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グループ企業探訪

第245回 株式会社地域創生Coデザイン研究所

持続可能な地域社会への変革をめざして持続可能な地域創生活動を支援

地域創生Coデザイン研究所は、地域課題解決に向け、複数の地域課題を連携させた重層的な課題解決のシナリオを構築し、コンサルティングやデジタルデータの利活用などの提供を通じて地域社会の持続可能かつ自立的な成長を促すことで、社会的価値であるウェルビーイング向上と事業としての経済的価値の創出をめざしている。その思いを木上秀則所長に伺った。

地域創生Coデザイン研究所 木上秀則所長

地域社会の持続可能かつ自立的な成長を促すことで、ウェルビーイング向上と経済的価値をめざす

◆設立の背景と目的、事業概要について教えてください。

NTT西日本の営業エリア*1である西日本各地の多くの自治体の首長や地元財界の皆様は、短期散発的な施策だけでは解決ができないような深刻な社会課題に対して中長期で総合的に何をすべきかを悩んでおり、またそれを民間も含めたパートナーシップにより広く連携して解決に導くことに日々苦心されていると感じています。NTT西日本グループは、これらの社会的な要請にこたえていくため、地域のデジタル化やスマート化に資するサービスラインアップである「スマート10x」*2を充実させていくとともに、地域の皆様との共創による社会課題解決をより強力に推進していくために、NTT西日本グループの中期事業ビジョンの重点テーマとして、「地域創生推進活動(ビタミン活動:ビタ活)」を展開しています。
そして、ビタ活を専門的かつ具体的に支援していくため、消費者・住民目線の本質的な社会的価値であるウェルビーイングと事業としての経済的価値の両輪を高めていく仕掛けとして、①地域創生Coデザイン研究所(Coデザ研)を2021年7月1日に設立し、②ケイパビリティを強化する地域創生推進コンソーシアム*3の発足、③地域創生のための専用資金*4の確保をセットとして活動を開始しました。
Coデザ研は、西日本エリアのすべての地域においてビタ活のさらなる加速を図るとともに、NTT西日本グループの各社・各部、パートナー企業・研究機関の知見やツールを総動員し、自治体や地元企業・組織、その連携体など地域社会が主体となるいわゆる地域創生活動の支援やコンサルティングサービスを提供しています。あらかじめ用意されたサービスや特定のソリューションを提供するといった従前のアプローチとは異なり、コンサルティングやデジタルデータ利活用などを通じて地域社会の持続可能かつ自立的な成長を促していきます。

*1 NTT西日本管内の全30府県をさします(富山県、石川県、福井県、岐阜県、静岡県、愛知県、三重県、滋賀県、京都府、大阪府、兵庫県、奈良県、和歌山県、鳥取県、島根県、岡山県、広島県、山口県、徳島県、香川県、愛媛県、高知県、福岡県、佐賀県、長崎県、熊本県、大分県、宮崎県、鹿児島県、沖縄県)。
*2 スマート10x:地域のデジタル化やスマート化に資するNTT西日本グループ各社のサービスラインアップの総称。https://www.ntt-west.co.jp/business/smart10x/
*3 域創生推進コンソーシアム:地域社会・住民のウェルビーイング向上への貢献を目的として、NTT西日本、パソナグループ、事業構想大学院大学、NTT社会情報研究所、Coデザ研にて2021年7月に「地域創生推進コンソーシアム協定」を締結(なお、本コンソーシアムは、民法上の組合の組成を意図するものではありません)。
*4 地域創生のための専用資金:金額規模100億円、活用期間5年間(2021年度〜2025年度)、活用目的はCoデザ研の活動資金の拠出(設立資金)および地域民民・公民共創の活動資金の拠出(地域パートナーとの共同事業会社設立資金など)。

