挑戦する研究開発者たち
つくったモノは使っていただいてナンボ。「これ、どう?」と、問い続けていきたい
5G(第5世代移動通信システム)時代における新たな付加価値の提供をめざし、XR領域での事業拡大に向けた取り組みを強化するNTTドコモ。ブランドスローガンを「あなたと世界を変えていく。」に変更し、スマートライフ事業の新規領域であるXR分野をさらに拡大、進化させています。リアルとデジタルがシームレスにつながるさまざまな体験を提供しようと奮闘する、XRサービス開発の安藤智浩担当部長に研究開発の概要と事業に寄せる熱意を伺いました。
安藤 智浩
移動機開発部 XRサービス開発
担当部長
NTTドコモ
“ポストスマホ”を彩るXRサービスを推進
現在手掛けている研究開発の概要を教えていただけますでしょうか。
XR(Cross Reality)サービスの開発を担当しています。XRとはVR(Virtual Reality)、AR(Augmented Reality)、MR(Mixed Reality)などの仮想世界、あるいは仮想世界と現実世界の組合せを、あたかも本物であるかのようにユーザの五感を刺激するようにつくり出し、現実・仮想世界に“入り込む”ことができる先端技術の総称で、さまざまな領域での活用が期待されています。XRがつくり出すリアルとバーチャルが融合する世界には、時間、空間、そしてフィジカルな制限がありません。さらに、居場所は制限されることはありませんし、欲しい能力も手に入れることができます。昨今メタバースというキーワードでさまざまなところで取り上げられていますが、NTTドコモでは、メタバースがブームとなるかなり前から、このXRが新たな生活インフラ、“ポストスマートフォン”として日常・非日常を問わず、さまざまなシーンでシームレスに利用される世界を実現すべく、仮想世界に“入り込む”VR、現実に仮想空間を“重ねる”“融合する”AR/MRに関する技術開発に取り組んできました。
メタバースはどんどん身近になっているのですね。どのようなサービスに取り組んでいるのでしょうか。
ドコモでは、Magic Leap社に2019年に出資して、日本で唯一、MRデバイスであるMagic Leap1を取り扱っています。それ以外にもさまざまな取り組みを行っており、NTT XRサイト(https://group.ntt/jp/nttxr/)に各種取り組みがまとまっていますので、是非ご覧ください。
これらに加え、現在、注力しているのがVirtual Event Platform(VEP)です。これは、バーチャル展示ソリューションで、2021年10月「NTT Communications Digital Forum 2021」、11月「NTT R&Dフォーラム2021」、2022年1月「docomo Open House'22」において、さまざまなデバイスを利用したバーチャル展示の体験をVEPにより自分のアバターを使って、NTTドコモの技術やソリューションを活用したさまざまなコンテンツの没入体験を楽しんでいただけるようにしました(図1~3)。そして、バーチャル展示ブースでは「ドコモAIエージェントAPI®」を活用したAIアバターによるガイド・FAQで応対し、オンラインのオープンハウスをお楽しみいただきました。
わずか半年の準備期間でVEPによるイベントを実現
これまでとは違うdocomo Open Houseの開催はやはり新型コロナウイルスの感染拡大が起因でしょうか。
確かにきっかけにはなりました。docomo Open Houseは毎年、年の初め1、2月に大きな会場を借りてR&Dの成果等を紹介し、多くのお客さまにご来場いただいていました。ところが、2020年、ご存じのとおり新型コロナウイルスのパンデミックによって日本でも緊急事態宣言が発出される等、現実世界で人を集めたイベントを実施すること自体が難しくなりました。そんな中「2021年のリアル開催は難しいのではないか」「バーチャルで何かできないだろうか」と社内でも声が上がっていました。
こうして迎えた2020年6月、VRを使ったコミュニケーションシステムの試作を行っていた私たちに、バーチャルによるdocomo Open House 2021の話が舞い込んできました。
一般的に、Webサイトや動画で技術を紹介するものはすでに提供されており、体験したことのある方もいらっしゃると思います。VEPではさらなる没入感のあるイベント体験をめざして、①顔写真1枚からオリジナルアバターを生成してイベント参加、②グループを組むことによる仮想3D空間のコミュニケーション(アバター同期、音声通話、テキストチャット等)およびアテンド機能の提供、③8KVR/VolumetricVideo/モーションキャプチャ等の技術を活用した新体感の視聴体験提供等の機能を提供するプラットフォームを開発することでバーチャル展示会開催に対応していくことにしました。
ベースとなる試作システムはあるとはいえ、半年の準備期間でどこまでできるのか、正直なところ自信はありませんでした。しかし、docomo Open Houseは万単位のお客さまにご来場いただける大きなイベントで、せっかくのチャンスだからと考え、準備期間は約半年という厳しい制約の中でアクセルを踏み、何とか開催にこぎつけることができました。
ものすごいスピードと推進力、実行力ですね。
