネットなどさまざまなEサービスの実現や、ホログラム伝送のための超大容量で低遅延なネットワークを実現するために、従来のTCP/IPに代わる新IPプロトコルの開発を含む将来ネットワークの戦略的検討が提案されました。関連SGリエゾンを送り、次回会合以降でフィードバックを行います。

今後の展開

次回の第5回TSAG会合は2020年2月24~28日にジュネーブで開催する予定です。また、日本提案のSDGs関連等の課題を2019年11月、2020年1月に開催予定の標準化戦略RGの中間電子会合で議論していきます。