◆地域創生、地域活性化といった言葉をよく見かけますが、Coデザ研の活動の特長を教えてください。

地域創生活動の多くの場合は、自治体などが中心となり地域の課題解決のためのソリューションがテーマ別に提供・運用されるパターンです。ここで対象となる課題に対しては、個別専門的にサポートする民間事業者も多く存在しますが、得意分野や自社商材起点での活動に傾斜する傾向があるのではと思います。また、自治体の予算や政府の補助金に依存することが多く、期間や金額の制限によって活動が影響されることになったり、運用フェーズにおいても中心人物の属人的な活動に依存したりしている例も少なくないかもしれません。
一般的に、プロジェクトを持続的に、かつ有意に推進していくためには、課題探索〜シナリオ構想〜実行計画策定〜シナリオ検証〜社会実装のサイクルがうまく機能して、エコシステムとして循環していくことが大事だといわれていますが、これは地域創生においても同様です。例えば、課題探索ひとつとっても、行政視点や企業視点だけでなく、真に住民や地元企業の視点で課題設定できているかなど疑問に感じるところもあります。よそ者による机上の議論でなく、その地域の方々、さらに、少数意見の中にも大事なことがあり、それに目を向けているかという点も重要になります。また、進行するさまざまな課題に対して、長期的かつ複数の課題を連携させた重層的なシナリオを軸に、打ち手をそろえることも大切だと思っています。
これは、まさにCoデザ研がめざしているところであり、地域住民をはじめとした参画者1人ひとりがエコシステムを構成する一員となり、自分事として課題探索から社会実装まで関与してエコシステムを循環させる結果として、ウェルビーイングを享受でき、持続可能な活動となり得ると考えます。

地元のパートナーが主人公。自立的・継続的活動をサポート

◆具体的にどのように活動しているのでしょうか。また、具体的事例紹介をお願いします。

NTT西日本エリア30府県*1で地域のビタ活を推進しているリード役は、全県に配置しているNTT西日本の各支店長であり、地元の視点でそこに腰を据えて取り組める素地があると思っています。私たちは、NTT西日本の30支店長が取り組む多くの事例から培った経験・知見をベースに、地元の多くのパートナーの皆様との地元協議の場などを通した、課題探索から始まる課題解決のサイクルを、トータルでサポートさせていただきます。また、社会課題解決に役立つ「スマート10x」をはじめとする、最新のICTサービスを提供できる体制をNTT西日本グループとして整えると同時に、私たちだけでは不足する事業構想力、地域への人材の提供、住民目線での課題探索の知見・ノウハウを「地域創生推進コンソーシアム」の仕組みを活用することで、より効果的な活動ができる体制を構築しています。また、2022年3月には「全国リビングラボネットワーク会議」*5の共同主催者にもなり、福岡県大牟田市での先行事例を、Coデザ研のめざす社会像の実現につなげていく活動も行っています。
具体的事例としては、九州での林業DX(デジタルトランスフォーメーション)を軸とした自然資本循環の取り組み、市街地活性化に向けた公共交通網の再構築、四国での地元への人材回帰や地場企業への定着支援などがあります。ほかにも、地場農産物の安定栽培やブランド化、食品残渣を活かした資源循環型社会創造、エネルギー資源に関する課題解決や企業横断的な人材マッチングプラットフォーム事業などにも取り組んでいるところです。

*5 全国リビングラボネットワーク会議:日本各地で協働・共創に取り組む関係者が一堂に会し、協働・共創の仕組みであるリビングラボについての知見交流やネットワーキングの機会として2018年よりこれまでに4回開催。

◆今後の展望についてお聞かせください。

多くの取り組みを類型化して知見として蓄積できる部分も大いにあると感じます。これらの事例は実は多くの地域に共通する解決策となり得るものであり、広く地域横断で展開するアプローチを確立していくことでこの取り組みを加速したいと考えています。また、地域に根差した共創拠点を複数設置し、より地元の文化や風土、歴史を尊重した課題解決に取り組む環境を整えていく予定です。また、地域で主体となり活動される皆様に対し、私たちが得た経験や知見を広く提供し、その活動を支援することをめざして、「地域創生Coデザインカレッジ(仮称)」*6を創設します。そして、この施策を通じて、地域で活動される皆様相互間の情報交流のお役に立てるような仕組みもつくっていきたいと考えています。
NTT西日本グループのサービス、有形無形の資産、先進技術やスキル、信頼や組織力など豊富な経営資源を最大限活用しながら、Coデザ研自身の課題解決力をさらに磨き、地域におけるウェルビーイング向上をめざし、より一層努力していきたいと思います。