今思い返すと、半年という短時間の間にできたのは奇跡のようにも感じます。何より、こうしたイベントは期日が決まっていますから、遅れるわけにはいきません。さらに、私たちだけで完結するものではなく、出展される方々によるコンテンツの準備をはじめ多くの方々がかかわるため、プロジェクトマネジメントの難しさもあります。したがって、開催期日よりも早い段階で、関係者に情報提供することで早めの準備をしてもらうことや、より完成度を高くするためのリハーサルへのご協力も仰がなければなりません。
実現できたのは一致団結した成果で、出展者や開発協力されたベンダ、NTTドコモの事務局、そしてプロジェクトメンバ等100名を超える皆さんのおかげだと思っており、大変感謝しています。
さて、今後に向けては誰がどこを訪問したかのログ等を収集・解析する機能や不特定多数が同じ空間に参加できる機能を開発し、さらに多くの方に使っていただけるプラットフォームにしていきたいと考えています。
また、NTTコミュニケーションズの法人営業とも連携を進めており、VEPを1日でも早くお客さまの元へお届けできるよう努力しています。
つくった機能は使っていただいてナンボ
研究開発者として課題を探すとき、意識していることをお聞かせください。
私たちの仕事が世の中にどんなインパクトを与えるかを常に意識しながら取り組んでいます。今の世の中は変化のスピードが速く、インターネットで誰でも瞬時に情報を入手できることからさらにそのスピードは加速しており、自分が考えたときには誰かがすでに手掛けていることもあります。アンテナを高くして、迅速かつ的確に情報収集を進める中で、常にお客さまの視点を意識することで、こうした変化に振り回されることのないように取り組んでいます。
私は自分をターゲット・ユーザに据えて、何に取り組むべきかを考えてきました。自分が使いたいと思えないようなものを、他人に使ってもらうなんてあり得ないと思うからです。こうした考えは入社5年目ごろ、iモードの携帯電話の商品企画を担当するようになってからです。携帯電話が世の中に普及していく中で、まさにお客さまが欲しいと思えるような端末でなければ、この流れに取り残されてしまうのは明白です。自身も携帯電話の1ユーザであり、ターゲット・ユーザを自分に据えて、開発者としてではなく利用者として一般的な感覚に近づけていくことで、社会とのズレが生じないよう心掛けてきました。
こういった姿勢により、さまざまなサービス・機能を世の中に出すことができました。FOMA時代には文字だけではなく、自分の気持ちを十分に伝えられたらという発想からiモードのデコメールを開発しました。また、地震等を知らせるエリアメールの機能も担当しましたが、検討当初はユーザが認識していない中で勝手に通知音がなると驚かせてしまうから、という理由でデフォルトは通知オフの設定だったのですが、いざという時に通知されないのではせっかくの機能も意味を成しませんので、デフォルト設定をオンに変更しました。私はお客さまの目線で使っていただけるモノをつくること、そしてつくった機能は使っていただいてナンボだと思っており、その考えは今も大切にしています。
最近では、NTTドコモのAndroid端末にプリインストールで搭載していたメディアプレイヤーのアプリ開発を担当しましたが、スマートフォンではサービスとプレイヤーがセットになって提供されているケースが多く、プレイヤー単体アプリであるメディアプレイヤーアプリはあまり使われなくなっていました。そこで、コアとなる再生部分の技術だけを切り出してライブラリ化し、さまざまなサービスに提供するかたちに変更し、今ではdTVをはじめとするさまざまなサービスに使われるようになりました。自分たちの技術がどうしたらお客さまに使っていただけるのか、お客さまの立場で再検討し、提供形態を変えるという発想の転換からこの実績のある技術の再生につなげることができました。
こうした経験を活かし、インターネットからの情報収集や、さまざまな方々との交流等を通して、今後も一般的な利用者の感覚は追究していきたいと思っています。ただ、コロナ禍にあって人と直接会うのは難しくなりましたが、一方で、オンラインで簡単につながって、これまでよりも物理的な距離を感じさせないような新たな交流もできるようになりました。今後はオンラインとオフラインのハイブリッドで、ちょうどいい配分を模索しようと思っています。
研究開発者とはどんな存在でしょうか。最後に後進にもエールを送ってください。
研究開発者は皆に夢を与える存在だと思います。誰かがつくり出したものに対して良い、悪いと評論するのは簡単ですが、研究開発者として自ら何かをつくり出して「これ、どう?」と世の中に問い続けていきたいですね。
これまでの道のりを振り返って、私はやりたいことをテーマにしてきたと思います。若い方々にも同様にやりたいことをテーマにしてほしいと思います。そのためには、やりたいと思える、その気持ちを持ち続けるための努力が必要です。例えば、いろいろなことを調べたり、趣味を追求したりと、こだわりを持って取り組むことです。そうするうちに「実現したい」という熱い思いが湧いてきます。その湧いてくる何かを見つけほしいですし、私もそんな思いを応援していきたいのです。
幸いにも私自身、さまざまなことに取り組ませていただいて、世の中にいくつかインパクトを与えることができたと自負しています。それでも、さらに大きく世界を変えられることがあるのではないだろうかとも思っています。社会においてもNTTドコモの存在感を高めて、できればグローバルで主役に躍り出るような取り組みをしていきたいと考えています。