*6 地域創生Coデザインカレッジ(仮称):地域の課題感を持つ地域主体者(自治体職員、商工会議所、NPOなど)に対して、地域創生推進コンソーシアム各社のノウハウを提供し、地域創生の①実践力研鑚(共学)、②実践・活性化(共創)、③つながり(共鳴)を実現するための学びの場。今秋開講予定(プレオープン講座を夏開講に向け準備中)。

担当者に聞く

パートナーが主役でウェルビーイングを追求

主任研究員
チーフCoクリエイター
半田 兼一さん

◆担当されている業務について教えてください。

Coデザ研の役割の1つとして、NTT西日本の各支店が進めるビタ活のさらなる推進をサポートすることが挙げられますが、そのためにはCoデザ研自身に地域創生に関するノウハウを蓄積し、展開していく仕掛けが必要です。その仕組み構築の一環として、Coデザ研自身が直接地域に入り、共創活動をノウハウとして体系化することを実践しています。各支店が顔となって地域に展開していたこれまでの活動とは異なり、Coデザ研が顔となり地域で活動を進めるものです。
共創活動の最初のフェーズである「課題探索」の入り口として、地域の居住者、自治体、企業などとの対話を行うのですが、NTTという名称を見た瞬間に、何かを提供してくれることを期待され、地域の一員ではなく、業者とお客さまという主従関係になってしまい、そこから先に話が進まなくなってしまいます。共創活動を進めていくためには、すべてのステークホルダーとパートナーの関係を築き、対話しながら課題を探索することは必須であり、こうした入り口の壁を乗り越えて、共創パートナーになるためのノウハウ・知見を支店に提供するとともに自らも蓄積しています。また、多様な地域課題を解くには、個々の課題に対処するだけではなく、それらを連鎖的に解決していくシナリオとしてまとめたうえで俯瞰的にアプローチしていく必要があると考えています。そして、シナリオの具現化にあたり必要となるソリューション・サービスとして、「スマート10x」を適用していくことになりますが、一方的にサービスを当て込んでいくのではなく、地域からはこういったサービスが必要だという住民目線をスマート10xにフィードバックしていき、地域と一体となり具現化を進めていくことが重要です。
具体的には、4カ月ほど前から兵庫県北部の鳥取県との県境にある新温泉町に足しげく通いながら活動を始めました。新温泉町はワーケーション施策を軸に地域外の人や企業をつなぐ活動を展開されていますが、施策が終わるとその後の関係性が継続されないという課題意識を持たれており、Coデザ研の活動を理解していただけたところが出発点で、長期的なお付き合いをめざしています。町は南北に長く、海に面した北部と山側の南部の間では、コミュニティの成り立ちや産業の違いから探索される課題の傾向も異なっている中、シナリオをまとめています。

◆ご苦労されている点や課題を伺えますか。

地域創生というと、どうしても自治体の予算や国の補助金活用、ビジネスとしての収益性などの経済的価値に目がいきがちになります。地域創生活動の継続性を考えるうえでは、こうした経済的価値も重要ではあります。ただ、その部分にばかり目がいくと、取り組みやすい課題のみを取り上げ、一過性のソリューションを提供することに終わるケースも生じがちです。私たちがめざしているのは、経済的価値もさることながら、それと同等かそれ以上に「ウェルビーイング」を継続的に追求していくことです。
そのためには関係者それぞれが、パートナーとしてお互いに尊重し合い、自分事として責任感を持って継続的に活動に取り組んでいくことは必須です。初期段階では、どうしても誰かがやってくれるという意識が強いため、パートナーの関係を築くことに時間と労力を要します。こうした意識を変えていくにあたって、まずは自分たちが変わらなければならないと考え、NTTグループの営業でよく使う「お客さま」という言葉から「パートナー」に呼称を変え、パートナーと対面で対話を繰り返す、といったトライ&エラーにより少しずつ変えてきているところです。そして、フラっとパートナーのところに立ち寄って、お互いに悩みや課題などを話し合えるような関係になることをめざしています。こうして得た経験や知見を蓄積していくことで、継続的な活動の展開はもとより、他地域や次の活動に活かしていくことができると考えています。

◆今後の展望について教えてください。

パートナーとの対話で、1人ひとりの顔が見えた状態で課題感を聞いて、それにどう対応していくのか、パートナーがそれにどうかかわるのか、というところまで踏み込んだ関係性が構築されつつあります。次のステップとして、こうした意見を私たちがシナリオとしてまとめ上げ、パートナーそれぞれの役割を明確にしながら、具体的なアクションに落としていき、それが継続的に繰り返される仕組みづくりを行います。
活動を通じて、いろいろな分野で思いを持って活動をされている方々の存在が見えてきていますが、地域創生を継続的に進めるためにはこうした地域の主体者を増やしていく必要があります。そこで、地域の開かれた場として地域の主体者を含む住民と、自治体、企業といったパートナーの方がつながり、共創できるような場をつくりたいと思っています。小さなまちというと、こうした取り組みがなくとも皆がすでにつながっているように錯覚します。しかし、実際には地域内の特定の狭いコミュニティ内でしかつながれていないということも見えてきました。こうした地域に開かれた場をつくることで、地域内での多様なコミュニケーション・つながりの活性化、さらには地域に思いを持つ方々の価値観や行動が地域全体に連鎖・伝播することで、まち全体が躍動することを実現したいと考えています。

Coデザ研がめざす新しい地域創生のアプローチ

未来の社会システム探索チーム
ポリフォニックパートナー
松浦 克太さん

◆社会変革を実現する共創のあり方を考える「全国リビングラボネットワーク会議」を主催

Coデザ研は、2022年3月14日に開催された「第4回リビングラボネットワーク会議」というフォーラムを東京大学、一般社団法人大牟田未来共創センターと共同で主催しました。リビングラボは、生活空間の中で生活者の価値からサービスや政策・コミュニティなどを考える共創の仕組みです。日本でも経済産業省、厚生労働省などが事業に活用し、2025年大阪・関西万博のコンセプトになるなど注目されており、自治体主導、大学主導、企業主導のものを合わせて60以上のリビングラボがあります(1)。そして、このような盛り上がりの中、活動に取り組んでいるさまざまな人たちが一堂に会する場である「全国リビングラボネットワーク会議」を開催しました。今回は「社会変革を実現するリビングラボ」をテーマとし、局所的な問題解決のための共創に閉じるのではなく、多くの問題の根本的な課題を統合的にとらえ、その変革のために共創を位置付けるという視点での先進的な事例紹介と示唆的な対話が行われました。そこでは、素朴な共創やサービス検証だけに閉じている従来のリビングラボを乗り越える知見が共有されており、アンケート結果からも、企業や自治体のサービス企画・開発にとって有益な機会であることが分かりました。

◆社会の構造や人々の力に着目する先進的な地域創生のアプローチ

大牟田市は人口約11万人の地方都市ですが、高齢化率が37%を超えており、26〜27%の日本平均に対して20年先をいっているといわれています。そこで、大牟田市を日本の社会システムの縮図ととらえ、そこで発生する社会課題等を未来予測して、産業、教育のあり方や高齢化対策等を実践的に取り組んでいます。
2016年からNTT研究所とNTT西日本グループが地域の人々との活動を始めており、その一環として、2019年には民間から地域全体のことを主体的に考えて実践する一般社団法人大牟田未来共創センターが設立されました。そして、従来の社会課題解決が局所的な問題解決になりがちであり、そこから抜け出さないと現場の疲弊が募ってくるという課題感を持っていた大牟田のメンバーと協働し、その状況を乗り越える新しいアプローチとして社会の構造を変革することも見据えた共創アプローチを実践しています。
その中でも肝となるのが、市民や企業・自治体に所属する人々が共に持てる力を活かせる状況をつくることであり、その具体例となる「わくわく人生サロン(2)」という実験的な取り組みを通じて、その体験的な価値を地域で共有してきました。このような場や機会が、地域で共創するための拠点に備わっていることによって、社会的孤立が解消され、市民がおのずと動き出し、担い手の創出につながる循環が生まれます。これが、Coデザ研がめざす新しい地域創生のアプローチです。

■参考文献
(1) 木村:“リビングラボの可能性と日本における構造的課題(調査資料2020-6),”国立国会図書館調査及び立法考査局,2021.
(2) 山内:“大牟田市がインスパイアする[ケア×暮らし×人間]「わたし」が温まる(!?)わくわく人生サロン,”精神看護,Vol.23,No.3,pp.244-249,2020.